サンクスリット語でOK?
【新キャラ紹介】
地球側呼称《神父》
現地側呼称《道化》
?歳/男性
:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父で、南米中心で盛んな解放の神学を奉じる異端寄り聖職者。野戦戦闘服か制服にサングラス。ときどき咥えるコーンパイプや葉巻はネタ。異世界住民に接触する国連軍関係者は、地球産化学物質の影響を与えないために皆非喫煙者
いつ以来の登場ですが、新キャラではない。
あちらには青龍がいる。
だから誰も帰ってこない。
あそこには青龍がいた。
だから何も残っていない。
これから青龍がとおる。
だからどうなる訳など判らぬ。
観るなかれ。
話すなかれ。
寄るなかれ。
遮るなかれ。
逃げるなかれ。
留まるなかれ。
隠れるなかれ。
目立つなかれ。
するなかれせざるなかれ。
赤い龍には全てが獲物に観える。
青い龍には総てが石ころに過ぎぬ。
赤い龍なら喰らうてくれよう。
青い龍には気付いてくれぬ。
―――――――――異世界の伝承―――――――――
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
俺はフリーズ。
「HEeeeeeeeeeeee~~~~~~~~~~~~~~~~~~~Y!!!!!!!!MEN!」
喧しいわ。
シャウト。
所謂アレ。
叫ぶ唄声。
聴く前に肌が震えた。
殴り付けられるような肉声。
歌じゃないので、御注目。
文字サイズが三十倍角。
おねいさんずNo1がビックリ眼。
ただし振り向いてはいない。
将校足るもの、砲煙弾雨の最中で伏せるべからず。
部下が観ている、民間人も。
階級章を付けた個人が殺されるのはどうでもいい。
階級が侮蔑されたらお終い。
だから将校は守られても、己が身を守らないこと。
ミリタリーマニアには届かない世界。
それも給与と義務の内。
虚栄と笑えば無知の証。
俺はヤだから解雇待ち。
――――――――――って、話じゃない。
咄嗟に反応出来なかった、だけだな。
将校の半数は聴力保護を最弱設定。
耳に付けてる集音装置。
軍政官に至っては、つけていない。
肉声を聴き逃さない為。
砲煙弾雨の最中でさえ、一人一人の声音を聞き分ける。
人間の聴覚に代わって為し遂げるフィルタリング機能。
経験才能無しに可能なのが機械の道具たるところだな。
それもデータの蓄積あらばこそ。
異世界言語のフィルタリング。
異世界言語とは何ぞや?
言葉と鳴き声の違いってなに。
いずれ判る日がくるだろう。
――――――――――それは今日ではない。
聴こえさえすれば、魔法翻訳が発動!
――――――――――発動するかしないか。
言葉は、正確かはともかく、訳される。
鳴き声は、単なる音で訳されない。
だから耳で聴いてみる。
だからうるさいやかましい。
異世界住民との接触を前提にした作戦。
軍政官の俺。
作戦指揮官のNo1。
被害者二人。
おねいさんずNo2は無事。
バックアップだからね。
俺とNo1が倒れたら指揮を引き継ぐ。
昨夜の打ち合わせがあるから、安心して倒れられます。
・・・・・・・・・・倒れられなかったけど。
【異世界種族非公式呼称「聖都」/元徴集民街区/青龍の騎士団馬揃え/最前列/エルフっ娘】
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
――――――――――――――――――――。
あたしは耳当てに感謝した。
エルフの耳は良い。
だからと言って弱くはない。
人間は誤解してるけど。
耳が良い、それは聴き分けが出来る、ってこと。
聴いてはいるし、聴こえている。
有害無害、有意無意味で聞く聞かないが出来る。
意識しなければ無いのと同じ。
――――――――――聴こえてはいる。
喧しいわよ!
煩いわよ!
もう!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・耳の澄ませ方にこそ、意識させなきゃね。
今、これから決まる、あの娘の望み。
だから、無視も出来ない。
コイツらの役回り。
邦が滅びるか、残るのか。
最期に立ち会うのは、今日?明日?
決めるのは、いつも誰か。
あたしが信頼出来る人。
愛する男なのが、初めて。
そんなことを考えていたけど、目の前に歩き出た姿を見逃すわけがない。
あたしがそれを観てる、っいうのはらしいわよね。
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
倒れるチャンスを逃し続けて幾年月、な俺。
皆さま元気で結構なことです。
俺やNo1と違ってノーダメージ。
うちの娘たちは耳栓常備。
――――――――――エルフっ娘は耳をしかめてる。
いやホント。
耳をしかめる。
種族的特徴?
個人的癖?
今後の観察が待たれる。
俺のライフワークです。
器機微調整が必要だな。
ともあれ辛かったよな。
フィルタリングをかけた上でも、読み捕れる情報が多い。
・・・・・・・・・・だからノイズも多い、か。
エルフっ娘以外、うちの娘たちは防護装置必須。
むしろ音量調整されたお陰で普通に注目してる。
みちゃいけません!
俺の部下。
おねいさんず。
その大半も同じ状態。
良かった善かった。
銃を構えていたからね。
弾みで撃ったら大惨事。
初弾装填安全装置解除。
試射完了の上でトリガーに指は、国際連合戦闘部隊の基本動作。
練度が甘い俺の部下は、まだいい。
殺したことが多いからな。
練度が高い、おねいさんずが危険。
殺したこと、無くないか。
一昨日、合衆国海兵隊との玉砕戦。
どちらも誰も死んでない。
殺さないようにしていたんだろう。
実弾で、撃ち合いながら。
ちゃんと殺せるか、不安が残るな。
うちの部下たちなら、出来る。
初めてだと、危ないだろうな。
M14が57丁。
目の前に2084人。
7.62mm弾頭は人体を弾き跳ばして近付けない。
徹甲弾は重なった人体を貫いて穿ち逃がさない。
場合によって背後の自動機関砲が作動。
12.7mm砲弾が毎秒10発以上の支援射撃。
――――――――――皆殺しにしかねない。
無力化に10秒。
拳銃で止めに5分。
俺が殺んのか。
・・・・・・・・・・ちゃんと殺れ。
選んで、必要なだけ、殺すこと。
兵士に求められる基準性能。
これが訓練じゃ身に付かんのよ。
異世界に来て、初めて知った、殺しやすさ。
そりゃ虐殺も起きるわ。
異世界侵略戦争、今の話じゃなく歴史的に。
国際連合が今殺ってるのは、意図的な虐殺。
問題なのは偶発的それ。
戦争遂行上、大変に困るのが、ただ殺す、こと。
――――――――――ちゃんと殺れ。
いや、ちゃんと準備して経験を積ませないのが悪いんですが。
俺は運が良かったな。
普通なら大惨事。
そもそも一般部隊は異世界住民と接触しないからそんなリスクは最初からないんですがみんな三佐が悪いんだ。
・・・・・・・・・・責任取るのは俺だけど。
うちの部下たちは信用できる。
殺したことがあるから。
練度は信頼できないけれどな。
おねいさんずは信用できない。
殺したことがないから。
技術は信頼できるんだけどな。
玉石混淆どころじゃねーぞ。
今のところ舞台装置だからいいけど。
失敗しないとしても成功するかどうか。
・・・・・・・・・・大丈夫、かな?
部隊内外作戦単位の通信は骨伝導。
空気振動を使う必要はない。
むしろノイズとして制限されてる。
必要最低限だけ電子的にフィルタリング。
人の声や言葉。
微細な物音。
遠い銃声。
戦闘に必要な範囲だけが聴こえてくる。
気が散る場合は切れるけど。
部隊指揮官の判断でね。
足りない場合は外すけれど。
兵士や下士官判断でね。
音のフィルタリングは機械任せ。
判断のフィルタリングは経験値。
誰にでも出来る訳じゃない。
却って作戦行動の邪魔とか。
選抜歩兵だけに聴かせたりする。
うちで言う佐藤、芝のようなね。
内耳に響く通信と、外耳から入る音。
両方の情報を同時に使えるって凄い。
だから銃を構えている隊員たちは、戸惑ってるだけ。
幸いにして全ての眼が一点集中。
異世界住民に戸惑いを気付かれない。
これ注意しても無駄だしな。
能力の問題だから。
出来ないことを叱るほど馬鹿じゃない。
舟に飛べと言う阿保は多いけれど。
曹長が意識付けだけするだろ。
意味が解れば向き不向きが判る。
意味付けされてれば、身に付く者も出やすい。
・・・・・・・・・・といいなぁ。
そうなりゃ立派な選抜歩兵、ってか教導隊員。
敢えて音を聴きながら対処出来るようになる。
俺の視界の端、佐藤、芝みたいに
――――――――――面白がってるな、ありゃ。
耳を叩く音なのに。
音じゃなく声かな。
声ってより唄とか。
だからこそ。
――――――――――ショックではなくインパクト。
なるほどな。
そういうことか。
【異世界種族非公式呼称「聖都」/元徴集民街区/青龍の騎士団馬揃え/最前列/エルフっ娘】
あたしが留めると不自然よね。
集まった連中を刺激するかも。
「Namas Sarvajñāya.
āryāvalokiteśvaro bodhisattvo gaṃbhīrāyāṃ――――――――――」
青龍任せがいい、か。
あたしは目立たない予定だし。
「なんでサンクスリット語?」
何を言ってるか判るけど、何を言いたいのか解らない。
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
俺の記憶にある聖句。
なんでカトリックが。
なんで本国版なのか。
いわゆる仏教版聖歌。
サンクスリット語の般若心経ってのは、仏教圏では普通に販売されてます。
キリスト教圏でグレゴリオ聖歌の音源に不自由しないようなもの。
サンクスリット語が仏陀ネイティブかどうか議論はあろうが。
キリスト教系聖歌聖句の原典がラテン語みたいなもん。
ヘブライ語じゃないのとか言わない!
どーせ教祖存命中に成立してないし!
ローマ帝国属領出身だから公用語もね?
いや散々ラテン語が下手って言われてますが。
マルチリンガルを笑えるポジションじゃないんで。
そんな訳で日本語英語スペイン語だけじゃなくて、サンクスリット語も活けたのか音だけなのか。
俺も耳コピだけだから良く判んないんだけど。
声量のせいか態度のせいか、間違ってる気はしない。
一流の詐欺師と伝道師と政治家と恋人の特徴。
――――――――――根拠不要の確信!
2084人全員以上に響くシャウト。
大柄な身体に大きなパフォーマンス。
サングラスにコーンパイプその態度。
あ、居たな、最初から、コイツ。
――――――――――神父である。
とある少年漫画誌の奇妙な冒険でも観れない謎ポーズ。
熱狂的オーディエンスに迎えられて前に進む仕草はプレスリーか。
ただ熱狂してるのは奴の心の中のグルーピーでありリアルは以下略。
だがリアルにファンタジーが重なって観えるのは俺だけじゃない。
パントマイムを交えてステップし後ろに進む姿はジャクソンか。
来るとは思ってた。
―――――――――――――――――むしろどうやって止められようか?




