まだ夜が暗かったころ

エルフの特徴は高い、あるいは不変の恒常性維持機能です。

彼ら、彼女らは不老であり、肌や髪など体組織の劣化が極めて少ない。おそらくはテロメアの伸長に制限がない、細胞分裂、代謝に上限がないと考えられます。

すなわち『永遠の』若さでありその若々しさが美貌となっていることは言うまでもありません

しかしながら、その身体組成は地球人類とほぼ同じと考えられ、摂取する栄養素も類似しております。であれば、エルフの特性は特別なものではなく普遍化が可能であると解釈すべきでしょう。

すなわち、テロメラーゼ（※１）、ヘリカーゼ（※２）、スーパーオキシドディスムターゼ（※３）他様々な酵素を内包/体内生成していると考えられます。

そして、不老はエルフ体の神秘、その序盤でしかありません。

本質となるのは不死です。

老化を克服できるのであれば老衰もまた同じであり、これは論理的帰結と言えましょう。

もちろん、まだ数千年生きているエルフは確認できません。しかし、数百年生きているエルフを確認できております。

百年不変な千年でも不変です。

『不老不死』

は、あります。

海の向こうに！

※１老化の原因となるといわれているテロメアの欠失を補ってくれるんじゃないかな・・・・・たぶん、と言われている

※２老化の原因となるといわれているＤＮＡ複製時のエラーを修復するんじゃないかな・・・・・と思う、と言われている

※３老化の原因となるといわれている活性酸素を低減させるんじゃないかな・・・・・という可能性を否定する根拠はない、と言われている

ひっかかりますね、まったくチョロイ。

サンプルがお気に召したようでなによりだ。

エルフ印の化粧品、サプリメント、医薬部外品・・・・・バカがくいつくモノばかりで。

税収になりますよ。

実物にはまってるようだが。

ええ、しかしさすがに、エルフとはいえ、奴隷流通は無理でしょう。

キャッチコピーは決まりだな。

「異世界に行けばエルフを性奴隷にできます！！」

いやはや。

異世界棄民の志願者はすでに百万を超える勢いですよ。

連中も行くだろうよ。

ヤツラは人材派遣システムを運営させるんじゃ・・・・・

君主になるんだろう。納税不能者を奴隷頭にして、な。

ハーフエルフ生産がはかどりそうですね。

真ん中にいた奴、バカッターの有名人だ。

「自分のような有能な人間を冷遇するなら日本を出てもいいんだぞ」

とな。

冷遇？ああ！税金を払いたくない、っと。

はて？アレは医者でも料理人でもないですよね。

音楽、の販売屋では？

そう。日本でしか通用しないカントリーローカルコンテンツ産業の社長さん、だ。

クックッ・・・・そりゃいい。

なんでまだいるんです？

バレたら困るだろ・・・・・・・・・いなくてもいいって。

今度こそ、出て行っていただきませんと。

我々の指導がなきゃ金も稼げない連中には、非納税者と一緒に異世界（プランテーション）の土に換えっていただかないとな。

《日本列島/東京/千代田区大手町1－3－2/経団連会館３Ｆ隔離審議室/植民地省設立準備委員会会合》

【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/執務室】

俺は朝食後のメッセージ確認を済ませた。

戦略概況他、軍政司令官が知っておくべき情報がまとめられた代物。それと、事前登録したキーワードに対する検索結果を通知してくれる便利ツール。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――まずい。

いや、朝食は美味しい。

チキンかな？というような食感の、なんだかわからない肉のソテー。

紫色の、フルーティーな味の実が浮かんだ、白い不透明な、真面目に真っ白なスープ。

パンは畑の小麦みたいなものから作り上げ、焼きたて。

他いろいろ。

時代的に朝食が一番豪華なんだな。

たいへん美味しくいただきました。ごちそうさまでした。

なんか、ここ（太守領）に来てから同じ種類の肉を食った事がない気がする。よほど食肉獣が多種多様なのか、調理法の成果か。

まあ異世界だから、俺たち地球人には初めてばかりなんだが。

美味しいし、人間やエルフやドワーフを餌にしていない草食生物ばかりだってから、いいんだろう。

水死者がたくさん出た。

河魚は当分避けるとか―――――――――――――――――――――そのあたりの常識が一致してよかった。

だが、今日から沖に漁船が出る。明日からは魚料理が復活する。

よかったよかった。

いやいや、問題はそこじゃない。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌたちがすっごく俺を見ているが、それは問題じゃない。

いや、それも問題か。

朝から完璧に制服姿である。まさに由々しき問題。

国際連合軍軍属／事務の勤務時間は９～５時。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌには日本の常識的労働法が適用されているから当然だ。

残業も早朝出勤も有り得ない。規定上、要請は出来るが、命令は出来ない。

常識的労働法からの論理的帰結だ。

当たり前だが、俺は残業も早朝出勤も要請しない。

非人間的で至極のサディズムに至るおぞましい所業！

・・・・・・・・・・・・・・・・考えるだに恐ろしい。

もちろん、個人的趣味嗜好を否定はしない。

しかしそれは、仕事という生死に関わる場所で楽しむべきじゃない。

当然、俺はノーマルだ。

正常、と言う意味じゃない。多数一般例と言う意味で、決して誇ってはいない。卑下もしていない。

つまり！

パワハラなどしない！！

第一、残業や早朝出勤など常識ある労働者には断られるに決まっている。

いや、常識以前の問題だ。

マゾヒズムに目覚めない限り、人類が残業や早朝出勤などやるわけがない。

もちろん、趣味の問題を否定はしないが、仕事とプライベートは分けなさい。ドＭになるならなるで、健康に影響がないシュチュエーションを選ぶべきだ。

しかるに何故だか制服に身を固めて職場に出現しているこの子たち。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌは多少変わったところはあるが、性癖に問題はない。たぶん。おそらく。

調査・・・・・できないから信じよう。

いやいや。

めんどくさいから出勤前、早めに着替えるというのは、ありえることだし、そこに目くじらを立てる気もないが・・・・・・。

そう言う意味で、Ｃｏｌｏｒｆｕｌにはもう少し地球の常識を伝える必要は感じている。

９時から勤務なら、９時過ぎてから制服に着替え始めるべきだ。

制服はコスプレじゃない。

仕事着だ。

いや、まあ、Ｃｏｌｏｒｆｕｌが身に纏うのは本来の自衛隊女性用制服ではない。無個性ステルス野暮ダサい正規品ではなく、マメシバ印。

そう、マメシバ・ハナコ。乙女チックサイコパスにして、恋愛クリーチャー、恋は地球より重い、あの、マメシバ三尉のお手製。

やたらとファッショナブルな、やたらとボディラインを強調し、やたらに見えそうで見えないスリットやら隙間やらをしつらえた、着こなしが難しい制服だ。

コスプレの気配はある、あるが、合衆国軍最高司令官が認めて予算も国連軍から出ている制服である。

だから制服、仕事着で間違いない。

仕事の準備は、当たり前に過ぎるが、仕事そのものである。仕事着に着替えるのが個人の趣味であるわけがない。

仕事は勤務時間中に行わなくてはならない。

９時始業なら、９時に着替え始めないといけない。さもなくば不当労働行為。責任問題だ。俺の。俺が職場の管理者だからな。

まあ、国際連合事務局内部監察部（ＯＩＯＳ）が何か言ってくるとも思わないが。

誰が責めなくとも俺が責める！！

労働法規は守りましょう！判例と条文の正規解釈にのっとって運用しましょう！相手が知らないのをいいことに違法行為を強要するような奴は直ちにクラーケンの餌に！！

・・・・・ Ｌ’Ｉｎｔｅｒｎａｔｉｏｎａｌｅでも歌おうかな？

今は７時。俺ですら準待機時間だ。

・・・・・・それが原因か？２４時間勤務な俺が基本軍装なので勘違いさせてるのか？？

【太守府/港湾都市/北街道/港湾地区造船所地区通路】

あたしは平常心を取り戻した。

耳を澄ませばあんな噂が聞こえてくるなんて・・・・いつから？

青龍の貴族、彼・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう！

下世話な勘ぐりなんか気にしない！！実際は何もないんだし！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにも。

周りが勝手に愛人扱いしているだけ！！！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だし。

ううん！昔の女と、昔の、女とじゃれたりしてるから！！！！！女に関心がないわけじゃない！！！！！！

頭目が口説いても、仕草一つでいなしてるし！！！！！！！！！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女慣れしてるよね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。

【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/執務室】

俺が異世界で学んだ事。

エルフの耳。

エルフの耳は、本人の気分を表す。

しょんぼりとへたり込んだり、怒って逆立ったり、素知らぬふりで耳がこちらを向いていたり。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌが自席（執務室内にしつらえたテーブル）から素知らぬ顔をしているときのように。

常に耳が俺、指揮官を追っているあたり、良い兵士になるんだろうな――――――――――しないけどな。

それは興味深いし、まあ、可愛らしくもあるので、この分析レポートが届いたりする。

『遭遇一日目からみて明らかに振幅の度合いが大きくなっており、個人的な感情の振幅に同調していると思われる。対象との親密度が上がり情緒への影響力が増したのか、信頼度が上がり緊張感が薄れたのか、いずれにせよ彼女が相手によって明らかに』

云々。

まあ、俺や兵士は装備にカメラを仕込んであるから、解析出来るのはわかる。

国連軍占領地、つまりは旧帝国領ではエルフは少ない。

帝国が山狩り森狩りまでして、エルフの里を滅ぼしていたからだが。

だからまあ、エルフっ子の仕草が貴重な資料なのはわかる。

だが、しかし。

目線入れればいいってもんじゃない。

軍事参謀委員会は、国連軍データベース『ＡＨＵＲＡ』に、つまりはネットに公開しやがった。全国の暇人を動員して膨大な異世界情報、緊急性が低いもの、を解析させるシステム。

この結果も、戦略的に言えば有意義なのだとわかる。んが、そういう問題ではない。

俺たちのカメラの事は知らせてあるが、そもそも、カメラについてあまり理解している様子がなかったしな・・・・・怒る、だろうな。

まずい。

たいへん、マズい。

何がまずいかわからないあたりが最悪だ。

【太守府/港湾都市/北街道/港湾地区造船所地区通路から埠頭へ】

あたしが港街、港湾地区に入ってすぐに造船所の施設が並ぶ。

見回す限り、資材も架台も職人も、全部動員して作業中、か・・・・・・・・・・・・青龍の魔法が無い限り、昼間しか作業出来ない。

あたしたちの世界なら産まれた時からそうなんだけど。

まあ、当たり前、なんだけど・・・・・・・・夜が明るい、か。

気がつけば、慣れてしまっている。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――夜が明るいことに。

青龍の貴族に出会う前。

見なければ出来ない事は、まあ生活の大半だけど、夕方には終わらせた。

日が沈み始める前に家に帰る。

見知った道でも闇夜なら、目隠しをして歩くようなもの。

命がけだ。

日が沈む前に食事を済ませる。

口元も皿も見えずに、食べるのは難しい。

日が沈む前に、寝床を整える。

長い夜を過ごすのだから、体をこわさないように。

あたしたちの時間。

夜明けとともに目覚める。青龍の道化のように、昼過ぎまで寝ていたりしない。病気でもなければ明るさに合わせてすぐ目が覚める。

誰に言われずとも、必死になる。生きる時間そのものが始まるのだから、当たり前。

まだ薄暗いうちに、自身を生かすために必要なこと、食事や身の回りのことは済ませる。

完全に夜が明けるまでに、畑、お店、造船所や作業場で仕事を始める。戦場の兵士でもなければ昼に食事をしたりはしない。

午後、しばらくして、日が傾き始めたら、順次仕事を切り上げる。

職人でも商人でも、家人がいてもいなくても、それぞれでやるべきことがあるから。仕事以外のそれを済ませる為に。

夕方には何もかも終わらせる。

闇の中で震えなくていいように、闇に備える準備が一つ残らず終わっていることを確認して、日が沈んだ後は身動き一つしなくて済むように、整える。

夜は、死んでいるのと同じ時間だ。

あたしは夜目が効くけれど、所詮は月明かり星明かり。

それで出来るのは身を守るくらい。家事なんか出来る訳がない。

松明も蝋燭も、値が張る割に役に立たない。

明かりが不足、揺れるから視界が安定しない、熱い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・結局、夜目の方がマシ。

夜目が効かない人間は、やむを得ず使う？そんな訳がない。

余程の事情が無ければ、翌朝に回す方が効率的。だから、松明や蝋燭なんか、ほとんど誰も使わない。

王城の警備にすら、ほとんど使わない。明かりで警備の位置がバレるくらいなら、夜目、といかなくとも、夜に慣らした人間を育成した方がマシだから。

戦場なら、仕方なく使うけれど。もちろん、ここぞというときここぞという場所だけ。

毎夜毎夜使っていたら戦費なんかすぐに尽きる。薪に頼れば森が無くなって禿山ができる。そもそも薪を集める時間と手間で何もかも使ってしまい、戦争どころじゃない。

夜は街も森も野原もない。皆、闇一色だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・った。

青龍が来るまでは。

青龍の貴族、そして青龍が住まう場所。

王城、港街では奴隷市場の館、そして埠頭の一角。

そこが暗くなる事はなく、そこに青龍がいる事を街中どころか太守領全体に知らしめている。実際、王城の明かりはかなり遠くから見えるはずだ。

太守府の住民が夜中に王城前に集まっていた理由、いや、集まっていた事自体、青龍の貴族は気に止めていないだろうけれど。

まあ住民は広場のもの物陰からおそるおそる覗いていただけだし。

――――――――――――――――――――夜が明るい。

夜、ものが見える。それが、こんなに凄いことだったなんて。

もし、また、夜が暗くなったら？・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・片目を失うようなものかしら。

距離感がなくなるような？

見えているようで、見えていない。解らないと判らない。自分が依って立つ足場が違う。

あたしたちと、青龍の、それが、差、か。青龍の貴族、彼は

『違いと差は、それこそ違う』

と言っていたけれど。

でも、それだけなら、まだいい。目が三つあっても判らない事がある。目が無くても解る事がある。

あたしと青龍の貴族。

千年たったら、彼が、あたしにもわかるのだろうか。

【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/執務室改め「エルフっ子肖像権問題対策本部」】

俺は皆の意見を聴くことにした。見栄は張らない。対策が思いつかなかったからだ。

「ランキングtop１０から動かず」

「ＯＨ――――――――――！！！！！！！！！！ＹＥＡＨ――――――――――！！！！！！！！！！」

スタッフは、マメシバ三尉と神父。

現地代表（文字通り）の魔女っ子。

・・・・・・・・・・・・・・・・・曹長と坊さんには軍政司令部を滞りなく運営させるという使命がある。俺がいなくても運営出来るとかそういうことは気にしない。

誰にも必要とされない人生を生きる事！

それこそ本懐である！

「で、どーすんですか？大尉殿」

「諸君らの意見を聴こう」

【太守府/港湾都市/港湾地区/造船所通路から埠頭へ】

あたしがのぞいて回っても、誰も気にしない・・・・・ならよかったんだけど。

顔を隠すと見とがめられる。青龍の『あいえふえふ』を受け取ってから、警備が厳しいわね。以前みたいに誰でも入り込める、邪魔をしなければ放っておかれる、とはいかないか。

そしてフードを挙げると・・・・・平伏される。

あたしは慌てて逃げ出した。なるべく、声を聴かないように気をつけて。でも、用心のために聴かないわけにもいかず。

だって・・・・

『ご領主様の愛姫様はすごいな』

『見るだけなら許されるそうだが』

『ご領主様の女にぶしつけな視線を向けてみろ！殺すぞ！！』

あぅあぅ。

造船所。

ここは青龍のモノじゃないから夜が来る。だから交代させながら休みなく作業させている。行き帰りの時間を惜しんで今日から泊まり込みだ。

やっと青龍の許可が出て、待望の船出。青龍の貴族から渡された魔法具？『あいえふえふ』を船に固定しないとならない。

それがなければ海を征する青龍に沈められる、だけじゃなくて、船員ごと皆殺し。

外れないように壊れないように固定。船は難破するもの。だから、いざと言うときは外して持ち出せるように工夫して。下手をすれば、無理をして持ち出そうとするあまり、余計に人が死にそうね。

船が出せなくなり３ヶ月。これからまた、港の交易船は船出するわけだけど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・航路の先がどうなっていることやら。

大陸の東側沿岸は青龍が征服した。

財貨にも街にも住民にも関心がない青龍。必死に抵抗する帝国は、海に興味がないから港を重んじもしない。

互いの力を知らない青龍と赤龍が、遠慮会釈なしに正面からぶつかった沿岸の街々。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひどいことになったでしょうね。

商人達が太守領外に向けて築いた情報伝達路は、青龍が帝国と戦い始めてすぐに途切れた。遥か南の都市とは伝書鳥も行かず帰らず。船は来ず帰らず。

前太守が騎士を連れて南に向かって以降、帝国の伝令すら来なくなった。

南の都市から最後に連絡があったのは『帝国が敗走している』という話だけ。

あたしは、それを聴いて、陸路から見に行ったんだけど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしが見たのは内陸側。

追う青龍と追われる赤龍。

都市を、街を、町を、村を。放棄する赤龍と放置する青龍。それでもそこかしこで、激しい戦いが起こっていた。

ううん、戦いじゃないか。虐殺ですらない。

一方的に、圧倒的に、莫大な破壊で帝国軍を消滅させる青龍。帝国騎士が逃げ込んだ、かもしれない、で、街が丸ごと砕かれた。

そんな中、主たる帝国を失った街々。

帝国は途中から、支配下の街を捨て始めた。

混乱したり、息を潜める人々。青龍にも赤龍にも無視された連中。今までの権力者を吊し、富裕な家を襲い、襲われる前に弾圧する。

帝国貴族の中には、放棄命令が届かなかったのか無視したのか、街に残った者もいた。運が良ければ青龍に捕まり、悪ければ領民に吊るされた。

青龍にも赤龍にも関係なく滅びた街も見かけた。

互いに相争って、奪い合い殺し合い、勝者たる青龍に無視されて、わずかな生き残りが街を捨てる。

でも、内陸にならそのまま残っている街の方が多いだろう。

青龍に占領された、といっても、軍が入城するわけではなく領主が派遣された町はそれなりにある。息をひそめ、帝国の残党とも縁を切り、青龍からも無視されている街は多い。

交易を再開するとすれば、残っている港を経由して内陸につなぎなおさないといけない、のだけれど。

あたしは青龍の貴族から、存在している港は教えられた。

それなりの港があり、青龍の許可で交易も再開している。でも、港の交易相手が生きてるかどうかはわからない。生きていても、商売のやり方が一変しているでしょうね。

いくつもの港が街ごと消されている。港から先の街々も様変わり・・・・・・街々が息をひそめていたなら、品物の流れも止まっていたはず。それがまた始まったにせよ、販路、為替、値段、賄賂、コネ、なにもかも変わってしまえば初めて訪れた港で商売するのと同じ。

そこまで確認する為に、確認だけの先遣商船隊が出るのが一週間後。

青龍の魔法なら、遠くの街に連絡し、何もかも確認してから動き出せる。規模や効率は比較にならないけれど、帝国軍も魔法を使って似たような事をしていた。

龍たちの、一番大きな差。

青龍なら軍隊だけではなく、商人や職人、子供すらそれが出来るという事。どれだけ大勢の魔法使いがいたら、そんな事ができるのかしら、ね。