悪気はなかったんです/dolus eventualis.
【用語】
『未必の故意』
:殺したと死んだの間。事件と事故で言えば事件寄り。意図的に死なせれば「殺した」であり意図はなく過失があれば「死なせた」であり意図も過失もなければ「死んだ」となる。予測可能性を認識した上での結果であるならば犯罪かどうかは別としてdolus eventualisとみなされる。
発砲したら人が死んだ時、殺したのか死んだのか?
銃の名手なら負傷させるに留める自信があったかもしれない。
なら殺意はなかったから傷害致死。
銃の知識が無いせいで負傷に留められると考えたかもしれない。
なら殺意はなかったから障害致死。
そも殺人に使える武器を人間に向けて使ったなら死ぬ可能性を解っていた。
なら殺意が含まれるから未必の故意。
そんなことを特定する方法はない、と言うことで未必の故意を刑法上の問題と扱わない国もある。
殺人は見知った者の間でこそ起こる。
殺した方が善い相手と判断できるからだ。
見知らぬ人間を殺すのは躊躇われる。
殺したら駄目な相手かもしれないからだ。
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
俺が最近こちらへ御招きした方々。
帝国軍に昨年連れて来られた方じゃなく。
つい最近、太守領の村々から連行させた方々。
2084名欠員なし。
目の前で真っ白になっていらっしゃいます。
護衛艦に酔ったのかな?
目が虚ろですけど何かされたんでしょうか。
元カノと一緒が悪かったのか。
傷は浅いぞ。
気をしっかり持て。
俺たちの戦いはこれからだ。
いや、善いことをするんだけどね?
・・・・・・・・・・未だに来たらず未来形。
魔女っ娘が喜ぶ。
自分たちと他人の命に区別が出来ない娘だから。
自衛官が喜ぶ。
気が退ける仕事が減るのはとっても嬉しい。
国際連合も喜ぶ。
邪魔くさい難民予備軍が減るならなんでもいい。
異世界の人たちは
・・・・・・・・・・喜ぶ理由は、ないか。
殺されないで済みました。
何が嬉しい。
働いて給料を得ました。
当たり前だ。
レジで金を出して商品を受けとるようなもの。
それに感謝できるのは聖人か貧乏人ぐらいだ。
殺されないで済みました。
――――――――――俺たちだけが嬉しい。
百万人を一桁下げた俺たちが、それをゼロにしない理由はない。
時間は無くなる。
人数は無くする。
ならないものはするしかない。
―――――――――俺たちが。
ごめんなさい、って言えたら楽だよね。
国際連合軍事参謀委員会により、禁止。
いや日本人には辛いこと。
謝れば楽になるからね。
罰する力が無い相手なら。
――――――――――謝ることの手軽なことよ。
赦してくれたら、何もしない。
そりゃ赦してくれたなら終わりだよ。
赦さないなら、何もしなくて善い。
謝ってるのに赦さないのは悪人だから。
ごめんなさい、に了承は要らない。
一方的に、こちらの都合で、無理強いする。
つくづく便利だ、癖になる。
・・・・・・・・・・ハイ、アウト。
ありがとう、構わない。
ごめんなさい、は禁止。
異世界種族へ謝罪なし。
合衆国大統領には日本のワビサビが通じない。
現代日本人じゃない、か。
下手に日本通だから、か。
現代日本人より伝統日本的かもな。
お陰で自衛官たちが、異世界種族に引け目を感じる。
殺し過ぎないように。
助けないように。
生かして置かないように。
助かるように。
俺のせいではないが、手足を動かすに吝かではありません、俺のせいではないが。
で、俺に解決する力は無いけれど、力を持つ相手にプレゼンテーションは出来る。
力を持ってる国際連合。
百万人近くを解消にすれば良い。
なら、殺さなくても、かまわない。
・・・・・・・・・・殺してもいいが拘らない。
なら、十万人ばかり減らすのは、歓迎。
なら、俺の任地の都合でいいよね、と。
俺たち善意の第三者。
其処を通る。
君たち自然の通行人。
其処に在る。
必然も意識しなければ偶然。
なんとかしないで、なんとかな~れ。
俺はいったい何をしないべきだろうか。
【異世界種族非公式呼称「聖都」/元徴集民街区/青龍の騎士団馬揃え/最前列/魔女っ娘】
わたしは陰から前を窺います。
ご主人様の陰だから安心なんです。
ちょっとだけ頭を出して顔を覗かせ。
お邪魔にならない、ですよね?
右脚の後ろ、わたし。
左脚の後ろ、ちい姉さま。
すぐに前に廻れます。
足手まといにはなりません。
お邪魔にならない範囲なら、ですけれど。
肢体が小さいから、盾にはなれませんが。
愛する方の好みではあれ、残念ですけど。
わたし、たちは居るだけです。
でも距離は造れます。
足元だから退かし難い。
眼に入り難いですしね。
それなりに役立つ筈。
いざというときには、ねえ様が頼り。
わたしたちを退かせるのか。
ご主人様を庇うのか。
わたしたちには判らぬこと。
わたしたちの前に青龍の皆さま。
いつもの処ではあるのですけれど。
とっても肢体が小さい。
だだ小さいだけじゃない。
女の中でも一際。
ちっちゃいことは、良いことです。
ご主人様に悦んでいただけるのが一番ですが。
良く視えます。
隙間から見上げることで。
此方からだけ。
視られないで視えること。
ねえ様の教え。
知っていると知られないようにしなさい。
――――――――――貴男には隠せないから安心です。
考えなきゃ。
ちい姉さまの教え。
思う暇があったら考えなさい。
――――――――――貴男にも伝わるから心強いです。
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
俺は今、スッゴく悪いことをした気がする。
――――――――――過去形。
俺たちの前に並ばせられてる人たち。
俺じゃないけど、俺が並ばせたようなモノ。
現在進行形ですかそうですか。
銃を構えた兵士を前にすれば皆さん並ぶよ。
それは、人間として当然の反応です。
異世界種族の人間認定は衆参両院で審議中。
――――――――――未来形。
まあ、俺と大して変わらんし。
人間で、いいんじゃね。
見た目、構造、組成が似てる。
いや人間で在る無しに、意味は無いんですけれど。
人権が在るか無いか。
人権を無視されるか。
人権が無いとするか。
殺されるか駆除されるかその違いなんですけれど。
人間でも。
人型でも。
犬猫でも。
殺して楽しい訳がない。
殺さんほうが良くても殺すし。
殺しても良いからって殺さんし。
殺す殺さないは強弱と必要不必要。
何処かの誰かには、意味があるらしい。
ラベルの違い。
カテゴリーの違い。
書類記載事項の違い。
銃口の前では人の形をした肉なのに。
美醜に無関係。
優劣に無意味。
敵味方で無し。
人間扱いの方が失礼ですかそうですか。
【異世界種族非公式呼称「聖都」/元徴集民街区/青龍の騎士団馬揃え/最前列/魔女っ娘】
意味すること。
わたしが視ているもの。
ご主人様の逞しい肢体。
その斜め左右。
ご主人様の騎士長さま。
青龍の女騎士団団長さん。
三歩ずつ離れて、ご主人様の前を塞がない。
なにかあっても大丈夫。
騎士長さまが右に出て前を塞げる。
騎士団団長さんが陣を動かせます。
ご主人様の後ろ。
わたしたちの後ろ。
ご主人様の騎士団。
皆さまが銃を構えています。
こと在らば一撃。
・・・・・・・・・・無いといいな。
シバさま。
サトウさま。
二人だけ銃を下げています。
こと至らば追撃。
・・・・・・・・・・思っちゃダメ。
ご主人様を先頭にした騎士団。
その両翼。
青龍の女騎士団。
別れた二手。
右手が騎士団団長さん。
左手に騎士団副長さん。
お二方が軍扇を握る。
そして背後に離れて、黒く鈍色のゴーレムが二頭。
時々、唸り声をあげています。
――――――――――三桁に遥かに及ばぬ、青龍の軍。
知ってさえいれば、恐ろしい、ですよね。
あちら側とこちら側。
目の前、二千余り、市井の皆さん。
・・・・・・・・・・ご主人様に怯えています。
軍を指揮することに、じゃなく。
兵を従えていることでもありません。
青龍を代表している地位なんか無関係。
――――――――――やっぱり――――――――――
太守府では知られた話。
わたしの家の前。
凶器を持つ屈強な暴漢。
何人もいたのに。
先に襲いかかったのに。
後から動かれて。
素手で、一方的に、壊された。
腕脚を轢き裂かれ。
胸や顔を穿たれ。
体内を暴かれ。
わたしは家の中に留められた。
だから視なかったけど。
家の中から、何人もが観てた。
ご主人様。
闘う気すらない。
罰ですらない。
殺す気すらない。
とても青龍らしい、ご主人様の振る舞い。
だから誰もが、ご主人様を視てる。
どうなるモノでも無いのに
――――――――――眼が離せない。
【国際連合軍第13集積地/領民集積区画/軍政部隊閲兵隊形中央/青龍の貴族】
俺たち、銃を普通に使ってるからな。
銃が無いと無力だからね。
銃があれば強いですよ。
銃が無い相手にはですが。
銃を持ってりゃ誰でも凄いって、それ一番言われてる。
栄えない自分史が走馬灯。
王城で神父を殺させようとしたり。
※第12話〈大人のような、子供のような。〉より
王宮で役人を殺しそうになったり。
※第16話〈裁判と呼ばれているもの(1867年以降日本式)〉より
市民や参事を撃ちそうになったり。
街でたぶん暗殺者を射殺させたり。
※第9話〈トリガー〉より
魔女っ娘ハウスで暴漢を撃たせた。
※第19話〈Rules of Engagement/ROE/交戦規程〉より。
港街の街道で略奪者たちを皆殺し。
※第43話〈アフターパレード1984/AfterParade with Orwell〉より。
農村では野盗集団を殲滅したしね。
※第81~98話より。
異世界住民の皆さん。
銃口の意味くらい判るか。
相互理解に万歳三唱。
話が早くて、助かります。
戦争を知らせたくない国際連合には不都合だろうが。
――――――――――脅迫の手間が省けた。
銃を持ってる相手には逆らう前に先読みして従うこと。
俺たちを異世界種族に同居させるのが悪い。
・・・・・・・・・・その責任をとって俺が殺されそう。
秘書を自殺させることも議員の責任とか言ってる女が上役だからな。
命冥加な皆々様。
――――――――――ホント、助かる。




