初めての地球人類

ドードー。

１７世紀に絶滅。

モア。

１８世紀に絶滅。

エピオルニス。

１９世紀に絶滅。

異世界人。

２１世紀に≪検閲削除≫

《国際連合環境計画/ＵＮＥＰ編纂資料/非分類：国際連合事務局文書保管倉庫より》

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊】

俺は大変な平和主義者であり、有事にはまったく、これっぽっちも、ひとかけらも、役に立たない。

いやいや、主義主張と要不要、得意不得意は別？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに。

だが嫌いな事を避け、可能な限り好きな事をし続ける。つまり俺だが。すると必然的に生じる経験皆無。

やったことがないから、向き不向きもわからない。

いや、わからなかった。

ここ、異世界。

大陸の占領地に派遣されて初めて判明した、のか？

すなわち！有事において役にたたない。

大切な事だから二回言った。

真実であり、神も仏もご存知だ。特に仏様は。

有事に役に立たない自衛官ってなんだ？そう訊きたいのかな？

ちっちっちっ。

軍隊生活の９９％は平時なんだぜ？マトモな国のマトモな軍隊ならな。つまり俺は９９％の有用性（有能とは言っていない）と１％の役立たずで出来ている。

今は１００％有事だが。

その事を一番、もっとも、最高に理解して居るのは、仏さんだろう。

悟ってない方の。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/青龍・黒旗団混成部隊本陣】

あたし達は畑の間をゆっくりと歩いた。

既に裏街道すら外れた農村。馬はかなり前、村の境目にある林に繋いだ。そして歩き続けると集落の柵が見え始める。

農夫、村人はまったく姿を表さない。

天気は良く、肥えた土の匂い、耕され・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かけた畑。

一部の土が掘り返され、他が手付かずで雑草が延びている。

休ませる土地じゃない、わ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まったくちぐはぐね。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺は先頭を進む。

エルフっ子が、す――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ごく、嫌な顔をしたが。はっきりきっぱり反対、大反対されたが。

シスターズにＣｏｌｏｒｆｕｌまで涙目で懇願してきたが。

うん、つらかったです。これまでの人生で、ケガや病気を抜かせば、一番つらかったと言い切れる。

まあ、解るよ、解る。

常識で考えて、先頭は一番耐久力がある奴か、一番索敵に長けた奴がやるべきだ。

それは、俺じゃない。

耐久力なら、元カノ。

索敵なら、エルフっ子だ。

別に男だから危険を引き受ける、って話じゃない――――――――――――――――――――――――――――――ホントだよ？

だいたい、ひとかたまりで動く少人数。

銃器がない世界の標準的進軍隊形。

誰が先頭でも大差ない。

なら、下がっていろと言われそうだが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、あれだ、俺が先頭な方が、自然に見えるってことだ。

女四人で男一人なら、そうだろう？俺が最後尾にいたら、何者かと思われる。

相手に警戒されたくない。

『漢は黙ってＨｉｔ！Ａｒｒｏｗ！射られるとわかっていてもＮｏｎ，Ｓｔｏｐ！Ｔｉｍｅ！』

やかましい！

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/青龍の貴族の右後ろ】

わたしは、お背中に下げられてしまいました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仕方ないです。わたしなんか、足手まといですし。

なんにも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出来ませんし。

わたし、ちいねえ様は、真ん中。

ねえ様が右側。

青龍の女将軍さんが左側。

ご主人様が先頭です。

うぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

わたしは街を出ると、ご主人様の傍らにいることが、出来ないんですね。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/青龍の貴族の左後ろ】

わたくしは少し背伸びいたします。

なにも、おかしな動きはなし。

三角形の真ん中、わたくしたち。あからさまに、荒事の気配ですわね。

一応、金貨を用意。

銀貨以下なら、奪われておしまいですけど。金貨なら身分証明になります。怖じ気付くか、欲をださせるか。

どちらかで逃げる隙を創る。

――――――――――――――――――――なーんて、淑女のたしなみを忘れないように、しているだけですけれど。

ご領主様の側に侍っていると、危険を忘れてしまいますわね。

いけません、いけません。いつかご領主様を養って差し上げる日にそな

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえいえ、そんな、愛しい旦那様の失脚を望んだりは、いたしません。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

愉しそうではありますけれど。

守っていただくのはとても嬉しい。

ただ、わたくしの為に心ならざる道に進んで頂いては、女の恥。お心のままに振る舞っていただいてこそ、わたくしの本懐です。

備えはかかさず、ですわ。

ともあれ、これから出てくるのは、何かしら。

ご領主様、青龍の方々は、不心得者を、すぐに退治してしまわれます。今日はどうかしら。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪生かしておかないかしら♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

それなら、わたくしも、お役にたてるかもしれないわ。

相手は何者？帝国の密偵？？

なら、わたくしの手が出せる事じゃない、かしら。

最初から戦い？

なら、馬を降りたのもその為、でも

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違いますわね。

ご領主様、ねえ様、たぶん青龍の女将軍も、馬上での戦いに不自由がない。

弓に銃。

手の長い武器に魔法。

むしろ、高みからみている方が、優位ではないかしら。

なら・・・・・・・・・・・・・・・ふ～ん・・・・・・・・・・・・・・・お誘い、かしら。

なら、楽しくしないとね。

わたくしは、しょんぼりしている、あの娘に耳打ち。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺は指先で拍子をとる。

お嬢が歌い始めたからだ。魔女っ子も続く。エルフっ子が加わり、元カノが合いの手を入れ始める。

上手いな？

おい、銃はヤメロ。それは楽器じゃない。

だが、いい調子だ。

明るい日差し。爽やかな風。長閑な田園。牧歌的な俺たち。

俺の服装が、緑の野戦服ってのが、アレだが、農夫に見えない事は無いんじゃないかな？同じように野戦服の元カノ、革鎧は遠目に作業着に見えるのではないかと俺が期待するエルフっ子。

お嬢はロングブーツ以外、いつものドレス。

魔女っ子は魔法使いローブ。

ただし、シスターズの小さい二人は、真ん中。

背丈からいって、見えないだろう。

子供の歌声だけが目立つハズ。つまり俺たちは、平和的な、移動中の家族にしか見えない。これなら、誰も警戒しまい。

俺も肩の力が抜けた。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/後備】

あたしは気が気じゃなかった。

鼓動は規則正しく、呼吸は深くゆっくり。耳を澄まさずとも、何もかも聴こえてくる。

周りは畑から枯れ野へ。

大人の腰ほどもある、枯れた茎と葉。

今の時期なら、肥料にする為に、とっくに刈り取っているべきなのに。見通しが、利かない。

けれど平静でいるように言われたから、そうしてるんだけど。弓も渡された布を被せたまま。鈍い緑色、水を弾く不思議な布。

巻きつけて置くように、渡されたけど

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・断った。

あたしは命知らずではない、つもり。でも、命を賭けても断る時はある。青龍の貴族は、笑っていたから、命令じゃなかったの？

自分だけは、青龍の貴族に逆らっても赦される

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて思ったら、斬り捨てられるでしょうね。

ちがうか、侮蔑されて、見てくれなくなる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――背筋が震えた。

あの娘たちは楽しそう。何もかも、青龍の貴族に委ねてる。

あたしもそうすべきかしら？

「心配か」

わかってるくせに。振り返りもしない、でも声はかけてくれる青龍の貴族。

あの娘たちは不思議そう。

あたしを見上げている。それは、彼がいるのに何を心配するの？、というように。

「心配です」

あたしは青龍の貴族に返した。貴男がなにも教えてくれないから、って言いたかったけど。

「なら、良い」

青龍の貴族は、笑って耳を指した。背中越しにわかる。あたしに、その、微笑んで

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・る。

「そのままでいろ。お前たち三人を守れ」

あたしは答えず、彼も待たない。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/青龍の貴族の右後ろ】

わたしは感じた。

ちいねえ様に縋ります。訝しげな視線を向けられる前に、ねえ様がわたしたちを包み込むように抱き寄せます。

―――――――――――――――――――きた！！！！！！！！！！

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/後備】

青龍の貴族は立ち止まる。あたしは、二人を抱いて姿勢を落とした。

こちらの動き、ううん、停止に反応した人影。人影につられて次々と立ち上がる。

一六。

慌ててこちらを囲む。頭はあるのね。

手に手に山刀や、鉈を縛り付けた棒、斧。さっきから、後をつけていた奴を加えて背後に五人、左右に四、四。

前に三人が出てきた。

前の一人は、突き飛ばされるように転がり出された、若い女。裸で痣だらけ。そして、轟音が轟きはじめた。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺の適当な雑学からすれば、危険が迫ると気絶する、という防御方法があるらしい。

狸寝入り的な？

俺には通用しない。通用ってか、俺には出来ないから。

俺は硬直する。

危機、脅威、理解不能に出会った時に。

本当に、完全に、人形のように。震えたりよろけたりしない。だから、耳元を４５ＡＣＰ弾頭が通過しても安全である。

体は。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/後備】

あたしが視線を走らせる間に、人影が弾かれる。まさに、見えない拳闘士に至近から殴り飛ばされたように。

下衆な薄ら笑いのままに、突き飛ばされ、枯れ草に沈むヤツら。

数を頼んで女四人に何をしようと思っていたのか、まるわかり。

青龍の女将軍は剣舞を舞うように、銃を滑らせる。あたしたちに近い右側から、四回の音が一つに聴こえるような。わざと背中を見せるように振り返り、にやりと笑いながら左側を一薙ぎ。後に振り返りながら、前に飛びのき、青龍の貴族に背中を預け、その腰から銃を抜く。あたしだけは五回の音を聞き分けられた。

銃。

青龍の魔法。

それは点で敵を撃つ。

それなのに、線で薙ぎ払うように操る。

青龍の女将軍は、最後に前の一人を撃ち抜いた。

銃から飛び出した飛礫がかすめる場所に、青龍の貴族。

微動だにしない。

伏せもせず、見回しもしない。

懸念も警戒もなし。

あたしたちには注意するように言ったくせに。

青龍の貴族は、まるで周囲に無関心。いつ、どこで、どんな相手が、どう動くか、ここまでの手順を整えたのは彼なのに。

ううん、だから？

まるで何も起きていないかのように、変化がかない。

青龍の女将軍は、彼を見て、愛しそうに微笑んだ。

「絡繰り卿」

絡繰りのような、戦士。

言いえて妙、ね。

冷たくもない。熱くもない。無機質に決まりきった手順をこなすだけのように、この世のすべてに対峙する。

何もかも見通して、何もかも思い通り。驚きもしないし、慌てもしない。付きあわせてもらうのは、あたしたちの都合だけど。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

生きた心地がしない。

青龍の貴族に訊いても『お前たちは傷つかないから安心しろ』で済まされちゃう。

ここまで、この先も、どこまで整えているのよ！！！！

少しは教えてくれてもいいじゃない！！！

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

「タリホー」

いやいや。既に敵は死んでいる。俺は元カノへのツッコミは控えた。フリーズ中にツッコめるほど器用じゃない。

そんな俺を「ロボットくん」とつい今し方、呼んだのは、元カノである。

元カノは有事以外はまったく全然あからさまに役にたたないが、別にバトルジャンキーではない。俺とは全く対照的だ。

「恋に全てを捧げる乙女だよ？」

やかましい。

元カノは乙女であると自供しており・・・・・・・・・・・・・えーと。

ガバメントをサブマシンガンのように撃ちまくる、乙女。

筋肉質ではあるが、あの、細い腕でまあ。

４５口径ＡＣＰ弾のサブマシンガンもあるだろう。だが、構造がシンプルな拳銃で連射の反動を、どうやってしのいだ。

キチンと両手持ちは、まあ、軍人（国連軍出向中）なら当然だが、それで済む話じゃない。９ｍｍ並みの連射だった。

これ見よがしに、ゆっくりと弾倉を差し換える元カノ。

「ほい」

俺は思わず、ガバメントを受け取った。

まあ、俺のだが。

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/後備】

あたしは、いやふぉん、のおかげで耳を守られた。

普段は、顎下に付けている

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・音によらず、耳の中に声を響かせる魔法具を与えられている。

いやふぉん、は普段、首から下げているだけ。

離れた場所、青龍の騎士たちとのやりとりなら魔法具で十分。いやふぉんには、周りの音を集める魔力があるけど、あたしの耳の方が効く。

だから、普段はいらないけれど、銃に関わるときは仕方ない。優れた耳が、仇になる。慣れてはきているけれど。

死んだのが８人、瀕死が３人、死につつあるのが３人。

青龍の女将軍は囲まれると撃った。あっさり。流れるように。あの娘達は手で耳を塞ぎ、あたしは万一に備えて二人を守る。

囲んだつもりで誘き出されたクズども。当たり前に、一言も発せられなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、苦鳴と断末魔の喘ぎは、許されたかしら。

１４人は、体の中心線に一撃喰らって、死ぬ。

あたしたちを手下に囲ませて、前に出て道を塞いだバカ。今もポカーンと口を開きっぱなしなアホ。青龍の貴族に頸を傾げさせているカス。

傍らには、落とした瓜のように砕かれて、中身をぶちまけた頭の残骸が倒れているのに。

なにを呆けてるのかしら？

【太守領/港湾都市から太守府へ/裏街道から脇に進んだ農道/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

振り返るとエルフっ子。いや、位置的に正しいんだけどね？なんか息をついて、そして

・・・・・・・・・・・なんか怒ってません？？

どうしたエルフっ子？まだ生きてる奴？大丈夫。

すぐにすむ。

『Ｈａｒｒｙ！Ｈａｒｒｙ！Ｈａｒｒｙ！』

うっせーよ！神父！！

俺はガバメント、装弾済み、を構えた。もちろん、両手。そして俺の銃口が向く先に、わずか５～６ｍほど先に、標的。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナニやってんだ？こいつ？