人間って、なんだっけ?
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばして本文へ進んでください。
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
一人称部分の視点変更時には【該当人物の位置】で区切ります。最初の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの一人称をできるだけ入れます。以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/一人称】
『俺』
地球側呼称《隊長/閣下/大尉/大尉殿》
現地呼称《青龍の貴族》
?歳/男性
:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。
『あたし』
現地側呼称《ねえ様》
?歳/女性
:異世界人。年上の少女
『わたし』
?歳/女性
:異世界人。少女。
『わたくし』
?歳/女性
:異世界人。少女。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《神父》
現地側呼称《道化》
?歳/男性
:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父。解放の神学を奉じる。
地球側呼称《曹長》
?歳/男性
:国際連合軍/陸上自衛隊曹長。
地球側呼称《坊さん/係長》
現地側呼称《僧侶》
?歳/男性
:国際連合出向中地方公務員。得度した僧侶。浄土宗らしい。軍政司令部文官。
【用語】
『青龍』:地球人に対する異世界人の呼び名。国際連合旗を見て「青地に白抜きでかたどった《星をのみほす龍の意匠》」と認識されたために生まれた呼称らしい。
『赤龍』『帝国』:地球人と戦う異世界の世界帝国。飛龍と土竜の竜騎兵と魔法使いを組み合わせた征服国家。
政府答弁の前に委員長として注意を喚起しておきます。
国際連合の軍事行動はいわゆる戦争ではないが、俗な表現は許容範囲でありまして、念頭に置くだけでかまいません。
しかしながら貴兄の質問は一週間前に国際連合軍事参謀委員会広報官が答えております。
すなわち、
「国連軍作戦行動は既存の慣習上成文条約上の戦争法規に準じて人道的に遂行されている」
の部分です。
当委員会委員諸氏には動画と書き起こしを配布済ですからご確認ください。
もし質問を修正するなら、いま休憩、あるいは後日に質問時間を再設定しますが。
どうされますか?
≪衆議院外務委員会「秘密会」議事録≫
人間をどのように規定するのかということについて明確な法規定はございません。成文法慣習法ともにおなじでございます。
各国への問い合わせの結果、「ある」という回答がない以上、これは人類社会の普遍的結論と申せましょう。
この点については純粋な内政問題であることから国連加盟各国内にて結論を得て国連総会にて議論と結論をはかる必要があります。
なぜなら。
「こちらの世界」において、医学的生物学的所見はいまだでておりませんが、いわゆる地球人類に等しい知性とコミュニケーション能力を持ち、なおかつ明らかに異質な形態や能力を持つ複数の種族が確認されておるからであります。
魔法が使える、人間以外の動物と共通する外見上の特徴を持つ、極めて長い寿命を持つ、などなどなど。
しかして、かの人々、あえて申しますが「人々」を、暫定的であっても、法的に規定しなければ「人道」ということが成り立たないのであります。
≪参議院法務委員会議事録≫
【太守府よりヘリ1分】
ひしと抱き合う三人姉妹。
なかよきことは、うつくしきかな。嗚呼、家族愛!!
『報告』
などという感慨を台無しにするレコン1。
アメ公はどうしてこう・・・。
『まずはコレをお聞きください』
人の話を聞かないのか。
【太守府内重要施設内設置太陽電池式高機能集音マイクのハードディスク再生】
「ムチャクチャだ!」
「何がだね?」
「どうしました」
「まあまあ」
「話を聴こうじゃありませんか」
「あの娘はただの子供だ。我々は『責任者をだせ』と要求されているんだぞ」
「ただの?」
「なるほど、取り柄のない娘ですな」
「だが、魔女だ」
「魔女は貴族に準ずる。領主が逃げ出した市の代表者としてこれほど相応しい者がいるかね?」
「それは帝国の話だ。しかもあの娘は帝国とは縁もゆかりもないんだぞ」
「ここも帝国だろう?」
「十年前からな」
「1ヶ月前から怪しくなりましたか」
「言葉遊びはけっこう!!!」
「結構結構」
「帝国貴族扱いされなければいきなり殺されもすまい。代わりを探すのは手間だ」
「捕虜にもされないといいですな。命令するのが一苦労になる」
「まあどう転んでも、誰の迷惑にもなりません・・・代わりの心当たりを考えておいてくださいよ。一応は」
「何をさせようと言うんだ!・・・我々はもう・・・十分・・・あの親娘を利用しただろう」
「最期のご奉公だな。なぜ役にたってくれるか不思議だが」
「まったく有り難いね。父娘そろって」
「感謝に堪えないよ。アレがどうなるか、見極めてからが我々の出番さ」
「戦犯として吊されるか??税を出せと命じられるか?巫女のように八つ裂きか?さてさて長生きはできまいな」
「生き残るようなら、しばらく使いましょう。新しい『御領主様』の好みがわかるまでね」
いっそ妾にでもされればいい、赤目魔女と蒼い悪魔か、と笑い声。
「いいかげんにしたまえ!!」
「悪い悪い。冗談は止めだ」
「真面目な話、皆わかっておる」
「参事が出れば責めは参事会に及ぶ」
「身代を危険にさらすことはできない」
「出来るだけ大勢の同朋を救う為に罪無き部外者が焼かれるのはいたしかたない」
「・・・私なら」
「バカな。何を聴いていた?キミ一人で済むと?『責任者は魔女』で統一せねばな」
「街中が皆で揃って『魔女こそが代表だ!』とな」
練習でもさせましょうか?以前もご領主様万歳と叫ばせましたな。意外にも喜んでいたぞ?赤龍は単純だ!あなたの上得意では?だった、がね。青い龍はもっとあつかいやすくしないとな。金も女もいろいろ用意しているさ。
「君も参事だ。一蓮托生だよ。勝手な事が許されると思うかね」
「家族の事を考えたまえ。キミに何かある前に連座するぞ」
「そういえば、東に家を買われたそうですな?手形を現金化して、金を買い増しし、土地を証書に・・・逃げ支度で?」
「!」
「・・・ほう?」
「ふざけるなよ小僧・・・私は金貸しだ。貸し手と借り手を投げ出して、恐慌を起こすほど我が商会は落ちぶれてはおらん!!!」
「失礼を。無論、大先輩が身代を棄てるなどとはおもいませぬただ・・・いえ、まあ」
「はっきり言え」
「貴殿はお嬢様を溺愛しておられる」
「・・・?家族を逃がすだけなら何故隠す?我らだけではなく、気の利いた者は皆やっておる」
「溺愛されているお嬢様は、赤目がお気に入りですな」
「まさか・・・まったく、おまえという奴は」
「ハッハッハッ!娘の玩具を守りたかったか!」
「親バカにも程がありますぞ。鬼と呼ばれた貴方が」
「まあまあ、気持ちはわかる。娘に拗ねられるのは辛かろう。人形ならまた買ってやれば良い。すぐ買ってやると余計に拗ねるでな、間を開けて、じゃ。・・・皆、そう笑うな。この話はこれでしまいだ」
「・・・しょく」
「皆様!!!!!!ご報告があります」
「どうした」
「皆様のご家族には『既に』護衛を付けておりますが・・・無論、大先輩のお嬢様にも、街道や港にも万一に備えた者達を配置済みです」
「気が利くな」
「参事会会頭のお許しで先んじて『参事会』の名前を使わせて頂きました。ご報告が遅れて申し訳ありません」
「・・・まあ、参事会の名が無ければうちの連中とやり合う事になるしな」
「今時分、護衛は歓迎だ。今度だけは許す。あくまでも今度だけは」
「よかったな嬢ちゃんは一層安心だ」
「まあ、参事会に逆らって生き残れる者などおりませんがな。地の果てまで追われる」
「港にも見張りはついておろう」
「目の前で愛娘から処理され・・・おお怖」
「身代全部つぎ込めば逃げられかもわからん」
「つぎ込む身代があれば最初から狙われませんわ」
「ですからお嬢様の身柄は安心してください・・・話は終わりましょう」
【青龍の真ん中】
青龍の魔術は辺り一面に密談を再現しました。その息遣いまで聞こえそうな毒息。
おそらくはかなり以前の市内のどこか。時を切り抜いたような神秘、そう理解出来たのは遥か後。
わたくしは震えていました。めまいと吐き気と涙。怒りと悲しみと後悔。
あの娘、わたくしの友達を「赤目」「魔女」と罵倒するヤツらに怒りを。
無力なわたくしに代わって手を尽くして、わたくしのせいで屈辱を強いられたお父様に悲しみ。
お父様を「大嫌い」と思ってしまった、わたくしに悔いきれない嫌悪。
青龍の貴族が向き直ります。黒い、としか言えない瞳にわたくしたちが映っているのでしょうか。
それは路傍の小石をたまたま見ているよう。
「魔法使い」
ねえ様が庇うのを抑え、あの娘が前にでてしまいます。
「はい」
貴族はあの娘からねえ様に眼を向けました。
「あの会話は」
「市の参事ど・・・たちよ。この地方を支配している」
貴族は驚きを見せない。「月が三つある」と聞いたように当たり前に続けさせます。
「その子の陰に隠れたか」
ねえ様はためらってから、こたえました。
「この娘は参事達に頼まれたのよ。市の皆を救って欲しい、市を代表して新しい支配者と交渉し皆を守って欲しい・・・って」
いつも通りなにも教えられず。脅迫と嘆願で役目を押し付けられたのだとわかります。
「昔から連中はこの娘に押し付けてきた。領主の意に添わない嘆願や陳情を。領主の機嫌一つで竜に喰い殺される役目を・・・。魔法使いは皆が敬遠するから。苦しんでも死んでも、あたしたち以外、本気で悲しまないから」
魔法は竜と並ぶ帝国の礎。魔法使いは帝国と無縁でも貴族扱い。そうある以上、帝国貴族は無視できない。
でも正式に帝国に任官しない限り権力や富貴とは縁遠いのです。
「帝国からは偽貴族扱い。属領民からは帝国の犬。参事会からは道具扱い」
支配者たる太守から見れば、形だけでも位がある現地の魔法使いは邪魔者。
市民から見れば支配者の一員ながら権力を持たない安全な裏切り者。
裕福な参事から・・・・・・・・・・・・わたくしの実家から見れば、扱いやすい道具。
「この娘の父親は参事に頼まれて嘆願した!急に事情が変わりその責めを独りで負わされ処刑された!ヤツらはそのままこの娘に役目を押しつけたわ!」
ねえ様の怒りに哮る声。ふとわたくしを一瞬見た。ばつの悪そうな視線・・・気にされたのが、一層悲しくて。
小父さまが目に浮かぶ。とても、優しくて、暖かい・・・。
「言え」
貴族がわたくしを見ました。
「・・・・・・わたくしは、ある参事の娘です」
その時、ねえ様とわたくしの手をあの娘が握ります。それだけなのに、動けません。
あの娘が前に進み出ます。
「わたしは魔法使いです。何も出来ません。魔法といっても人の手でやったほうが早いくらいのことだけ。なにも差し出せるものがありません」
わたくしやねえ様は動けません。あの娘だけではなく、黒い瞳に縫い付けられたように。
「わたしにはお願いしか出来ないんです」
貴族は跪き、あの娘に視線を合わせる。
「願いは?」
あの娘はより低く首をたれた。
「みんなを助けてください」
【ある国連大尉の回想】
俺は。
その時のことは正直覚えていない。「犯意はなかった」と言い訳したいのではなく、まったくないとは言えないが我が国の裁判官に法の原理など期待出来るわけもないし、体が勝手に動いたのだ。
「ついカッとなってやった」
と言うべきだろう。
【太守府より騎馬で半時/蒼備えの真ん中】
あたしたちに眼もくれず、青龍の貴族は立ち上がった。巨大な翼を休めている竜に向かい立つ。
「サンイ!」
『聞こえておりますタイイどの。腹一杯のこちらより空の二号に』
貴族の声に竜が応えた。
喋る竜、龍!
皆呆然。龍を二頭従えてる!!
騎士に従うのは竜だ。使役される獣。
騎士に仕えるのは龍。ときに人を従える伝説の存在。
龍と魔法を誇る帝国ですら、人目に触れるのは、たとえどれほど大きく速く強かろうと、竜にすぎない。
すぐに轟音が轟きはじめる。龍の翼が空を、草木を、森を、大地をかき回す。
「ソウチョウ」
「シバ、サトウ行け。他全員乗車!」
貴族が龍に歩き出した。あたしたちも慌ててついていく。そばに駆け寄った蒼備えの騎士があたしに突き出した。剣と背嚢。馬に載せていたものだ。戸惑うあたしに「自分で持て」とばかりに押し付けていってしまう。
あたしは剣を抱えたまま二人に追いついた。剣どころか手を伸ばせば届く貴族の背中。
もちろん、龍の前でその主に手を出すほど無謀じゃない。第一、理由がない。市や参事や領民がどうなろうが、知ったことか。妹が悲しまないか気になるだけ。
ナニがなんだかわからない




