第二幕(Confrontation.)
【用語】
『同士討ち』
:Blue on blue.戦闘表示で敵は赤、味方は青を割り当てられることから来る表現。
意図せざる味方同士の交戦を指す。戦場ではよくあること。意図して行うと「粛清」と言います。政治ではよくあること。どちらも成功すれば「事故」と呼ばれ大成功すると「なにごともありませんでした、はい、復唱」と言われます。指揮系統が複数ある場合、そも別組織の連合作戦に置いては生じて当たり前。当たり前の割には「発生を前提とした」まともな対策が無い。成功したことがない防止策なら山ほどあるが。
作中では国際連合軍といっても従来から共同作戦前提の自衛隊七割・極東米軍二割、と各国軍一割程度なので余り問題は生じていない。しかし「同士討ちが起こらなかった」ことにする必要性を職業軍人全てが共有している。
特に異世界種族の志願募兵徴兵購入誘拐が計画通り。なおいっそう軍人たるもの問題を解消して穏便にする技能が求められている安全保障理事会から。
「ハレム?」
「修羅場!」
《国際連合安全保障理事会軍事参謀委員会主宰実戦観戦/〈Blue on blue〉Real time case study》
【聖都/聖都市内/中央/大神宮前/巫女の賢所/青龍の騎士団陣形中央/彼の背中/エルフっ娘】
あたしの不安と安心の源。
黙々と食べる、彼、と御客様。
ニコニコと蕩けてる、あの娘。
もちろん料理は終わってない。
巧みに離れて、味を僅かに調え直し、すぐに戻る。
――――――――――――彼の為に来賓の料理も仕立て直して。
繰り返し。
繰り返し。
繰り返し。
彼が悦ぶように、彼の客を饗す
――――――――――――あの娘が蕩けるのは、まあ、解るわ。
彼を自分 に夢中へ出来る。
彼に自分 が貪られている。
彼を自分 が悦ばせている。
皆、彼には悦ばされてばかり。
珍しく、彼を悦ばせられるなんて!
一方的に悦ばせるのは夢物語。
日に三度、饗宴を毎日繰り返せる、あの娘でも、よ。
――――――――――何回も気絶を繰り返される一時を何度も毎日されてるし。
あたしもたのしまれてはいるけれど
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・落ち着きましょう。
いつもいつもいっつも
―――――――――喜ばせられて力尽きている身には、大切な機会。
あたしたちには、共通の苦しみ
・・・・・・・・・・悔しくは、あまり、ない、かしら、ね。
嫉妬して弄ばれるのは、あたしの魅力じゃない!
――――――――――見透かされて微笑れても、無視。
たまたま今あの娘が楽しまれてるだけ。
日に三度以上、好機が巡ってくるとはいえ。
あの娘が料理にかかる時間、あたしは傍に居られるし。
それはつまり、一方的に悦ばされてるだけ。
だからといって、 愉しまれちゃダメ!
今日、今、新しく与えられた力は彼を楽しませてる。
あの娘たちの可憐さには及んでないかもだけど、
・・・・・・・・・逆転の機会をさぐらないと、ね。
だから、だからだから、あたしは眼を移す。
年相応の、あたしを魅せなきゃ!
役に立つ、使える、仕える女を!
貴男に沢山お返ししなきゃよね!
甘やかされ続けるのがイヤではないけど、なんとか甘やかせる側にまわりたい、たまには
・・・・・・・・・・・あたしを利用は、くれない、とは承知の上。
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央暫定中立地帯/大神殿(改め建築楽器)/正面入口テラス部分/青龍の貴族】
俺はオムレツにケチャップ派。
オムライスにはチキンライス。
内から外からケチャップです。
それは魔女っ娘もよく知っている。
・・・・・・・・・・解せない。
いつの間にか知られていた。
まだ一ヶ月半しか一緒してないんですが何故か。
相手の味覚を知るのは仲良くなるための奥義。
俺も逢瀬を重ね続けるために、女の舌を注目します。
胃袋を合わせるのは一緒の関係を続ける必須条件。
魔女っ娘は引きずり出すのが愉しいくらいに引っ込み思案。
その割にぐいぐい迫ってくる辺り、意外と社交性は高いんだろう。
貴族に準じ王城や太守の元に出入りしていた家の、一人娘だ。
独り、か
・・・・・・・・・なんとかしよう半年以内。
手掛かりは、山ほどあるしな。
この辺り魔女っ娘の適正を示している。
常連相手の料理屋にピッタリ。
だから生クリーム仕立てのオムレツにはケチャップがない――――――――――――――――――――解せない、と思ったときもありました。
だかからこそのトマトである。
或いは果実ではなく根っこなのかもしれないが、赤く瑞々しく甘酸っぱいゼリー状の種周りがたまらん生も加熱も素晴らしいトマトっぽい、トマトでいいや。
クリーミーな半熟オムレツの中身。
白身魚に刻みトマト。
赤と白で御目出度い限り。
魔女っ娘の瞳のようではないか!
――――――――――――よしよし食後に撫で転がそう喉とお腹が悦ばれます。
俺を悦ばせるために産まれてきたことにしようかな?
オムレツは卵を味わうのか、具を楽しむのか。
良くできてると渾然一体、真球のごとき完結した味わい。なんかエルフっ娘を思い起こさせる完全無欠。
声見た目感触薫りに仕草。
不老で殺さない限り不死っぽいエルフを球に例えれば、エルフっ娘は真球だろう。
このオムレツは料理のエルフっ娘というわけか。
もっともっといただきまーす!
【聖都/聖都市内/中央/大神宮前/巫女の賢所/青龍の騎士団陣形中央/彼の背中/エルフっ娘】
決して、あたしのせいじゃない。
物言わずに食べるのは、彼の常。
彼が咀嚼する機も間も判るもの。
視線、表情、呼吸、習慣、を隠そうなんてしない。
何を。
何時。
適量。
それを口に運ぶなんて、造作もないわ。
触れる肢体を、無視すれば。
可能な範囲で、出来るだけ。
彼に不自由をかけないよう。
背中から抱き着くのは、やり易い姿勢、だけど。
・・・・・・・・・・当たってる。
肢体の豊かさを活かすなら、これよね?
あの娘たちみたいな肢体なら、前から。
どちらにしても、先ず食べるのが優先?
・・・・・・・・・・それはおいおい早急に超えるべき壁として。
彼は話を聴く気がない。
今は味を楽しむ時だから。
楽しみは一つ一つずつ。
女、酒、料理、本、話
――――――――――寡黙でも、話好きなのよ♪︎
自分の女たち、その取り留めのない話。
若い参事、西の山はドワーフたち、盗賊ギルドの頭目。
目を付けた連中の報告、希望、自白とか。
なにもしないで、じっと耳を傾けられる
・・・・・・・・・・誰もが話を続けることになる。
無言で向けられた仕草に逆らえない
・・・・・・・・・・誰が彼に逆らえるもんですか。
取次筋斗になるまで
・・・・・・・・・・誰にも話を止められないもの。
質問は在れど会話にはならない。
彼の流儀。
趣味嗜好。
言葉は後。
あたしたちが知る会食の流儀だと、会話が中心で料理は付け足し。
会話の肴にする為に食べる。
会話の糸口にする為に食べる。
会話の間を操る為に食べる。
料理が不味いのは論外だけど、旨くても駄目。
敢えて口を塞げる。
考える時間を稼ぐ。
味は邪魔。
満足より不足。
味わいより刺激。
いっそ咳き込ませる為の酒食すらあるくらい。
会話の流れを断つ。
会話の手口を練る。
一番ふさわしいのは珍味美味。
話相手に加わる。
話相手を抜ける。
もちろん給仕は駆け引きの一旦を担い、執事やメイドの長が指揮をとる
・・・・・・・・・・・ここまで行けば、料理は関係ないけれど。
客はもちろん、近しい氏族との日々の食事こそが戦い、でなくば模擬戦。
だから独り部屋で食べる食事だけが、食の楽しみ。
この辺りは、二百年前から変わらない
・・・・・・・・・・・お気の毒、って言えたのは十年前まで。
あの娘の付き添いとして、散々な場所に出入りした。
妹分の家みたいな例外もあるけれど。
あたしたちこそが異常なのだからね。
帝国貴族。
富豪氏族。
特別、特例、異常が日常そんな中
・・・・・・・・・・だから我慢し易かった。
それはもちろん、あの娘が生きる場所なら、何でも耐えるけど
もう、生涯縁がない苦労ね。
――――――――――あたしたちには。
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央暫定中立地帯/大神殿(改め建築楽器)/正面入口テラス部分/青龍の貴族】
俺の視るところ、根菜と御飯は愛称が悪い。
雑穀玄米五穀米のごとき餌ではなく、白米のこと。
銀シャリはなんで銀かしらんけど、御飯の充足感は堪らない
・・・・・・・・・・・だから、根菜と競合するのだ、俺基準。
芋、大根、蓮根とかとかオカズじゃなくてそれだけに集中して食べたい。
主食が肉魚なら、付け合わせは芋か御飯。
根菜と穀物の両方は要らないよね?
ね?
ね?
な!
じゃがバターと肉、ここに御飯を加える意味がわからんパンもダメ。
であればナス、目の前に広がるナスのあんかけ?
まさに魔女っ娘から御飯への挑戦状!
醤油も味噌も無い、麹が生物兵器扱いで日本には在るけど異世界生物に食わせたら死ぬかもしれない、異世界魔女っ娘が御飯への刺客に選んだのは?
ナス揚げあんかけ
――――――――――十口ほど食べた後の感想。
異世界油と異世界ナスの相性は異世界でも変わらなかった。
酸化する前、作りたてての魚油は臭みがない
――――――――――徹底的な魚尽くし。
同じ方向性で獣脂ならいけそう、いや、経験者の手並みだコレは
・・・・・・・・・・・魔女っ娘のシマは太守府、つまり内陸部。
保存技術が無いに等しい中世準拠。
魔女っ娘は保存に役立つ魔法は使えない。
大河はあるが海から離れた淡水魚しかいまい。
デカイ魔獣は太守領外、西の山脈か北の針葉樹林帯、南の大森林地帯にしかいない。
穀倉地帯は手の届くところに森も林も豊富であり、獣も鳥も多く、狩猟は盛んというより日常だ。
それが太守領、魔女っ娘の生活圏内。
獣肉は比較的日常的に手に入る。
太守府のような大都市ではシステム化。
狩猟から仲買仕分け屠殺解体陳列訪問販売掛け売り決済まで成り立ってるハズ
・・・・・・・・・・江戸時代基準には届かないかもしれないが。
魚は干物、塩漬け、珍味の類いで常食ではないだろう。
魔女っ娘お料理ライフ。
魚より獣の調理に慣れてるハズ。
恐ろしい娘♪︎
――――――――――師匠と呼ばせてください。
獣脂で作っている料理をオール・フィッシュに切り替えて魅せた。
揚げナスあんかけ。
・・・・・・・・・・あんは煮こごりかな?
煮こごり。
新鮮な魚油。
量と質。
すぐに用意できるもんじゃない
――――――――――――――第13集積地の需品科、糧食班謹製だな。
駐屯地厨房の食材、魔女っ娘にとっては未知のなにか、をフル活用。
糧食班にはアシがつかないように判りやすくカンシャしよう。
まあ、子どもたちの世話に走るのは大人として当然ではあるが。
だが、うちの娘たちの人徳が俺の口を幸せにしているのは、再確認。
あんに合わせてあるのは、厚い魚の皮を焼いて、いや炙って刻んだ物。
二種類の脂がのっている。
なら、赤身と白身の魚からか。
薬味のネギは長ネギ葉ネギ玉ネギの合わせ技。
御飯に合うわ~。
だけど御飯少ないわ~。
その分ナスが多いのは、ワザと。
味を染みさせる時間がない、のを、逆手にとったか。
ナス自体の淡白な旨味に、あんの濃厚な味で飽きさせない。
素材の持味に自分の味を生かさせる。
控えめな娘が、お口の中では大暴れ。
してみると、御飯が少ないのも、それか。
―――――――彼女の自己アピール―――――――
魔女っ娘を噛みしめ。
魔女っ娘をほおばり。
魔女っ娘をのみほし。
魔女っ娘を味わうべし!
判る!
解る!!
わかる!!!
俺だって食わせる時には自己主張をわすれないもん。
料理人の気概だねぇ~~~♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎
あれ?
さて、余談。
街角レポート的な、なにか。
知ってる方々はスルーで。
大勢の騒ぐ声が響く街中、っていうか、飲食店。
人間ばかりです。
何故、どこから、人間以外が発生するのか。
興味深いですね。
しかも人間様に話しかけてきやがります。
人型の九官鳥。
珍しいからこそ、見世物にされます。
言葉を発することは出来るが、理解は出来ない欠陥生物。
「ウィルスとは何か?」
と訊けば応えられるが、答えられない。
辞書にある言葉で鳴くだけ。
内容を話すことは出来ない。
例えば?
「既存のマスクを完全に装着すればウィルスの70~80%を防ぐことが出来る」
という研究結果を見て、
「マスクを付けることは防疫上高価が高い/完全に装着すべきだ」
というありえない結論に至ります。
粉塵や花粉と違って、ウィルスは体内で増えるのに。
防疫上の意味無意味で言うなら
「100%以外は無意味」
となります。
ウィルスの増加率は病性の強さに比例するので、「80%減少で有意な効果がある」ウィルスは、そもそも病気じゃありません……コロナですが。
だからウィルス対策マスクは活動可能時間30分未満な訳です。
そもそも件の研究結果は「ウィルスは増える」を前提に「マスクは防疫上の意味がない」ことを立証するための数字ですから。
前提知識があれば判るよね、と。
じゃあ「マスクが重要」と鳴き続ける九官鳥が「ウィルスは増加する」と知らないかといえば、知っているでしょう。
「増加」の定義も言えるでしょう。
主要なウィルスの「増加率」だって言えるでしょう。
増加率が低すぎて数字がとれない新型コロナはさておき。
だだ知ってるだけ。
ただ言えるだけ。
字面と音を記憶し、再生出来るだけで、理解する機能が無いから関連付けも出来ない。
欠陥生物です。
……ペーパーテストは得意でしょうけれど。
レコーダー、インデックスとして考えれば優秀ですね。
機械が苦手で視力が落ちた中高年には重宝されますよ。
これを「専門家」と呼びます。
……入学してしまえば落第が無い世界では評価されます。
普通の人間には出来ませんけれど。
考えるな、と強いることは古典的な拷問です。
しかし考える機能が無い人型には考えることは拷問以前。
鳥に泳げと言うような……泳げますね。
魚に飛べと言うような……翔べますね。
少しは畜生を見習って欲しいものですね。
絶対に責任を問われない世界でしか生きられない。
だから霞ヶ関と下請けに成るんですが。
街往く人間から、何故、人型が発生するのか?
何故、わたしたち人間様に話しかけてくるか?
寄生生物という意味ではウィルスと同じかな?
・・・・・・・・・・・・・それはウィルスに失礼ですね。
謎は深まるばかりでございます。




