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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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68/1003

トモダチ

登場人物&設定

※必要のない方は読み飛ばしてください

※すでに描写されている範囲で簡単に記述します

※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします


一人称部分の視点変更時には一行目を【語る人間の居場所】とします。

次の行、もしくは数行以内に「俺」「私」などの特徴となる一人称を入れます。

以下設定を参考に誰視点か確認いただければ幸いです。

(書き分けろ!と言われたら返す言葉もございません)


【登場人物/一人称】


『俺』

地球側呼称《司令官/閣下/大尉/大尉殿》

現地呼称《青龍の貴族/ご主人様/ご領主様》

?歳/男性

:地球人。国際連合軍大尉(陸上自衛隊三尉)。太守府軍政司令官。基本訓練以外は事務一筋。


『あたし』

地球側呼称《エルフっ子》

現地側呼称《ねえ様》

256歳/女性

:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳。


『わたし』

地球側呼称《魔女っ子》

現地側呼称《あの娘》

10歳/女性

:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。


『わたくし』

地球側呼称《お嬢》

現地側呼称《妹分/ちいねえ様/お嬢様》

12歳/女性

:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。


『僕』

地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》

?歳/男性

:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。




【登場人物/三人称】


地球側呼称《神父》

現地側呼称《道化》

?歳/男性

:合衆国海兵隊少尉。国連軍軍政監察官。カトリック神父。解放の神学を奉じる。アフリカ系アメリカ人。


地球側呼称《三尉/マメシバ/ハナコ》

現地側呼称《マメシバ卿》

?歳/女性

:陸上自衛隊三尉。国際連合軍独立教導旅団副官。キラキラネームの本名をかたくなに拒み「ハナコ」を自称している。上官の元カノが勝手に「マメシバ」とあだ名をつけて呼んでいる。


地球側呼称《マッチョ爺さん/インドネシアの老人》

現地側呼称《副長/黒副/おじいさん》

?歳/男性

:インドネシア国家戦略予備軍特務軍曹。国際連合軍少尉。国際連合軍独立教導旅団副長。真面目で人類愛と正義感に満ち満ちた高潔な老人。



【用語】


『シスターズ』:エルフっ子、お嬢、魔女っ子の血縁がない三姉妹をひとまとめにした呼称。



青龍の、おじいさん。褐色で、白髪で、優しくて・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・恐ろしい人。

わたしは、おじいさんとお話ししました。


「君たちには、過去をやり直す方法があるかね」


ありません。青龍にはあるのでしょうか。


「ない。まだ」


こういうところは、青龍の方々です。


「よい笑顔だ」


・・・・・・・・・・・困ってしまいました。でも、おじいさんの大きな笑顔。釣り込まれてしまいます。


「ということは、私たちは過去をやり直せない。取り返しがつかないわけだ。私は若いときに失敗してしまってね。やり直すことができたら、10倍、いや、100倍の成果を上げることができるのに」


まあ。

おおげさに嘆いて見せる、おじいさん。どう聞いても失敗には聞こえません。私はまた笑ってしまいます。


「過去は不変、絶対に」


残念です。


「ということは、君の笑顔は、汚されることも傷つくことも失われることもない」


はい・・・・・・・・え?????


「そうだろう?過去は変えられない。先ほどの笑顔は過去だ。誰にも手が出せない」


・・・・・・・・・そうなります・・・・・・ね。


「君と誰かが笑いあい、楽しく過ごした後、憎みあったとしても、何も変わらない。私が明日、君と殺し合いをしても、わたしと君が笑いあったことは事実として残る。不変だ」


わたしは頷きました。お気持ちが染みてきます。出会い、別れが、どうあっても、その時に感じた嬉しさが消えることはない・・・・・・励ましてくださるんですね。


「人は、弱い」


驚きで声が出ません。


「人は弱く、何物にも耐えられないほど脆弱だ・・・・・・・私もな」


青龍の、ご主人様ですら敬意を払う、武人の、おじいさんが・・・・・・・。


「特定の刺激をしかるべき形で与えるだけで、心も、からだも、気持ちも、何もかも変わってしまう。明日の君、明日の私、誰も彼も、わからない。笑いあった相手と憎みあい、愛した相手と殺しあう」


おじいさんのおっしゃることが事実だと、体験されたことだとわかりました・・・・・・・・・・・わたしは泣きそうになってしまいます。


「心は脆く、弱く、どんな形にも変わってしまう・・・・・・そうだね」


わたしは頷きました。おじいさんの顔が滲んできて・・・・・・・・・。


「憎みあった相手と笑いあい、殺し合った相手を愛せるわけだ。明後日には」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――え。


「そうだろう?簡単な刺激とプロセスで、人は、心は、気持ちは、どんな形にも変わるのだから」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――その通り過ぎて、笑いが止まりませんでした。


「だから、出会ってみないかな。君の家族が招いた、新しいトモダチに」





【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/門前】


僕らはちょうど昼、奴隷市場の迎賓館へ集まった。

無頓着に『港でかまわない』という青龍の貴族。冷やを汗かく僕。とりなす魔女。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人足への手間賃支払いじゃあるまいし、港の適当な空き地で渡されたら、皆が不安、どころか恐慌状態になる。


我々船主のこれまでとこれから、それをおもんばかって欲しいとは思わない――――――――――無理だろう、それは。

明日どころか今日、街どころか邦を焼き尽くして気に留めない青龍。


その中で、もっとも、まあ比較対象が僅かに過ぎるが印象として『青龍らしい』この貴族。

けっして話がわからない相手じゃないのに、わかり方が突き抜け過ぎて、僕は帆柱の上で宙返りする気分だ。


翌日、とまあ、この手の集まりには有り得ない間隔だが、式典にお付き合いいただけるだけで・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・命が削れた。

僕は泣いてしまいそうだった。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/中央庭園】


わたしは、また、いろいろされてしまいました・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちいねえ様に。


「ほらほら、この色も合うわね」


いったい、いつ創られていたのでしょうか?わたし、あまり採寸した覚えがないんですけど、隅々までぴったりな、様々な衣装!


「貴女の服は前から日々、用意し続けていたわ。機会がなかっただけ」


そ、そんな当たり前のように!


「そして私が手直しを!」


マメシバ卿!!!!!!!!!!なんか、ぶぃって指二本突きだしてます!でも、この間は!!!!!!!!!!


「見ました?私の実力?」


スッゴい、悪い顔です!見ました!!ねえ様のスカートが大変な事に!!!


「リスクはありましたが、見てたでしょう?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねえ様が、ご主人様に抱きしめ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも!

スカートが跳んじゃいそうだったじゃないですか!


「反省しました!」


はぁ。


「まさかまさか、あそこまで司令官がスキルもちとは!伝説になるようなラッキーなスケベスキル」


反省なんて信用できません!


「やっぱりフルオープン仕様はハイリスク、そこまで用意しなくてもあとはひっちゃぶくなりなんなり甲斐性をみせてもらいましょう!」


ちょっ!あ!


「アクセは~~~~~」

「「ご主人様/ご領主様にいただいたモノじゃないとイヤです!!!!」」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ちいねえ様と言葉が、というか、怒鳴ってしまうなんて!


「ですよねぇ~特定の、あの、ただ一人の、殿方に付けられた、首輪ネックレス手枷ブレスレット足枷アンクレット


なんか、言い方が変です。

嫌じゃないですけれど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり!!スッゴく!!!悪い笑いです!!!!

マメシバ卿!!!!!!


「ま、ま、ま、今日は、式典ですから、固く固く。なにしろ、貴女はこの国の代表、女王様なんですから!!」


あぁれぇ~~~~~~~~~~!




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/門前】


僕はとびっきりの笑顔で出迎えた。


見張りから連絡さるていた通り。

大手の仲買人、最高級織物商、職人ギルド幹部の親方達が引きつった笑顔で会釈してきた。


夫人と娘も続く。



今日の式典は、船主のものだが、当然、港街の商い全体に及ぶ話だ。だから、街中の有力者が集うのは当然だ。


その中から、12組だけを、一角にお連れした。




奴隷市場の一角、青龍が居を構える迎賓館の手前で。ここまで待ったのは、引き返す機会を与えたからだが。

来やがった。


まあ、有力者本人はかまわない。こなくてもかまわないが。昨日、青龍の貴族に叱責された身を思えば、病気の言付けをするのが妥当だ。

だがまあ、来たなら来たでいいだろう。オマケが居なければ。


夫人同伴なのは当然だ。家族同伴はよくあるし、社交の場でもあれば親子連れは他にも多い。一族の顔見せはそれぞれの売り込みじゃない。


『これが手駒です』


と手の内を見せ、いざとなれば懸賞首にすべき一族衆の命をさらすこと。社交の場に出ない子女がいる家は危険視され潰されて当たり前。

保証の意味があるのだから、今日この場であれば家族連れで当然だ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――こいつら以外は。



まあ僕も反省さえしてくれれば、水に流すに吝かではない。港でもあるしな。だが、今は青龍の人魚姫が泳いでいる関係で、流せないのだ。沖には海龍がいるし、瓦礫もあるし浜辺に埋めるか――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――なんで『連れてくるな』と言われてまた娘を同伴してるんだ貴様等は!!!



「お兄様」


未婚の僕が補佐に連れて来た妹が合いの手を入れた。


「凶状持ちが凄んでいるようにしか見えませんわ」

「おや僕は現役だがね?お前にもずいぶん迷惑をかけただろう」


港街で商売をして、僕の前歴を知らない訳がない。船乗り共を従えるというのは、そういうことだ。社交界で噂になり、妹に迷惑をかけたのも事実だ。


「まあまあ、皆さんのお話を訊きましょう、お兄様」


持つべきは良い兄妹だ。兄バカで苦労している方もいるというのに。

ぬけぬけと妹の誘いに乗ってくるバカ。ココはササッと帰るところだって。


「誤解されております」


怯えて青ざめるならさっさと失せろ。誰の仕込みかは聞くまでもないが。


「我らも昨日の場をわきまえぬご挨拶は反省しておりまして」


せめて隠せと言いたい。


「決して誰かに言われたわけではなく」


寝返りか?見切りをつけるのもかまわないが、こっそりやれ。


「昨夜から連絡が取れないくらいで」


ほほう。それは知らなかったよありがとう。連絡を取ろうとしたんだね。僕の知らない連絡方法がある。僕の監視役が無能。了解したよ。

連絡できない理由は何故か知っている。が、堂々と寝返るなんて邪魔なだけだ。普通なら内通するだろ常識知らずが。


「娘が望んだのです」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう来たか。

『遊びにこい。自分が遊びたいならな』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言葉尻なんか、青龍の貴族には効かないのに。


『あれは嘘だ』で殺される、ならかまわないが、街が焼かれのは困る。

よし、お嬢様に売ろう。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/奥の間】


わたくしは、若い参事の来訪をうけて、困惑しました。わたくしは家業に関わっていません。なにかしら。

あの娘はご領主様に任せ、ねえ様と話を聞きに行きます。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ふむふむ・・・・・・・・・・・・・・・・また、お兄様が!!!!!!!!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っというわけではない、と。



ご領主様に知られたくない、という若い参事の配慮、解らなくもありません。まあ、知らせますけれど。

そのために、有象無象を抜きに、その娘達に会うことにいたしましょう。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間の控室前廊下】


僕は親たちを見張っていた。迎賓館内の、控えの間。まあ、必要はないが、場を離れる訳にもいかなかったからだ。


お嬢様に命じられた奴隷が、僕にだけ椅子を持ってきたが、銀貨を持たせて遠慮した。すぐに動ける姿勢でいたかったからだ。

にしても、奴隷商人の奴隷たちを顎で使ってるな、お嬢様は。



娘達が僕の妹に連れていかれ、こいつらは、なにやら色めき立っている。差し出した娘が夜伽にされるのを期待してギラついてやがる。どこまで楽観的なのか。

青龍の貴族に紹介しに行った訳じゃないってのに。



僕が片付ける程に血塗れにはならないが、お嬢様が競争相手にどう出るか。


娘達本人の希望『青龍の貴族にまた会いたい』ってのは嘘じゃないようだ。新しく、物珍しい、強大な支配者。

しかも、優しい。


となれば、子供が憧れそうではある。


だが、親の狙いは変わらないな。兄バカの仕込みが無くても、当然起こる事だ。僕だって考えたくらいだ。まあ、適当な子供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・娘がいなかったんだが。



しかし、青龍の貴族、青龍への接触がもたらす結果を考えると、ほおっては置けない。後に続く形を整えるべきだ。

・・・・・・・・・・・・・と、考えていると、扉が開いた。


妹が囁きかけてくる。


(参加了承)


僕は立ち上がる。親たち、紳士貴卿の典型たる下衆どもを見回す。


「お帰りはあちら」


ざわめく一同。


「娘さん達は後ほど届けます」


むしろホッとする一同。娘が気に入られた、かと喜んでやがる。ちょうど奴隷市場だ、こいつら親娘を売り払ってやろうか。


「式典を楽しんでいただき、毛筋の先ほどの傷もつけずにお帰りいただきます。娘さんはね」


貴様等の期待する傷はな。僕の目に皆が凍りついた。


「参事会がお約束いたしました」


参事会の名前に反駁出来る者はなく、みな、追い出した。まあ、街中から注目される式典から追い返された、ってのは大恥だ。

ただし、子供の代理出席で形は整う。


差し出すにしてもあまりに露骨で、ひんしゅくモノ。


似たような事を考えるやつを牽制して、のちのち参事会で正式な申し合わせに持っていく。もっと無難で、遠まわしな、穏当な形に収まるだろう。


「お嬢様は」

「余裕」

「わかってる」

「相手にしてないわ」


子供たち、といっても、自分と同い年位だが、を、ひとりひとり相手にしたらしい。妹は立ちあったのだが。


「意思確認?っていうのか、青龍の貴族のどんなところが気になっているのか、ひとりひとり、聞いただけ」


後は、青龍に取り次ぐ話になって、約束は出来ないけど、大丈夫だろう、と。さすがの自信、自負、女丈夫だねこりゃ。

こわいこわい。さて、いくか。娘盛りが都合の悪い、僕の妹に声をかける。


「お前を紹介しないとな、我らが奉じる赤い瞳の魔女、世界の主たる青龍に」




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間/内側通路】


俺はなんだか解らないまま、エルフっ子について進んだ。

うん、平常運転だな、俺。


さすがに魔女っ子と俺じゃコンパスが違うから抱き上げて運ぶ。単純に抱きかかえるとわかるが、この歳でも結構重量があるね。小学生くらいだもんな。


背負うのが一番だが、止まるのは時間を食う、ので両腕で救い上げるように持ち上げた。

俺の首に腕を巻いて、あわあわしてるが赦せ、魔女っ子。



式典が始まるから、急がないといけない。もっともだ。何を?しかし将校たるもの走ってはいけないのだよ。

この辺りは軍政官訓練キャンプでたたき込まれたこと。



だがしかし、こうしていると、シスターズも女の子なんだなーと感じる瞬間である。


いや、なんか、説明されてないけど、俺が了解済みたいに動くところがね?そういう女は俺の周りだけかな?シスターズも大きくなったら、突然、部屋に転がり込んで来て、当たり前に俺、いやいや、男と同居し始めたりするのだろうか。


などと黒歴史の走馬灯が一周する前に、控室、的な部屋に通された。そして衝立をまわると――――――――――高周波アタック!!!!!!!!!!




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間/控室】


「苦手?」

「女子供の声は徹夜明けに響く」


僕にわかっている事を聞くのは、僕ら兄妹の挨拶なのだろうか。青龍の貴族がなにやらお嬢様、オマケたち、が逢い引きしている謁見の間、の前の僕ら。


別に人払いしている訳じゃない。実際、闖入者が通過したくらいだ。青龍の貴族が、好みの少女達と嬌宴を開くなら、わざわざ人払いなどしまい。

そう言うと、妹は驚いたようだ。


慣れろ。青龍にとって僕らはいていないようなものだ。第一、そんな状況じゃないのは聴こえている。


(お兄様がやられっぱなしね)


まったくだ。遠慮ない家族は我が資産だよ。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間/中央】


俺が食らった高周波はもちろん、悲鳴ではなかった。

いわゆる黄色い声。


「KT――――――――――!!!!!!!!!!ラッキースケベ??????????HU~~~~~~~~~~」


これじゃない。これは野太いわ、キモイわ、脂っこいわ、どす黒いシャウト。

破壊音も俺には関係がない。


入りて出て行く黒い影。

キチンと扉から入って来た。

キチンと両手両脚を揃えて窓から出ていった。


エルフっ子の技(エルフ流格闘術)が合気道に見えるのは気のせいか。



星になった神父に敬礼。是非、二階級特進させてあげたい。手榴弾を投げるべきか。


ともあれ、「キャー」というフルエコーな声が響いたんだが、違う。

ラッキースケベではない。

っていうか、そんな現象は物理世界に存在しないし。


うむ、俺だってそれくらい知っている。部屋に入ったら着替え中とかそういうアレだろ?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、子供だし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、決して、サイズG以上の成人女性を期待しては、ないですよ?


出会いがそれだとね?口説きにくいしね?セミプロなら・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今、そんな場合じゃないけど。


ともあれ、人生で意図せずに、女性のはあられもない姿に出くわすような、そんな体験は・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれは、まあ、いやまてエルフっ子。

真っ赤になられると俺が困る。

土下座か?いや、よけいまずいか?



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お姫様みたい」


それだよ!よく言った高周波童女たち!!空気を換えるその一言!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、誰が?




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間/扉口付近】


あたしは心臓が止まりそうだったけど、ホッと一息。

あたしたち、あたしと妹分で時々、あの娘を社交の場に連れ出してるんだけれど・・・・・うまくいったことがない。


今回はどうかしら?

まずは顔合わせ。きっかけがつかめるか、心配だったけど・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族に抱き上げてられていた、あの娘。


最近は特に、自分からお洒落するようになったけど。

いつもの『可愛らしい』より『豪華さ』を狙ったドレス。


今回は正式な園遊会だから、格式高く、のハズだった。

・・・・・・・・・・・・・妹分にマメシバ卿が加わった結果、格式は行方不明。


青龍の素材、白基調の輝く光沢の生地。魔法使いローブを原型に、金糸を織り込んだように見えるドレスは幻想的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少女物語にありそうね。


「王様とお姫様!」

「そうそれ!」

「素敵!素敵!!」


子供達にはすごく喜ばれてる。お姫様抱っこだものね。あの娘は?




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間/青龍の貴族の胸】


わたしは眼を伏せてしまいました。

みなさんが、喜ばれると、申し訳なくて・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・顔をご主人様の胸に隠してしまいます。


「可愛い~~~」


わたし、あまり変わらない歳なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「どこが一番良いと思う?」


ご、ご主人様!


「瞳!!」

「そうよ!」

「キレイ」




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間/扉口付近】


あたし、そして、妹分は失敗を悟った。



あの娘が気にしている赤い瞳。いきなりくるとは!妹分が止める隙が無かった。


この邦で、あの娘だけの、瞳。

参事達から蔑まれ、帝国から畏まられ、市民から恐れられる。


式典開始を理由にしてちゅう・・・。



「目の付け所がいいな」


彼の言葉に、あの娘が固まる。

青龍の貴族は抱き上げたままの、胸に顔を埋めたあの娘の表情に気が付いていない。青龍の貴族が、あの娘を下ろし、子供達と向き合わせた。


「素晴らしい紅だ」


少女達が、憧れの青龍と好みが同じだと、大喜び。

あの娘は呆然としている。


何も知らない子供達。知る気がない青龍の貴族。遠慮会釈の無いものには、赤は――――――――――紅だった。




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/謁見の間の控室前廊下】


僕らの耳に響く声。


なにしろ扉が閉まっていない。王城でもそうだったが、青龍の貴族は風通しにこだわるらしい。密談にはこだわらない、っと。


部屋から聞こえるのは社交の典型。お嬢様がとりもち、最上流ではないが上流階級の少女たちを、魔女に紹介している。

青龍の貴族に、ではない。僕に、青龍の貴族に、聴かせている訳だ。


魔女は、お嬢様のカードだ、と。


青龍の貴族にのぼせ上がっている少女たちは、ていのいい観客、舞台装置だ。まったく僕が干渉する余裕が無いと思って、利用してやがる。

そうはさせんよ、そうはな。


僕は呼吸を整えて、手短に知らせた。


「時間です。式典を初めてよろしいでしょうか」




【太守府/港湾都市/奴隷市場/迎賓館/王の間】


思い出すのはあの日の記憶。

優しく健やかな幼なじみの少女。


老人はほのかにほほ笑んだ。


彼女の最期がどうあろうと、彼女は良き友人であり、楽しき隣人であり、素晴らしい時を過ごした。



ある民族に生まれてしまい、あるイデオロギーに汚されたかもしれないので殺した。


その時に保護した子どもは立派に育ち、立派な大人になった。

老人の推挙と実力で残念な出自を克服した。母や祖父母と同じ悪を殲滅し続ける功績は老人の自慢だ。彼女も我が子の成長を喜んでくれるだろう―――――――――――――――――――――見せてあげたかった、と思うのは感傷にすぎるか。




もし誰かが老人の心を聴いていれば、ある独裁者に総てをささげて仕えたユダヤ人親衛隊員を思い出すかもしれない。




老人は、ふと思う。

当時、未熟であった自分に今の自分と同じ知識があれば、幼なじみを造り直しただろうか?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――否。

作戦上、その労力はもっと別な場所に投じられるべきだ。つまり、何度繰り返しても、彼女は未来永劫、老人に殺され続けるのだ。




会場の片隅から見渡して、新たに表れた異世界の少女たちを確認する。老人は子供が好きだ。彼らはまっすぐだ。迷わずに、一直線に正義に向かう。


老人は司令官を囲む新たな少女たちを、その目を確かめた。憧れ、憧憬、そして、熱気。

改めて、思う―――――――――――――――――――――――――――――――子供はいい。


とりわけ女の子は善い、と。

同業者の中には『男の子のほうが扱いやすい』と言うものもいるが・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・必要なのは熱狂なのだ。


いささか不遜な者は『強者への依存と従属』などと珍妙な解釈をするが―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――正義との合一に過ぎない。

あらゆる時代、あらゆる場所、あらゆる民族で。地球上で無数に実践された技術。異世界で通じない道理は、ない。



子供が子供として扱われない場所、地球上でもむしろ多数例だが、ここも概ね条件は揃っている。


もちろん、老人には節度も矜持もある。

多くの世界と違い、老人の祖国は子供を子供として大切にするのだ。子供に銃を、武器をとらせるような、野蛮な真似はしない。


老人のやり方ではないし、そんなやり方は効果がない。

殺し殺されるのは、大人の役目だ。子供には子供にしか出来ない事がある。安全に、確実に、正義の為に。




あの、親が付き添う資格がない子供たちなら、子供と扱われない少女たちなら、立派に正義をまっとうする。歓喜と充足感、そして自主性、あふれんばかりの誇り。

正義はとても平凡で、とても素晴らしい。


選別はなされた。あとは教育、そして訓練、そして私たちはトモダチになる。

老人にはわかる。目に見えるようだ。






彼女たち、子供たちが、親と名乗る悪を告発する姿が。





「そうだろう?簡単な刺激とプロセスで、人は、心は、気持ちは、どんな形にも変わるのだから」


幕が上がる。あるいは、幕が降りたのかもしれないが。




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