ケーキの上の苺?苺の下のケーキ?
【用語】
『ウェーブ』
:応援する側のパフォーマンス。観客が上段から下段、左右順番などに立ち座りを行うこで波を形造り声援やブーイングを演出する。スポーツやミュージックなどライブイベントは常に演じる側と観る側の相互作用が必要とされる。そうでなければイベントをする意味がない。無観客試合や無応援コンサート?を観れば一目瞭然、失笑ものでしかない。座って観ている観客の邪魔だとか座っていると疎外感を味わうとか、ケチを付ける向きもある。が、パフォーマンスだけを純粋に楽しみたいなら配信を使えばいい。そも観客席からパフォーマンスの細部も全景も観えやしないのだから、筋違い。疎外感を楽しみたくないなら参加すればいい。強いられない限り遊び方は勝手なのだが、勝手に強いられている向きもあるようだ。「政府の要請」に勝手に従いたがる輩と同じように。
断言すること。
問いかけてはいけない。
考えさせない。
結論からではなく結論のみ。
自分をアピール。
何をするかではなく誰がするか。
成否は問われない。
相手が視るのは、やるやらないのみ。
「ナンパの基本です」
「街頭演説の基本よ」
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
俺史上初めての低みに達した今日ただ今。
いやいや、甘い。
油断出来ない。
底には底がある。
今年一番の寒さ暑さと言ったその口が翌日には同じことを言うのを何度聴いてきたか毎年々!
意味ないだろ!
明日世界が滅びるんか!
文字数稼ぎか!
等々と責任を負うことがないタス通信や人民日報や日本のにゅうすへのツッコミは後日々。
今は目の前の問題。
目の前の皆々様方。
2084名の行動。
ウェーブを描いて一人残らず地に伏したが誰も撃ってないよね血が出てないし動いてる動いてる。
三拝九拝かな?
五体投地かな?
三跪九叩かな?
如何にらしく視えても流石に拝跪や敬意だとは思わない。
さっきまでは逃げ腰だった。
全身を緊張させて身構えて。
なにものも見聴き逃さない。
そんな太守領から拉致させた皆さんだった。
――――――――――過去形。
今、逃げるも避けるもない姿勢。
赦しも許しも請わずに乞わない。
嗚咽すら洩らして終わった態度。
地球人類への恐怖が此処まで達しようとは!
人類史上初。
俺じゃない。
人類を恐怖。
俺が怖がられることは此処まではないよね?
その証拠に。
よく道を訊かれる。
見知らぬ人に。
携帯の操作も訊かれる。
爺婆子どもらに。
人畜無害と誰からでも判る。
そんな俺の人畜無害オーラも地球限定。
異世界では怖がれてますよ。
俺じゃなくて地球人類がね。
地球人類としての俺もだが。
最近は顔を上げてくれる異世界住民も増えた。
俺の努力の賜物ではない。
努力の覚えはない。
皆さん慣れてきたんだろ。
努力は嫌いだから。
今この反応は悪化以上だ。
太守府進駐初日に居合わせた住民みたい。
※第9話「トリガー」から第10話「冬の日。春の日。」より
いや、彼らは祈ってたな。
神殿の奇跡を。
参事会建物が元神殿とか。
何を祈るやら。
敢えて訊かなかったけど。
銃砲口の前で。
諦めて無かった、はずだ。
今、目の前は。
・・・・・・・・・・うん。
諦めるのは戦う為なんですから前向きにね?
【異世界種族非公式呼称「聖都」/元徴集民街区/青龍の騎士団馬揃え/最前列/エルフっ娘】
あたしは気が付いた。
――――――――――気が付かなかったことに。
今。
皆の視線が集まる先。
前面は青龍の貴族。
一人一人に微笑む黒い瞳。
空に青龍の使い魔。
飛び交う鴉、浮かぶ海月。
地を覆うのは骨片。
聖都では潤沢な舗装資材。
黒い瞳に暗い筒先。
左右は青龍の騎士団二つ。
時折威嚇する黒影。
鎌首をもたげるゴーレム。
あたしたちには愛している者。
――――――――――貴男に殺されたい、くらい。
禍々しい姿をした、一人の龍。
幾つもの依り代を纏う青い龍。
個々各々が一となる独りの龍。
・・・・・・・・・・くらい、が、あたしの退け目。
あたしたち以外には畏れる物。
その彼、大柄な肢体の、真ん中、一番、前。
魔法使い特有の長衣。
目深に被っていた頭巾。
編み上げ靴と飾り帯。
青い龍の身体から抜き出された、あたしたちの世界。
彼の指先が顎を伝う。
彼の掌が頬を撫でる。
彼の息遣いは心打つ。
愛された女は、なにものも畏れることが出来ない。
誰もが視線を下げる。
青龍の貴族を視ながら。
直視してしまわぬように。
だから奴らは気付いた。
此処。
隔離された場所。
集められた連中。
太守領の年寄り。
40~50くらいの歳月。
同じ時代を生きた記憶。
それを互いが補ってる。
見回さずとも伝わった。
彼女は
・・・・・・・・・・彼女。
訝しんで。
眼を眇め。
息をのむ。
忘れたい、青い龍を忘れて想い出す
――――――――――瞬きを忘れる。
気配の隣から隣へ。
視界の隅から隅へ。
動作の前から後へ。
青い龍に愛撫される姿に、安堵の涙
・・・・・・・・・・今さらなにを。
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
俺の常識をいきなり押し付けちゃいけないな。
諦めない奴は死ぬ。
損切りは基本。
継戦の為には撤退。
がんばらない。
そりゃ軍人だけか。
自衛官もだが。
演出ミスを認めよう。
異世界種族。
地球人類。
対峙させる。
従わせる。
甘えを許さず
馴れ合いを赦さず。
味が濃すぎたらしい。
なら薄める?
ないない。
味付けの失敗は取り返せない。
――――――――――突き進むべき。
薄味は種類を増す。
濃い味はより濃く。
躊躇逡巡、中途半端は生ゴミ行きだ。
先ずは手札の確認から。
動揺しやすいところ。
落ち着かせようか。
俺は固まった魔女っ娘を揉み解しす。
いつもの。
同時に荒ぶるエルフっ娘の耳に注目。
触りたい。
爆発しかねないから残念ながら断念。
皆が気づいている。
Colorfulが退かずに踏みとどまる。
勇気とは。
勝ち目の無い戦いから逃げないこと。
勝てるから戦うなら誰にでも出来る。
お嬢が俺の裾に力を籠め掴んで敢えて離す。
知恵とは。
自分が勝てない相手に勝つ為の工夫。
誰かより強いやつなら幾らでも居る。
魔女っ娘が表情筋を精一杯支えているのは、無関係。
無垢とは。
勝利は手段でしかないって歴史の実例。
自己満足にしかなりませんでした~!
敗ける不幸と勝つ不幸。
楽しそうで何よりです。
魔女っ娘も気付くかも。
長く保たないさっさとやろう。
せめて一人だけでも救ってやりたいのが人情だよね。
No1からOK。
地球人類は戸惑っている。
それを表す素人じゃない。
何事にも動じず規定動作。
今回だけはOK。
自衛隊、ってか軍事訓練の基本。
柔軟性を期待する方が間違いだ。
それを否定すればこその安定性。
事前計画とおり。
俺は現地代表の肩を掴み抱き抱える。
魔女っ娘を太守領住民に印象付ける為。
――――――――――魔女っ娘の功績。
太守領住民に俺の姿を印象付ける為。
・・・・・・・・・・国際連合の責任。
地球人類の印象に魔女っ娘を残さない為。
――――――――――彼女を脅かさぬよう。
平伏しきった皆さんには視えまいが。
太守領出身者には観せている。
同時に集められ待機させていたから。
居住区の特定区画の特定範囲。
スモークを焚いて造った即席スクリーン。
海風と陸風が均衡する短時間。
今を逃せばまた明日。
明日は来るけど繰り返し面倒。
集まる方も集める方も大変。
一万人前後が収容されている十のエリア。
そこには正面からの映像が浮かんでいる。
ちょうど平伏してる皆さん側からの絵面。
「ひとつ」
【異世界種族非公式呼称「聖都」/元徴集民街区/青龍の騎士団馬揃え/最前列/エルフっ娘】
あたしは知っていたけれど。
『帰りたい者は邦へ連れて行く』
『帰りたくない者は行方を許す』
『帰る手順は指図する者が行く』
「かかれ」
最後の一言だけは地に伏せた者たちへ。
此処までの船旅で、ずっと教えられた。
それを出身地の数十人に伝えるだけだ。
この、布告するだけに誂えた場。
門外に待っていた、帝国軍部隊が入って来た。
元々帝国が予定していた徴集領民帰郷作戦。
それを流用するのだから、迷う必要はない。
とは言え帝国なら、わざわざ説明しないわね。
十万の領民。
追いたてるのではない。
討伐するのでもない。
命じるなら十日以上かしら。
追従させるからこそ明日までに出来る。
帝国による、徴集領民。
青龍が連れて来た顔役。
最低数十年の信頼関係。
だから此処にいる連中が彼に必要
・・・・・・・・・・今は。
殺さないように。
殺されないよう。
皆でする、初めての共同作業。
急かさない兵士。
急ぎ向かう領民。
畏れるべきは皆、留まる青龍か止まるうちに。
指揮する必要はない。
ただ命じているだけ。
それだけで巧く進んでいる、わね。
書付好きな帝国。
記録を好む青龍。
どの区割に何処からの民が集まっているかは知っている。
太守領で集めた刻に、誰がどの村街の長老かを調べてる。
それぞれの民に各々の顔役をとどけるだけだ。
これで明日から数ヶ月続く流れが始まった。
邦へと向かう船に人々を乗り込ませる。
早くても明日までに携行食を用意する。
私物など無いのだから簡単なこと。
希にいる、商いを成功させた者は?
徴集された領民同士。
出入りの地元商人相手。
帝国軍兵士相手の横流し。
場所が変わることで異才が発揮されること、よくある
・・・・・・・・・・例外は例外。
聖都で財産を造った者は一握り。
捨てるか残るか何処に去るのか。
そんなことを青龍は気にしない。
徴集領民の中で築いた商いなんか、持ち出せない。
配給食糧の過不足取引。
余剰穀物から造る酒。
地元住民との物々交換。
労役割当を傾けたり。
今更売掛けを回収することすら難しいでしょう。
財貨を蓄えるには人脈が必要。
それが丸ごと十万人、消える。
それなら帰らず旅も無理だし。
小金だけじゃ異郷では無意味。
金がある分、危険ですらある。
見知らぬ誰かを守るわけない。
最初に屋根を求めた村で身ぐるみ剥がされ埋められて。
商会。
商人。
行商人。
ギルドに護られてこその商い。
保証が無ければ、手形も切れない。
日銭で商えるのは日々の糧だけ。
買い付けには信用が必要なもの。
人独りに出来るのは殺されること。
村から。
街から。
都市から。
一歩も出ないで生きるのは、半歩出れば殺されるからだ。
だから皆、邦に帰る。
――――――――彼が命により――――――――




