なにものでもないもの/Jabberwocky.
【用語】
『クリストーフォロ・コロンボ』
:キリスト教文明から視てアメリカ大陸を発見した人物。ただし後世、著名な地図作成業者が「新大陸の発見者はアメリゴ・ヴェスプッチ」と書いて出版され広く流通した為に新大陸は「アメリカ」と呼ばれるように徐々になった。新大陸が「コロンビア」と呼ばれた地域時代もあったんですけどね。新大陸の利権を巡りスポンサーと争い没落したことも影響しているだろう。例によってWikipediaの誰も推敲も校正も全文読んでもいないアレな文章を読み解くにスポンサーがやらかした失敗もなにもかも押し付けられてしまった様子。彼が失脚しないと探検行の前に契約した通りにしなくてはならないから、殺されてもおかしくはなかった。そりゃ業績もなにもかも潰そうとされますよね、潰しきれなかったけど悪名も大盛。
なお「ヴァイキングが先にアメリカに行っていた」云々は、そもそもヴァイキング自体がキリスト教文明に組み込まれる前なのでノーカン。発見って言葉の意味が行方不明なんですがそれは。
人柄は社交的で雄弁家にして楽天家。好奇心が強いが信じるのではなく試したがるタイプ。読んだ通りだった、聞いた話と違った、こうなる筈だからやってみよう、等々の逸話から視るに典型的な科学者。
ナニが言いたいのかと言えば異世界でも大地が丸いのは当たり前なので日本が来なければ誰かが大洋に乗り出して、そのうちに一周したであろう。
……それはマゼラン?
北の大港。
南の大港。
都市の呼び方。
異世界大陸東岸と日本列島は最短約800Km。
内海と外洋の狭間。
内海内側の大港は日本列島から約1000Km。
異世界大陸で最も豊かな沿岸部。
沿岸部を南北に分断する内海。
沿岸部の東側全域が外洋。
内陸部と沿岸部。
沿岸部の中央東西。
これをつなぐ航路が内海航路。
沿岸部の南北。
それをつなぐ航路が沿岸航路。
日本列島が転移するまで外洋の先、到達可能距離に陸地がなかったこともあり外洋航海は全く行われていない。
【異世界大陸東南部/国際連合軍大規模集積地「出島1」/竜の巣/青龍の水飛竜横下/若い参事】
僕の身贔屓ながら楽しくてならない。
さて、我が妹よ、どう捌く?
商人なら在るべき機会。
己の氏族の及ばぬ異郷。
故地では得られぬ商談。
後に退けないよう、実務を越えた先へ圧す。
――――――――――無理強いしないと従わんからな。
妹は、僕を振り向いた刻だけ笑いを魅せる。
・・・・・・・・・無理強いされるまで待っていたか。
虚栄心と見栄、甘えと自信、舐めているな。
――――――――――どうせ僕に任せる気なんだろう。
ならば勝て、成して魅せろよ、手を抜かず。
・・・・・・・・・・失敗から得られることなぞない。
負けて得られると嘯く負け犬になるなよ。
初体験は常に素晴らしいことだ。
勝鬨にのみ値札が付く。
誰もが初競りは高ぶるもの。
しかも相手が優れて多数。
大陸一の富が集まる港街。
航路を操るのは大富豪ら。
その中で頂点ばかり。
・・・・・・・・・・足りない残りは踏み潰されたかな。
それを観ている青い龍。
観ているだけなら問題なし。
龍とでは勝負にならん。
勝負が成り立つ最強の相手。
好機が皆に集まってる。
誰が気付くか気付かぬのか。
――――――――――僕らの卓はいつ以来なのやら。
僅に一ヶ月半前ぶり。
僕ではなくて、僕らが焦点。
僕。
妹。
南北大港湾都市の皆々様方。
もちろん共同出資じゃない。
独りが皆を売り飛ばす。
皆は独りを叩き売り。
青龍に買われるのは歓迎するが。
青龍に売り込んでも構わない。
理解させることは命じること。
その為にこそ、質疑応答が要る。
決定には無用なこと。
実行には必須なこと。
僕には出来ない商いを売り付ける。
――――――――――流れを造るのは、造作もない。
その為に知らなければならない。
大陸沿岸部で何が起こされたか。
大港湾都市から観える青龍とは。
今、皆が青龍に囲い込まれているうちに。
自分の配下に確かめるのは後。
僕らが知れば彼らも知る。
知らぬと知られたら効果半減。
隠し事が無いと思わせる。
知らない僕らとは知るまいよ。
訊けばバレるし訊かねば判らぬ。
向き不向きが在るんだよな。
妹には何もかも教えてるが。
これは出来るか出来ないか。
知っているフリで、知らないことを、知る方法。
出来るかな?
「若輩者にて、教えられぬことばかりです」
そう来たか!
豊かな胸を張って滔々と弱音を語る、ってナニ。
きっちりと別けて来るのは予想外。
相変わらず優先順位が間違いない。
僕を観るからこそ成り立つ。
知っている役。
その前で嘘は吐けない。
知らない役。
それ故に訊いてもいい。
二人で一役。
妹を鍛える為に大陸有数の大物たちを使う?
それが本当ならば僕も偉くなったもんだ!
皆様の寛大な笑みは僕だけに向いている!
これで妹は牙を隠して誰でも闇討ち自在!
前提が僕なら最優先って、皆には判らんよな。
巧い手口ではあるが、一人立ちさせられない。
狡い手口ではあるが、一人立ちには必要だな。
対面の皆様方の反応が速い。
苦笑が二人。
微笑が三人。
即座に分担してきやがった。
僕に話せと示す二人。
僕に、ではなくて。
僕に枷られた役割と。
青龍の代理人から訊きたい。
――――――――――話せることは話したが。
そも代理なのか。
何処まで担ってる?
誰か知っているのやら。
僕が話し始める、などと期待するほど愚かじゃない。
だから不満を示したのが少数。
単に受け入れたら貸しにならない。
被害を拵えて強請る材料にする。
だから受け入れを示すが多数。
圧を掛けつつ決裂には至らぬよう。
譲歩を拵えて強請る材料にする。
とはいえ借りてしまえばこっちのモノ。
更に借りるか、返す形で圧しつけるか。
活き過ぎたら僕が引責引退すればいい。
妹はと言えば、皆から俺への圧を煽る〃。
「では、許しを得ましたので」
皆さん注目、切り替えも上手い。
主犯の俺。
共犯の妹。
俺なのか。
いや従犯を喧伝したら十分だろ。
妹は俺に従ってるらしい。
此所まで一方的とはなぁ。
俺に挽回の隙は与えない。
やはり当主に向いてるよ我が妹。
主導権を圧し帰された。
素直に屈する妹に非ず。
最後まで圧し斬る構え。
俺を立てたまま自分だけが動く。
俺が主役で皆が舞台。
舞台を支配する観客。
役者に語る、お客様。
「皆様、お尋ねいたします」
話させずに応えさせる。
質問を待つより手早い。
互いに確認だけで済む。
尋ねて得られる答えなどないが。
間の取り方。
隠すこと。
隠さぬこと。
答はこれ。
尋ねて答えるのは青龍くらいか。
とは言え、難しい。
間違えれば擦れ違う。
確認不在で無駄がでる。
優秀な者同士でないと出来ない。
「青龍に喚ばれなかった方には、伝えて置いていただけますか」
今日、この場に集められた人数が、何故に少ないのですか?
青龍が連行してきた皆々様。
南北大港湾都市の有力氏族。
都市から航路を仕切る富豪。
辺境一の船主とは規模が桁違い。
物や金もだが、何より人数。
太守領ですら五つの大家がある。
十万人を運ぶ。
それは一国規模の事業。
為せる生業を率いている。
船主。
両替商。
蔵主。
口入れ。
馬借。
船大工。
十指に余っても欠けはせぬ
――――――――――今?
片手に足りてる。
当主が五人。
新旧取り混ぜて。
船主ばかり。
あるいは青龍が船を差配する直接の取引先だけを連行し船を動かすに足る周辺との遣り取りを丸投げしたのではないかとも考えたのではあるが。
「伝えられぬが必要もない」
知らないことを教えてどうも。
僕を一瞥するのは苦言替わり。
おまえの妹に言っておけよと。
知っているフリをしてるから。
「今ここに居るのが全員だ」
考え違いでした。




