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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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71/1003

アイデンティティ/あなたは、わたしは、かれは、なにものでしょうか?

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)


【登場人物/一人称】


『俺』

地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》

現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様》

?歳/男性

:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。


『あたし』

地球側呼称《エルフっ子》

現地側呼称《ねえ様》

256歳/女性

:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。長身(数値不明)。革を主体とした騎士服にブーツに剣が常備。軽装の革鎧や弓(短/長)は必要に応じて。


『わたし』

地球側呼称《魔女っ子》

現地側呼称《あの娘》

10歳/女性

:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。主に魔法使いローブを着る。


『わたくし』

地球側呼称《お嬢》

現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様》

12歳/女性

:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。



『僕』

地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》

?歳/男性

:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。妹がいて妻の代わりに補佐役となっている


【登場人物/三人称】


地球側呼称《曹長》

現地側呼称《騎士長》

?歳/男性

:国際連合軍/陸上自衛隊曹長。


地球側呼称《坊さん/係長》

現地側呼称《僧侶》

?歳/男性

:国際連合出向中地方公務員。得度した僧侶。浄土宗らしい。軍政司令部文官。


地球側呼称《頭目/お母さん》

現地側呼称《頭目》

?歳/女性

:太守府の有力都市、港街の裏を取り仕切る盗賊ギルドのボス。昔エルフと恋に落ち、ハーフエルフの愛娘がいる。赤毛のグラマラス美人。娘さんはお母さんに似ているらしいが、ちょっと耳がお父さん(故人)似。


【用語】


『シスターズ』:エルフっ子、お嬢、魔女っ子の血縁がない三姉妹をひとまとめにした呼称。頭目の愛娘を加えるときは「+1」とか「+α」などとつける。


『Colorful』:ハーフエルフの最高級愛玩奴隷たち。髪の色がいろいろなために神父により命名。


『ハーフエルフ』:エルフと人間の間に生まれた混血種族。エルフに似た美しい容姿と不老、不妊、それ以外は人並みの種族。異世界全体として迫害される。



物の本によると「あなたはだれですか?」とすべての相手に問われると、人は狂ってしまうらしい。



人工知能の研究によると、人格とは個人の中にはないのだという。

パソコンに例えよう。

ハードが脳を含む人体。ソフトが遺伝情報や記憶。そしてキーボードをはじめとした入力が環境となる。

知能/人格とは「パソコンで行われている作業そのもの」を指す。

あなたというものに一番近いのは、あなたの周りそのものであると言ったら、言い過ぎだろうか。



心理学的な結論で言えば、人間には考える/決定する機能はない。

「考える」は「感じる」

「決定する」は「反応する」

50~70年代に様々な実験が、およそ人道的にどうかというレベルの実験が繰り返された結論ではある。

もちろん多くの人は、否定を感じて反応するのだけれど。






【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/寝台側】


俺は式典を離れて、寝室へ。


一時間以上かかるとは想定外だった。いや、うん、式次第を読んでおくべきだよね。

やっと終わって一休み。


俺だけなら、隣の執務室、と名付けた部屋でいいのだが・・・・・・・・・椅子がふかふか仮眠に最適・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔女っ子がへばっていたからな。


キチンと寝かせた方がいい。


そう思い、まあ、ベッドに放り込んで、俺は夕食まで執務室で仕事をするつもりだった。

が、まあ、魔女っ子が手をつないだまま。力を入れるのはためらわれる。


まあ、いいか。夜まで寝床を貸すくらい・・

・・・・・・休ませる場所が他に・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・よく考えると、シスターズには部屋を割り当ててない?


ここ港街でも、太守府でも・・・・・・・・・・・・・・・失敗。



Colorfulの部屋割りは報告されたが。


ハーフエルフだから、現地任せだと殺されかねない。だから、俺の執務室隣。何も言わずとも、手配してくれたのは坊さんだが。

毎回毎回、曹長や坊さんが先回り、ってより、手遅れにならないようにしてくれている。だが、当たり前だが、彼らの本業は別にある。



部隊の本筋から離れた細かい事は、俺が指揮官として配慮しないとな・・・・

・・・・・・・・・・・・出来てないわけだが。


今後の課題はともかく。



だからシスターズは、寝床を探して俺のベッドに来るわけか。

この時代なら雑魚寝は普通だしな。

魔女っ娘ハウス(魔女っ子の自宅)は大きな一軒家だった(現代日本基準)。自室くらいあったろう。まあ、魔女っ子は抱き枕(今は俺)がないと眠れないらしいから、エルフっ子と同室だった可能性は高いが。


部屋がない、と、部屋をつくらないじゃ大違い。

可哀想な事をした。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/王の間/中央】


僕は丁寧に頭を下げた。エルフに、だ。嫌そうにしているが、まあ、仕方なく受け入れるのは人前だからか。皆がみている中で、礼を拒絶するほどに子供ではない。

礼を尽くす、というのは一番簡単で効果的な籠絡法なのだがな。


僕が嫌われているわけではないが、警戒されている。僕よりも深々とした礼を返すのは、距離を保つ意志表示。困ったことではあるが、その矜持が楽しくもある。


もっと尊大になってくれあたほうが扱いやすいのだがね・・・・・・・・・・・・・・・・なかなか隙を見せない。


エルフはドレスではなく、騎士服。安手のドレスでも、エルフがまとえば他を圧するだろうに。


主役の魔女をたてたか?

いや、宝飾を捧げられるのを防ぐ気か。


青龍の貴族が僕らとの社交を無視する以上、エルフに『妃』役が回ってくる。

魔女は俗に交わらない。お嬢様は領民内の立場が強すぎる。

どちらも支配者の代理には向かない。


最初に線をひかねば、贈答を断るだけで1ヶ月はかかる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、一瞬か。


青龍の貴族が、愛人のエルフを悩ます者を知れば、どうする?

ならばエルフは僕ら領民を守っている?いやいや、青龍の貴族、その手間と時間を守っているのだろう。

ありそうなことだ。


金は無駄か。


手間と時間をかけよう。

僕の商いを考えれば、時間と手間は莫大な資金に相当する。


このエルフには、その価値がある。

青龍の貴族との親密さで、正妻候補の魔女とお嬢様、二人に続くのがエルフ。


帝国の因習を抜きにしても、エルフとなると立場は弱い。

一時の恋人、愛人ならばエルフは決して悪く見られない。ハーフエルフとは違うし、この辺りなら帝国のエルフ蔑視はあまり及んでいないから。


だが、家に入れるかと言えば否。異種族とはそういうものだ。


とはいえ、青龍の貴族とは子をもうけている。ハーフエルフと承知で、だ。やむを得ず、盗賊ギルドの頭目に預けたのは、断腸の思いだろう。

そこらの市民と違い、妻子に手間と金、情理を尽くす僕らですら、エルフの血に対する思いは理解しがたい。


たった独りの、事実独りの子供を、生涯守ろうとしたりする。


いや、エルフは若いまま歳を重ねるし、生涯、人間と同じ頻度で子を産める。なのに大地を満たさない理由がこれだ。

しかも、難がある子供をこそ重んじる。

負担になる性質、ましてやハーフエルフを、自分の子であれば殺さないのはエルフなればこそだ。


人間には想像もつない姿勢だ。

・・・・・・・・・・・まあ、僕は、その一貫した狂い方は嫌いではない。理解は出来ないにせよ、酔狂を見るのは好きだ。


誰も読まない文を書き続ける兄、鳥の真似をし続ける昔馴染み、趣味が高じて職業に出来た幸運な殺し屋。

まあ、その趣味そのものに興味がないのは、青龍の貴族と魔女とお嬢様の閨を知りたくないのと同じだが。


その青龍の貴族にとり、このエルフはもはや単なる愛玩用ではないだろう。

ハーフエルフの子は家系上でも家産の上でも意味はないし、弱点にすらなる。だが、だからこそ青龍の貴族がエルフの愛人に思い入れがあるとも見える。

正妻より力をもつ愛娼などいくらでもいるから、厄介だ。


だが、僕がみるところ、エルフが抱く魔女への情愛は本物だ。

実子はハーフ以外ありえないから、継承争いはない。前には出てくるまい。むしろ青龍の貴族に寵愛を受けるエルフが、魔女の後援になれば、エルフだけに僕の取り分に影響もないし、都合がいい。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/寝台上】


わたしは、ご主人様の手を握りしめ、待ち続けます。


なにもかも火照ってしまい、恥ずかしくて、嬉しくて、お布団にくるまってしまいます。

ちいねえ様は


『女から動くべきじゃありません』


とおっしゃるけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チラリと隙間から覗くご主人様。

・・・・・・・・・・・目が合ってしまいました・・・・・・・・・。

わたしは慌てて表情を引き締め布団にもぐります・・・・・・・・・・・・・・このままお姿を見られるように、水鏡の魔法が使えたらいいのに!




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/王の間/庭園】


僕は会場を見渡しながら値踏みをつづけた。


青龍の貴族の愛人、そのエルフは十代後半の容姿。

ものの書物によれば、エルフは最初、人間と同じように育つ。時期に個人差はあるが、そこから成長が止まる。

青龍の貴族は、この年代でもいける、のか?

なら妹でも・・・・・・・・・・・・・いや、おかしい、理屈に合わない。


だがしかし、世継ぎにもならない子をもうけているし

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まてよ。

エルフは不老長寿だから、何十年も生きていて、この娘盛りの姿で青龍の貴族に出会ったと思っていたが。エルフだから見た目通りの年齢ではない、とは限らない。

・・・・・・・・・・・・先入観を取り払えば、実際の年齢が、見た目通りの十代後半かもしれないかもしれない。

頭目に預けているあのハーフエルフの子は5~6歳。

ふむ、ならば、孕・・・・・・・・・子をもうけた時、愛人のエルフはお嬢様(12歳)くらいの年齢だったのか。

・・・・・・・・・・辻褄は、合う。


その後、好みの範囲を越えて成長してなお、愛人が捨てられないのは好材料。魔女を娶って数年しか保たないんじゃ大変だ。


とりいる僕が。


いずれ魔女が歳をとり十代後半、娘盛りになる。人間は歳を取るのを避けられない。いつまでも幼女じゃいられない。人は少女になってしまうのだ。

青龍の貴族、そして、彼を愛する魔女。

・・・・・・・・・悲劇だな。



だが、魔女が捨てられる事はなさそうだ。僕の都合としては、魔女が家を取り仕切っていれば大丈夫。

まあ、愛人は増えてるかも・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫、だ。

青龍の貴族は自前で調達するから・・・・・・・・・・・・・・・・・・備えは必要か?


いや、後だ後。まずは目先の話を整えよう。

魔女については、まあ、妥当なところ。今はこのまま進めよう。


エルフについては今後の見本となる。



気の毒ながら、エルフは成長が最適値(12~14歳くらい?)で止まらなかったのだ。まあ、エルフの成長が止まるのは十~二十代で本人が決められるわけでもないというしな・・・・・・・・。

他人(青龍とエルフ)事ながら、商売とは別に、これ以上ズレが広がらないように願おう。エルフが二十代になってくれたら、魔女の将来を見極める大きな材料になるが・・・・・まあ、それとこれは別。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どんな趣味であれ、愛し合う二人に幸あれ。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/寝台側】


俺は考えていた。


昨日、道すがら役人から受けた、港街復興作戦プレゼンテーション。


基金を設置する。

俺たち国連軍、太守府参事会(ようは大商人)、港街有志(盗賊ギルドに船主たち)。


基金は金貨、物納、労働力でも可。

まあ、貨幣経済未確立な中世ならそんなもんか。


おおざっぱに分ける。

俺たちが物納、港の倉庫に貯まっていた接収資産だ。

参事会が金貨、実質は手形だが離れてるからそれが一番効率的。

有志が労働力、暴動鎮圧にあたった盗賊ギルド愚連隊に武装船員達は瓦礫撤去に移っている。いずれ、街の再建作業もするだろう。


金貨は当面使わない。

使うと無駄に物価を上げてしまい、藪蛇だからだ。ただでさえ惨禍で混乱している生活市場を破綻させかねない。

金貨や手形は今後を見据え基金の基盤にするのが一番効率的、手形を換金せずに二次通貨を別証書として『(仮称)基金債券』として流通させるとかなんとか・・・・・・・・役人が言っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さすが財務官僚、嫌いなくせに架空資金運用のプロフェッショナル。


労働力は被災者、ってか、暴動の狂気から醒めた、被害者なのか加害者なのか判然としない市民。

3日間ありゃ正気に帰るか。


ただ、物質分配や治安維持のような微妙な役割は、船員や愚連隊が担っている。

街の事情に詳しい奴ら。

俺たちに必要なのは公正さじゃない。効率優先だから内輪の論理大いに結構。彼らは妙に俺たち、国連軍に友好的らしい。

何故だ?要検討。


そして一番役に立つのが物質。

食糧、資材、衣服。

その出所が俺たち。市場を物量で圧倒すれば、誰も買い急がないから需要が減り、商人は売り急ぐから供給圧力が決壊し、災害復興需要をよそに市場価格を下げる。


まあ、手渡してるのが港街有志の愚連隊や船員だし、そもそも倉庫に整理して備蓄してたのは前太守だから、俺たち何にもしてないけどね。


当面の生活支援に街の復興が終わった後の話。

額面換算した拠出金を元に証文証書で手元資金を水増しし、災害用基金を維持する事になった。

ようするに建設国債みたいなもの。だから、赤字換算する必要がなく基礎資金は手元に残る。流動性にも支障がないから万々歳。


・・・・・・・・・・・・要するに、国債で信用供給を操作する日本財政の小型版だな。

財務省と紐付きコメンテーターは絶対許さないが、官僚個人は普通に認めるので、うちの役人はそのタイプか?


『十字軍は神が望み賜う』と叫びながら、実際には十字軍の阻止全力な中世の枢機卿みたいな。

まあそこまで現実的な連中でも無駄な流血を避けれれなかった当たり、絶対宗教末期チックで現代日本そのまんま。

幸い、俺たちを千年後から追いかけるこの世界のこの邦。十字軍や財政赤字恐怖妄想を繰り返すことはなさそうだ。



最終的に基金の運営は地元の両替商たちにまる投げ。

つまりは、お嬢のお兄さん任せ。5年もあれば、今回の費用を取り戻し、配当すら出せるとか。まあ、街が半壊するなんてそうそうないしな。


証券取引法なんかないから、元本保証が出来る。なくてもいいが、一応。坊さんの勧めで一言添えさせた。『この邦で有数の商人たちが、俺たちに対して保証した』って事実が基金を支える信用になるのだとか。


まあ、俺たちがいなくなっても救済制度が残り続けるなら、悪いことじゃない。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/王の間/壁際】


僕は会場を一巡り。

大商人に工房持ちの親方衆、様々な身分を偽装する盗賊ギルドの有力者、衛兵隊の幹部に港の管理組合幹部たち。


別々に、同じように会場を回っている盗賊ギルドの頭目と、後で話をあわせないとならない。


既に基金の話は通った、か。元本保証を求める青龍の僧侶はやり手の商人のようだ。その割に青龍の貴族は、基金の使い方に無頓着。

思い出すのはエルフの言葉。


『青龍の方々にとって、戦利品は物じゃない』


ならば何かと目顔で訊いた僕。


『名誉』




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/王の間/中央】


あたしは仕方なく主催の代理役を果たす。集中してやるほどの事でもないから、どうしても雑念が頭をかすめる。


あの娘は限界だから、今日は休ませないと。ズレてばかりの青龍の貴族、彼もそう考えたから、あの娘を奥に連れて行ってくれた。


・・・・・・・・気遣いもあるけれど、社交に自分が出る理由を認めなかったのだろうな。実際に青龍の貴族がいると、皆が伏し拝んでしまって社交にならないし。



代わりがあたし。

先週まで奴隷、さもなくば『卑しい』とされたエルフ。


なんで、あたしがこんな役目を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、仕方がない。

普通は妻の役割だけど、いないんだから、仕方ないわね・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族に、妻がいるかどうかは、聞いていないけど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・聞けないわけじゃ、ないけど。


うん。

まあ、青龍の愛人扱いだから、余計な世辞がなくてたすかるわ。

・・・・・・・・・・・・・・・愛人、か。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪く無いけど、別に。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!


あたしは壁を見て、表情を整えた。頭目がニヤニヤしてみていたのだ・・・・・・・・・・どんな顔、してたのかしら、あたし。


雑念退散雑念退散・・・・・・・・別なこと別なこと。まだまだ、あたしが奥に引き込むわけにいかないし。妹分に任せっぱなしでも、この場は回るけれど、それじゃああまりにあまりでしょう。



彼、青龍の貴族。


今更ながら青龍はこの邦、産物が豊かで交易に向いた土地を求めていない。それどころか何もかも欲していない。

莫大な帝国資産を手に入れるのさえ『勝者の権利』ではなく『勝利の義務』と見てるわ。


実際、莫大な戦利品を前にした青龍の貴族は、うんざりしていた。

無口、無表情、無関心、無感情な、あの青龍の貴族が、あからさまに肩を落としたのだから。



あの時、港の倉街を視察した青龍の貴族。

帝国の前太守から管理を任されていた、そのまま引き継いでいる両替商。


妹分の兄が、誇らしげに開いたのは、まさに視察用の大倉庫。


効率を無視して規格外に、大きく広くしつらえた空間。


品目ごとに管理しやすく利用しやすく蔵を分ける常道を無視して、出来る限りの品目を量と見栄えと豪華さを印象付ける為に配置。

普段は大商人の邸宅を建てる職人に、美しさと豪奢さを創り上げる腕を、自由にふるわせただけはある。


商いの手法なんて興味ないしわからないけど、一つの意思に基づく建物と調度品は目を見張るものがあった。職人芸というより、芸術、邦の文化、一つの精華と言うべきね。


時は昼、空は晴れ、広くとられた明かり窓。

理想的な光源に浮かぶのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆

、息をのんだ。


傷一つない金貨、磨き上げられた宝飾品、流麗に飾り付けられた証書、薫り高い穀物、一流の武器に工芸品、手に入れたら誰もが目を輝かせる宝の山。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・を前に、かすかに、ため息をつく青龍の貴族。


居並ぶ商人達が、青龍の手前、感嘆をのみこんでいただけに『どう振る舞えばよいのか』皆が大慌て。若い参事が空気を読んで大げさに感心して見せたのは、あの娘が困ったように周りを見たからだ。


それはつまり、空気を換えてほしいという意味。

とっさに騒いだ商人たちの機転で皆は役目を思いだしたし、青龍の貴族も気が付かなかった。まあ、彼は周りを無視するのが基本ではあるけれど。


商人たちは空々しく、まったくこの財宝を前に、空々しくなったのが呆れたものだけど、感嘆してみせていた。


殺しにきて、壊しにきて、奪う気がない。

青龍。


あなたたち、いえ、あなたはどこから、ううん、どこに行くのかしら。



【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/王の間/扉側】


名誉ね。この一言は大きい。


いや、「めいよ」なんて音の羅列には興味がない。字面の意味は知っている。負け犬の戯言だ。

僕にとって重要なのは、『エルフから聞き出せた』ということ。


青龍の貴族を知らなければならない。


直接聞くのは危険すぎる。

青龍の貴族に安全に接することができる、そして、僕が接触可能なのは三人。

お嬢様は商売仇。頼れるものか!

魔女は投資対象。危険にさらせん!

だからエルフから話を聴くしかない。警戒されようが、嫌われようが、殺されなけりゃ十分だ。


得られた知識が断片でも、じっくり考えて理解すれば、青龍の貴族を知ることになる。

それを知れば、僕は青龍の貴族を喜ばせたいエルフの役に立つ。

役に立てば、エルフから得られる青龍の貴族の情報が増える。


今は考えよう。

社交をしながら考えるのは高度なテクニックだ。

親父の世代、数十年の経験に裏打ちされた、その中でも一流の商人ならば社交界でご婦人を口説きながら商談をまとめて一年以内の商いを考えられるらしい・・・・・・・・・・。

僕のような駆け出しには無理。


だから妹に社交を任せて、僕は考える。



名誉、名誉、物はモノにあらず・・・・・ね。

敵の首、と同じか。


なら、利用価値が無くても捨てやしないわけだ。

納得。

財宝が『利用価値なし』ってのは共感しかねるが、ね。



青龍の貴族が初めて港に上がった日。

財宝を前に、どうなった?

僕らは本音の感嘆をかみ殺し、愛想笑いを絞り出す羽目になった。


お嬢様の刺すような視線に気が付かずに呆然としかけた両替商を、愛想笑いに巻き込んだ。それはお嬢様に貸しを作る意味もあるが、不測の事態に巻き込まれたくなかったらだ。

僕はもちろん、青龍の貴族から目を離さなかった。


魔女やお嬢様が、慰めているように見えたのが、なんとも。



『莫大な資産を手に入れましたが、お気を落とさずに』っていうことか。



青龍の貴族は、あからさまに数を数えかけ、やめた。

明らかに、うんざりして。お嬢様やエルフ、なにより魔女の様子を見れば、青龍の貴族の気分が解る。あれは大きな発見だった。


青龍の貴族は、振り返った時には気分を切り替えたようだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みな、恐ろしくて平伏したままだった。


理屈ではある。

それは、よくよく考えればわかる。

何故、青龍の貴族が物を欲しがらないのか。霞を食っているわけでもなく、財貨を利用しないわけでもない彼らが、なぜ?


欲しくないんじゃない。

手元に置く気がないだけだ。

――――――――――――――――――――――――――――――僕はそう解釈している。


それはそうだろう。

青龍は何でも、いつでも、いくらでも、奪えるのだ。


必要が生じるまで、手元に移す意味がない。


失わないうちに?

世界は広い。物はいくらでもある。世界が滅びない限り、必要ならばどこからでもいくらでも奪ってくればいい。


敵に破壊されないように?

敵の手にあればギリギリまで破壊されない。財貨の持ち主はそれを維持するに決まっているし、経験も手段も持っているのだから。


必要がないのに手元に置けば、場所をとり、手間をとり、邪魔にしかならない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――まったく、理屈だ。



必要になったら奪えばいい――――――――――これが、強者の、絶対的強者の理屈だ。



僕ら、そして帝国なら、手元に財貨を集め蓄える。

掴めるうちに、出来るだけ、使いきれなくとも。

僕らが奪うのは何故か。

必要からじゃない。弱いからだ。手に入れることができるうちに、手に入れた気分になりたい。明日もしれないから、せめて今日、今だけは。

・・・・・・・・・・・・まったく哀れな話だ。いや、僕も青龍を知るまでは、哀れさに気が付かなかったけれど。



あるいは、奪うという気分すらないかもしれない。

例えば、世界をすべて所有しているとしたら?僕の財布も君の財布もすべて青龍の所有物だとしたら?否定できまい?

青龍がそう決めていたとして、否定する力がないのだから。


だから、青龍はこう感じてるのかもしれない。


奪っているんじゃない――――――――――――――――――――移動させているだけだ。

所有する世界の、余っている場所から足りない場所への移動。

抵抗を排除する、それは、財布の口ひもを解くのと同じ感覚なのかもしれない。



もちろん、僕らがそれをまねるべきではない。どれほどまばゆく見えようと、僕らは弱者だ。

弱者には弱者の身の処し方がある。


僕は改めて魔女やエルフ、お嬢様を思い浮かべる。


弱者が弱者として在ること。

青龍は、青龍の貴族はソレを見下さない。鳥が魚に軽蔑を感じないように。


なぜか不思議と、そう思った。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園/寝台側】


俺は魔女っ子を抱きかかえながら、考えていた。


クスンクスンと様子が変なので、希望を聞いたのだが。

抱いてほしいといわれた。

ので、毛布、だとおもう、現地の織物にくるまったままの魔女っ子を膝に乗せた。


真っ赤になっているので、さすがに

(この年頃じゃ恥ずかしいんだろうな)

とは思ったが

(甘えたい年頃でもあるよな)

とも思って、抱っこしたままにしておいた。いや、これでも子供の扱いには経験が深いのだよ?甥っ子だの姪っ子だの。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いじわるです」


なにゆえ????



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