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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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幕間:軍事参謀委員会

【用語】


『国家』:国土と国民と政府によって成り立つ組織。異世界に転移した日本列島には国交の数だけ国家があり、人類社会を網羅している。大使館が国土であり、在日国民がいて、大使館関係者が設立した政府がある。日本の衆参両院が承認している。


『国際連合』:the United Nations/連合国、の超訳。異世界転移後の人類社会の総意を体現する組織。と国会で決まった。加盟国のほぼすべての外交防衛権を委託されている。黒幕は日本の一衆議院議員であるとマスコミに報道されている。


『国際連合軍』:国連憲章第七章に基づく人類社会の剣と盾。と国連総会で決まった。黒幕は元在日米大使の合衆国大統領であるとマスコミに報道されている。


『軍事参謀委員会』:国際連合の参謀本部。


『安全保障理事会』:国連実質的決定機関。もちろん、総会の承認を得てこそ正式な決定となる。異世界転移後は全て一任されている。でも、理事会の要請で総会決議がされることがある。


『常任理事国』:合衆国(米)、連合王国(英)、第五共和制(仏)、共和国(露)、統一中華連邦(中台合併)、日本。



異世界大陸地理概況(東から西へ)

・日本列島西側海洋を超えた先にほぼユーラシア大陸相当の広大な陸地

・列島と大陸間の距離は最短で約800km

・大陸中緯度に揚子江相当の大河があり大陸東部を南北に分割

・大河の源は西部山脈から発する複数の河

・沿岸部には穀倉地帯が広がり、大河源流の合流地域まで続く

・西部山脈(内陸境界)を超えた先が内陸部

・内陸部の境界山脈を越えると高原があり、内陸最大の農業地帯

・高原のさらに西には大山脈があり、その先が内陸深奥部と呼ばれ、平原から草原に至る

・草原のさらに先、北方には竜の生息地が広がる

・南寄りに西に進むと人口過疎地域ながらシルクロードを思わせる交易路が伸びているが詳細不明




国連軍

:大陸東側海上管制を確保。沿岸部主要港湾都市を占領ないし破砕。大陸東部を南北に分割し内陸部から東側海洋に繋がる大河を主進撃路とし、河沿いに西進。大河の内陸境界を超えて大陸深部に進出。主力15万は大河上流山岳部を越え内陸高原に到達。高原平野部を東西に分ける形で前線形成。帝国軍との距離は十数~数十km。



帝国軍

:国連軍部隊から最低十km以上離れて哨戒線を構築。高原平野部から更に山脈を越えて100km以上後方に30万前後の部隊を分散配置。街道沿いに兵站物質の集積を継続。最西方、内陸深奥部の帝都周辺に竜が集まりつつあり。北西の騎竜民族出生地から移送。訓練済みの竜が枯渇した可能性あり。


《プランBフェイズ1終了時点における戦術概況》






軍事参謀委員会。

国連憲章第七章47条に基づき、安全保障理事会の指揮監督を受ける。



「我々は大陸東側沿岸部を制圧後、中緯度から主力を内陸に突入させました」

合衆国陸軍将官。


「大河沿い、ほぼまっすぐに西へ」

合衆国海軍将官。


「帝国は沿岸部防衛を放棄し、西へ後退。大河が山脈に消える沿岸/内陸部境界付近の平原にて最初の迎撃」

第五共和制将官。


「これで30~40万を削った」

合衆国最高司令官。





「帝国軍は主力が殲滅されている時間を生かし、山脈越え」

統一人民共和国将官。


「兵、士官、騎馬に竜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・軍そのものの転進に注力。遅滞戦闘が無意味と知ると、それすら捨てた」

連合王国将官。


「殿は小隊~中隊規模に分散し、軍旗と自衛兵器のみで散開」

合衆国海兵隊将官。


「我々に補足された場合、更に分隊から小隊に分かれて逃げる。しかも、補足された後は北か南に向かう」

と共和国将官。


「明らかに、まだ補足されていない味方を救う為に、囮になっている」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――軍人たるもの、かくあらねば。


そう、常任理事国の将官は誓う。

例え囮の大半が瞬殺されていようとも。

目論見程に国連軍を引きつけられなくとも。



科学的思考に置いて『無駄と判る』事がどれほど大切か。



軍服を着た人形には解らないが、軍人には解る。

軍事とは科学なのだから当然だ。



ここに居る軍籍保持者は、事実としての軍人はかりだ。

皆、実戦経験を元に安全保障理事会から選抜された将官、佐官。

いや、実質的には合衆国大統領が選んだのだが。





国際連合安全保障理事会。

彼らは指揮下の軍事参謀委員会に、目的を与えた。

そしてその進捗状況を確認する為の合同会議。



常任理事国代表、実質的代表が中央3Dディスプレイを睨み、傍らの佐官に確認する。



「この理想的軍事行動が帝国軍の標準なら」

合理的にして献身的な囮たち。

「私は寝返って世界を征服するところだ」


参謀委員会の軍人は目をそらした。

常任理事国代表たちは笑いだす。



合衆国最高司令官、つまり大統領に眉をひそめる者はいない。



実際、捕虜の帝国貴族が国連軍将校を勧誘する事例が多い。

内通や裏切りを持ちかけるのではなく、転職を勧誘する感覚に近い。

このあたりの感覚は地球の中世と同じだ。



ほんの150年ほど前に国民国家という概念が創られる。

それまで国家という概念は無きに等しく、愛国心なども存在しない。



例えば秀吉の朝鮮出兵で、日本側の武将から朝鮮側に付いた者がいた。

それと同じ。


有利な側につく。

恩賞が多い方につく。

実力を認める方につく。


彼らは『日本/朝鮮/明』などという感覚はなく、戦国時代の、何時もと同じように行動しただけ。

そして中世準拠の異世界も、発想が同じだった。




「幸いにしてキミを敵に回す事にはなるまい」


日本の衆議院議員が笑いながら、合衆国将官に合図した。


「は、その通りです」

顔をひきつらせた将官は、感謝の視線を送る。


「同志的紐帯を確認出来た所で続きを」

ロシア共和国大統領が笑いとばした。


専門家以外への説明を含み、会議は続く。






「捕虜に確認した結果、帝国軍は後退時、兵員/部隊を四種類に分けます」


政治的な信頼性、精強さで分類。帝国内で特に機密でも無いために、簡単な尋問で判明。


「一番多いのが、政治的信頼性が低く精強」

平均的、ということ。

帝国軍の基準が厳しいだけで、軍隊として統制はとれている。


「二番目が政治的信頼性が高く精強」

帝国軍の中核。


「三番目が政治的信頼性が低く精強でもない」

新兵、あるいは常に一定程度は出る、処分すべきほどの低レベルではなくとも脱落した者。

地球の中世基準で見れば、決して悪くないが。


「四番目が政治的信頼性が高く精強でもない。彼らが、現在の殿です」




沿岸防衛線崩壊。第一次反抗失敗。二度の敗北で帝国軍は規定通りに行動した。

敗走中戦闘序列通りに。




「彼らが負けなれているとは思えないけれど」

ロシア共和国大統領。


「でもありません」

ロシア海軍佐官が答えた。



「戦争では常勝ですが、局地的敗北はそれなりにあったようです」

帝国戦史はユネスコの専門部署で編纂中。



それによれば、少数民族で世界を征した帝国。征服地で兵力を補充する帝国軍。

必然的に、統制に苦労する事が多かったようだ。


そして帝国を最強たらしめるものは、その組織力。

竜も魔法も付随品に過ぎない。


そして拡大に伴う不可避な混乱が組織力を破綻させる場合がある。

故に個々の力で圧倒しても、総合力で競り負ける場合が生じるわけだ。


大敗、と言えるのは数える位だが、撤退や転進は無数にある。

だから帝国軍は敗走についても経験を蓄積し共有していた。




「もちろん近年、征服戦争末期は全くありません」

十年余りか。

「だからこそ、我々と出くわした時に『教科書通り』に動いたようです」



行き届いた訓練の成果。


未知の敵、国連軍との遭遇。

初めての圧倒的大敗。


実際の経験を持たずに呆然とした彼らはおもわず訓練通りに行動したわけだ。




「近代軍隊の『理想』だな」

合衆国大統領は、いっそ羨ましそうだ。

帝国軍は真っ先に政治的信頼性が低い部隊を後退させた。脆弱な部隊から優先して。


「先に安全地帯に向かったのは、植民地兵、あるいは属領軍です」


常任理事国代表には怪訝な表情が多い。

わざわざ、信頼性が低い者、戦力にならない者を護るのか、と。




「これは道義的問題ではありません」


海兵隊将官は3Dディスプレイを見て、政治家たちから視線を逸らした。




殿は危険で割が合わない。

だから捨てても惜しくない部隊を充てる。

戦力としても忠誠心にも乏しい捨て駒・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなバカな配置を誰がするか。



殿は精強な部隊にしか務まらない。

信頼性が高い部隊にしか任せられない。


脆弱な部隊は時間稼ぎも出来ない。

忠誠心が無ければ逃げ出すだけだ。



かえって敵の追撃に勢いをつけ、味方の士気をそぐ。


しかも、逃げ散りながら暴徒化し、放棄せざるを得ない自国領のインフラを破壊、以後の作戦に響く。



敵もインフラを利用出来ない?

バカバカしい。



ナポレオンやヒトラーを破滅させたのは冬将軍だ。

焦土戦術なぞ戦術以外。

素人スターリンやツァーリの妄想でしかない。



特に兵士と農民の差が少ない中世で、そんなことを実行しようとすればどうなるか。



敗走中に住民と戦う?

隊伍を整えればバラバラな農民より軍隊は強い。

隊伍を整える時間、戦う時間、掃討する時間があれば。


進んで首を差し出す住民でもなきゃ、勝つ時間の為に軍が逃る時間がなくなるだけ。

二重三重に有り得ない。


だが、政治家には軍務兵役経験者が1人しかいないのだから、判らなくても仕方ない。





「まず政治的打撃を減らしたか」

日本の衆議院議員。


「死体の荒野はどんなプロパガンダより雄弁」

ロシア共和国大統領。


「誰も帝国を恐れなくなる」

「支配の源泉を護る為に、きれいに敗走するわけだ」

連合王国首相とフランス第五共和制大統領。


政治家達も専門分野には理解が深い。




「あくまでも傾向として、だがな」

合衆国大統領は唯一の軍人政治家。

「最初から敗走前提で部隊配置出来るわけもない」




特に緒戦、沿岸部防衛破綻時。

十数年ぶりの敗走で大混乱を起こす帝国軍。

だが彼らは数100km以上の敗走中に、徐々に部隊の順番を入れ替えていった。


「彼らはここである程度、学びます。我々の火力、機動力、数、海軍力、制空力」


そして殿が無意味だと。

殿を務めて精強部隊が城郭や森林、都市を利用して戦った。

そして一戦、あるいは一戦すら無しに全滅した。




「驚くべき事に、彼らは一度の敗走で学びました」


従来の殿は無駄だ、と。


地球上には事実から学べる人間、組織がどれだけあっただろうか。

そして考える。



「帝国にとっては、今までの征服戦争で培った立場の逆転に見えました」


これも捕虜の感想。

炎を噴く竜と魔法は、異世界諸国の城郭や騎士団を一戦で壊滅させた。

だから、帝国は自分たちが殿を生かす事があっても、敵の殿に困った事はなかった。


「殿に限った話ではありませんが」




その緒戦敗退から全てを見直した帝国軍。

その過程は捕虜から訊かなくてもわかる。

彼らの戦場での姿、振る舞いが何もかも語っている。




「帝国軍主力は彼らが言う『西方総軍』・・・・・・・・・・・・・・・これは大陸東部征服完了後に征西に転じる故の名称ですが・・・・・・・・・・・・・・・による迎撃作戦で初めて同種の戦力との戦いを想定したのです」




圧倒的火力、装甲力、機動力に制空力それらを生かす組織力と物量。

特徴を挙げれば帝国軍と国連軍は瓜二つ。


国連軍を自分たちの延長、と診た帝国軍は本質的に間違ってはいなかった。


彼らはその判断に基づき、沿岸防衛線を放棄。

帝国で一番豊かな大陸沿岸部を、単なる距離的障害として割り切り放置。

主力を後方から動かさない。後退中の部隊から国連軍の情報だけを抜き取り、魔法使いも竜も撤退支援をせずに伝達伝令にのみ専心。

国連軍が内陸部にほど近い主力部隊に到達する瞬間まで、新しい発想に基づいた戦術訓練を繰り返した。


だが千年の差を想定出来る訳がない。

ここまでは国連軍の予定通り。




西方総軍30万全滅。




「問題はこの後です」


国連軍は会戦の行われた平野から誰も逃がさなかった。


圧倒的制空権で全ての竜は撃墜。

広射程大威力火砲と爆撃で指揮中枢を破壊。

遠距離意志交換の出来る魔法使いはここにいた筈だ。

それらは戦闘開始直後に生じた。


帝国軍の前進開始から30分以内。



国連軍はもくろみ通り、戦場の経験を他の帝国軍に伝達できないようにした。

あとは磨り潰すのみ。



一方で、中枢を失っても部隊単位の指揮を保った帝国軍。

彼らは退却を決意。

目に入る範囲、伝令が行き着く範囲、短距離意志交換の魔法が届く範囲を確認。

ナパームの炎と爆炎、誘導兵器で攻撃される伝令、衝撃とガスで錯乱する魔法使い。

あらゆる障害を乗り越えて即興連携。



後退して戦力を温存する役割、前進して時間稼ぎする役割。

二つに別れて動き出す。



国連軍はナパーム弾に着色催涙ガスで撤退や敵中突破をはかる帝国部隊を誘導し、ある程度まとまると火力集中。

瞬く間に人馬竜が破片になる。


それでも諦めずに個々人で脱出をはかる者、後方に敗北を伝達しようとする精強な伝令たち。


彼らは迎えたのは戦域を広範囲に覆う散布対人地雷。


地雷の概念が無い帝国兵。

軽く迷彩塗装されただけの、剥き出しのそれに次々と吹き飛ばされた。




例外として、魔法で砲弾を防ぎ脱出しようとする魔法騎士がいた。

彼らは目立った。

砲煙弾雨の特異点。


ほどなく催涙ガス弾の集中攻撃。

魔法どころではなくなり、専門部隊が捕獲。


それでも戦い続け魔法を失わなかった炎の騎士が一人。

こんな例外にはそんな例外。

『こんな事もあろうかと』どこかの三佐が用意していた消防ヘリが催涙液を投下(約1t)。

なんとか捕獲した。



結論、魔法騎士には催涙ガスが効果的。

なお、最後の騎士は全身打撲で意識不明の重態。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・結論、魔法は砲弾を弾けるが液塊を弾けない。



逃げるのではなく、まっすぐに国連軍に斬り込んで来た黒騎士と配下の兵団によって、最大の戦闘被害が出たのもこの時だ。

驚くべきことに、この帝国最強の魔法騎士は部下に降り注ぐ弾幕まで弾き返していたのだ。




この敗北を帝国軍が正確に知る方法は無かった。

それは間違いない。

誰一人脱出できなかったのだから。



帝国軍には10万程度の予備部隊がいた。

今までとは違う発想で構成された戦場に立つにあたって、訓練が間に合わなかったため。

彼らは、会戦後の追撃用に待機していた。

これも捕虜に確認済。


しかし、現実は想定を裏切った。



「かれらは主力の敗北決定、いまだ主力部隊が擂り潰されている段階で、後退開始」


会戦の行われた平野と予備部隊の集結地点は十数km離れていた。

轟音と魔法通信途絶。

彼らに与えられた情報はそれだけと考えられる。


帝国軍予備部隊は偵察すら出さずに後退開始。

国連軍の追撃を通報する斥候だけを残した。



「特筆すべきは判断ではありません」


複数の魔法使いを配置した、帝国最精鋭部隊から連絡が途絶える。

壊滅以上と判断するのは自然だ。

そうなれば主力より少数の予備部隊には退却以外有り得ない。


地球人でも現地人でも、他に考えようがない。

だがしかし、明らかに異常なのは?


「速度です」



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