不思議の邦のアリス(仮名)?/Welcome!Mr.Anderson?
【解説】
『女性のライフサイクル(非先進国・異世界)』
:出生後に共同体に育てられるのは男女共通。富裕層(総人口の一割未満)は氏族(血族)共同体。庶民は村落、町、街区の地域共同体。親子という概念は血族を前提にしているので富裕層のみ。ただし血統組織の資格と序列を意味しているために扶養関係はない。扶養義務は氏族が負う。庶民の場合は義務ではなく、野良猫野良犬に餌を与えるような娯楽の一種。誰も責任を負わないが、個人の概念が無いので地域に経済的余裕がある間は途切れない。責任者が居ても経済的余裕が無くなれば子捨てが起きるので慣習と制度の間に優劣はない、っていうより個々人の格差を総体で吸収出来るだけ慣習の方が安定しているから人類史の特異例外以外、異世界でも親子制度が無いし親子概念が生じて悲喜劇を発する見込みも無いのだが。だから出生率は経済状況に連動安定。異世界ライフサイクルとしては個人の成長度合いに応じて段階を踏むので年齢に意味はないが、一応目安で表記。富裕層幼児は五歳前後から基礎教育。専任の役が付くこともあるが、多くは氏族の老人が担う。読み書き算術、階級の一般常識。庶民は一律地域の老人の暇潰し。言葉と暮らしの知恵。十歳くらいから社会参加。富裕層女子は社交界デビューに備え始め、専任の教官が付く。庶民は性別無関係に戦力外。大人の、お手伝いから。十五歳前後に富裕層女性は社交界参加。血統改良に執心する帝国の影響から、肉体的に優秀な男性と娶わせる。選考に固有相性等も加味して時間をかける為に、年一人子を為せれば十分。産まれた子供は氏族に任せる。庶民は特段の配慮が無いので年に一人は産むのが普通。授乳期は皆で皆の子供の相手して過ごす。実業から離れることに意味はない。農業、漁業、狩猟、職工。現代の仕事に置いてもそうであるように、準固定ルーチンワークの繰り返し。いつ誰が抜けても戻っても影響はない。ここで女を口説くのが庶民の男。出会い易く贈り易く付き合い易い。富裕層女性は二十歳前後で社交界の裏方に回る。趣味嗜好にも寄るが、氏族の都合無しに男を楽しめるのは、この頃。十代で産んだ子供は氏族中枢と期待される。二十代で産んだ子供は氏族の外縁を期待される。相手がどうあれ子供の品質は母体に寄るからだ。三十代。未来を造る役目を担えなくなれば、庶民も富裕層も日銭稼ぎに専念し始める。女性よりも遅く肉体的ピークを迎える男性のサポートに回る事が多い。富裕層女性は二十代の男遊びで人脈を造り頭角を表したりもするようだ。逆に資産を誇示するために悠々自適を求められるときもある。そして四十代になれば階層性差なくサポートや軽作業に回る。富裕層の五十代はサポートの主力。庶民は戦力外の長老。六十代以上まで生きるのは富裕層。概ね子弟の世話役か教育役で生涯を終える。
裁判は死刑にしてから。
――――――――――Queen of Hearts.
みんな私のカードよね。
――――――――――Alice'S.
全ての道は、我の道。
――――――――――Red Queen.
あんたとオレの現実は違う、だだそれだけだよ。
――――――――――Cheshire Cat.
【異世界大陸東南部/国際連合軍大規模集積地「出島1」/駐機位置/青龍の水飛竜の中/若い参事】
僕は飾りが嫌いだ、と言うのに。
訊かれ言っている。
訊かれたからだが。
答えねば殺される。
答えさせられるか。
青龍の魔法を使えば誰でも素直にさせられる。
答えを選べるのは当たり障りが無いときだけってこともある。
なによりソレと判っていて、なお従わない気になるかどうか。
偽りは殺してもらえるかどうか知りたくも思いたくもない。
青龍の気分次第
・・・・・・・・・・覚悟も出来ずに恐れるのみ。
好き嫌いを問う。
だからどうした。
どうにもならぬ。
ならば何故わざわざ僕ら領民に尋ねるのか。
――――――――――問うまでもない、か。
青龍は知らぬ間に、というのを嫌う。
青龍は訊いて判った上で、無視する。
青龍には善意も悪意も無いのだろう。
死なせる、のではなく、殺すことに意義がある?
僕も馴れない。
いや馴れたか。
このモノ言い。
これは間違いなく脅しではない忠告だから。
――――――――――と感じるようになる。
「留まれ。死ぬぞ」
と青龍の竜騎士から告げられた。
まさに告知。
事実の確認。
助言ですらある。
とても明るい笑顔は人殺しに相応しい日和。
「傾注!」
黒い髪。
黒い瞳。
色付いた肌。
この歳で艶やかな様は、裕福な騎士や貴族階級。
飾ることを良しとしない野暮な騎士服を纏う。
それが返って華のある容姿を引き立てる。
待つほどでもなく、やって来た青龍の女。
ここはまだ青龍の水飛竜の腹。
「なにもかも判っています♪︎」
知られているとは、どちらが上か解りにくい。
判らせておいて欲しかった。
僕らには何も知らせない。
青龍の貴族、特有の無神経。
やはり青龍の貴族が肝煎。
配慮の方向が一つ一直線。
ご領主様と見知り在る女、の様子。
本来は僕らが見知っているべき、なのだがな。
こちらが知られて、あちらを知らない。
戦なら負けられる。
商談なら始まらない。
青龍には通じんか。
そもそも僕を此処まで拐って来たのは商いをさせるためなんだよねぇって意味が解るなら僕を使う必要もないし青龍の世界を観る機会が無くなるからいたしかたなし。
視えない品を眼利いて魅せるが僕の商い。
・・・・・・・・・・・青龍に眼利くはいつやら。
それでも支配者は物腰で明らかだ。
価値が在る者は豚にでも解るモノ。
青龍の女は儀礼を抜いて尚、支配者。
――――――――――名乗らない、それで判る。
青龍の女、初見。
これは累代の貴族騎士の類いだろう。
相手に知られていて然るべき産まれ。
故に貴人が自ら名乗るのは恥の沙汰。
旧諸王国時代。
世界が狭いが故の儀礼。
帝国の様に世界に拡がれば、また別。
果てから涯へと皇帝すら知られない。
帝国の領民は皆が、諸王国の出身だ。
それは好都合。
儀礼に紛らす帝国貴族。
敢えて名乗らぬことで、手札を隠す。
領地の差配を民に委ねる、帝国流儀。
商人職人組合との駆引きこそ、統治。
だから我々の常識を利用した。
氏素性他、自らを名乗ることはなし。
つまり成り上がりではない。
本来、下々は上の者を知りおくべき。
名乗れば、相手が恥をかく。
自分を知らぬ者に、名を名乗るなら。
それは無知を嗤うに等しい。
ある程度以上の商人にも言えること。
名乗り恥掻き、尋ねて侮辱。
見知らぬ相手と素知らぬフリで話す。
その間に互いの素性を証す。
成り上がりであればこうはいかない。
自ら、詳らかにしてしまう。
成り上がるまでは、売り込みが必要。
何処で切り替えるか判らぬ。
そして小商人らに囲まれ売り込まれ。
盗って代わる者に囲まれる。
そいつらからの口伝えは手代が聴く。
上下に筒抜け嗤われ侮られ。
誰からも頼りにならぬと知れわたる。
成り上がって堕ちるだけだ。
その隙が無いことを示すは地位の責。
序列を示さねば混乱しよう。
例えば、海の涯からやって来た
――――――――――未知の絶対者であっても。
むしろ青龍は混乱を好まない。
理解させる手間より皆殺し。
だから僕らに合わせてる。
帝国とは別な意味でやりにくい
・・・・・・・・・・本音を洩らす様に出来るか。
僕らは目顔で頷く。
判ってはいる。
青龍の女は続ける。
解っているか。
確かに成り立つ共謀関係。
「理解しなさい♪︎」
距離を取る。
気遣う仕草。
緊張を示す。
多くの青龍、領民への姿勢
・・・・・・・・・・例外は居るが。
「絶対服従」
例外に付き合わされる僕だから判ること。
青龍の貴族。
青龍の公女。
青龍の女将軍にマメシバ卿、は目立つ。
けれど、青龍の大半が多数例。
「殺させないでね」
では僕らが初見の女青龍の物腰に見えるのは。
距離が近い。
気易い仕草。
油断を示す。
本当に、女青龍は僕らが初耳じゃないようだ。
確かめる視線は事前に聞いたもの。
試し要らずは聞かせた男への信頼。
意外にも、男と女の繋がりが視てとれた。
初見へ向ける好感は、重ねたもの。
僕らの背後に親しい男を視ている。
青龍の貴族が知己に根回したのだろうが。
――――――――――巧く使っているな。
情感が隠っている表情。
それを隠す様子がない。
・・・・・・・・・・恋文扱いが上手い。
僕らから伝わることを、狙って観せている。
結構。
僕らは良い観客だ。
期待に応えて魅られてやろう。
名演技とは、演じないことだ。
逢えない間も逢わせていたい。
頼られるに舞い上がっている。
名優。
本音ほど観せる物。
青龍の女将軍よりは落ち着いている。
妹を敵視してこない辺り、自覚的か。
僕らと嗜好は違うが志向は等しい。
男は女の好みに合わせる。
女が必要だから。
女は男の好みに合わせる。
男が必要だから。
誰からも相手にされない者でなければ、そうなるわな。
女青龍もそうだ。
若くはない。
幼く観えるが肌を観れば判る。
二十代半ば。
役向きに付くなら年頃だろう。
男で遊ぶ歳。
子を為して育みおわった頃合。
だから装う。
若く魅せて息抜きになる男を。
青龍の嗜好。
女は幼い方が好まれるんだな。
それは納得。
彼の男、好みはあっても嫌いはない様子。
むしろ傍に置くは女盛りが多いくらいか。
青龍の貴族は幼い娘たちをより可愛がる。
趣味嗜好。
どうやら独りの特異な嗜好ではない。
それに合わせて幼さを装う青龍の女。
つまりは種族的な嗜好ということだ。
ならば僕らの世界より女盛りは短い。
「動くと殺します♪︎」
・・・・・・・・・・同情を読み取られたのかと。
先ずは妹に目配せ。
しかし先に僕へ。
次に妹へ。
女同士のやり取り。
僕の、そして妹の正面に向かい立つ。
青龍の女が手ずから頚に巻き留めた。
離れて眺めて頷いて気に入った様子。
彼女は僕と妹に装身具を着けた。
着けてくれた、って感じはない。
なんで明るい笑顔なんだろうか。
これ見よがしな、首飾り。
女青龍も付けている。
青龍の貴族もだな。
彼の女たちも付ける。
いや青龍のものは首輪か。
「機外に出て一瞬でも外したら殺します。」
生存許可証。
「止めません」
青龍の魔法。
なるほど。
誰かの所有物ではない。
誰の支配下なのかはわかる。
「命を大切に」
なるほど。
生きる許可にはなるな。
殺される自由も在りそうだ。
「ありませんよ」
なるほど。
首周りより狭い枷。
外す時には青龍へ一言。
「見逃しませんよ」
なるほど。
青龍の印を付けた。
殺される自由は無いわけだ。
むしろ僕ら以外の身を気遣わなければならぬ。
・・・・・・・・・・産まれて初めて最後にしたい。
僕らの首を落とされる前に。
僕ら以外の頭が砕かれる。
だけで済めば、まだ良いか。
青龍の勘に触れば皆殺し。
街一つ。
都市一つ。
邦一つ。
自分が狙われたら自分たち以外の皆が殺される。
殺された方がマシ、とは言わないが
――――――――――青龍の貴族は、大変そうだ。




