第三幕(metaphor.)
【用語】
『シュレーディンガーの猫』
:観測されない限り同じ猫について「死んだ猫」と「生きた猫」は同時に成立する、という量子力学の原理に関する例示。
……として使われる逸話だが、嘘である。
いつものことではあるが、よく読まなかった者の誤用がよく考えなかった者によって剽窃された挙げ句の果てに「シュレーディンガーがいう通り量子力学的には矛盾がありえるんだ!」になってしまいシュレーディンガーもビックリ。
シュレーディンガーの主張は「量子力学レベルて成り立つとされる仮定をマクロ化すれば成り立たないってわるよね?」であり「矛盾した状態が成り立つように錯覚するのは誤謬が見つけられないだけ」だから「成り立たない解釈をもって解とせずに、間違いを認めて考え続けなさい」ということ。
なんでそれが真逆の例示になってしまったのかは、むしろ心理学の課題だろう。
なぜ理解しようとしないのか?
なぜ調べようともしないのか?
なぜそれを信じてしまうのか?
理解することすら出来ないくせにそれらしい言葉をなぞって自分の信じる錯覚に合わせて思い込みを補強するいうのは、頭が悪いとやりがちなことではあるけれど。
「市販のマスクを付ければ飛沫の80%を防げます」
だから
「100%防げないから増殖するウィルス対策には効果がない」
という実験結果を見て
「こんなに防げるんだからマスクは効果的!」
と解釈していまえる。
「ウィルスは花粉や粉塵と違って増殖するんだよ(だから1%でも防げなければ感染する)」
と伝えても
「だから何?(ゾウショクの音を記憶してるだけで言葉としての意味を理解する機能がない)」
って返されるのと同じ。
継続は力なり。
前例は正義なり。
惰性は楽なり。
さあ皆さん、ご一緒に。
「なにごともない1日でした」
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央暫定中立地帯/大神殿(改め建築楽器)/正面入口テラス部分/青龍の貴族】
俺の感想、惜しい、の一言。
いやいや異世界発酵食品を使った不幸な事故はあくまでも、今後の課題。
可愛い可愛い、うちの娘たちが差し出したら誰であれ石でも食うだろう。
効果は抜群だが、うちの娘たちが気に病むことなんか殺らせはしないが。
今のところ、殺すか生かすか、俺たちの都合。
子どもが殺ってはいけない、なんて思わない。
だが子どもに殺らせるようでは沽券に関わる。
―――――――――――――――殺るなら自分の都合で殺るべきだ。
うちの娘たちが戦う上で、アドバンテージになれば十分。
・・・・・・・・・・俺と一緒に居る内は、必要ない。
食膳の提供なら、俺がやればいいしな。
一応名分形式上は俺が部隊で一番偉い。
偉い奴が自らもてなすと断れないもの。
三佐には通じないが
・・・・・・・・・・最初にオマエ食え、って言って、最後まで自分は、うちの娘たちの料理しか食べないタイプ。
ともあれ今、残念だったのは、
―――――――――ちびっ娘の、結果として、ライアン阻止作戦。
留めたのは良い。
たいへんよろしい。
花丸をあげよう。
なんでも望みを叶えてあげようじゃないか
――――――――――軍政部隊予算の範囲で。
でまあ、それはそこまで、構わなかった。
手を出されて邪魔をされたら台無し。
――――――――――近付かせない。
見失うのも何をするか判らず危険だ。
――――――――――追い払わない。
まるで意図を読んだような、場所どり。
俺たち紛争当事者指揮官三人の卓、とは別の卓。
麓の皆に良く観せる俺たちの位置、の内側より。
周りから観えず目立たない、俺たちには視える。
うちの娘たちには、俺の意志が読めるのかな?
トラブルメーカーを隔離するにしても距離的な形はとれない。
今居るのは部外者の距離感を保ちながら、監視可能な場所。
いざという場合に備えて、俺たちの部隊を分散させたくない。
穏便な結末を諦めて、一気呵成に突撃する時に困るからな。
だがライアンが留まってやがるのは、俺たちの声が届く場所ではある。
・・・・・・・・・・・・つまりライアンの声もこちらに届く。
目の保養、と思ったのが不味かったか。
視えれば観られる。
聴ければ言われる。
抑えれば抑えられる。
それにここまで邪魔されるとは、思わなかった。
美人なのに。
美女なのに。
口説けるのに。
専門知識付きの女と付き合うなんて、知識欲と性欲と好奇心を同時に満たせるレアな彼女。
魅力的な肢体。
精力的な動作。
健康的な精神。
良い女の条件を全て満たしているのであり、社会不適合者。
プライベート以外は同衾しちゃいけない。
オフィシャルで同席したら命に関わる、関わってる。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮前/巫女の賢所/青龍の騎士団陣形中央//彼の背中にのしかかる/エルフっ娘】
――――――――――――――――冷静になりなさい、あたし。
でも溜めとは逆に動くから、あたしも驚いた。
・・・・・・・・・・注意しないと、斬ってしまいそう。
彼に欲しがられている女だから、だけじゃなくて。
あたしが、不意を突かれた。
舌は後味を楽しみ。
目は次を探して。
手は盃を置く構え。
食事に満足し、御茶と御菓子に集中していたのは、間違いない。
血脈の音。
筋腱の姿。
呼気の弾み。
全てを捉えるのは、余技に過ぎない
――――――――――油断だったわ!
あたしは戦場全体を視ている方が、彼の役に立つ。
将の意図を追うのは当然だけど。
彼の関心を追うのは控えていた。
気が付かずにはいられないけど。
――――――――――自分以外の女にも向いてる関心が不愉快だったからよ!
だから不意討ちされるのを見逃してしまうなんて!
予測以外の動作が多いって、気がついていたのに!
素直に嫉妬の目で睨み付けていれば全部防げたわ!
今更、遅い。
失策に執着しちゃ駄目。
彼に任せて周りも視る。
死角を埋めるのが一番。
だから、今まで通りに観察しなきゃ、冷静に。
騎士たちはともかく、この女には身体の拍子がズレてる。
だから身体に負担がかかっていて、疲れやすいわよね。
仕草だってちょっとぎこちなくて美しいことはない。
美女だって彼に想、思われるのは
――――――――――仕方ないけど。
エルフと容貌を比べられない、でも、これくらいの女なら少なくないし、第一、彼の精力に付き合える訳ないじゃない産まれよりも年月をかけて鍛え上げられたあたしの肢体だって、あっという間に力尽きさせられるんだから、今はまだだけど世界で一番いい女になればきっと独り占め、みたいに、あたしだけを見てって言ってみる資格が
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫉妬に囚われて、無様を可愛がられるに慣れちゃ、駄目。
これじゃ本当に彼の女を斬ってしまいそう。
――――――――――彼に許されても、自分が赦せない。
そも、恋仇を斬り続けたらキリがないわよ。
自分以外の女を、一人残らず殺すことになるし
――――――――――それはない。
彼の元、今は違う、彼の女だった、青龍の女将軍みたいになってたまるものですか。
妬んで妬いて泣いて縋って邪険にされながら可愛いがられて愛されてる
・・・・・・・・・・昔の女。
二人の特別な関係が妬ましくない訳はないけれど。
そうなりたいわけじゃないし、それを超えられる。
その為に考えるべきことを今のうちにやらなきゃ。
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央暫定中立地帯/大神殿(改め建築楽器)/正面入口テラス部分/青龍の貴族】
俺だってライアンのヤバさに気がつかなかった。
だから、この距離に近付かれたのは、うちの娘たちのせいではない
・・・・・・・・・・誰のせいにしようかな。
ライアンを連れて来たことを責められはしないが。
UNESCO調査団の文官諸氏。
紛争当事者だから居ないと困る。
だから彼らを連れてきた海兵隊。
――――――――――責めにしても、いいか。
よくわかる。
役に立った。
つまりこう。
この会食の構図。
一見すると自衛隊VS海兵隊VS自衛隊。
実は国連統治軍VSユネスコVS国連軍。
本質的にはUNESCO調査員VS全部。
UNESCO調査員の暴走を留め切れなかった海兵隊。
UNESCO調査員を迎撃突破しようとしていた俺たち。UNESCO調査員の魂を抉って停めた90式戦車砲。
で、ライアン。
被告人。
元凶。
特異点。
そう
――――――――――特異点。
UNESCO調査員の代表例。
・・・・・・・・・・代表じゃなくてよかった、のか?
調査員、文官のなかで正々堂々と飲み食いしてんのライアンだけ。
もっと地位が高いんだろうな、って感じのスーツも一応、同席。
UNESCO調査団団長かな。
控え目に飲み食いしてた。
そりゃそうか。
一触即発、殺し合いしてた集団の代表揃い踏み。
大神殿内部には銃を片手に戦闘再開に備えたままの、おねいさんず。
麓には完全武装の海兵隊が銃と携行ミサイルを傍らに置いて食事中。
彼方って程じゃない近距離には90式戦車の120mm砲が、また砲撃出来るように構えてる。
彼方の駐屯地には複数の155mm野戦砲が斉射準備を整え司令官の一動作に備えてるのは間違いない。
弾種は大神殿の巨石を砕く徹甲弾か、大神殿の構造物を守る化学弾か。
そして目の前は、戦闘服に染み付いた硝煙が香る食卓。
平均的な自衛官すら食事が喉を通らないとアタリは付く。
それでも、食べずに居られない魔女っ娘料理の影響力の凄さ
・・・・・・・・・・過去形。
今は手も口も止まった文官の方々ライアン以外、正常動作
――――――――――全く状況に付いて来てません。
そりゃそうだ。
UNESCO調査団団長は作業管理者。
学者よりプランナーに近いはず。
調査を掣肘するのではなく、調査を統合する役目。
未知の世界。
概知の領域。
未知の領域。
それを知識に取り込むための、方向付け。
船長ではなく航海士。
設計者ではなく測量者。
道案内ではなく地図作り。
暴走するように創られた人形を支配者が見失わないようにする、首輪。
軍隊同士の政治折衝に同席なんか
――――――――――無理、なのにさせてます。
軍は軍同士。
民間人には伝わらない世界。
国際連合軍と国際連合統治軍は軍隊です。
国際連合への参加は日本国憲法前文に依ります。
自衛隊は日本国憲法第九条に依り軍隊じゃありません。
現実と法律が完全に一致
――――――――――何一つ矛盾してないな!
事務屋の親玉には向かない世界。
戦闘中の停戦交渉とくれば、政治に等しい。
なお、撃っていないからといって停戦ではない、念のため。
2+2=5であり3にして4にだけはしない世界の物語。
物理的現実を御都合主義で取捨選択。
誰か素粒子物理学者連れてきてー。
・・・・・・・・・・なら、ライアンはなんだ?いや量子力学なんか期待してないが。
UNESCO調査員。
――――――――――プランナーじゃないわな。
こいつが管理なんか、出来ても、するわけ無い。
ただし学者。
組織不適合者。
現場を走り回るタイプ
・・・・・・・・・・一ヵ所に居ない、か。
なるほど。
それか。
そういう奴か。
軍曹が、わざわざ、銃口を向け合ってる、撃たせかねないと知り尽くしてる俺の元に征く時に、拐ってくるわけだ。
スペシャリストの中のゼネラリスト。
足元の蟻だけじゃなくて、蟻の巣から生態系が眼に入るタイプ。
足元か頭上ばかり視て衝突するスペシャリストどもを、同じ波長で誘導する。
奴等と同じ価値観だから同調するのに、視野が違うから同期はしない。
視野が広くて傍若無人だから、皆を捲き込んで牽き摺り廻す。
UNESCO調査員は蜜蜂。
ライアンが女王蟻。
調査団団長の役割は飼育係。
夏休みの自由研究?
――――――――――役には立った。
元凶であるUNESCO調査員たちへの媒介として、
・・・・・・・・・・過去形。
ギリギリの所で、俺たちが突撃するのを防いだんだからな。
ありがとう。
感謝する。
君の俺たちへの貢献は千年に渡って讃えられるだろう。
エルフっ娘のリマインダーに記録しておく。
――――――――――千年後に感謝の言葉を一言、ってな。
だから改めて伝えたい
――――――――――もう帰れ。
「専門家でもない貴方の言っていることを信じられない」
「信じるのではなく考えなさい。ウィルス対策は信仰ではありません」
……実際にあった会話です。
頭が悪い殺にとっては、なにもかもが信じる/信じないに収束されるんですね。
わたしは信仰や宗教というものを知っていますから、馬鹿のように嘲りません。
だからこそ信仰や哲学を調べもしないで馬鹿にする馬鹿は直接的に嘲りますが。
……まさにコレ。
頭が悪い奴らの世界は「迷信」で出来てるんですね。
考えれば辻褄が合わないと判る。
調べれば基本的知識は得られる。
照らし合わせれば理解は出来る。
何一つ難しいことではなく、特別な話でもなく。
オウムや九官鳥はしないこと。
頭が悪い奴には出来ないこと。
人間であれば至極当然のこと。
ググれカスとはよく言ったもんで。
考える葦が人間なのですから、頭が悪い奴は人間ではありません。
奴らは何処から来て何処に行き着くやら。
謎は深まるばかりでございます。




