幕間:奇貨居くべし
登場人物&設定
※必要のない方は読み飛ばしてください
※すでに描写されている範囲で簡単に記述します
※少しでも読みやすくなれば、という試みですのでご意見募集いたします
【登場人物/一人称】
『僕』
地球側呼称/現地側呼称《若い参事、船主代表》
?歳/男性
:太守府参事会有力参事。貿易商人、船主の代表。年若く野心的。
『わたし』
地球側呼称《魔女っ子》
現地側呼称《あの娘》
10歳/女性
:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。主に魔法使いローブを着る。
『わたくし』
地球側呼称《お嬢》
現地側呼称《妹分/ちいねえ様》
12歳/女性
:異世界人。大商人の愛娘。ロングウェーブのクリームブロンドに蒼い瞳、白い肌。身長は130cm以下。装飾の多いドレスが普段着。
【用語】
『青龍』:地球人に対する異世界人の呼び名。国際連合旗を見て「青地に白抜きでかたどった《星をのみほす龍の意匠》」と認識されたために生まれた呼称らしい。
『赤龍』『帝国』:地球人と戦う異世界の世界帝国。飛龍と土竜の竜騎兵と魔法使いを組み合わせた征服国家。特段差別的な国家ではないが、エルフという種族を絶滅させる政策を進めている。
『魔法』:異世界の赤い目をした人間が使う奇跡の力。
『太守府』:帝国の行政区分をそのまま国連軍が引き継いだ呼び名。領地全体の呼び名と中枢が置かれる首府の呼び名を兼ねる。
『参事会』:太守府を実質的に支配する大商人たちの集まり。五大家と呼ばれる5人が中心メンバー。
『港街』:太守府の最大貿易港。領内で首府に匹敵する価値を持つ。盗賊ギルド、貿易商(船主)、参事会がしのぎを削る。
安く買い、高く売る。
そんな作業は「あきない」ではない。
余っている物を、足りない場所へ。
そんな流れは「あきない」ではない。
誰もが価値を認めないものを、誰もが求め狂う至極の逸品となす。
それが「あきない」だ。
器ひとつが城にひとしく。
野花一つをみなが追い求め。
一人の少女が世界を創りかえる。
替えるのではに。
換えるのでもない。
無から生み出すのが商人である。
春の空。
港の海。
壁の先。
おだやかな季節。
音もせず、香りもせず、夢か現かわからない。
―――――――――――――――――――――――みなを、港街の幾万のみなを満たす空気。
巨大な影は早すぎて、だれも見たといえなかった。
その咆哮は恐ろしすぎて、誰も夢とは思えなかった。
壁の向こう、堀の向こう、林の向こうの広い広い砂浜。広い広い炎に覆われて、赤ともいえぬほど赤々しく輝いている。
城壁の人だかりは、大勢の、大勢の大勢の人だかりは、呆けて立ち竦み、音もしない。
僕は一行に続いた。
青龍とその眷属。見張り台から城壁へ。城壁上の人々は、呆けていながら一行を感じると慌てて道を開ける。時折、壁から落ちる音がするが、それでも声がしない。
魔女が慌て、ソレをみとった衛兵たちが何も言われずとも走りだす。
彼らは城壁をおり、道を進む。戻ってきた街中の喧騒は、何が起きているかわからないが、何かが起きたことだけは解る野次馬たち。街中を打ちのめした龍の咆哮だけが語られている。
彼らについて歩く僕はこれでも太守府参事会参事。
同時に船主の利益代表。
つまりはこの邦の金と人を差配する組織の要職にあり、かつ、その参事会を仕切る五つの家系、それは各業種を代表する家の当主なので、その一人が僕だ。
そのなかでは若輩者ながら主導権を得ているし、ここは僕の生業にして基盤である船主の本拠地。
僕が一番強い力を発揮出来る場所と時期。
これまでで最大の力を得ながら
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――それが通用するとは限らない。
ままならないものだ。
その僕が付き従う一行。
いつのまにか生まれた『青龍の眷属』というの呼び名。
青龍の一員ではない、だが、青龍の身内と扱われる一握りの集団。眷属とは言い得て妙ではある。
いまここにはいない、青龍の貴族、その両脇を固める少女・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と言うには幼い幼女に童女。
この邦の代表を押し付けられた魔女。
邦を統べる参事会からの人質に等しいお嬢様。
青龍の貴族に、支配者に一番・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・まあ、趣味はいろいろだ・・・・・・・・・・・・・・・近しい二人。
可愛らしいお二人でもあり、昼も夜も常に、そろって、青龍の貴族とご一緒であられるのは、いささか健康上の心配をすべきところでもある。
・・・・・・・どんな配慮をすべきか、僕にはわからないが。
まあ、どんな趣味であれ幸いなのは、青龍の貴族が自分で調達することだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・むろん商いとして、何を求められようと調達するが、改めて、新たなツテを創らずにすんだ・・・・・・・・その世界には暗いので、まあ、よかった。
・・・・・・・・・・・・僕の一族に適当な娘がいないからな・・・・・・・妹は、本来であれば娘盛りだが、青龍の貴族が求めるには・・・・・・・・・・少し年がかさみ過ぎている。
まあ僕にとって、あるいは、この邦に住まうものにとって、重要なのは、そういう事じゃない。
二人のどちらが妻になるか、だろう。
二人は青龍の貴族、その正妻候補。
青龍の貴族、その意図は珍しくもない。史書を紐解けば、攻めとった土地の血を取り込むのは征服者の常道だ。
赤龍のように旧来の王侯貴族を根絶やしにする方が前例がない、異常なのだ。
もちろん「敗者の血を」と言うならこの場合は、帝国太守の姫が妥当だろう。
だが帝国太守の家族がこの邦を離れたのは、青龍の貴族が訪れる1ヶ月以上前。逃げてしまえば仕方ない。
それに土地に馴染まなかった赤龍の家系が何の役にたつのかと言えば、疑問だろう。
趣味はともあれ、僕には理解出来ない趣味ではあるが、青龍の貴族は巧い相手を選んだとは言える。
一人は特別、というより特異な立場になる、寄る辺なき魔法使い。
もう一人は、この邦で有数の富裕、そして旧い信用をもつ大商家の愛娘。
この子ら二人が親友であるということ、同時に青龍の貴族に召し上げられたということ、当人達がそれを喜んでいることがなんともありがたい。
手間が省けたし、心が痛まないし、危険が減る。
そして僕は魔女に賭けている。
魔女。
それはやはり帝国の政策とは別に、貴種だ。
赤い目は、帝国以前から特別だった。
「魔女」
「巫女」
魔法使いだけが重視される帝国の方針で、ここ十年、意味が曖昧になってしまったが。
竜とならぶ帝国の象徴が魔法使い。
反帝国の象徴が巫女神官。
帝国が掲げる魔法使い至上主義。
帝国に対抗する、いや、していた大陸諸国が掲げた統一神殿。
それこそ、ここ半世紀ほどの思い込みだ。
知識として廃れても、在り方が変わる訳もない。
史料伝承を読み漁ると飾りが多いが、つまらん枝葉をはらってしまえば、力の現れ方により
「魔法使い」
魔法で目の前の事物に影響を与える者。燃やしたり、癒したり、飛んだり。
「巫女神官」
祈りで目の前の世界に影響を与える者。冬の寒さをやわらげ、豊作をもたらし、災害を予見する。
それを呼び分けただけにしか読めない。
まあ、僕も実物を間近に見比べた訳じゃないから、断言まではしないが。
ともあれ具体的に何が出来ようが出来まいが、生来の資質により
「魔法使い」
か
「巫女神官」
かが決まり、瞳の色で
「人とは違う」
と主張せざるを得ない。
努力も家系も資産も信用も、全く関係ない。本人や家族の意志も都合もない。
選ばれし者。
誰が選んだのかは知らないが、帝国は「龍の恩寵」と呼んでいる。
まあ、僕が集めた話によれば、わずかに70年ほど前、魔法使いを大量に登用して帝国が生まれた。
それ以前から龍の民、帝国の支配種族は何百年前から居たのだが、それまで特に魔法使いを多用したわけではない。
北の辺境に住まう、略奪を生業にする部族たちだったという。
まあ、ずいぶん「龍の恩寵」を無視していたものだ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などと、前のご領主様の訓話を聴きながら思っていた。
帝国以前、赤い瞳の子どもが生まれると、地元の神殿に預けられ、魔法使いになるか巫女神官になるまで養育された。
そのころ、帝国が世界征服に乗り出す前は、神殿も諸国で、いや、国の中ですら統率なくまちまちに存在する祈祷所のようなものだったらしい。
その頃に生きてたものは誰もいないが。
帝国以後は、帝国が組織的に魔法使いを育成するために、強制ではあるが、十分な対価を払い、赤い目の者を帝都に連れて行く。それは本土、属領はおろか占領地でも同じだ。
王国が滅ぼされた十年前、赤い目の子供を預かっていた神殿は真っ先に帝国兵が制圧した。
巫女神官は広場で石打処刑されたが、子供は帝都に送られ、親にも対価が与えられた。以後も、年に一人くらいは赤子が帝都に引き取られて行く。
そして僕の前を行く魔女は、その父親も魔法使いだった。
成人し力を持った魔法使いは、帝国に尊重される。魔法使いを重んじる国是もあるが、魔法の研究を進める為に、土着の魔法使いを見つけては保護し、知識を差し出させる為だ。
だからこそ、娘は帝都送りを免れた。
親子で魔法使い。
こうなると、まるで魔法使いの家系に見える。
――――――――――――――――――――――――――まあ、それはない。
赤い瞳は受け継がれない。
そんな容易いことならば、魔法使い同士をつがいにする。みんなする。実際、馬でも竜でもエルフでも、みんなやっていることだ。
誰もやらない、ということは、そういう事。
たまたま、赤い目の子供が産まれる事がある。
農夫にも、商人にも、娼婦にも、奴隷にも。だから、魔法使いの妻が赤い目の子供を産んだだけ。
だが、大切なのは「そう見える」ということ。
なにしろ、誰にでも起こり得る、が、絶対数が少ない。それは無知が大半だということ。僕ならば、明言せずに責任を回避して、軽い演出で全員に信じさせる自信がある。
商品に色を付けるのは当たり前の事。
この辺りに目を付けていたのは、僕ともう一人くらいだ。
価値に気が付いているだけではなく、魔女の恨みをかっていないのも二人だけ。
――――――――――――――――――――――――――つまりは僕の商売仇。
魔女の恨みは何かといえば、あれやこれやそれ、どころか一つ二つじゃすまない。
参事会がこの子の父親を死に追いやった。帝国が父親を殺さなかった理由「魔法知識の採集源」としての価値。すでに帝国がその価値に見切りを付けているのを察知出来ずに、無理な陳情を押し付けて、しかも撤回して見捨てた。
はしごを外され孤立無援。あわれ彼は竜の餌。
そもそも、危険を冒す理由がない、保護までされないとはいえ尊重されていた魔法使い。参事会がどうやって利用していたのか、察しはつく。滅ぼされた前王国の宮廷にかかわっていたらしいから、そのあたりで脅迫されていたんだろう。
そして父なし子になった後も、帝国が魔法使いを特別扱いするのを利用して、魔女に太守への危険な陳情を押し付け続けた。
―――――――――――――――――――――――――毎回毎回、命の危機。
どれもこれも旨みがまるでない上に、魔女にとって危険な話ばかり。情に訴え、なだめて、脅し、父親の真心とやらをねつ造して、親の使命を継ぐ使命感を押し付け、操っていたのだから。
いやはや。
――――――――――――――――――――――――――良くまあ生きていたものだ。
さずがに前太守も、子供に過ぎない魔女に同情したのかもしれない。強いものは寛大だ。まるで同情せずに利用し続けた参事会とは裏腹に。
その恨みの積み重ねに、新参者の僕は関わっていない。
何しろ家を継いだのが、一年前。魔女が参事会に利用される頻度が極端に落ちてしばらくたってから。しかも、若輩者故にそうした微妙で重要な話にはかかわっていなかった。
つまり、魔女に純粋な後援者として接触出来るのは僕だけだ。
そして青龍の貴族に気にいられた容姿といい、年齢に似合わぬ聡明さといい、十分にお嬢様に対抗できる。なにより、こちらの好意を理解して、それに対して返礼をする。
――――――――――――――――――――――――――この僕が、何度か危険を救われているくらいだ。
競合相手がいないから、利益率が最大。
そして正妻競争で勝ち得る素質がある。
取引の意味が通じる。
僕の立場になれば、誰でも魔女に張ろうというものだ。
そして僕の商売仇にして、魔女の対抗者。
お嬢様。
参事会での潜在力で言えば一番強い、銀行家の愛娘。
辣腕な父親は太守府全体の金の流れを握る、両替商に金貸しの元締め。他の業種とは違い、すべての業種に広く手を伸ばし、こと商売に限れば一番の情報通。
参事会を仕切る五大家の一つであり、最も古い家柄でありながら一度も参事会議長に就任しないのはその力故。
議長になどなれば、他の業種が圧倒されてしまい均衡がとれないし、代々続くこの家の当主も参事会最高責任者という地位に旨みを感じなかったらしい。
まあ、上に立てば遠慮しなくてはいけないところも出てくるしな。僕ならそれを狙って彼を議長にしてしまうところだが、歴代の参事たちは賭け事が嫌いだったらしい。
そして、不覚にも、肝心のお嬢様について、僕は何も知らなかった。
跡継ぎの兄はいるし、そもそもただの子ども。それを溺愛する父親と兄を懐柔する為に、社交の一環として趣味や好みを把握していたが、それだけ。
つまり愛玩人形の一種としてしか見ていなかった・・・・・・・・・青龍の貴族が訪れるまでは。
その時。
まるで動きを気取られぬうちに、気がついたら隣にいた。
新しい支配者。
青龍の貴族の隣に。
しかも、あちら側に。
青龍の貴族が、無造作に太守府を滅ぼそうとした時。青龍の騎士たちは陣形を組み、僕たちと対峙した。
無造作に先頭に立つ青龍の貴族、つまりは誰にも傷つけられないからだが、その奥、青龍の騎士たちが守る三人。
その一人が、お嬢様だった。
僕らが初めて遭遇する支配者に、守護されるその姿。
当然、僕は父親の仕込みだと思った。新しい支配者に抜け駆けで娘を贈り、参事会すら超える力を手に入れるつもりだ、と。
それは商家に生きる者であれば当たり前だ。
僕は出し抜かれた悔しさをかみしめながら、それならその後について、いずれそれを凌駕する力を・・・・・・・・・などと考えた。
一瞬で撤回。
そもそも、父親と一緒に殺されかけるなど予想外に過ぎる。しかもその後も、事あるごとに、自らばかりか周りの僕たち参事をすら破滅させかねない勢いで、娘を青龍の貴族から引きはがそうとする。
・・・・・・・・・・・・・・・・その都度、バカな父親を跳ね除けるお嬢様と僕は、同じ感想を抱いただろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――親バカだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・偉大なる先達の、意外なる弱点というべきか。
だが、どうしてどうして。
先達が偉大ではなくなったからと言って、気を抜く要素は全くなかった。タダの子どもではなかったのだ。お嬢様は。
瞬く間に青龍の貴族に取り入る手腕。
これは様子を見るに、お嬢様自身が、まったく不愉快そうではないので、青龍の貴族がお嬢様の好みでもあったのだろう。
商略と趣味嗜好が一致するのは、決して稀有なことではない。むしろ自然で、大商いはそこから生じる。本当の商人は、嫌いな相手に品は売れないし、蔑んでいる品をだれにも売れはしない。
いささか、攻撃的に過ぎるようではあるが、理解はできる。僕が助言する側であったらまさに積極策を進言するだろう。
取り入るだけではなく、取り持つ立ち居振る舞い。
五大家の一つ、その中でも力を持つ家の娘に声をかけられて、否と言える者がいるわけがない。むしろ、青龍の貴族との間を取り持たれれば感謝するだろう。
利益を見出す余裕があるものこそ、まだまだ少ないが、破滅の道から救われれば十分に過ぎる。
傍若無人な青龍の貴族。
おびえおののく参事会に、王城の使用人たちに、無数の市民。それを巧みに取り持つさまは、社交界で培われたのかもしれない。
僕自身が、いわゆる「良家の子女」のアレコレを、女子供の暇つぶしとして甘く見ていたのが悔やまれる。
実際のところ、青龍の貴族が一番必要としているのはこれなのではないだろうか?
(・・・・・・・・趣味の充足を別にすれば)
焼いてしまっても構わない。
焼いてしまいたい。
青龍の世界においても、それは全く別なのだろう。
そして、青龍の内陣まで見えぬ身であれば、想像するしかないが、参事会や太守府、この邦の様々な情報を献上しているだろう。
お嬢さまの立場なら、本人が知らずとも、父親が顔をしかめようとも、手代や番頭、支配人は協力する。いくらでもその手の話を集める事ははできる。
参事会で一番強い力の家が持つ知識とコネ。つまり邦中の情報が、青龍の貴族に筒抜けになる。
魔女とお嬢様。
お嬢様は魔女の価値に気がついている。
僕はここ数日で慌ててこの恐るべきお嬢様を調べ上げた。
父親に手を回し、参事会の横暴(控えめな表現)から魔女を保護していたのもお嬢様だ。
社交に精を出す傍ら、忙しい間を縫って魔女のところに足しげく通っていたのも。
帝国ににらまれるという理由で非常に危険だったのに、エルフともどもわかりやすいくらいに公然と親しくしていた。
どこの誰にでも、見える場所で、堂々と。
魔女が一緒にいない時ですら、魔女が自分の庇護下にあることを宣言していたくらいだ。
社交界では異常とみられており、そのことが生み出す不利益は、相当なものだったろう。すくなくとも、良い縁をえて、ご婦人たちの間でちやほやされて生きていく・・・・・・・・ご婦人たちの生きがいをまっとうする分には、致命的なほどに。
――――――――――――――――――――――自分で「あきない」を仕切るなら、屁でもない。
礼儀を守りながら内心で嗤っている、独立不羈の成り上がり商人のように。
既にある力で周りの商人職人を切り従え、さらに巨利をむさぼる大商人のように。
利と理を楽しみ、金を積み上げ、新たな商売を切り開いて、世界の果てまで目指すのなら。
社交界が居心地のいい場所である必要はなく、隠された敵意と侮蔑を受け止めるほうが、都合がよかったのだろう。
まったく、すでに何度か出し抜かれてる身には、頭にくる。頭にくるほどの強敵だ。
僕が後援する魔女は、まったくもって、不利。
一見すれば、勝負が始まらないようにすら見える。むしろ、それが我が商売仇の狙いだろう。
戦いの前に決着をつけることこそ、常道にして王道。
だからこそ、賭ける価値がある。
優位な側についても、何も得られやしない。約束された勝利に意味などない。それは勝者以外に望まれない、呪われた勝利だ。
負け犬はこういうだろう。
「得られずとも失うよりマシではないか」
日々がタダで過ごせるとは豪胆なことだ。無論、皮肉だが。
今日と変わらぬ明日に何の価値がある?
今日の費えの分、何も得られぬ明日は損失だ。失った機会を想えば大損だ。
第一、失う可能性は低い。商機はある。大いにある。
強さは弱さ。
商人としてこれほど恐ろしいお嬢様に、かろうじて先達の、僕が教えて差し上げよう。
恋は盲目。
妻の座は一つ。
ソレを譲り合う女などいやしない。
戦いを起こすことこそ、戦いに勝利すること。




