異世界の流儀

自分がされたら嫌なことを、相手にしてはいけません。

自分がされたら嬉しいことを、相手にしてあげましょう。

もし、仲良くしたい相手に、上記のようにしてあげようと心掛けている者がいたら、僕はこう言ってあげるだろう。

身内なら。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――死ね。

身内以外なら。

――――――――――君にふさわしい商売があるんだがね。

共通点は、短い付き合いだということだ。

相手を自分の鏡のように見る者がいたとしたら、商人には向いていない。商人以外の何かに向いているのかと言えば、なにも向いてないのだが、まあ、どうでもいい。

他人にはいつも驚かされるものだからだ。他人を自分に当てはめるなど「海はどこまで行っても同じ」とばかりに海図も水先案内人も持たずに進むようなもの。

海図がなければ作らなくてはならない。案内人がいなければ育てなくてはならない。

相手が求めるモノ、厭うモノを察するというのは理想的であるだけに生半可なことではない。時間と手間と金をかけ、才能と知性によって成り立つ。

何一つ持たないものが、哀れな口上に飛びついて、詐欺師の門をたたくのだがそれもどうでもいいことだ。

理想を実現するまで息を止めておける者はさておき、ごく一般以上の者は理想をかなえる間どうするべきか。

簡単だ。

聞けばいい。

何が欲しい？

何が嫌だ？

それは良いのか悪いのか？

もちろん『答え』など期待してはいない。

当たり前だ。

言葉などいくらでも飾れる。意図するしないにかかわらず飾ってしまう。誤解も嘘も勘違いもある。願望も予測も思い込みもありふれている。

そもそも、世界の誰が、僕に、事実を伝える理由がある？君はどうかな。よもや自分自身以外の他人が君に事実を教えるとでも？

僕は期待している。

もちろん『応え』を期待している。

返事をするかしないか。進んで答えるかためらうか。すぐに理解するかしないか。抑揚は？声量は？表情は？

事実、事実に近い状況は、『応え』の断片により自身の中に浮かんでくる。

まったく簡単だ。

聞けばいい。訊くだけだ。聴くだけでいい。

そう。

青龍のように、尋ねればいいのだ。

それこそが、まったく異質な彼らが、僕らの世界で好きかってやれる理由だ。

単に力を振りかざすだけなら、世界をすべて焼き払っていただろうし、別に青龍はそれでもかまわないようだが、僕らは困る。大いに困る。龍でも神殿でも何でもいいが、大変に感謝する。

青龍が愚かでなかったことに感謝すべきだとは思わない。愚かならあんな高みには登れなかったのだから、必然なのだ。

そして残念ながら愚かな者は僕らの側にありふれている。

例えば、僕と商売仇の商戦に手を突っ込んでくる輩だ。それがどんな危険を伴うか理解もせずに。あやうく僕の地元を消滅させかねない愚行！

それが僕の身内なら、娘ともども樽に詰めて港に沈める・・・・・・・・いや、青龍の人魚姫が泳いでいるからマズいか。できるだけ沖合？浜でもいいかな。

まあ、僕はその始末を商売仇に任せることにした。身内の不始末は内々につけたいだろうと察したのだ。

今夜は、邸宅街で一番大きな館から、悲鳴と破壊音がするだろう。

だから、警備本部に出ている船員たちには『近づくな』と命じておいた。盗賊ギルドの愚連隊は、そもそも夜中は南側高級住宅街には近づかない。

騒動を聞きつけて殺到するのは衛兵たちだ。衛兵たちなら両替商の身内だ、部外者と違い遠慮する必要もない。

お嬢様は遠慮なく衛兵を追い払い、自分のものだと思っている男に、新たな娘を押し付けて妹を家に連れ戻そうと画策した兄バカに制裁を、思う存分、加えるだろう。

ザマーミロ。

【太守府/港湾都市/北街道/北門】

俺が浜辺から戻ると出迎えが待っていた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、これ。

俺はとりあえず、国連軍文官衆、まあ坊さんと役人だが、を呼ぶ前に、こっちに来たから道々説明を頼んだ。

あ、っと思い振り返る。

と、浜辺で出くわした遺族の皆さんはそそくさと街中に戻っていく。エルフっ子が配慮してくれたようだ。

ありがたや、ありがたや。曹長といいエルフっ子といい、俺が気が付かない内に配慮してくれる。世の中うまく出来てるな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・反省してます。

毒気を抜かれたのか、盗賊ギルドの愚連隊も目から険がとれていた。Ｆ－１６の超低空精密爆撃が衝撃だったようだ。

そりゃそうか。

変わりに険が増えてるエルフっ子の眼。

何故だ。

俺の目の前に、怯えている子供たち。造り笑いが痛々しい。

まさに、なんだこれ、だ。

歓迎パーティーかな？痛々しいけど。

っと言いたくなるくらいに着飾った女の子たち。本当の意味で『女の子』で年のころはシスターズの小さいほう二人くらいに見える。

セレモニーかな？痛々しいけど。

花束贈呈とか。まあ、このくらいの女の子だと、結婚式で新婦への付き添いを連想するが。あいにく場違いだ。

何故か離れた場所に親らしき紳士淑女っぽい、まあ、親子揃って生活に不自由してなさそうな方々である。配置おかしくないか。

なんか親が応援してるな。子供らも頷いている。運動会？

にしても、なぜ街の北側、中級以下の庶民の生活圏、の更に先、しかも奴隷市場というガラが悪い場所に集まってる？

まあ、なんだか知らんが、俺はとりあえず、屈み込む。なにやら慎重に接近を試みている、俺に、な子供たち、に話しかける。つくづくネコと子供の共通点は多いな。

「帰れ」

あ、ヤバい。子供が泣きそうだ。言い方がアレだったか。

「もう少し大きくなってから遊びにこい。自分が遊びたいならな」

まあ、浜辺なら南側の方がいいと思うが。

「「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」」

よし！笑顔。

頭を撫でながら言うと、皆わかったようだ。なにやら親たちが色めき立っているが、そもそも止めろよ。

「二度と連れてくるな」

近くの奴隷市場の迎賓館は、黒旗団が拠点化してるからね。

ガラが悪い。ドワーフとか獣人とか人間の中でも特に元カノとか。

「子供を守れ」

特に元カノは教育に悪い。あれで子供ウケするから見習いそうで怖い。こんな人形チックな子供たちがいつか銃剣を振り回すようになるんだろうか？

まあ、子供を守れって、親に言うのもおかしい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・中世なら、そうでもないか？

いや、彼らは富裕層のようだから、意味合いが俺たちと違っても、子供は守る対象なハズだから、いいよね。

そう伝えたら、皆が平伏。汚れるよ？

エルフっ子が親子連れを誘導してくれた。眉間のシワが怖い。

俺を睨んだ、なにゆえ！

【太守府/港湾都市北方城壁/見張り台】

わたしが泣き止んだので、ちいねえ様が微笑まれました。いえ、ご主人様と離れた、だ、け、のはずなのに、涙、止まらなくなってしまい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「大隼はすごいわね」

龍、海龍、土龍そして、隼・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すごいの、かな。

恐ろしく、禍々しく、惹きこまれる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぅん、わたしは、もう、龍の中。

「貴女の涙を止めるくらい、すごい」

え。

あぅあぅあぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いじわる、です。

「ご領主様にお願いしてみる？『正式に』召し上げていただく時も、大隼を呼んでいただけますように」

え？？？

「貴女、絶対に感極まって泣き出しちゃうでしょう」

だだだだ、ダメです！！！！！！！！！！そそそんな！！！！！！！！！！差し出がましい！！！！！！！！！！お側に置いて頂ければ！！！！じゅじゅ！！！ぶん！！！

「あら」

と、頭目さん！

「それは三人で？」

追い討ちですか！

「もちろん」

ち、ちいねえ様！！！！！！！！！！

「あれはアタシのだって言ってるでしょ！！！！！！！！！！」

青龍の女将軍さん！独り占めさせませんから！！！

【太守府/港湾都市北方城壁沿い/北岸地域住宅街/青龍の眷属中央左列】

わたくしたちが歩く。Ｃｏｌｏｒｆｕｌのみんなが続く。先頭は頭目さん。背後が青龍の女将軍。

街中から人が集まったみたい。

『とむらい』という、皆には馴染みないお話。

わたくしも死者を祀るというのは見たことがありません。一族で亡くなった人を惜しんで、遺族を慰める事は何度かあったけれど、市井にはそれすらない。

だから皆が『とむらい』に興味をもつとは思えない。

まあ、ご領主様らしい。誰が理解しようがしまいが。誰が興味を持とうが持つまいが。なさりたいようになさる。

ただし、その前に、わたくしたちに一言。

『侮辱にあたるか？』

みなで、否。

遺体の始末には、相当な薪、もしかしたら、油も必要。

すべて消すなら、皆が歓迎するわ。

おわかれする人もいるでしょうけれど、そろそろ傷んでくるし。もしうちの一族で、故人を長くたたえるにしても一度焼いてしまいますもの。

だから、ご領主様のご自由。

わたくしたちとご領主様、それに青龍だけの、他の誰も関わりない事。

なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・街中が集まった。

別に集めたわけじゃない、はずよね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それだけ注目されているわけ、か。

ご領主様が、そのついでに、わたくしたちが。

終わった後も、皆が集まったまま。

街の片付けに、立て直しはどうなっているのかしら。

まあ、いいわ。

女で男の格が決まるのは、こちらの流儀。

青龍には、とりわけ、ご領主様には興味がない。

だからこそ、わたくしたちが皆に教えてやらないとね。

ご領主様の格を。

これは、街の皆への親切なのよ？間違えて滅ぼされないようにしてあげるのだから。

【太守府/港湾都市北方城壁沿い/北岸地域住宅街/青龍の眷属中央右列】

わたしはキョロキョロしてしまい

「だーめ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちいねえ様に怒られました。

でも

「なにか変よね」

ちいねえ様も、わかっています。

集まった街のみなさんに、青龍の女将軍さんが向ける笑顔・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、みなさん緊張気味ですけど、笑顔で応えてくれます。

青龍の女将軍さんは、なんというか、豪快、というか、みなさんが親しみ易い気がします。

わたしはどうしても、ご主人様との間を邪推されて・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・困ってしまうのですが。

「嬉しそうね」

ちいねえ様！違います！！！！！！！！！！それよりも、街のみなさん！ほらほら！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぅ。

先頭の頭目さん。

みなさんの、注目の的。

すごく、その、艶っぽいので・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大きいし・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・道々、盗賊ギルドの子分さんたちが頭を下げてます。

続くわたしたち。

ちいねえ様が笑顔を向けると、みんなが笑顔を返してくれました。

「え・が・お」

ちいねえ様に言われ、わたしが真似をすると、大抵の人は微笑み返してくれます。

これで、ご主人様のお役にたてるんでしょうか？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ？

Ｃｏｌｏｒｆｕｌのみなさんは周りを見ません。

だから、変だったんだ。

いつも、わたしが何も言わなくても、気にかかることは訊いてくれるんですが。

「どうしましたか？」

と翠さんに聞くと、困ったように笑います・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わからないんですけど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・察しないといけないんですね！

うーんと、うーんと。えーと、えーっと。

あえて、笑わないようにしてる？なんでＣｏｌｏｒｆｕｌのみなさん、だけで集まって、ううん、身を縮めて？身を隠すような仕草・・・・・・・・・・・・・・・街中で何から隠れるの？

・・・・・・・・・・・・・・・なんだか、変な視線を感じる・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしはそっと、周りを伺います。

あの辺りから、見られていたような。

でも何故か、その辺りは皆が下を向いています。

なんでしょう？

なに？

もう一度。

そーっと、うーん、また、皆さん目を伏せてます。

探し物じゃないみたい。他の、ほとんどの人たちは、わたしたちを、というより青龍の女将軍さんを、珍しそうに見てるだけなのに？

・・・・・・・・・・あれ？わたしが見る前に、顔を伏せた人たちの辺りを、青龍の女将軍さんが先に見ています？

なにか、失礼があったのかしら。

さすがにもう、街中で、青龍に気が付かない人はいないと思うけど。

ぼにーてーるの長い黒い髪、黒い瞳。

目立ちます。

青い帽子がなくとも『青龍』ってわか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちがいますね。

色じゃない。

でも、色でわかる、青龍の色。

黒い瞳に浮かぶ色。

すべてを見ている。すべてを知りたがる。すべてを『いらないもの』扱い。

無邪気な瞳。

巨大な、強大な、赤ちゃんのような、眼。

【太守府/港湾都市北方城壁沿い/北岸地域住宅街/青龍の眷属一行の後ろ】

僕が指図するまでもない。棍棒に革を巻き、打撃音を殺していた。

まったく、配慮が行き届いているのは、頭目の仕事か。

これなら、魔女達に気が付かれない。

盗賊ギルドの愚連隊が殴り倒す。

青龍の眷属を、ただのハーフエルフ扱いした者を、制裁するチンピラ。

青龍の女将軍が侮蔑の目に気が付く。視界が広いのは軍を率いる将軍ゆえか。

その視線に反応した愚連隊が無言で、視線の先に駆け寄り囲む。囲まれたものは老若男女、声を出せないほどに震えている。

事情を察した街の皆が、非難の目を向けるが、皆、声を出さない。敏感なのは、愚連隊だけじゃない。

――――――――――――――――――――とてもいいね。

愚か者は、青龍の一行が行きすぎてから殴り倒され、口を塞がれ跪かされ、頭をねじ上げられ、皆から非難の目を向けられながら、苦痛と恐怖の眼差しで一行を見送る。

この制裁は、青龍の意志ではない。青龍の基準に沿ったモノ。だがそれを、青龍の眷属に知らせてはならない。それも青龍の規範。

――――――――――――――――――――それを僕たちが知らしめなくてはならない。

青龍の青をまとう限り、ソレは人間ではない。エルフでもない。ハーフエルフでもない。奴隷でも貴族でも市民でもない。

あってはならない。

それは――――――――――――――――――――青龍の眷属である。

それだけでなくてはならない。

青龍の色。

青への侮辱が持つ意味は街中に知れ渡っている。

造船所で、青龍の眷属をハーフエルフ扱いした、愚か者。

それがどうなったか、高く高く掲げられて知らしめられた。

周りの機転が無ければ、居合わせた数百人が皆殺しだ。

それを理解しなければどうなるか、街中が知っている。無知な、無分別な、一人のせいで何が起きるか。先ほど浜辺で何が起きたのか。

それが見えなかった者も、街中を震わせた龍の（隼の名は知られていない）咆哮を聴かなかったものはいない。

僕は青龍の女将軍を見た。

愚か者を視線の片隅に留め、嗤っている。愚か者を打ちすえる皆を見て、笑っている。

青龍の女将軍は、青龍の貴族より、寛大なのだろう。

青龍の貴族なら、ある一線を越えれば殺す。

何人でも、何百人でも、誰でも、街でも。

警告も注意もない。

まったく表情にも出さず、どこにあるか判らない逆鱗に、触れてしまったら最期。

いや、表情は、読めるらしい、魔女やお嬢様、愛人のエルフには・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは他の誰にも意味がない。

エルフが、周りに聴こえるようにつぶやいてみせた。

『青龍の好悪は皆と同じ』

確かに、腑に落ちる。教授に感謝もする。だが、誰にも不快感を与えずに生きられはしない。

それが命に関わるか否か、よく考えればわかるが、基準が、とっさにはわからない。

それが理解できる眷属以外、青龍の貴族の側にいる者は諦めるしかない。

気が付いたら、殺されていること。

気が付いたら、自分のせいで街が滅ぼされていること。

僕のように青龍の眷属ではない人間には、破滅を避け続ける自信はない。まあ、だからこそ、魔女の助けが文字通り、生きるのだけれど。

青龍の女将軍は『しつけ』を黙認する。

殺す前に殴る。殴らせる。

痛いのが嫌なら、そこから先にすすむな。

そう理解する、させる、機会を与える。僕らが殴り殴らせるのを笑い『それは間違っていない』と知らしめる。

きっと、帝国兵だった黒旗団を支配する過程で身につけたのだろう。

そして、見えて来た。

青龍の女将軍が虎のようにじゃれついている。

――――――――――――――――――――本当に恐ろしい、痛みを与える前に殺す、青龍の貴族が見えてきた。

【太守府/港湾都市/北街道/北門】

あたしは助かった。青龍の貴族、彼のその、何というか、鈍さに。

ううん、発想がないんだから、鈍いって言うのはおかしいのだと判っては、いる。

そこがす・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいや、助かるところ。

もし気が付かれたら、皆殺しじゃ済まない―――――――――――――――――――街が消える。

あの少女達。

親に何を言い含められて来たのか、見当はつく。

あたしだけじゃなくて、誰でもつく―――――――――――――――――――青龍以外には。

だけど、わかってしまう自分が、汚れているのを思い知らされる。青龍の貴族には見当がつかないどころか、掠めもしない、あの女の子たちが自分に差し出された、なんて。

笑顔に隠した緊張、恐怖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まあ、その反動で、解放してくれた青龍の貴族に本当の笑顔を見せていたけ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、いいけど。

それよりなにより、娘を差し出したのは、街の上流階級。

富裕層が集まる南岸地区の有力者。

家の為、親の為、金の為、当たり前にいくらでもあること・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしが否定する事じゃない。

でも、子供が、って、だけで腹が立つ。

でも、あたしはそこまで。思うだけなら、何もないのと同じ。

だけど、青龍の、青龍の貴族には、逆鱗に触れる内容だ。そして彼が感じるということは、怒るということは、世界の一部が消滅すること。

彼は、あたしたちの在り方に口を出さない、ようにしている。

従えること、命じること、支配することと―――――――――――――――――――――――――――それとは違うらしい。

ただしそれは、あたしたちに遠慮しているからじゃない。配慮しているわけでもないし、気を使う気なんかない。

口を出さないことそのものが、青龍の規範。誰かに約束したわけでもなく、それを一方的に守っている。そのようにしたいからしているだけ。

だから、そうしたくなければ、そうしない。

青龍は他の何かに・・・・・・ううん、『他』なんか気が付いていないみたい。

だから、あたしたちの在り方、とも認めたくない、在り方が青龍の逆鱗に触れたら・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの三羽、大隼が戻ってきていただろう。

そうなれば、街ごと消し飛ばし、青龍の貴族は『自分が少女たちを消してしまった』と気が付く。

悔やみはしない、と、思うけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それを、あたしは避けたかった。