第二幕(subplot.)
【用語】
『人格』
:Persona(ラテン語:役割/人)というのは、まさに正鵠。人体をコンピューターに例えると判り易い。脳がCPU。記憶がHDD。本能がOS。技能がアプリケーション。これだけあればコンピューターは機能するだろうか?……もちろん、しない。誰かがディスプレイを見て誰かがキーをたたかないと何も起こらないし何も出来ない。ではその「誰か」とは「誰か?」というのがPersonaの意味に戻る。つまりは「他者」つまりは「自分以外のすべて」ということ。柳の影に幽霊を見ることを思えば「他者」が「人間」である必要もない。コンピューターは、それ自体では何者でもない。使い方によって遊具で在り記録であり助言者にもなりうるだろう。人体もそれ自体では何も意味を持たない。役割によって何者にでもなるのだから。それを「何者にだって成れる!」と見なすか「何者でもない」と見なすのかは表現の違いでしかないのだけれど。
なお「人間とは他者から与えられた役割である」という発想はキリスト教以前の社会では単なる事実でしかなかった。だからこそ「神が造った人間」という概念を全否定することになるのでキリスト教文明には絶対の禁忌とされる。それが科学の発展を捻じ曲げる辺りがいかにもキリスト教的。例えば人工知能の研究に置いては「脳の機能を模倣する」西欧系統の発想から「環境を含めて考察しないと再現できない」と気が付いた東洋系統の発想に至るまで相当な回り道があった。
社会心理学の世界では70年代までに「人格の自由操作(不変の人格は有り得ない)」が複数の人体実験を経て立証修了。すでに古典的基礎知識に入っているが理系の学問には伝播しなかった様子。もちろん「私は神に創られた特別な存在です」という初期キリスト教のキャッチコピーから始まる「お手軽自尊心詰め合わせ」は非常に好評で2000年オーバー。
「誰もが等しく価値が無い」
という事実には人気が無い。
「価値を決めるのは他者である」
という事実も大変不評。
「誰でも等しく価値を持てる」
「他人が決める価値など要らない」
と言い換えれば楽しい人生に繋がりそうなんですがそうでもないですかそうですか。
「状況報告済、指示乞う」
『報告受領、以上オワリ』
――Microphone OFF――
誰も何も喋らない。
マイクを切ってもドッグタグで個々人ごとに周りの音が記録される。
それは一人一人の発言が監視出来る、ということ。
されているとは限らない。
後でされるとも限らない。
ただそれが出来るだけだ。
今、誰かが、聴いてる
・・・・・・・・・・そのように過ごす、誰もが。
もちろん此処は作戦指揮所。
この部屋自体が監視記録されているのは間違いない。
それも常に、今も、遡って。
とはいえ、だ。
戦闘管制中にオペレーターが話したりはしないものだが。
軍事情報伝達にアヤフヤな物は使わない。
寸刻を争う戦闘中に、声で遣り取りするなど有り得ない。
言い違い。
聞き違い。
防ぎようがあるヒューマンエラーなら、防ぐべき。
よって原則、定型文。
事前に定められ交換された単語の羅列で造られた圧縮文。
送受信された、短文。
戦闘中指揮官の視界隅に表示。
振動マイク入力で造った短文を確認して返信。
戦闘管制オペレーターのディスプレイ全面に表示。
キータッチで造った短文を確認して返信。
ならば冒頭、マイクに吹き込まれたメッセージはなにか、という話だが。
非言語コミュニケーションという奴だ。
本来あり得ないこと。
上級指揮系統が指揮を放棄
・・・・・・・・・・壊滅全滅ならマニュアルがあるのだが。
報告は受け取る。
要請は受け取る。
――――――――――それだけだ。
命令もせず。
許可もせず。
・・・・・・・・・・応えるだけで答えない。
上級指揮系統が在ると明確化しつつ指揮も指示も示唆すらしない。
訳が解らない、からと言っても解決はしない。
命令が無いのなら命令しなかった者の責任。
だから責任が無い自分たちはなにもしません。
友軍同士が銃撃戦を始めた中で
・・・・・・・・・・官僚なら、それで済ませるだろうが、生憎と自衛隊は軍人に近い。
大粛清された赤軍のように、やるべき、と勝手に判断したことを実行していく。
もちろん冒頭の遣り取りもソレだ。
作戦目的は上級指揮系統の意図を探り、可能なら打破すること。
音声通信を無視されるかと思えば、応えがあった。
それ自体が答えのひとつ。
通信先は報告の受け手。
状況を把握している。
「聖都全体を孤立させる」
などという誰かの意図を説明されてはいまい。
自衛官のレベルで理解しようがないからだ。
ならば本来不要で誰かの意図に反する反応は、消極的共感かもしれない。
以後、報告はデータ添付に替えて、不自然にならない程度に言葉の遣り取り。
数時間で複数の声。
相手のオペレーターを識別。
仮名を付けて比較。
抑揚から感情を探る。
積極的ならオペレーター本人が狙い目。
消極的なら背後に居る管理者が狙い目。
こちらのオペレーターにも抑揚を変えさせる。
苛立ち。
不安。
焦燥感。
諦観や惰性を感じさせないように。
状況に変化が無くても報告を続けるのは、演出でもある。
こちらに引き込み応えたくさせる為に、接点を増やす。
相手に余計な情報を与えることがないように、都度マイクを切りながら。
思えば三時間にも満たない異変。
――――――――――今――――――――――
「数値は?」
「変化無し」
「見、感じたか?」
「はい」
「感じた、と言える者のみ、挙手」
「指示された者以外は感じを文章化しておけ」
――Microphone ON――
「状況報告済、指示乞う」
『報告受領、現状維持命ず』
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央暫定中立地帯/大神殿(改め建築楽器)/正面入口テラス部分/青龍の貴族】
自然なほどな不自然探し。
――――――――――俺は忘れちゃいませんよ?
愛でること。
生かすこと。
生き残ること。
俺が得意な、それはそれ。
エルフっ娘の視線。
魔女っ娘&お嬢の視線。
Colorfulの視線。
それを愛でて楽し、むのは我が身の不明やら三佐が悪いやら安保理のせいとか異世界に日本を連れてきやがった何かのせいとかいろいろと責任の押し付け甲斐が有り
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・解消は俺。
だから緑の瞳を楽しみつつ、俺の正しさを確認する。
ゴールが判る
――――――――――今回は。
ルートが見える
――――――――――習った。
コースが判る
――――――――――観える。
人格とは他人の期待に合わせて造られる。
ローゼンタール人体実験。
ピグマリオン効果。
ゴーレム効果。
多くの科学法則に等しく個々人に対しては無意味だが、集団に対しては効果的。
つまりは俺がどう観ているかに意味はない。
皆がどう観ているかを把握することが効果的。
俺はその空気を利用して、相手を統制する。
・・・・・・・・・・ことを目指す。
常に手鏡を携帯している合衆国海兵隊。
軍隊も自衛隊も、身だしなみに厳しい。
常に他人の眼を警戒する自分たちの眼。
身綺麗でない軍人は無能で、清潔でない軍隊は弱い。
陸上自衛隊の先祖、旧帝国陸軍の例。
激戦の後に整列させて将校から兵卒まで身綺麗にさせた。
軍隊と言い得る組織なら当たり前だ。
毎回成功していないからこそ、自衛隊も米軍も繰り返し継承するんだけどね。
負けるから兵がボロけるのか。
兵がだらしないから負けるのか。
相乗効果で加速していく勝ち負け。
だから軍隊は環境に馴染もうとする。
――――――――――――――――剣と魔法と銃と砲。
これで良いんだよ、これで。
・・・・・・・・・・竜と戦車まで完全同居。
あ、俺たちは軍隊じゃありませんから。
撃ったから撃ち返されたのか。
撃たれないなら撃たないのか。
切欠は意思により適応は弾み。
だから当然、皆で状況に馴染もうとする。
敢えて海兵隊は全員で食事にかかっている。
おねいさんずは敢えて半分ずつでお弁当中ですが。
おねいさんず。
合衆国海兵隊。
お互いに配慮しているのが、食事の内容。
甘くしっとりとした喉が乾かないクッキー類じゃなく。
非炭酸ソーダ味のサラサラ高カロリーなチューブドリンクじゃなく。
戦線を維持しながら物陰でかじり啜る、音すらしない戦闘装備ではない、とはいうこと。
それらはコンバット・レーション。
それを食べるなら戦闘配置の証拠となる。
今海兵隊員たちが用意しているのは鍋釜と水タンクに即席食品ほか色々。
軍隊の食事と言っても、戦闘中以外に食べるもののほうが多い。
交代も出来ずに塹壕や土嚢の陰で飲食する、なんてことは想定だけ。
きっとUNESCO調査団の異世界構成員用食材も利用してるだろう。
普通の軍隊や自衛隊なら火を使わない即席食品パックくらいしかないが。
レーションは非戦闘員、とりわけ異世界種族には戸惑われるからね。
敵味方の民間人慣れしているからこそUNESCO随行中の海兵隊。
大隊単位なら炊事道具も常備しているし料理上手もいるだろう。
戦闘糧食慣れしているとはいえ、軍隊と料理は切っても切れない。
海兵隊は此処彼処で炊煙をあげて、普通に煮炊き開始。
―――――――――――作業しやすい広場でやるから、索敵せずとも一望に観える。
対する俺たちも温かいスープを、おねいさんずへ配膳。
・・・・・・・・・・保温ケース入りのキャラ弁ともどもセンサーに映る。
それを食べようとすること自体が非戦闘配置の宣言になる。
俺たちの準突撃態勢を知った上での、返しがこれか。
ギャンブルも良いところ
――――――――――だから八百長がない。
他人目をよーく、ご存知だ。
海兵隊大尉殿とは、改めて酒を酌み交わそう。
んで、他人目をよーく、ご存知ない。
――――――――――――――常に拡大鏡を覗いている学者ども。
自分が観らているなんて想像もしない奴と奴と奴
・・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・・
が、たまたま同じ座標に集まって来やがった、か。
深淵に覗かれても気がつかないで生涯を全うするだろうよ。
つまり俺はコイツらに他人目を気にさせないといけないわけか。
なんでだろ~な~。
国籍人種性別世界も違うのに
・・・・・・・・・・一番不思議な何故馴染む。
エナンとサファリハットが完全一致。
・・・・・・・・・・コイツらなんぞ?
俺が言うけど他人目を気にしろ、他人目を曳くな。
麓を囲んだデモ隊。
いや、反対側は知らんけど。
座り込みか封鎖か。
手を繋いでいるな
・・・・・・・・・・人間の鎖か。
雑多な、服装っていうより、格好だ。
動きやすそうなのが大半。
たまに居る魔法使いは動きにくそう。
敢えて魔法使い姿のままか。
魔女っ娘は料理の時、服は脱いでエプロンです。
魔女や魔法使いが愛用するローブって礼服だからね。
一見コスプレ。
布が高そう。
縫製が上質。
仕立が巧み。
巧みじゃなくて匠。
動きにくいのは、特権階級でも数少ない動かなくて良い身分だから。
その身分を判りやすく示す為に、敢えて動きにくくなってる訳。
子どもにも暴徒にも不向き。
――――――――――座り込みには向いている?
だからUNESCO調査員にも不向き。
フィールドワークが全て肉体労働ではないが。
なのになのか、だからなのか魔法使い姿も混じる連中。
海兵隊大尉に同行したUNESCO調査団、文官の頭っぽい人はスーツだった。
まあ動きやすい礼服ってことなら、スーツの右に出る物はない。
決して動かされやすい訳ではなく
・・・・・・・・スーツで御米様だっこされたライアンは変わり種なんだなやっぱり。
デモ隊には髪色色々な作業服が主ではある。
その作業服は有り余っている軍装以外。
軍服って基本的に作業服。
自衛隊じゃ最初から戦闘服は作業服って正式名称。
在庫が余ってるソレをユネスコ調査員には着せない。
備品の作業服を着せると兵士に見える。
コイツは非戦闘員だと区別させるため。
つまりは戦闘員と同行するわりに、非戦闘員として振る舞わない連中がいて、だから一見して区別できるようにする必要やむなし。
だから基地や艦上作業服を着せている
赤やオレンジ色のUNESCO調査員。
俺たちを取り囲むオレンジライン。
オレンジラインを取り囲むグリーン。
・・・・・・・・・・俺たちを、取り囲む?
俺たちを取り込んでるな、結果として。
覗きこまれてる深淵としては、気が付いてもらえないのが心苦しいばかり。
―――――――これが不自然―――――――
初詣といえばお酒ですね。
カウントダウンといえばお酒ですね。
まだ禁酒法、いや、令、いや強制自粛(笑)続いてるんでしょうか。
いえ強制を無視した店ばかり知っているせいか。
酒のみにも下戸にも酒というのはツールとして大切なモノです。
みんなで不幸になろうよ。
……と頑張ってしまった店から客が離れた。
皆で一杯以上飲みましょう。
……と頑張った店には客が付く。
そりゃそうです。
「正直者とみられたい馬鹿は不幸になる」
ってだけ。
地獄への道は広くてみんなが一緒に歩いてくれるから、進みやすいんですけどねぇ。
笑うに笑えません。
だから、あまり馬鹿なことばかりしないでほしいです。




