幕間:初めての共同作業/Imagine there's ……
一期一会。
生まれてから殺すまで。
生まれてから殺されるまで。
殺す人間には殺される人間の気持ちはわからない。
殺される人間には殺す人間の気持ちがわからない。
そうでなければ殺した後に困るだろう。
世の中は上手く回るようになっている。
殺し合う人間には相手の気持ちが良くわかる。
判り。
解り。
同意し。
心から納得して。
世界の誰よりも「相手」に共感する。
だから協力し合って、最初で最期のことを為せる。
どちらかが協力しないとできないが、そうはならない保証する。
互いの想いは、ただ一つ。
「オマエを殺す」
【用語】
『ベレンコ中尉亡命事件』
:函館にMig25が降りてきた。
以上。
……ではなく。
人類絶滅上等で互いを根絶する意欲が時々垂れ流されていた第三次世界大戦前夜。
地球上二大陣営の最前線。
その片側のエリート戦闘機パイロットが方位で西から東/北から南、敵陣営へ亡命。
だれが?
思想チェックを繰り返され、能力と忠誠心で選抜された最精鋭部隊、ソビエト防空軍の将校が。
どうやって?
最前線の守りの要。
編隊編成で運用される最高機密に乗って、単独飛行。
それは航続距離が短い迎撃専門戦闘機。
しかも日本海側の基地を飛び立った機体。
降り立ったのは太平洋に面した後方基地。
防空識別圏の奥の奥、海上だけではなく陸地を越えて。
国境沿いの敵味方防空体制が全部スルー。
函館に!
……地図を見てビックリ納得。
なにしろ函館基地は千歳より、三沢基地に近いですからね。
三沢基地は合衆国太平洋軍の広域中継拠点であり、他の重要軍事拠点と直通。
しかも三沢基地の在日米軍はちょくちょく函館空港を利用。
コネもあればつながりもあるし人員も常駐している。
だが在日米軍の「部隊」はいない。
あらゆる条件を整えて、航続距離内で唯一の選択肢。
何が起きた?
その時、Mig25が函館に着陸した。
ただそれだけ。
そーいうこともあるだろう。
もちろん、特に問題ではない。
起きても起きなくてもどーでもいい。
たかが、その程度のこと。
たかがそれだけのことなのに。
日本の防空能力を云々する向きもある
――――――――――コロナ対策並みの無思考力。
軍隊の防空体制は戦争の為にある。
自軍を敵国内へ進撃させるために。
軍隊がナニかを護るなぞ無能の極。
軍は味方以外を殺して壊して滅ぼすために在る。
出撃拠点を守り、進撃する部隊を守り、敵地を平らかにする。
暇で暇でどーしょーもなければ、敵を迎え撃ってもいいかもしれない。
戦争は他国領内でするもので、「自存自衛のため」なぞとは無能の言い訳。
武田信玄も……それは余談である。
つまり、最初から最後まで、一貫して100%例外なく。
――――――――――特攻機なんか眼中にない。
かのMig25が亡命目的ではなく、攻撃目的だったら?
――――――――――なにも起きない当たり前。
それで人類が滅ぼせるか?
――――――――――それが回答。
たかだか飛行機一機など、冷戦時代には「まったく」意味がない。
セスナ一機て赤の広場に降り立った民間人のごとく
―――――――――軍は「そんなこと」に対応したりは、しない。
むしろ反応してはならない。
クラッタ・ノイズにいちいち反応していたら、レーダーは真っ白だ。
軍隊が一々小型機一機に反応していたら防空体制は破綻する
――――――――――戦争など成立しない。
30秒以上の持続的思考力があれば、誰にでも判る。
まあ、普通のひとは考えるコストを省くが
――――――――――コロナ対策と同じレベル。
だからアレなソレたちが食い付く喰いつく。
故に、ひこーき1機の飛来など、自衛隊にも合衆国太平洋軍にも、まるでどうでもいいことだ。
それはもちろん、極東ソビエト軍にとっても。
無意味。
無価値。
どんな意味でも、与えられる。
ゼロは無限の変数だ。
最後の設問
――――――――――なぜ?
なにものでもないものは、なにごとにでもできる。
マーフィーの法則。
起り得ることは必ず起こる。
起り得ないことは起きない。
起こされない限り、絶対に。
そこで選抜されたのが、ヴィクトル・イヴァーノヴィチ・ベレンコ。
生粋のソビエト軍人にして模範的共産党党員。
シベリア、極東で育ち、軍歴を重ねる。
極東戦域のスペシャリスト。
東西敵味方の情報に精通した熟練の軍人。
「絶対に裏切らない」と言い切れる。
どんな任務にも家族ともども即応する。
ソビエト連邦軍への迷いなき献身。
ソビエト軍内部での人脈に加え、西側にもある程度知られる経歴。
美しい妻は体制に優遇される有力者の娘。
もちろん妻はソビエト連邦軍のため、いつでも離婚する覚悟。
本人も容姿に全く不自由がないのは写真にある通り。
党と体制、国家への忠誠心に満ち溢れた将校。
パイロットの技量と経験を誰もが認める。
いてもいなくてもよい、むしろいない方がいいからトラックを呼び寄せる類ではない。
真面目に過ぎるところもあり、軍内部の綱紀粛正に励んで失脚しかけるほど。
だが人望が厚く、瞬く間に無罪放免され更に出世。
その辺りで敵対陣営にもキャッチされるわけだが。
義務と責任に誠実な上に、自己犠牲を顧みない勇気の人。
テスト・パイロットや熟練パイロット向け訓練教官。
各地で後進パイロットを指導し最新の軍用機を乗り継ぐ。
何処の基地でも教え子がいた。
当時は世界銀行が「次の世紀はソビエトが経済的覇権を握る」と吹いていた。
その次は「中華人民共和国が以下略」と吹いてしまう機関だが。
誰もがソビエトの未来を疑わない
――――――――――――――――――――ソビエト史上最も安定したブレジネフ体制、その申し子。
ブレジネフ体制がソビエトを崩壊させたと結論されるのは四半世紀後。
当時はベトナム戦争の破綻から、合衆国の栄光が回復不可能になった時。
ニクソン辞任、ウォータゲート事件の判決確定直後と言えば判りやすい。
想像してみてほしい
―――――――――――清廉潔白を貫き得る立場にいた、ソビエトの特権階級からみて、合衆国がどう見えただろうか?
生涯にわたる栄光の人生に、一片の疑いもない時代。
彼は、絶対に漏洩が許されない最高機密に乗り、単独で国境、いや、前線を飛び越えた。
合衆国へ。
ソビエト連邦防空軍。
陸軍、海軍、空軍、防空軍。
迎撃、防空戦闘のためだけに造られた軍。
国境線の内側だけ、それだけを考えられた組織と装備と人員がまったく対応しなかった。
隊長として編隊を率い注目を集めながら、編隊を分けて単機になって。
事故のふりをして単機になる?
全基地から救援捜索機隊が飛び回ることになるだけ。
もちろん、そんなことは起きない。
ペレンコ中尉の教え子たちは、誰も動かなかった。
情報が無い、敵地の内陸空路。
リアルタイムに気圧の谷間を把握。
民間機も回避する最適コース。
民間機もまた、悪天候を避けていた。
だが軍、特に米軍用の指定空域は避ける。
やむを得ず飛び込んでも見ざる聞かざる話さない。
米軍エリアを突っ切るソビエト防空軍Mig25。
航続距離の短い迎撃専用機。
故障が多く多くの熟練整備兵と時間と部品を消耗。
なお稼働率の低い工芸品。
ソビエト内部ではMIg25の低評価が固まっていた。
しかしそれだからこそ、最高機密となっていた。
それがまるで、リハーサルを繰り返した初舞台のような、最高の効率を発揮。
高々度超音速迎撃戦闘機が、レーダーを回避する超低空飛行、敵地内陸地形に合わせて!
中尉は跳びきった。
生涯をかけて戦う怨敵、合衆国に降伏するために。
それは、極東でなければならなかった。
欧州正面では、アクターが多すぎる。
独自に動く味方が大勢。
東欧の衛星諸国は、時にソビエト本国より教条的。
柔軟性のかけらもなく建前論を振りかざす。
建前にはソビエトすら逆らえない。
西欧の同盟国は、フランスを見ればお判りの通り。
むしろ合衆国に逆らうことが生き甲斐なくらい。
そんな国々の軍が同居する基地群。
合衆国もソビエトも、動くに動けない。
しかも砲撃距離に敵味方の陸軍が待機している。
指揮系統も別々に。
一歩間違えれば偶発戦争?
――――――――――そんなことは在りえない。
戦争には準備が必要。
偶発なんぞ紛争で終ってしまう。
その後どうなるか、誰にでもわかる。
防止策が取られ、むしろ平和になるだろう。
冗談ではない!
必要なのは、計画的全面戦争。
でなければ、敵を滅ぼせないじゃないか?
人類の滅亡すら、敵を滅ぼす一要素。
ならば?
舞台は何処が良い?
極東内陸で中華人民共和国?
アラスカから合衆国?
――――――――――観客が誰もいない。
効果が無い。
注目を集める必要があった。
さもなくば隠蔽されて「無かった」ことにされる。
事なかれ主義者は幾らでも。
誰もが注目する舞台が必要だ。
誰にも邪魔されない、海上がいい。
廃棄したい腐れ戦闘機が配備されている所。
敵味方が揃いながら、砲撃範囲にはいない最前線。
すべては完全に成し遂げられた。
Mig25は隠された低性能を酷評されMig31へ。
それは反戦世論を吹き飛ばしF-15導入への追い風となる。
自衛隊の予算も次々に通るが、何もかも些末なことに過ぎない。
ついでのオマケ。
デタントを破綻させて、なお、偶発戦争が起きないようにして、慎重かつ大胆に
――――――――――計画的に世界大戦を始めよう!
それは小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩だった。
……あと一歩、及ばなかったが。
計画参加者には残念なこと。
計画的な第三次世界大戦にならなくとも。
大義に殉じた英雄は忘れられはしない。
成功は努力と協力の賜物。
失敗は偶然と錯覚の結果。
経験は幾ら重ねても善い。
――――――――――次に生かせばいい。
計画的な異世界侵略戦争に。
なお、異世界には極東ソビエトぐ、いや、ロシア共和国極東軍管区があります。
エボラ出血熱。
ご存知の方はそのまま。
ご存知無い方はググることを勧めます。
なーに30秒もかかりませんから。
30秒もつかわせるのか!
……ごもっとも。
ただ、あなたの身近に溢れた危機なんです!
……って、厚生労働省が言ってる(嗤)。
いや、厚生労働省は嗤いの宝庫です。
「お笑い」
には二種類あって、
「笑わせる」
「嗤われる」
でして、前者が「芸」後者が「贄」だとか。
だから厚生労働省は存在自体が嫌いなんですが。
話が逸れました。
「あなたの身近なエボラ出血熱」
と、厚生労働省の主張。
「新型コロナウイルス」
です。
なにしろ、危険性カテゴリーがおなじですから。
わたしが言ってるんじゃないですよ?
あくまでも霞ヶ関がそう言っているんです。
いやー気か付かなかったな(笑)。
「きんきゅうじたいせんげん」中から今まで、せっかく無理して用もないのにマスクとか一切なしに出歩いて小説更新がおくれてしまっていたのに!
というわけで週末は身近なエボラ出血熱を探して出歩きます(笑)。
更新が遅れたら厚生労働省が悪いんです。
……「これ以上、悪くなれるのか」って意見はありますが。
「悪ではなく馬鹿」と言うべきか?
興味は尽きませんね。




