第二幕(Second turning point .)
【用語】
『第13集積地司令官』
:陸上自衛隊自衛官。普通科一尉。国際連合軍最小の大規模集積地で国際連合軍最多の捕虜を管理する上に国際連合軍最大の鹵獲品保護責任者。捕虜とは国際連合の交戦団体である帝国関係者。取扱規定として非戦闘員を含むが、聖都にはいない。帝国軍は作戦上組織的に投降したので、文官を事前に撤収させてあった。保護されている(されるべき、ではない)鹵獲品は帝国に労役を課せられていた領民たち。帝国軍に所属しない異世界住民は取扱規定として自然動物扱い。帝国軍に課せられた役目があったなら、帝国軍の備品扱い。いずれにせよ不要で管理コストがかかる。帝国の輸送体制を壊した現状で単に解放すれば難民化。異世界社会を壊しかねない。徴収元地域、例えば太守領、の人口構成に影響しているので「現段階」では帰国事業を進めている。「異世界環境に優しい侵略戦争」でいう「環境」には異世界住民社会も含むので。その現場運営者の中心が、第13集積地司令官。独り自分で運んで組み上げたパイプ椅子に座り、12.7mm機関砲弾が一万名あまりの帝国領民を掃射するのを眺めていた。それが初登場。
「Можно?」
「日本語でかまいませんわ」
「改名KGBが日本語も出来ん訳があるまい」
「得意では無いのですよ」
「フランスと日本では下手な自国語に寛容です」
「英語は無視するのに」
「それフランスだけ」
「ドイツ語も無視されますから」
「ドイツ語は気づかれないだけだろ」
「三佐」
「質疑は日本語で統一しましょう」
「イギナシ」
「好都合」
「日本に不利ですが」
「誤訳、誤認、言い違え、発音」
「母国語では誤魔化しが効きませんよ?」
「皆さんを騙す時は御国言葉をつかいますわ」
「なるほど」
「納得」
「我々を騙さないと宣言頂いた!」
「一緒にしないでくれます?」
「まあまあまあ、って、これ日本の役目では」
「この範囲は何ですか?」
「質問する前に意見を言え」
「黙っていてください」
「聞けば答えるのは中学生までだ」
「応えが見えなかったじゃない」
「汚いアメリカ」
「保護者気取りか」
「用心棒め」
「傭兵でしょ」
「それ異世界種族の認識ですよ」
「多民族国家内で戦闘を生業とする傭兵民族」
「だいたい合ってる」
「英仏は認識すらされとらん」
「うちも日本人扱いですよ」
「モンゴロイドが日本人」
「多民族国家の多数民族」
「コーカソイドが傭兵民族」
「多民族国家の少数民族」
「他色々はオマケ」
「私はテキサス人だ!」
「50州個別に国連へ加盟する気?」
「なら我が共和国連邦もそのように」
「異世界種族の地球人観はどうでもよろしい」
「よくない」
「別の機会に」
「議事妨害もほどほどにしておけ」
「違和感を感じた者の範囲は聖都大神殿から半円状だな!」
「距離に依らず駐屯地司令部やブルーリッジの中でも」
「ブルーリッジは全員じゃない」
「御食事会を覗いていた者だけだ」
「我々は?」
「一緒にしないでくれます?」
「違和感を感じた者、挙手」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
「独り」
「お考えや如何に?」
「聴いていた、からでしょうね」
「音か」
「ブルーリッジ・オペレーターも一致」
「駐屯地司令部はオペレーターが少ないから観測精度を上げるために全員で耳目を集中させていた」
「魔法が通信回線経由で効果をしめすのは、治癒魔法で立証済みだ」
「あの範囲で違和感を感じた者は大神殿のモニターなんぞしておらん」
「ならば通信経由は置こう」
「半円状ではなく円周上、いや、その距離範囲はなんだ?」
「UNESCOレポート」
「大神殿頂上から聴こえる範囲」
「音?いやだが再生しても違和感は再現しない」
「振動ではない、か」
「認識ではないか?」
「大神殿の音を鼓膜ではなく脳で受け取った」
「認識主体は?」
「脳というより人格、知性、人そのものが」
「どう違う」
「脳だけで人が成立するなんて半世紀遅れの学説ですよ」
「何を媒介に」
「音が届けば光だって影響を受ける」
「映像再生しても再現しない」
「他の何か、もしくは複ご」
「つまり発信しているというわけね」
「大神殿は音響受信装置なのかと考えていたが」
「人の耳には音楽にしか聴こえない」
「スクリーニングすれば聞き分けられますよ」
「ちょっとした索敵装置」
「石材中心の都市構造と地勢気候を使って集めたノイズを高性能コンピューターと高性能ソフトウェアで解析すれば、な」
「スパコンまでは必要ありませんけれど」
「宝の持ち腐れだ」
「ちぐは」
「つまり聴かれる範囲で聞こえた訳ね」
「ならば不作為」
「メッセージ性はなし、今のところ」
「ノイズか!」
「意図せざるならまさに応え!繕った答えより本質に近い」
「本人か本体か痕跡か代理か継承者かしらんが、また尻尾を観せやがった!」
「あそこかどこかかまだしらんが地球から日本を奪いやがった奴が」
「「「「「「「「「居る!」」」」」」」」」
深淵に耳傍立てれば、深淵からも聞き付けられる。
《国際連合安全保障理事会軍事参謀委員会主宰実践観戦/〈Blue on blue〉Real time case study》
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央暫定中立地帯/大神殿(改め建築楽器)/正面入口テラス部分/青龍の貴族】
俺は奴らのつもりを量る。
こいつら、何故、今、うちの娘たちに注目しやがったんだ?
何を恐れる?
何と戦う?
死ぬことなんか気にしちゃいまい。
・・・・・・・・・・自分の命も他人の命も。
誰に対しても分け隔て無し。
――――――――――国際連合みたいにな。
誰かを解剖しても、殺した自覚はないはずだ。
・・・・・・・・・・ソコの処はほっとこう。
コイツらにとって一番、いや、唯一、大切なモノ、いや、ナニか。
好奇心。
探求伸。
知識欲。
聖都それ自体がソレなんだが、その中で
――――――――――大神殿か。
唯一の中の一番を喪うことが恐ろしい。
だから、戦う、向かい立つ。
・・・・・・・・・・蟷螂の斧だな。
120mm戦車砲VS座り込み。
ついさっき、大神殿を抉ったAPFSDSAは、第七師団。
――――――――――牟田口二尉の部隊。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮前/巫女の賢所/青龍の騎士団陣形中央/青龍の貴族右膝/お嬢】
わたくしは茶葉を踊らせながら、ご領主様の様子を窺います。
普段なら、窺う必要もありませんのに。
見詰めて。
触れて。
聴いて。
ご領主様のことだけ考えれば良いのに。
今は御客様にも気配りさせなくてはなりません。
もちろんColorfulは躾の届いた女ばかり。
会食会合園遊会程度、言わずとも仕切れますわ。
――――――――――ただ、それだけ。
貴女たちは、メイドに非ず。
側女ならば、風を入れるだけでは届きません。
風を向かわせてこそ、女主人に継げますのよ。
聖都中の御客様。
ご領主様がお楽しみ。
水を注さぬは当然ですけれど
―――――――――――――求められずに御役にたって魅せましょう!
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央暫定中立地帯/大神殿(改め建築楽器)/正面入口テラス部分/青龍の貴族】
俺は起き終えた事実だけを確認。
エルフっ娘ご機嫌取りピクニックを台無しに仕掛けた、まだだまだ終わらんよ、この騒ぎ。
俺から観れば、おねいさんずの突入、で開始。
聖都で一番高い丘であり、一番原型を残している大神殿。
まず観光しつつ観光地全体を眺望して予定を立てる
・・・・・・・・・・つもりが台無し。
だが突入の原因は内外に異常が生じたから。
よって大神殿内部に異常なしと断じるや籠城開始。
外部の異常に備え、いや、対抗するために。
異常とは?
飛び交う戦闘爆撃機相手にスティンガーを用意しなかったことが悔やまれます。
飛竜が相手ならね、ドラコンで十分だから。
射程数百mの空飛ぶ巨大火炎放射器相手ならドラコン・スレイヤー余裕。
現代兵器は使い方次第で最強!
剣と弓矢でドラコン・スレイヤーなエルフっ娘マジ尊敬するわ、どうやったの?
異世界種族って強いんだな、と感動しながら確認確認、後日後世歴史的課題。
まあその時は思いましたよ。
――――――――――空の異常はどーでもいい。
対処出来ないことはスルー推奨。
薄々わかって急降下爆撃軌道で確信。
三佐なら何をしでかしても可笑しくはない
・・・・・・・・・・いや、可笑しいから、常に。
対処し得ないことはスルー必須。
だから、おねいさんずが麓に乱射しだしたのは、大正解。
何故か俺たちに迫り出した海兵隊。
―――――――――聖都に居るのは知ってたが。
俺たちのピクニック以前から聖都を駐留調査しているUNESCO調査団。
その執行部隊たる海兵隊。
調査員の護衛と、場合によっては試料の確保が任務。
なぜこっちに来た?
これも後から考えりゃ、調査員を保護する為。
実際には、うちの娘たちにむかった連中に先回りした。
―――――――割って入るため―――――――
異常に吶喊する調査員たち。
それがなんで、うちの娘たちにむかったのかしらんが。
正常な趣向に目覚める訳も無いだろう。
異常な嗜好に引き返すのも無さそうだ。
おねいさんずは教育的配慮からアレを見せまいとした。
海兵隊は作戦上の配慮からアレコレ同時に駆け回った。
海兵隊のすべきこと。
学者どもの命を守る。
友軍を学者どもから守る。
友軍から自分を守る。
海兵隊に出来ること。
撃たせまい。
進ませまい。
撃たれまい。
斯くして戦争だ!
お空を無視して銃撃戦。
異世界で撃ち合いが起こると誰が思っていただろうか。
味方を撃つ、撃たれるなら銃殺だから想定内。
刑じゃなくても戦場ではよくあること。
戦闘前中の軍規違反なら余裕がないから、その場で始末。
隠蔽が必要な場合も、刑死にはしない。
異世界の難民を助けたり。
異世界の政争に参加したり。
ましてや部下や部隊を巻き添え。
本来なら軍法会議だけどね。
波及する悪影響
・・・・・・・・・・指揮官/部下が英雄かもしれない、そんな危惧を抱いて戦えるもんか
・・・・・・・・・・を防ぐ為、戦死扱いをプレゼント。
そんな想定された事態ならば、粛々と銃殺にされて御仕舞い。
手近な奴が手近な英雄の頸椎から頭頂に向けて一発。
なにも面倒はない。
しかし撃ち合い、想定外。
しかも一言で何もかも停められる偉いさんが、返事はすれども指示はせず。
仕方がないから余力があるうちに突撃。
――――――――――これが俺の一次回答。
及び腰にならざるを得ない海兵隊が相手なら、征ける。
非戦闘員どもを抱えたまま、広く薄く麓に展開。
隙間はないが突破は容易。
味方が半分殺されたら、友軍を踏み越えていける。
さあ――――――――――
その直前で120mm防弾一発。
異世界文化遺産が傷モン。
斉射があれば全損余裕。
――――――――――元凶の学者どもに、手の平を返
した自覚はあるまい。
海兵隊の殴る蹴るを無視して、うちの娘たちに迫ろうとしていたのが一転。
異世界文化遺産を守れとシュプレヒコール。
120mm防弾に向かい立っている
・・・・・・・・・・つもり。
今、ココ。




