暴力の間合い/Range of power

勝利とは。

軍靴で踏みしだくことだ。

射程がどれだけ伸びようと、通信が星を覆っても、ドローンが地を這い空を飛び海に潜っても。

３０分以内に星を焼き尽くすことができても。

軍靴で踏みしめた場所に勝利はある。

軍靴が及ばぬところを敗北という。

貴様らは勝利したことがあるか？

産まれてから死ぬまでに勝利したいか？

今まで負け続け無駄に死に続け無為に苦しみ続けた兵士たち。

踏み出せ。

踏みしだけ。

踏み越えろ。

すべて焼き払われた後でも。

すべて死に絶えた場所でも。

すべてに憎まれ畏れられても。

突撃せよ。

それが戦場だ。

―――――――――――――――――――――――――――合衆国大統領訓示。

《Ｓｔａｒｓ　ａｎｄ　Ｓｔｒｉｐｅｓ/米軍機関紙/コラム『歩兵の本分』》

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺は何もしていないのだが、多くの誤解が生じているかもしれない。なにか俺が大変な事をしでかしている、とか。

『ＮＥ――――――――――――――――――――ＹＯ！』

ですよねー。

この通り、後方の軽装甲機動車両（指揮機能強化型）と前線の俺。遠く離れた状態だが、リアルタイムで通信可能。

まあ、離れてるっても、ほんの数ｋｍだけどね。

上空には哨戒気球。

地上目標の推定可聴範囲を滑空する偵察ユニット。まあ、エルフ以外の異世界人は、地球人とあまり変わらない。耳の良さが。

哨戒気球が確認した目標に、偵察ユニットと称するラジコンが接近、途中でエンジンを切ってフライパス。低視認性塗装は鳥を思わせる。

だから、一方的に相手の事を発見出来る。

発見されタグを付けられた標的は、更に繰り返して偵察。光学、熱感知、対人レーダー、収音マイクなどで捉えられた、様々な情報。

機械的、人的にスクリーニングされフィードバックされる。

軽装甲機動車両の指揮機能で、場合によっては港街に設置された野戦指揮所で、必要なら国連軍異世界大陸拠点の出島はおろか本土の軍事参謀委員会で。

いやー科学技術って、本当にいいものですね。オーバーキル万歳！大切な（俺の）命を大切に。

だから、俺は最初からわかっていた。

農地が始まるあたり、つまり村の入り口に見張りが二人いた事。

俺たちがわざと徒歩で近づくと、見張りの一人が集落に走った事。

残った一人が、俺たちに呼びかけずに隠れて、俺たちをやりすごそうとしたこと。

それが出来たと信じると、追跡してきたこと。

集落に走り込んだヤツが、剣呑な連中を呼び集めたこと。

ヤツらが待ち伏せの準備を始めたこと。

武装が非正規なジャンクばかりなこと。

統制とはいえないが、まあ、思考力皆無ではないこと。

手慣れたド素人、つまりは犯罪者程度なこと。

それらを見ていた

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――曹長が。

俺じゃないよ？

背中のノートパソコンを開けば出来るけど、そんな無駄な事はいたしませんって。

戦闘はやる気に満ちたプロに任せないとね。

俺は、せいぜいセミプロ。しかも、やる気なんかない。

現状確認／監視継続は曹長任せ。対処は元カノ任せ。曹長は元カノと打ち合わせ。

俺は頷いて、合図に合わせて歩き、進み、止まった。

するとあら不思議。周りが死体と進行形でいっぱい。いやー、片付きつつあるね。

だから、最後まで何一つしない所存。

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/青龍の貴族の後】

あたしが身を起こすと、あの娘たちも首を伸ばす。

から、抑える。

もぞもぞしてる。

ダメ！

死体も、死体になりつつあるヤツらも見えない。枯れ草の中か前に立つ青龍の貴族の、陰。

彼が、あたしに指先で合図。

二人を抑えて置くように、と。

・・・・・・・・・・・・・・・・それにしても、アレは何をしてるのかしら。

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

なんでしょーね。

俺はガバメントを構えている。元カノが自分のガバメントを撃ちまくり、弾倉が空になると俺の腰から抜き取った。

おいおい

「ホルスター開けといてなに言ってんの♪」

俺が撃つより有意義だろ？

１４発撃ちつくし、え？元カノは薬室に一発込めてる？普段から？アブねーな。

ガバメントの弾倉は七発込。

+１発。

元カノは撃ち尽くした自分のガバメントの弾倉を差し替えていた。

という訳で、俺の手に戻されたガバメントには弾が一発。両手でしっかり、保持。距離、６ｍ。素人の必中距離。

目の前に二人。いや、三人いたけど頭を弾かれ一人減り、二人。

一人目は跪いた女。

・・・・・・・・・・・なんというか、まあ、何一つ身につけていないから、脅威度低。

二人目は女の髪をつかんだ男。

右手にナイフ？っぽい刃物。脅威度・・・・低より上。

だから俺は男に銃口を向けている。

髭面だが、無精髭じゃない。手入れの痕がある。この邦には髭を蓄える慣習はない。

だから趣味だ。

しかも鋭利な刃物は乏しい中世。だからこそ、髭は富強の象徴足り得る。

髭の手入れにつかう鋭い刃物、つまり、高級品が不自由なく手に入る。

だから豊かなんだぞ、だからそれなりの地位にあるんだぞ。

ってわけだ。

おしゃれっつか、ステータスの誇示？

髭にそんな意味があったんだね～世界は広いなたくさんだ。

まあ、雑な刃物で一応切ったのか千切ったのか、なんてのが一番、嗤われる。

だそーだ。

成り上がり失敗の貧乏人の中でも非常識な最底辺

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・実は、エルフっ子は口が悪いのか？

まあ、そんなアレが、目の前にいるマヌケ面だ。いやまあ、口が開きっぱなしだから、多少はね？

そして上半身裸だから、体つきはわかる。

あまり鍛えた感じではない。

俺たち自衛官からみて、だが。

港街のチンピラや船員たちも諸肌むき出しは少なくない。北国とは言っても春だしね。それで見た異世界基準でも、目の前のアレは鍛えられてはいない。

いやいや、貧弱ってわけじゃない。

体を特定の目的で作り上げたわけじゃない、ってだけ。兵士や戦士、職業的労働者じゃない。雑多な労働をこなす農民の力自慢。

・・・・・・・・・・・・・・その、なれの果て。

痛々しいな～～～～～～～～～～でま、コイツがこの集団だった方々のボスだったんだろうな。

きっと俺たちを包囲して、悪役っぽい口上を述べるつもりだったのだろう。

その気持ちは、察して余りある。

いや、元カノはね？あまり、ほとんど、ほぼ、まったく他人の話を聴かないからね？仕方ないよ、うん。

で、まあ、仲間か部下か手下がどんどん死につつある、哀れな独りぼっち一直線なマヌケ面。

女性の首筋を掴んだまま、俺と目が合う。

周りを見回している。

おい。

野盗のボスっぽいアンタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、だから、なにしてんの？

敵はこっちだぞ～。

鉄砲もってるぞ～。

銃口向けてるよ～。

ジェスチャーじゃだめか。

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/青龍の貴族の後】

「次」

一言。

青龍の貴族がはっきりと通告。

あたしは少し反省。青龍の感覚にそまり過ぎている自分に気がついたから。

青龍の貴族は、目の前にいる男に伝えた。

次はお前の番だ、と。

とうの男には伝わらない。

だから、青龍の貴族が興味を持った。

あたしには、背中越しにすらそれがわかる。そのまま殺すのが自然だったでしょうに、観察している。

襲撃前に潰された野盗の、最後の生き残り。まあ、今のところは生きてるだけ、だけど。

青龍の貴族は不思議そうにしている。

仲間を失って、彼我の力の差が歴然。

なぜ、向かってこない？

なぜ、逃げ出さない？

なぜ、降伏しない？

確かに選択肢はそれしかない。

どうしたって殺されるから、降伏したほうがマシね。青龍の役にたった後、泣いてすがって、青龍の貴族の気が向けば、楽に殺されるかもしれない。

野盗としての行状が、彼の癇に触らない範囲なら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・引きずっていた女を見れば、望み薄。

まあ、それ以前に、ヤツは自分が殺される事に気がついていないけれど。仲間が皆殺し中（呻き声が小さくなってる）なのに、ね。

そもそも仲間が殺された事に気がついて、ない。

まあ、あたしにはヤツらの感覚も判らなく無い。

殺される時、人間は簡単には死なない。血を流し、喚き、暴れ、時間をかけて死ぬものだ。声もなく死ぬのは、戦場ですら珍しい。

野盗はそれを知っている。おそらくは殺す側で。

青龍の女将軍、撒き散らした破壊の轟音。あたしたちは、そろそろ慣れた。

でも野盗にはソレがまず、受け入れられない。ただただ、音の大きさばかりを感じる。驚愕で思考が止まる。

気がついたら、傍らの手下が消えている。

振り向けば、弾き飛ばされたように倒れて動かない。

周りを囲んでいた手下たちも姿が消えた。

枯れ野で死にかけているヤツらは見えないし、轟音で聴力が落ちたから呻きも聴こえない。

目の前の、あたしたち。剣も槍も持たない、弓を構えもしない。向けられている銃などそもそも理解を超えている。

消えた手下たちと、あたしたちの距離。

互いに、手が届かない距離。

野盗に限らず、青龍以外の常識からすれば、あたしたちが何か出来るはずがない。

だから、手下を失った野盗の、ただ一人の生き残りは、まだ戸惑ったまま。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理解出来なくは、ないけど、これは、さすがに。

襲おうとしたら、変事が起きたのよ？

普通、関連付けるでしょう？

何が起きたかわからないなら、解ろうとしないのかしら？

せめて、距離を置くとか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・教えあげるべきかしら？

青龍の貴族に

『ただの馬鹿だから気にするだけ無駄よ』

って？

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/青龍の貴族の後/エルフっ子の胸元】

わたしは・・・・・・・・・・・・気になってなりません。

ご主人様の向こうに、チラリと見えた女の人。

・・・・・・・・・・・怪我をしてなかったでしょうか？どうしよう・・・・・

そこにお声が響きます。

「女を離せ」

ご主人様！

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/青龍の貴族の後】

あたしは、目を覆いそうになった。バカバカしくて。

野盗は、女を思い出した。慌て掴みあげ、ナイフを喉に突きつけた。青龍の貴族の言葉から、盾に出来ると踏んだのだ。

・・・・・・・・・これで、敵がはっきりした。

青龍の女将軍が、女から目を離す。

敵と、それ以外。

青龍特有の感覚。

青龍の貴族と、女将軍は喧嘩するわりに、連携がとれてるわね。

なにも知らなければ、青龍の貴族は丸腰に見える。野盗の生き残りは、あれだけの距離なら、まだ、攻撃されない、と思ったのね。

・・・・・・・この期に及んで、まったく。距離がある内に逃げる機会を得ようと。

轟音。

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺のような素人にも当たる距離。しかも、人質は女で小柄。更に、盾にとる割に、女の陰に隠れてないし。

なにやってんだか。

野盗のボスは右肩を撃ち砕かれて、ひっくり返る。俺は反射的に歩き出し、ナイフを踏みつけた。やっぱりナマクラだ。

これで人を殺すのは大変だな。

女の首筋、ナイフを当てられた場所を確認、したら、後ずさられた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無神経だったな。

怪我は増えなかったが、どんな目にあっていたか、想像は

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・したくない。

悪夢を見そうだ。

一応、後ろ中心に周りを抑える元カノ。安全は確保できたけど、さて

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうする？

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/青龍の貴族の後】

あの娘に続いて、あたしと妹分が怯える女に駆け寄った。

「～～～～～～～～～～♪」

甲高い口笛。

青龍の女将軍だ。

道も畑も枯れ草も無視して、ゴーレムに跨ったマメシバ卿が飛び出してきた。

鉄の馬のような、青龍のゴーレム。

『口笛で呼ばないでくださいよ！犬じゃないんですからね！』

「きたじゃん」

振り返りもしない青龍の女将軍。マメシバ卿は道に乗り上げてゴーレムを倒し、ゴーレムにくくりつけた行李を開き、箱を取り出す。

兜の面貌を上げた。

「ども♪ハナコです♪♪」

あたしたちの、そばの女に駆け寄る。女は怯えて身じろぎし、あの娘がその手を強く掴んだ。女の顔に驚愕が浮かぶ。

あたしはとっさに女を睨みつけ、黙らせ、青龍の貴族を窺う。

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

無線で口笛って、おい。だが、俺の感想は関係なく、異世界は廻り続ける。

マメシバ三尉が駆る鉄の馬、ＫＬＸ２５０。カワサキである。バイク好きにはたまらない話題になりそうだ。元カノとか。

国連軍の銃砲は残らず在日米軍提供。

国産の兵器が信頼性皆無だから。

装備も大半が合衆国謹製。

兵器産業創りは１０ヶ年計画だとか。俺の旧友がやっている工場にも、ブルーベレーが来たらしい。基幹部分を生み出すところから、か。

ガバメントにＭ－１４、軍政用の対人兵装も考えてほしいんだが。９ｍｍでいいじゃん９ｍｍで。弾数も多いし。軽いし（すごく重要）。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ

『兵器の種類は少なければ少ないほど良い』

ってのが、合衆国大統領の思想たから、無理だろうけどね。

巨獣が多く軍用化されてる異世界じゃ、口径はデカいのが優先だし。

だが、そんな中、車両は比較的国産が生き残っている。

バイクなどはその代表だろう。

マメシバ三尉はライディングが巧いな。さっさと衛生兵としての活動に入る。俺が途方に暮れていると、誰かが何かをしてくれる。

なんて優しい世の中だろうか！

怪我した女は、マメシバ三尉に任せればいい。野戦医療日本最高だからな。俺たちには怯える現地住民も、魔女っ子、ってか、子供を見れば緊張を解いてくれるだろう。

それはいい。

なら、こっち。

畦道で呻きだした野盗のボス。我に帰って、痛みを感じだしたか。良かった、死なないな、ありゃ。

出血も少ない。

動脈は傷つけずに済んだようだ。

元カノが野盗のボスを蹴り飛ばした。

連打連打連打連打連打・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいおい。

いろいろ訊くことがあるんだぞ？死体は『協力』してくれない。

「心を折るコツ」

分かり易く、か。まあ、殺す気なら一撃で喉を蹴り潰しているか。

覚えておくが、俺には真似出来そうもない、な。

それよりも。

【裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/青龍の貴族の後】

あたしの耳に届く、二人の会話。

「戦場で曲芸をしてないだろうな」

悲鳴。青龍の女将軍が、野盗を踏みにじり始めたのね。なにしてるの？

「えーと、あ、れ、その」

曲芸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・瞬く間に野盗達を撃ち殺した事？

やってるんだ？確かに、ワザと背後をさらしていたけど

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「戦場では、やるな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん」

え゛

「危ない事しないから！！ごめんなさい！！！許してよ！！！！！」

え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛

「今は感謝してる。離れろ」

青龍の貴族。

青龍の女将軍。

な――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――にイチャついてるのしら！！！！！！！！！