海と陸の境目にある世界。
【用語】
『不随意運動』
:この一言で病気の表現扱いされているが、もちろん嘘。不随意運動の中には病的なものがあるというだけで、意味としては意識によらない行動。というか行動、体の動作で意思によるものはほとんどないんですがそれは……キーボード操作をするだけで自分の体に何を命じているか言語化できる人はいないだろう。意識しなければ動かせないようなら病気ですがたぶん手遅れ治せない。
「ご領主様以外に魅せたら減ります!」
人魚が肌を隠すに至った言葉。
【国際連合統治軍第13集積地/駐屯地東外縁/海岸砂浜射撃場/水際から8m海上/青龍の貴族】
俺はやっと、と考えるべきか、大型犬に舐めまわされた直後くらいになった。
セント・バーナードとか。
シベリアン・ハスキーとか。
サーロス・ウルフホンドとか。
多摩レクリエーションセンターとかでよく遭遇します。
襲われているわけではない。
でも心配してくれてもいいと思う。
超大型犬にわっしょいされてるんだから。
まあ楽しい思い出ですけど帰国したらまた行こうかな。
・・・・・・・在日米軍が全部異世界に侵攻しているが。
あそこも異世界に移転してるとか?
いや在日米軍の家族は日本国内に留められてる。
日本への配慮。
巨大な軍事力から低武装な民間人を離した意味。
米国への配慮。
危険な最前線へ守るべき民間人を送らない意味。
大人の常識というやつだ。
合衆国大統領閣下から友人への私的申し出。
互いのメンツを尊重。
日本の一国会議員が個人的に前向きな検討。
人類の指揮権を誇示。
それを見届けてから各国が敢えて追従を示す。
地球人類総意の決定。
日本政府と官僚諸氏にはまったく関係がない。
責任は選挙で問われる。
儀式であって形式を認めるや否や?
日本国内には部隊編成できない規模の各国軍がいるから介入は可能。
とある政界の黒幕の地元県警が国際連合に派遣されているしね。
日本人でも国際連合に派遣されれば国内で国連軍として振舞うしね。
日本、二ホン、にっぽんといっても色々ありまして。
誰が誰を信頼しているのか。
誰に何を委ねてるのか。
誰が誰を信用してないのか。
それが俺にとって意味することは?
帰国すればまた遊びに行ける、ってこと。
それが解っていれば今は十分だろ?
EU国境と違ってパスポート必須だけど。
顔パスできても必要書類は必携です。
相手に口実を与えないのが、大人の嗜み。
うちの娘たちを連れていける日もそう遠くないけど、人魚は無理かな。
水中最強でも土俵が違う。
全員で同じ場所の遠足は無理。
それがそもそも今の問題。
そうそれ人魚。
ただいま土俵際、いや喫水線にて、皆と遊べるかの瀬戸際で死線を彷徨う。
{にいさま!}
元気に俺の体で跳ねてます。
やっぱり犬っぽい。
生態は魚。
身体は人。
動作は犬。
バカでかい犬に近いサイズの人魚とか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・見えないしっぽを振ってるような気がする。
いや心の尾びれ?
{にいさま!にいさま!}
つまりトロトロな感じでベタつかないのが、俺。
人魚ボディーはヌルヌルとしっとりの間くらい。
大気圏スーツ代わりにはなりません。
粘度は高いが吸着力は弱く、サラサラぷるぷる。
ゼリーみたいでスライムじゃないな、人魚だし。
{ふゃ♪}
人魚の肌から再び染み出す粘性の液体個体の中間。
やっぱり急速に粘性を失って足元に垂れていく。
海水中では粘性を取り戻して留まり揺蕩っている。
{にいさま!にいさま!!}
良くない傾向だ。
人魚の保護粘液が大減少。
ってか大気中の鰓呼吸生物って。
{やじゃないけどだめ!}
そんな人魚を元カノ&マメシバが放置?
捕まえない?
助けない?
コイツらが見棄てる訳がない、なら?
{いっぽうてきでいいけどよくない!}
大気圏にいる人魚に危険は無いと感じてるみたいだな。
殺されなければ死ぬ状況、じゃない?
{ちゃんとおしえてくださぃん♪︎}
鰓呼吸の水棲人類が元気だな、海上で、っておい。
肺呼吸に突然進化したり変化したり両生類になったり。
俺は人魚のほっぺを、慎重につっついて確かめる。
間違いなく頬っぺたに水を含んでいるな?
{うぅ~~~~~~またぁぁ♪︎}
あとで前後不覚になるまで撫でてあげるから。
近所の野良猫やガキどもや他の娘たちみたいに
今は命の問題、それどころじゃないから良く視る。
{イジワルですぅ!}
人魚の顎を指先でアップ。
笑顔に意志を込めてきた。
好意をアッピールしてる。
撫で転がすのはぐっ
――――――――――と、我慢して、ちょっと後回し。
{あ、・・・・・・・・・・ぅん♪︎♪︎}
ガン視。
――――――――――口を閉じてどこから話してる?
人魚の声は耳から聞こえてる。
まあ魔法翻訳のせいで意識に響くんだが。
以前はぶくぶく水中からの音。
思えばキャビテーションがはじける音だ。
喉で気化した水で発する振動。
俺たちが大気中で話すやり方と原則同じ。
{――――――――――兄さま}
顔と視線を逸らさせない。
力尽く、ってほどじゃない。
子どもは敬意を抱く大人に従う。
従わせるのは甘えてきたとき。
反逆とは甘えに他ならない。
指示に逆らうのではなく、言うことを聴かなかったら?
それは大人が失敗作だからだ。
大人に成り治す直す方法はない。
諦めて子どもに関わらないように。
{なんでもしますぅからぁ}
そこは、なんかしろ、でしょうが。
子どもなんだからさ。
{だ~から~おっしゃるままにぃ!}
それを踏み潰すまでが大人の嗜み。
なんか食わせろくらいなら作ってやってもいい。
遊べは無視して遊びたいとき弄る。
だから相手してやるから安心してかかってこい。
ごはんと睡眠以外は俺の都合を押し付け強要。
{は~~~~~~い♪︎}
これで逆らわない。
うちの娘たちの心配なところ。
人魚もそれと同じ。
子どもらしいのは距離感マイナスだけ。
{♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎}
強く強く肢体を押し付けてくる
――――――――――これは何かな?
{好いですぅ♪︎}
落ち着かない分、肢体をもぞもぞさせてるが、致し方なし。
やっぱこれか。
人魚は頬をプックリと膨らませてる。
可愛いんだが。
白く澄んだ肌が紅潮してるのはアレか。
海水を鰓一杯に溜めたまま。
・・・・・・・・・・ああ、そーいうこと。
人間が素潜りするときと同じ。
血の色が赤いから、相当に苦しいハズ。
息継ぎしないと持たないが、しばらくはね?
口を開かなければしばらくは持つ。
初めてしりました。
――――――――――メモメモ。
後で耐久時間を調べないとな。
実戦好きな元カノが計測してるだろ。
実験好きなマメシバが限界テスト済だな。
黒旗団駐留の港街では日常だ。
魔法使いが高度一万mから放り出されたり。
魔法の箒に酸素ボンベ背負って耐圧服とか。
獣人人獣やっぱり魔法使いが音速耐久試験。
せめてコクピットか弾頭内に閉じ込めてあげて
・・・・・・・・・・ノーズコーンに括り着けるとか。
マメシバが管理してるから死なないらしい。
肉体が崩壊するより速く回復させる治癒魔法。
精神を常に活性化させる化学薬品電気療法。
ちょうどさっき自分に試してたが
――――――――――後でもっと怒ってやろう。
自分の命と肢体を私物化する奴が多くて困る。
生きること自体に値打ちがあるなんて思わん。
そんな風に値付けしたけりゃ自衛官やらんわ。
事務職の値段や生涯収入見込みは重要。
・・・・・・・・・・プラスアルファの利害は馬鹿にできません。
国家や民族や体制みたいな便利グッズを維持するのは他人に御譲りして心から勇気と献身と自己犠牲を讃えて、思い出すことがあったら参拝してあげるとして。
それは赤の他人の大切な役割。
俺の友人知人彼女と候補は止めい。
俺の身内の健やかな人生はまた重要。
―――――――――元カノには戦う場所が良く似合う。
実際に戦うことになるとは思わなんだが。
個人的幸せとは個体で完結しない。
だってのに近所のガキといいコイツら。
気楽に肢体に悪いことをしやがるんだ。
元カノが海中から跳び出した時のソレ。
折れる傍から接合し裂ける刻には再生させる医術。
治癒魔法を医学知識が誘導し化学療法がサポート。
今、異世界接触、侵略ではなくて、の最大注目点。
他人事なら俺だって称賛する。
だから他人に任せておけって。
異世界にきた甲斐があるってもんだ。
多世界接触でしか手に入らない世界。
―――――――新しい知識の地平線―――――――
逆に言えばそれ以外の価値はない。
地球人類にとっての異世界ってのは。
飽和した日本社会。
これ以上、何が必要だってか。
星ひとつ?
宇宙ひとつ?
使い道がない。
いつもより余計に捨てる?
皆さん薄々気がついているから侵略戦争自体への関心は低い。
異世界そのものへの関心は天井知らずで誰もが気にしている。
そりゃマメシバの趣味嗜好が一般人に注目されるってもんだ。
普通の人間ならば思い付くのさえ何ヵ月かかるか
・・・・・・・・・・かけてもだめか。
それを思い付く傍から即実行できる環境と性格。
なかなか俺に従わない出来のいい女だよほんと。
二人そろって好きと実行が呼吸と同じだからな。
そうそれ呼吸は時間の問題、人魚の話。
何も着けてない下肢は摩擦力最小。
飲んだ水で保護粘液が再生された。
水筒分の一部だから肌の保護程度。
{どう?どう♪︎どう!}
おまえが落ち着ける訳がない、か。
パーカー部分以外がヌルヌルだし。
掴んで抱いても安定にはほど遠い。
{♪︎ゃくすぐっ♪︎やぁ♪︎♪︎}
そりゃまあ定番の遊びか。
完全にレクリエーション。
ヌルヌルレスリングとか。
{大好き♪︎}
泥んこ遊びに近いが汚れない。
小中高校生くらいなら鉄板だ。
これが陸棲人類同士なら安全。
{もう百回♪︎}
数の概念はあるが命惜しみはないらしい。
お嬢と魔女っ娘の水筒で鰓いっぱい。
いつもより余計に胸いっぱい。
{もっともっともっとたくさん♪︎}
俺の居る場所、大気中の水棲人類。
――――――――――そのまま話せば空死。
水死の大気中水棲人類バージョン。
{はなさないで!!!}
なんで話せる。
なんで聴こえる。
何処から聞こえてる。
俺は確かめた。
人魚の頬を自分の顎下に押し付け、くにくに。
{きゃ~~~~~~~んぅ♪︎んぅ♪︎♪︎んぅ♪︎♪︎♪︎んぅ♪︎♪︎♪︎♪︎んぅん♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎ぅんぅん♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎}
あ、やっぱり。




