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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十八章「帰邦事業」

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チェシャ猫の笑い/a grin without a cat.

【用語】


『真打ち』

:興行におけるトリ、求められる最大の役割ないし芸人。語源はWikipediaに書いてあるが例によってウソである、久々だけど何回目。諸説あるなかで一番有り得ないと考えれば判る蝋燭説が取られる辺り、電気照明って酸素のごとき意味合いをもってるんだな、と。敢えて照明なしの時間を過ごせば創作の半分くらいで白けることが出来ますが自己責任で願います。



その日。

南の大港。

夜明け前。


夜目が効かない異世界人が目覚める前。

照明など有り得ない街路に人気はない。

家々館々の中に灯りを灯す無駄もなし。


当たり前ではあるが、完全に明るくなるまでは誰一人として寝床を出ない、出られない。


死ぬからだ。


脚を捕られる。

身体をぶつける。

足を踏み外す。


助けはない。


火を灯す動作すら覚束無い夜闇に、誰が動けるというのか。


蝋燭では表情は見えない。

炬火では人影しか判らない。

月明かりなど見間違えのもと。


夜寝ることは死ぬことだ

――――――――――その意味が解る先進国人はいない。


勘違いした思索に耽るのがせいぜい。

闇とは散文的で、もっと単純な現象。

観念でも認識でもなく見えないこと。


異世界種族の最大多数、異世界人は地球人類と変わらず夜目が効かない。


ただ電気を使わず家を閉め切れば判る。

死ぬから続けず動かないことを勧める。

故にこれは、異常な事態の異常な反応。


彼らは夜明け前に家々から走り出した。


転びながら。

打つかりながら。

落ちてまで。


三桁の死亡を確認したのは哨戒気球。

港湾都市の五ケ所にチヌークが降下。

都市全体をパニックに堕とした音源。


偵察ユニットの管制地域。

港湾都市川沿い上流。


山からの真水が流れ来る。

海に繋がる運河の元。


外壁で囲われた都市の中。

広く開けた敷地に館。


警備の為の見通しの良さ。

離発着に相応しい場。


そうと気が付いたら塹壕植林でもするのだろうか、いや逆か。


チヌークを降りた陸上自衛隊普通科隊員。

第12旅団所属小隊と軍政官で五編成。


帝国軍との正面対決や戦線形成に不向きな、軽装小規模編成。


だからこそ後方に下げられていた。

拡大し過ぎた後背地への予防攻撃。

その一環としてのゲスト送迎が今。


ぐずぐずするな!(おはようございます!)


館中に響く青龍の声(日本語)


全権代表を(一番偉い人を)連行する(に用があります)


館から執事長が飛び出す。


殺させないようにしろ(安全は保障します)


メイド長が当主の元へ走る。


決めれば終わる(しばしお付き合いを)


スーツが乱れた執事長が平身低頭。


不備が無いよう備えろ(ごゆっくりどうぞ)


すっかり明けた陽射しに浮かぶ営業スマイル。


「皆様、ご協力に感謝します♪︎」




異世界大陸東南部(太守領南2500Km)/国際連合軍大規模集積地「出島1」/竜の巣(格納庫)/青龍の水飛竜(海上自衛隊US-1)出入口(後部)/若い参事】


僕には青龍の貴族、その趣味嗜好が判った。

―――――――――――気がついたのは頭上の巨大な影(龍の足裏)


あの男が女をどう扱おうと構わない。

我が家が後援する魔女が一番ならば。

唯一の女ではないことが素晴らしい。


競い合う中でこそ、肩入れに値が付くんだ。

―――――――――――貸し借りの発想がない魔女には一生モノ。


視野が狭いから引き付け易い。

人が好いから付け入り易い。

周りに聡く付け込み易い。


それが魔女自身の欲望に従って要る限り。

・・・・・・・・・・・合わなければ魔女の男(青龍の貴族)殺される(邦が滅ぼされる)


可愛がられようが。

甘やかされようが。

玩具にされてるが。


独り独りを丸抱えするのは、真似出来ん。

・・・・・・・・・・したいとは、とても思えないが。


彼女(魔女っ娘)らは自分の男(青龍の貴族)から好きにされていれば良し。

青龍の貴族は自分の女たちを好きに弄べば良し。

趣味嗜好を知った上で僕には好都合だから良し。


と考えていた

――――――――――頭上の影(青龍の貴族の女)に今、気付かされた(手遅れ)


一を聴いて十を知る。

一つ命じて十を為す。

得られるよりも捧げたい。


それを理解されず一方的に可愛がられ甘やかされ続けたら

・・・・・・・・・・今それ。


やる気があれば、やり過ぎる。

過ぎたことを、やり遂げる。

やれと聴かずに、やり始める。


俺の背後で顔は観えない。

――――――――――零れる笑顔が目に浮かぶ。


彼に誉められる、とは思っちゃいまい。

彼の役に立った、となぜか先に結論(過去形)

彼に出てこられると、余計に面倒だが。


誉めて欲しくはあるだろ。

・・・・・・・・・・青龍の貴族を悦ばせたい。


微笑ましい。

無邪気な。

権力者。


青龍の女は、やっぱり青龍の貴族の女だった!


青龍の貴族の依頼でやって来た僕。

青龍の貴族の計画に必要な領民たち。

青龍の貴族の希望を叶えるために。


先に何もかも揃えて置いて頂けたって訳か。


この感じ、青龍の女将軍と同じだよ。

尽くすことほどの悦びはないってか。

それで苦労させられるのは僕らの役。


こちらを格下だと思っていて欲しかった、お偉方。


僕より金持ち。

僕より船もち。

僕より信用(実績)がある。


太守領こそ大陸有数の穀倉だが、規模は大きくない。


大港の有力な取引先。

唯一無二ではない。

我が家は、その取次。


僕が先に礼を示すべき立場、だったんだが。


しかも商人同士のこと。

先に頭を下げた方が有利。

それを上から見下ろしてる。


俯瞰と言うほどではないが、全体像は良く判る。


世界から切り取られたかのような、竜の巣(格納庫)

土や木や石もなく、生き物の気配がない。

在り得ないことに上下左右全て造り物だけ。


この違和感、それが青龍。


青龍の貴族や騎士、その装束が浮かぶ。

世界から切り抜かれたような不調和。

布や金具に石や木に馴染みが無い。


僕らに囲まれた、青龍。


青龍の水飛竜(海上自衛隊US-1)の中では解るだけ。

青龍の軍営の最中で初めて判る。

青龍の中にのまれた僕らの世界。


そんな空洞(格納庫)に、不自然な自然。


片手の指数しか居ない。

本来なら両の指は要る。

しかも独り独りとは何。


普段なら一人に掌指ほどの手配が付こう。


支配人。

番頭。

手代。

祐筆。

使い番。


護衛や雑用を除いても、それぐらい要る。


でないと家業が留まる。

いわんや大商会が止まる。

つまりは都市が野放し。


それが居ないと言うことは

・・・・・・・・・・なっているのか今つまり。


いつから立っていたんだ。

メイド執事すらいないぞ。

手籠をままに手持ちかよ。


酒瓶と軽食を空けた痕跡あり。


憔悴はしていない。

視察や商談向きの装い。

外套は纏ったまま。


此処(格納庫)は大きく広すぎで、外か内か判らん。


園遊会気分でなし。

会話も弾まなかったか。

商人がそれってどうなんだ。


札を切らない切り方もある、か?


示し合わせてない。

警戒心すらうかがえる。

僕を袋叩きに出来まい今は。


そんな権力者連中へ、降り立つのが僕。


招待したのは僕か。

結果としてではあるが。

僕の意見が連行した決め手。


青龍がナニをしたのか察せてしまう

―――――――――連行ではあっても拐ってはいない。


本人に殺されかけた様はなし。

生きてるのが証拠。

いや青龍なら、かけずに殺る。


空から観た街区に欠けはなし。

人影も無かったが。

館ごと抉られてないなら良し。


ならば商談に差し障りはなし。

港に船は観えた故。

むしろ差しで話せる良い機会。


例え家人や一族が殺されていたとしても、だ。

・・・・・・・・・・此処で生きて来たのなら話せる。


いや、あるまい。

青龍の殺ることだ。


過ぎるこそあれ、加減なし。

そこは信じて良い。

一人殺せば皆殺しにしてる。


生きてて良かった。

感謝はされまい。


そんな悦ばしき皆の注目が集まっている、僕へ。


出てきたから観た。

じゃないな、これ。


真打ち登場、って剣じゃねーよ。


青龍の女が後ろに居るし。

青龍の水飛竜(海上自衛隊US-1)から出たし。


人生で何度目、或いは初めて無理強いされた皆様。


この頃合い。

この間合い。


僕が仕掛けたように観える。


否応なしだが、実害なし。

気分がとっても悪いだけ。


身支度、手荷物は許された、皆。

――――――――――青龍を待たせて身支度って。

玄関口に死を待たせ

――――――――――やりたくねぇ。


大陸有数の大商会。

実力で束ねる代表。


商いは信用。

信用は継続。


最低数世代経て実績で得た、長たち。

・・・・・・・・・・それを考慮する必要がない支配者(青龍)

こんな扱い、初めてに決まっている。


帝国支配なら、伝手が造れた。

連行を招待扱いに出来る程度。

前日には通告が有るようにも。


帝国の御用聞き(出入り商)とはいえ、必要()()()からな。


青龍が彼らを呼んだのは初めて?

問えば何でも答えると知ってる?

話しかけることができたのやら?


ここいら(南北大港)で、皆は青龍と如何にしてる?

・・・・・・・・・・それ以前に、どう出来てるのか。


ご領主様と僕らの関わりは偶然だ。

たまたま気に入られた女たち。

彼女たちを仲介に出来ている幸運。


太守領より一ヶ月くらい早く、来たと聴いているが。

――――――――――太守領は戦闘が無かった。


何時まで続く?

此方は、幸運?

彼方は、如何?


僕らが手にしたツキを、皆様に魅せて差し上げよう。

――――――――――手を伸ばさない腑抜け無し。


立ち尽くしている皆は僕らの背後、青龍の女と青龍の水飛竜(海上自衛隊US-1)に圧倒されている。


青龍との距離感を掴めている様子は、ないな、そりゃ。

表情、物腰、気合いに現れれていないのが唯一の幸運。


彼方。

危ないだろう。

恐ろしかろう。

逆らえなかろ。

此方。


だが、それだけだ。


危ないってだけ。

恐ろしいだけ。

従うだけ。


殺されない方法は在るんだから、ただ畏れてりゃ済む。

自分を殺せる相手と過ごすだけなら、青龍前と同じこと。


こっちは此方で商いを

・・・・・・・・・・ああ、そうか。


青龍から観て彼方。

彼方から観て此方。


下手に付き合いがあるから、僕に感情が向くか。

青龍に向かう気持ちを、人並みに弱いこちらへ。


青龍の水飛竜(海上自衛隊US-1)から降り立つ僕。

その背後、妹の後ろに女青龍。

ここは青龍の軍営、その中心。


信用させる手間は省けた。

・・・・・・・・・・信頼をえられるかはしらんが。


青龍に目を合わせようとは思うまい。

僕になら隔意敵意好意で観られよう。


観せれば真似する商いの常。

――――――――――滅びられたら付託に応えられぬ。


(タラップ)を降りながら(あしら)い方を決めた。

注意を惹く必要がないってのは楽だな。


「言い値で結構」

欲しい物を出す。


「船が要ります」

知りたいことを教える。


「買い手は青龍」

そして箍を打つ。


「荷は人。十万。聖都からウチ(太守領)に戻します」


誰も退かない

――――――――――決まり――――――――――


龍の威を借りながら龍ではないと示すこと。


従う者。

従わせる者。


誰でも無いからこそ儲けられるのが、商人。


仲間外れは利益の総獲り。

誰か増えれば危険が増える。


貸し借り無しの利息なし。

投資は結果を分け合うもの。


危険の共有(リスクヘッジ)なんざ殺し合いの元。

――――――――――どうする――――――――――

そりゃ、やるさ。



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