兄妹喧嘩
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。
次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。
以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。
(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)
【登場人物/一人称】
『俺』
地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》
現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様》
?歳/男性
:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。
『あたし』
地球側呼称《エルフっ子》
現地側呼称《ねえ様》
256歳/女性
:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。長身(数値不明)。
『わたし』
地球側呼称《魔女っ子》
現地側呼称《あの娘》
10歳/女性
:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。
『わたくし』
地球側呼称《お嬢》
現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様》
12歳/女性
:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《神父》
現地側呼称《道化》
?歳/男性
:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父。解放の神学を奉じる。
地球側呼称《曹長》
現地側呼称《騎士長》
?歳/男性
:国際連合軍/陸上自衛隊曹長。
地球側呼称《坊さん/係長》
現地側呼称《僧侶》
?歳/男性
:国際連合出向中地方公務員。得度した僧侶。浄土宗らしい。軍政司令部文官。
地球側呼称《官僚/財務官僚/役人》
現地側呼称《役人》
?歳/男性
:財務省官僚。高級官僚の一族に属するらしいが、異世界転移後の官僚機構一斉粛清で大半を失った。
地球側呼称《三尉/マメシバ/ハナコ》
現地側呼称《マメシバ卿》
?歳/女性
:陸上自衛隊三尉。国際連合軍独立教導旅団副官。キラキラネームの本名をかたくなに拒み「ハナコ」を自称している。上官の元カノが勝手に「マメシバ」とあだ名をつけて呼んでいる。
地球側呼称《頭目/お母さん》
現地側呼称《頭目》
?歳/女性
:太守府の有力都市、港街の裏を取り仕切る盗賊ギルドのボス。昔エルフと恋に落ち、ハーフエルフの愛娘がいる。
地球側呼称《マッチョ爺さん/インドネシアの老人》
現地側呼称《副長/黒副/青龍のおじいさん》
?歳/男性
:インドネシア国家戦略予備軍特務軍曹。国際連合軍少尉。国際連合軍独立教導旅団副長。真面目で善良で人類愛と正義感に満ち満ちた高潔な老人。
【用語】
『港街』:太守府の最大貿易港。領内で首府に匹敵する価値を持つ。盗賊ギルド、貿易商(船主)、参事会がしのぎを削る。
『シスターズ』:エルフっ子、お嬢、魔女っ子の血縁がない三姉妹をひとまとめにした呼称。
『Colorful』:ハーフエルフの最高級愛玩奴隷たち。髪の色がいろいろなために神父により命名。
『ハーフエルフ』:エルフと人間の間に生まれた混血種族。エルフに似た美しい容姿と不老、不妊、それ以外は人並みの種族。異世界全体として迫害される。
『アムネスティ』:日本の異世界転移後、国連より早く再建された国際的な人権団体(NGO)。設定ではなく、リアルに「売春合法化論」を唱えている。ただし、支部ごとの独自性が強い団体なので全体の総意と言えるかは微妙。
エルフの特徴は高い、あるいは不変の恒常性維持機能です。
彼ら、彼女らは不老であり、肌や髪など体組織の劣化が極めて少ない。おそらくはテロメアの伸長に制限がない、細胞分裂、代謝に上限がないと考えられます。
その美貌は『機能美』であり、生物が『正常な/異常のないものを識別認識する』機能により我々はエルフを『美しい』すなわち『危険がなく有益である』と感じるわけです。
人間が別種の生物、植物や動物に、あるいは様々な機器に『美しさ』を感じるのと同じことです。
文化的な刷り込みによって生じる美しさとは別の本能的なものであるといえましょう。
エルフは不死ではありません。生きる為に物質を必要としていますし、殺されれば間違いなく死にます。
しかし、老死しない可能性はあります。
実際に個体数が少ないのではありますが、成長期を過ぎて老化したエルフは実態としてないし記録として確認されておりません。記録で見る限り、あるいは申告をもとに推測して、数百年生きているエルフの観測記録はいずれも同じ傾向を示しています。
肉体、そして精神の老化が見られない。
肉体は言うまでもありませんが、精神において、およそ外見年齢に近い反応を見せます。実年齢に等しい記憶を持ちながら、情緒に不活性化/鈍麻/順化が見られない。
百年前と同じことに驚き、ときめき、悲しみ、感動する。
おおむね高い記憶力を持ち、人間と違い忘却しない。もちろん、意識しなかったことを覚えているわけではありませんが。
嗜好の変化は見られます。しかし、今後の検証が待たれますが、ヒアリングした限りでは環境起因によると考えられます。百年前砂漠で暮らしているときは塩辛いものを好んだが、今、草原地帯ではあまり好きではなくむしろ甘いものが好きだ、などです。単に生活環境で必要とされる栄養素が変わっているだけでしょう。
現在、確認できていること。
精神の老化が見られない。
これは、脳組織の老化がない、もしくは少ないのではないか、と推測される理由となります。であれば、肉体的にすべての部位において『実質的に不死である』ということになります。
しかしながら、実際には数百年生きているエルフを確認できても数千年生きているエルフは確認できません。
千年不変なら十万年でも不変です。
しかし、いません。
いまのところ。
とはいえ、それは自然なことではあります。
人類史を見ても、老衰死が特異な例外でなくなったのは近代化以前です。仮に病気にならなくとも、外的な環境、飢えや事故で人は死にます。
病死とされるものも大半が栄養失調による衰弱死です。
であれば、仮に、千年生きているエルフが実在しなくとも不死の可否に対する議論に影響はありません。是非ともに影響がないなら、ではどのように決着をつけるのか?
生体解剖しても意味がありませんよ。なにしろ、老化のシステム自体が仮説の集積なのです。仮定に基づいて実物を分解しても仮説が増えるだけで時間の無駄。
なに、結論を求めるのはたやすいことです。近代地球社会、先進国では老衰以外の問題は全て対処可能です。
我々と共に暮らせば、千年後に結論が出るでしょう。
《東京都千代田区/連合与党最大政党党本部/与党合同政調会議「同化政策検討会」》
【太守府/港湾都市/西街道/南岸から南岸邸宅街の間】
わたくしは南岸の邸宅街にて、お兄様の館を訪ねます。
ご領主様、青龍の移動に慣れてしまうと、気疲れしますわ。
奴隷市場から、馬車に揺られ、待たせてある舟に乗り換え、河を渡って岸に上がり、やっとですから。
お兄様が用意させた馬車、を置いて街を歩きます。
護衛の衛兵、馴染みのある執事にメイド、馬丁と馬車、ほか諸々。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・邪魔、だったかしら。
ちょっとした行列ね。
街を行き交う奉公人たちが、わざわざ平伏してるし。
馬車なら避けるだけでしょうに。
まあ、いいわ。
ご領主様に捧げる身に傷一つつけるわけにはいきませんから、一人歩きは厳禁。
『警戒を怠るな。報告を忘れるな』
それはご領主様の命令
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふふ、ふふふ、こほん!
わたくしは扇で表情を、さり気なく、隠しました。あらぬ誤解を招いてはいけませんから、ゆっくり歩いて。
そう、散策は当然。
ご領主様は街の様子を知りたがっておられましたし。
まずは河沿いの市場は外せません。
北岸と違って南岸の市場はいつも通りね。北岸では今日から店を立て直している最中なのに。市場の値は、むしろ下がってるわね。
これは青龍の使い魔『ていさつゆにっと』では解らないこと。
野菜は品薄?でも、小麦が安いから、周りの村々から売りに来てるみたいね。
野菜を売って、小麦粉を買うわけか。
お酒やお菓子の値が上がってる
・・・・・・・・・・・・・・・ついで、かしら。
嗜好品が売れるんだから、みんな、なにも心配してない。
やっぱり、ご領主様の意思一つ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・情けないわ。
こんな事でお時間をいただくなんて。
大半は、お兄様の裁量一つでまとまることよね?
港を守るのは、うちの家業にも必要だし。
北岸をまとめる頭目さん、港をかたづけつつ応援していた若い参事は、暴動に手をとられていましたけど
・・・・・・・・・・・・お兄様の仕切る南岸は早めに落ち着いたはずよ。
お金の配分をまとめるくらい簡単だし、頭目さん達も反対は、しないわよね。
ご領主様にでていただいた方が良いのは、わかるわ。
あれだけの品々を気軽に投げ出すご領主様。あの方がいらっしゃらなければ、まるで違う結果になりますもの。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、それなら、話をまとめて、まとめながらでも、ご領主様にお会いすればいいじゃない。
わたくしを通せば、簡単だし
・・・・・・・・・・・・・・・街の主だった人と話を始めてから、ご領主様にお願いすれば主導権だって握れるわ
・・・・・・わたくしだってご領主様に褒めていただけるのに!!!!!!!!!!
「お嬢様?いかがなさいましたか」
わたくしは立ち止まりました。
やだ、顔に出ていたかしら。ううん、うちの執事が優秀なのよね。
わたくしの気分を察するのは、うちのものたちだから。
・・・・・・・・・・・・・・・わたくしの、表情が読みやすい、わけないわよ。
「馬車を」
慌てず、急がず、速やかに、わたくしの前に馬車がとまります。
「家に」
わたくしの気分を察して、すぐに馬車は走り出しました。全力で。
街は後で見ましょう。
【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/執務室】
俺の朝は優雅に始まらない。
そりゃそうだ。
軍政部隊なんていうのは危険手当がつかない前線部隊。軍政司令部は交代がない前線指揮所に等しい。
兵士は一定期間で交代しても、司令部スタッフは交代しない。
休暇はない。
勤務時間外もない。
24時間勤務で、一般にいう時間外は『準待機任務』と呼ばれる。
つまり、寝ても起きても勤務中。
手当はつくが、それがどーした。
いらねーよ!
欲しいのは休みだよ!!
長い長い長い永------い!!春休みがほしいんだよ!!!職場に椅子が無くなってるやつが!!!!
でまあ、朝である。
またしても当たり前だが、皆で一斉に食事をとったりはしない。
そりゃそうだ。
戦地の兵隊さんがそんなことするかってもんだ。3/3/4の三交代で食事する兵士。曹長と選抜歩兵の佐藤、柴がまとめ役として入る。
俺は一応、監察官と文官二名の司令部スタッフと食事
・・・・・はしていない。
神父はいつ起きて寝てるかわからん。
坊さんと役人も仕事に合わせて食事するタイプだ。
最近は二人で食ってるらしい。
よって、俺は一人でゆっくり食べられるのである
・・・・・・わけない。
この占領任務に就いてから、常に、会食状態。
まあ、シスターズは良い。
もはや、あまり気を使わなくなってるし。まあ、今日は一緒じゃなかった。
魔女っ子はマメシバ三尉となにやら会合中。
お嬢は先ほど出かける許しを請いに来た
・・・・・・・請わなくていいが、すごく悲しそうに見えたから心配してしまった。
なぜ家族の屋敷に行くのに悲壮は表情なのか?
家族と、うまくいってないのか?
こちらの家族関係は俺たちと全く違うから、エルフっ子に相談しなくては!
と思っていたら、昨夜言われていたのだ。
『明け方から出かける』
と。
これくらい、シスターズの小さい二人も気楽に接してくれないかな。
と言うわけで、まあ、今日はColorfulと一緒に食事である。
俺が隔離されたり、Colorfulが衣装創りに追われたり、いろいろあった。
よって、初めての会食になる。
現地人と壁がある、ハーフエルフな、この子ら。
大勢で食べるのが楽しいと感じるかどうか、やってみないとわかるまい。
年齢的(十代中ごろから後半??)に一人で食べるとか、内輪で食べるほうが気楽かもしれないが。
まあ試し。
とここまでは普通だった。
だがしかし。
・・・・・・・・・・・・・・これは困る。
白、朱、翠、蒼、橙。
名前だ。
髪の色に合わせた、ハーフエルフの少女たちの名前。
命名、俺。
最初は、マントをまとってその下が薄物一つだけだったので、隣の割り当て部屋に追い返した。
今は制服姿。
扉の開閉時、隣の部屋から魔女っ子の戸惑う声と、マメシバ三尉の舌打ちが聞こえたような?
奴隷市場の迎賓館、その防音性能の高さよ。
通信機を常備させてるから非常時には関係ないが。
神父が常にモニターしないようにセキュリティを強化している。
両サイドの橙と朱がゼロ距離。つまりぴったりと寄り添っている。
特にCと表示されそうな何かがピッタリと。
――――――――――――――――――――――――俺に。
なんでも、現地の習慣で、二人がフォークとナイフを操り口元に運んでくださるらしい。
嘘だ!
蒼が後背に控えている。
ワインや飲み物を出してくれるらしい。
役割分担に関係あるのかどうかわからないが、Dな胸元っていうか、そのものが、圧迫されております。
――――――――――――――――――――――――俺に。
翠が前側に待機。
料理の皿を出してくれる。
角度的に非常に解りやすく双球が双丘(E×2)でした。
正面でニコニコしているのは白。
君は一体何をしているのか?
いや、笑顔に癒されるけどね。
笑顔だけならね。
笑顔だけにしてくれるとたいへんよろしい。
っていうか、全部やってもらう食事ってコントだろ?
指示するより自分でやった方が早い。
――――――――――――――――――――――――舐めてましたすいません。
そういったら、珍しくドヤ顔で返されまして・・・・・・・・。
「「「「「お試しください」」」」」
と。
俺は新春かくし芸大会の二人羽織ネタを期待していた。
珍しくもColorfulが楽しそうだったから、まあ、一食くらいいいかな、と。
――――――――――――――――――――――――視線だけで、すごくスムーズに食事が進む進む。
むしろ、視線を向けた覚えもないのに何もかも進む。
驚いた。
これが導入されたら介護革命が起きそうだ。
だがしかし、絶対に、現地でも一部の特殊な習慣だよこれ。
そこで再び、だがしかし。
「超絶美少女(十代)のバイキング」
「正面はFカップ担当だよね?」
「うわ!ハーレム」
「公然って、すごい!!」
「シーシー!」
「静かに!!」
「料理もうまいんだよね」
「脱いでもすごいのにそれ?最強じゃん」
「実践はないだけで、テクニックの知識はすごいよアレ」
「ええ!!!!!!!!」
「まだ実践してないの???????」
「うわ!大尉殿ヘタレ!!」
「まった、まった、これからでしょ」
「漢みせろー」
アムネスティガールズ(日本人中心の職業的娼婦)の皆さんです。
執務室の扉は基本開放状態。
精神的にきついが、ここで閉めると、ものすごく誤解される。
「「「「「「ガーンバ!」」」」」」
止めさせにくー!!!
アイコンタクトで応えるColorful!!
解りあってんの???
「はーい、みんな!6人だけにしてあげましょ」
とアムネスティガールズの、えーと、シュリだっけが手を打った。
アムネスティガールズはみんな納得して扉を閉める。
手を振って。
閉めるなこら!
Colorfulもガッツポーズで応えるんじゃありません!!
『6人だけに』
ってなんだ!!
【太守府/港湾都市/南街道/南門から港の間/南岸邸宅街中央】
わたくしは屋敷に駆け込み
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・抱きしめられます。
お兄様に。
いつもと同じ、優しくて賢くて、世界で三番目に頼りになるお兄様。
お父様の次。
「よく帰った!待ちかねたよ!」
ああ!!
やっぱりお兄様だわ!!!
少し間違いがあるけど、妹として許してあげないとね。
「お兄様、遊びにまいりましたわ!」
「何を言うんだ!ここはお前の家だよ!」
「あら?お兄様。女は家を出るものですわ!」
「何を言うんだい?お前には婿のなり手が列をなしているよ!」
「あらあら、お兄様。我が家はお兄様が継がれるのですわよ!わたくしは、外からお兄様のお家に目を配るなんて図々しい女じゃありませんの!」
「なーに!我が家はそんなに狭くはないさ!なんならお前も商いをするか!お前の才覚なら身代を倍にできるとも!別に大きくしたいわけじゃないがね!」
「そんな事をおっしゃるから、未だに妻の一人も見繕えないんですわ!わたくしは小姑にはなりませんわよ!」
「もちろんさ!一緒に暮らす愛しい妹を大切に出来ない女など我が家には無用だからな!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたくしは、寛容な、淑女、なのよ。
お兄様、と、わたくし。
ゆっくりと、早足で、家を駆けました。
わたくしを追い越すお兄様。お兄様を追い越すわたくし。
わたくしが先に客間に飛び込み、居間に通そうとしたお兄様を、視線で招きます。
家を出た女は、客ですからね?
お兄様。
憮然としたまま、ソファに身を沈めたお兄様。
わたくしは、メイドに茶器を『お願い』します。
なにしろ、家を出た身、ですから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お前が茶を淹れるのか?」
戸惑われるお兄様。
「家風よ」
ご領主様の。
憮然とするお兄様。
早くおっしゃればいいのに。
『女主人が雑事にかまけるべきではない』
って。
よその家風には口を出さない、妹の婚家なら口を出せる。
認めないか、認めたうえで否定するか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・迷ってるわね。
認めてもらってから『この程度では別れません!!』と切り返すつもりでしたのに。
わたくしは、お兄様にお茶を注ぎ、向き合って座ります。
いつもなら、お兄様に寄り添って、隣に、ですけど。
今日は座ってあげない。
【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/執務室】
俺の朝食後は優雅に過ぎていく・・・・・訳がない。
のだが、しかし、だが、ここまで問題が発生するとは思わなかった。
「HEY!Brother!!」
神父に言われるまでもなく、目にしていた。
AHURAシステム(国際連合軍が収集した異世界情報をネットに公開し、タグ付けをして追跡可能な状態で、全国の暇人に解析させてそれをさらに逆収集するシステム)の検索情報。
『人魚』
を抜いて
『エルフ』
が急上昇。
もとから人気ジャンルではあったが、情報が少ないために・・・・・いや、別にそれは良い。
エルフっ子の画像が公開されてやがる!!
【太守府/港湾都市/南街道/南門から港の間/南岸邸宅/客間】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「まだ怒っているのか?」
わたくしは、無視。ご領主様に、あんな子供を押し付けようと、よく企んだもの。
「お前を辱めるつもりはなかった」
ふん。
あれでご領主様から引き離そうなんて、わたくしや、あの娘をバカにしすぎ。
愛娼の十人や二十人、仕切れないと思ったのかしら。
まあ、ご領主様はお忙しいから、未だ
・・・・・・・・・お忙しいから仕方ないわよ。
殿方はそういうものだって、頭目さんもおっしゃっていらしたし。
わたくしは、譲歩しました。
お兄様の隣に移り、少し距離を置きます。
ここからは、真面目なお話。
「家訓を」
とお兄様。
一族の秘伝。奇妙奇天烈な、だから、身内だけの大切な言葉。
「金を稼げ。金で購えないものを買う為に」
初代のお考え。
素敵です。
商いの基本は、利益。
金貨一枚を金貨一枚と換えるなど愚の骨頂。
価値を上乗せすればこそ、商いは成り立つ。
なら、それを、突き詰めれば?
『金で購えないものを買えないなら、金に価値はない。商いに意味はない』
わたくしは、それを知っているわ。
お兄様も、お父様もご存じ。
簡単な理。
わたくしたちの一族は、それで身代を失わなかった。
ずっとずっと、150年以上。
だから、代々みんなが『購えないもの』を見つけて、努力と運が味方すれば『買えた』のだろう。
そして大きく豊かになった。
当然よね。
金で贖えないものを買い続けたから、豊かになった。
金で贖えないものを買い続けるために、大きくなった。
「いいか」
お兄様の眼差しを、わたくしは正面から受けます。
「我が家系は娘を差し出して求めるものなどない」
財貨はその為にこそある。
ありとあらゆる財を失い、信用も、人脈も、有形無形なすべてを失っても。
それより価値があるモノを得られたら、大儲けですわ。
ほんとうに、初代様は素敵な方。
だから、わたくしも『大儲け』が大好き。
「いいか、兄だからではなく、お前だから大切なのだ」
家長が家人を守る?
目上が目下を守る?
親が子を守る?
貴族や騎士、大商人につきものな、義務と責任。
なんて、くだらないのかしら。
わたくしにも兄様にもお父様にも関係ない。
お父様が、わたくしと兄様を守るのは、わたくしたちが好きだから。
兄様がわたくしを守るのは、兄様がわたくしを好きだから。
それだけ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・十分すぎるわ。
まあ、他人には言えないし、ねえ様や、あの娘にも上手く伝えられないけれど。
お兄様は続けます。
「権力との商いは、実入りも危険も大きい。ばくち打ちのやりようで、商いではない」
そうね。
商いではないわ。
ねえ様もおっしゃいました。
青龍の世界は複雑怪奇。ご領主様が、ある日突然、青龍から、世界から追われるかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あら、素敵、かも。
わたくしが、ご領主様を養う機会があるのかしら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不遜な、邪な、恥ずかしい考えだけれども、宝飾品を手形に替えておきましょう。
今のうちに、ご領主様、ううん、マメシバ卿にお願いすれば、生き残っている大商会や商業組合も、わかるわね。
・・・・・・・・・・ご領主様に知られたら、恥ずかしくて生きていけない・・・・・・・・・。
伸長に慎重に。
ねえ様や、あの娘と相談して。
まずは・・・・・・・・・・・・・・・・いけないいけない。お兄様の話を聴いてあげないと。
でも・・・・・・・・。
「お前が、あの娘たちを大切なのもわかる。父上も守れなかった事を反省している。だがしかし、あの娘たちは望んで青龍に深入りしている。だからこそ、お前は青龍から距離を置くべきだ」
ねえ様なら、ご領主様とあの娘、わたくしで逃げる算段くらいつくわよね。
わたくしの体力だと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別行動かしら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ嫌。
うーん?
「そうすれば、いざという時に、あの娘たちを逃がしてあげられる」
ん?
――――――――――――――――――――聞き捨てならないわね。
「あの娘たち『と』逃げますわ。そうなったら」
わたくしはお兄様に詰め寄りました。
「お兄様、聴いていただきます」
お兄様、たぶんお父様も、わたくしを誤解しています。
ほんの少しのワガママと、我が家の商いの為、友達を守る為に身を投げ出している良い娘。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違うのに。
ご領主様への想いは、ほんの火遊びくらいに思われている、かしら?
―――――――過大評価が恥ずかしく、過少評価が腹立たしい――――――
―――――――言葉にできない気持ちが、もどかしい――――――――――
『わからない時は、正直になることだ』
ご領主様の言葉。
わたくしは、何も考えずに従います。
それはいつも通りに。
これまでもこれからもそうである通り。
「おっしゃることはわかりました」
言葉を尽くすつもりはありません。
お兄様に詰め寄ります。
「わたくしになにをおっしゃっても聴きません!でも聞いていただきます!!」
わたくしは、お父様、お兄様が好きだけど、大切じゃないのかもしれない。
いざという時に、お二人の事を何一つ思い浮かべないくらいに。
でも。
それを言葉にしたくなかったから、きっと違う。
「わたくしはお兄様、お父様に宣言いたします」
唖然としたお兄様。
「わたくしが今!幸せであり、これから!もっと幸せになることを、お二人に認めさせてさしあげます」
必ず。
「お二人に従わず、娘として妹として、お二人から縁を切られても、それを認めません。わたくしは認めません」
わたくしは、甘やかされた、ワガママ娘です。
「娘の、妹の、わたくしをお二人に心から祝福させてみせます」
・・・・・・・・・・・・・わたくし、何を言ってるのかしら。
正直に、想ったことを、思いのままに言葉にしたら
・・・・・・でも。
ご領主様の言葉に間違いはありません。
「わからん」
とお兄様。
そこは、わかったフリをするところですのに。
だから、妾しかみつからないのね。
「だが、青龍がなんと言おうがお前は妹だ。しかしな」
・・・・・・・・・・・・・・・呼び捨ては、ダメですわ。
わかってないのは、わたくしのせいですけれど。
「家も兄も父もどうでもいい。大切なのは男と友。それだけだ!
・・・・・・・とは言わないのか」
・・・・・・・・・・・言えるものですか。
思ってますけれど。
それでもお父様もお兄様も手放す気なんかないけれど。
ご領主様におねだりしても、鎖で縛っても、牢につないでも、絶対に縁を切らせたりはしないけれど。
青龍のおじいさんがおっしゃっていた通り、気持ちを作り変えてでも。
絶対に。
お兄様は、詰め寄るわたくしを支えて、ため息をつかれました。
わたくしに押し倒されているのに器用ですこと。
「言ってくれたら、安心出来るのだがな」
!!!!!!!!!!
「もちろん、妹であり、父上の娘である事は、繰り返すぞ、青龍にも否定させん!お前にもだ」
――――――――――!!!!!!!!!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というか、泣くな」
帰り道。
ご領主様のお膝に向かう途中。
わたくしは意を決しました。
「お嬢様?ご命令を」
「正直に、答えなさい」
当たり前ですけれど、執事は、そして皆は呆然とします。
「わたくしの表情は、読みやすいのかしら」




