耳を澄ませば。
【用語】
『保障』
:受勲制度と並ぶ戦時制度。「補償」ではないので念のため。つまり「償う為に補う」のではなく「障りなきよう保つ」ということ。戦争遂行のために自発的協力者が必須。協力者は当然、死ぬ。それは別に構わない。だが、遺族友人知人地域他遺された者物モノに影響が及んではならない。遺されたモノとは、突き詰めれば戦争主体である社会なのだ。影響を放置すれば戦争遂行に支障が出て、意図せざる平和やむを得なくなりかねない。故にとられる保障手段。受給対象は戦死戦傷者自身により任意設定。相続とはちがって序列順位はない。誰が誰に支えられていたかなど、当人にしか判らない。戦時下の社会や軍は調査するほど暇ではない。かといって機械的に割り振れば保障にならない。だから事前に決めておけ――――――――――友人知人戦友等々は一般的。なお「保障」という考え方は物損にも適用される。ただしコレも「補償」ではないので注意。戦火で自宅が203mm砲弾の直撃を受けた、としよう。現状回復義務は自国にも敵国にも誰にもない。「保障」されるべきは「居住環境」のみ・・・・・・・・・・保障できるとは限らないが。極端に言えば難民キャンプの割当が保障にあたる。有事法制と言うジョークでは、民法上の義務としばしば混同されている
――――――――――庭に塹壕を掘られても、誰かに埋め直してもらえるとか思わないよーに。
ご近所だったら手伝ってあげるから。
コップがある。
水は半分。
とある経営アナリストは言った。
「世評が『まだ半分残っている』から『もう半分しかない』に変わった瞬間に商機が訪れる」
つまるところ
「古典的経済学でいう『需給バランス』などまったく無意味で市場の動向は『市場原理』と無関係な『市場心理』で決まる」
という思想。
今でこそ立証済みの理論だが、先駆者の名誉が翳ることは無い。
「市場原理という迷信」を喝破するのは20世紀後半からこっちの経済学では主流な思想で、日本の義務教育でも「市場の失敗」は一般的に取り上げられている。
だが、義務教育は修了できなくても終了させてしまうので、未だに学会の異端者(マスメディアの主流)では「市場原理」が幅を利かせている。
「理論モデル」というのは現実の変数を取り除いた「単純化」であり、とても判り易いから「現実」にはまったく役には立たない。
だからこそ
「解ったような気にさせる」
と同時に
「何も生じないから始末が楽」
というわけ。
マスメディアの隙間埋めに最適!
え?
「まだ半分残っている」
「もう半分しかない」
その意味?
読んで字のごとく
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ないけど?
「」が「」に変わるときに儲かる
――――――――――何だっていい。
それ自体に意味を付けるのは、まあ、壁の染みを解釈するのとおなじ。
個人的解釈を著名人の権威を剽窃して流布させた奴があるだけ。
いや、商売人の箔付けか、はたまた、自分を騙せる真の嘘つきか。
原理論を理解できなかったんでしょーね。
よくあるよくある。
迷信ってそういうモノですよ。
カルト宗教の教義に最適ですね!
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神殿(改め建築楽器)内/中央/青龍の貴族】
俺が次に考えるべきこと。
状況、それほど悪くもないのかな?
いつも心によかった探し。
俺の手にあるカード。
10分前後のロスタイム
・・・・・・・・・・大神殿麓から、フル装備の歩兵が、ここまで駆け登ってくる時間。
まだロスタイム開始前
――――――――――いつカウント?
時間があるのは良いことだ。
まだ。
勝負は規定時間では決まらない。
例外特例取捨選択。
人間の主観や裁量で決めてやる。
全体で五分五分、よりちょっと下で流して集団から離れず、ゴール寸前で鼻の差をキメ!
俺の得意技。
単勝取ったことがあります。
もちろん俺が走る訳ない。
走るのは君。
勝利を貴方に、配当は俺に。
ロスタイムを、測る。
カウント開始を決める。
ホイッスルを鳴らす。
他人がキメて、俺が読む
――――――――――いつも通り、にいくといいな。
サッカーだと違うの?
集団競技は苦手です。
チームワークは勘弁!
観戦だけだとわからんよね。
だから経験則に置き換える。
今のうちにカードをカウント。
なおブラックジャックでカードを数えると怒られます。
バレないようにやりましょう。
人生の基本ですね!
さて、カウンティング。
※カジノでやると怖いオジサンに追い出されるといいですねたぶん脅されて出禁ですむはず。
銃声の元は、内側。
おねいさんずだ。
こっち側。
先手を取られたわけじゃない。
おねいさんずは。
むしろ他人事ながら、先手を取りすぎてないか心配です。
俺は先手を取られっぱなしですが。
おねいさんず側に立っているらしい。
いつの間にか一緒にされるのは良くあること。
人柄が評価されたんだな、うん。
その証拠に、俺の耳、いや頭蓋骨に彼女たちのやりとりが響いてくる。
とても優秀な骨電動イヤフォンマイク。
さらに優秀なのが、戦闘管制システム。
おねいさんずが俺たちに開放している。
つまりは俺、そして周辺への意思表示だ。
戦術データ・リンクには全部隊兵士が接続している。
当然、各領域各階層は全く分割未接続。
しかも、物理的に接触していない部分も少なくない。
異世界戦争になってからは不要になった
――――――――――とされている、電子戦対策。
別に異世界転移したから、じゃないがな。
実際に現代戦ならサーバー間のデータ移動に伝令を使ったりする。
情報媒体の物理的移動。
スイスやベルネクス三国の金融機関。
アルファベット三文字の諜報機関。
名称不詳な犯罪組織もろもろ。
彼らの発想行動と同様。
共有範囲は被害範囲。
ダメージ・コントロールの基本は分割遮断。
敢えて情報を制限中。
まあ実のところ、敵より味方が干渉出来ないように、だけど
・・・・・・・・・・敵もついでに騙すけどね?
敵を騙すなら味方から?
・・・・・・・・・・まさかまさか。
味方を騙すなら敵から!
システムの基本的発想は、古今変わらぬ組織の基本。
そんなシステム設計は百も承知。
それしかなければ、嘘と承知で騙される。
それを掻い潜るのは将校の基本。
味方の情報を信じるバカは、戦場どころか社会人に向かない。
おねいさんずが、今度は俺たちに聴かせ始めた。
――――――――――敵対しない、意思表示。
それはデータリンクを通じて、友軍全部が確認可能。
――――――――――おねいさんず、軍政部隊は協調行動。
おねいさんずが撃ってる相手にも、よーく見えてることだろう。
おねいさんずがそう見せようとしている、俺たち軍政部隊の立位置が。
おねいさんずが、だけが相対している間は、それでいい
――――――――――って、思わせるのが、狙いか?
だから情報共有中、おねいさんずから要請がないのかな?
だから麓の連中は、俺たちには呼びかけてこないのかな?
なにもしないデフォルトだと情報共有はない。
周波数よりデータのタグで対応可否を分けている。
・・・・・・・・・・・・・・分けることができる、ではないので念のため。
隣の部隊と話ができない、なんてことはさすがにないが。
何時でもそうできるように、基本設定が共有不可。
隣接部隊との交信傍受、その可否を決めるのは部隊指揮官。
まあ、上級指揮権からの介入が無い場合、だけどまあ、たいていは無い。
偉い人は部下の監視記録を直接聴くほど、暇ではないのだ。
あからさまに過ぎるほど国際連合統治軍共有通信。
この場、指定作戦エリアになっている大神殿内部にいる全兵員が受信。
きょとんとしているのは俺の足元、うちの娘たち。
非戦闘員が聴けるのは、保護任務が与えられている部隊の通信のみ。
戦場に居合わせてるだけの民間人がシスターズ。
戦場に同行しただけの非戦闘員がColorful。
俺たちが保護選任部隊で、おねいさんずはこっち側。
たいへん有り難く頂戴します。
だからと言って、俺たちが、おねいさんず側とは決めていない。
・・・・・・・・・・決断が嫌いなもんで。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮内/巫女の胡坐/青龍の騎士団陣形中央/青龍の貴族の左端/お嬢】
わたくしが為すべきところですわ。
――――――――――ねえ様が正気を失っておられる間、あの娘を護りましょう。
あの娘。
きっと、ご領主様が死ぬことなんて、考えることは出来ないわ。
もし誰かに言われても
――――――――――恐慌してしまうから、仮定でも言えないし言わせない。
ご領主様が殺された後で、自分が生きてるなんて在りえない。
ご領主様が殺された後の、生きる算段を、ご領主様が立ててあるなんて
――――――――――わたくしたちが棄てられる、なんて想い付かない。
覚らせちゃダメ。
ご領主様の無神経で粗雑で傲慢で独善で勝手で赦すまじき唯一つの憎たらしいところを。
わたくしなら、ご領主様に思い知っていただくために叛旗を翻します。
ねえ様なら、ご領主様に怒り狂いながら逆らってしまいます。
あの娘なら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・壊れちゃう。
あの娘は幸いに、ねえ様がおぼれて漂っておられることに気が付きませんし。
――――――――――ねえ様。
ご領主様を見詰めて。
ご領主様に寄り添い。
ご領主様を味わって。
一人の男。
それ以外の世界を、何もかもを忘れて居らるのね。
ご領主様に出会うまでは、想像もつかない、御姿。
――――――――――常にすべてを見通し、凛として冷ややかで、芯に温かさを宿されていた、女の理想。
でも、失望したりなどいたしません。
ただただ羨ま
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とも申しません。
わたくしが正気を失っている間は、ねえ様がなさることでもありますし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・羨ましいとは申しません。
わたくしの番はきっと必ず回ってくるのですし。
その時、その後、その事を、譲ったりはしませんし。
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神殿(改め建築楽器)内/中央/青龍の貴族】
俺はエルフっ娘の耳に注目。
イヤーマフを兼ねた通信機が耳を覆っている。
それ自体はエルフっ娘だけじゃなく、戦場に来てる皆同じ。
エルフっ娘のは特注品だけどね。
耳の形が可愛いので。
けっして齧ろうとは思っていない。
今は。
銃声砲声爆発音。
俺たち地球人の側に居ると避けられない大音量。
それが子どもたちを傷付けないように。
俺たちが必要と考えた音だけを拾えるように。
そうなっているのだが。
――――――――――エルフの聴力は、それを超越している。
その辺りは放置。
おかんなエルフっ娘。
うちの娘たちの要。
どうやら他のエルフと比べても、聴覚が敏感らしい。
国際連合には、それなりにエルフがいる。
――――――――――捕虜、志願者、黒旗団のような例外も。
非異世界人類はエルフだけではなけれど。
エルフ自体ではなくても、伝聞記録からもエルフの平均的な力を割り出してある。
帝国などは隠れ潜むエルフの居住地を探り出しては焼き払うのが任務の一つ。
まだまだエルフが大勢いた時の、戦闘記録が山ほど残っていた。
もちろん体系化されマニュアル化してあるという。
国際連合はそれを精査したうえで、確保できたエルフで検証したわけ。
――――――――――その辺りの数値は、当然おれも目を通せるのだが。
エルフっ娘の様子とは、一致しない。
仕草を見れば、何かに反応しているって判るからね。
――――――――それが、知られているスペックを超えたナニかに、ってことも。
今に限ったことじゃない。
アタリは付く。
エルフって、そんなものかと思ったが。
比較すると違う。
黒旗団のおかげで、他のエルフが増えたしね。
第一その、エルフたちを従えてる、のが元カノ。
アレがそんな素振りをしてない。
エルフ一般の能力なら、元カノが気がつかない訳がない。
気がついたことは、絶対に自慢しに来る、俺に。
配下のエルフがどれだけスゴいか俺の周りで言いふらす。
つまり、うちのエルフっ娘だけが、特別に可愛いだけじゃなかった、ということ。
レバノンかな?
……都区内散策の感想です。
渋谷に代表されるような、元々
「ちょっと歩けばシャッター街」
な都区内ではなく。
昨年まで「新装開店以外見たことがない」繁華街。
……まあ閉店即後入居即開店な地域「だった」複数地域。
そんな街が、虫食いになっています。
ビルの窓、所々に明かり、広告、入居者募集。
内戦中の国で破壊されたビル。
原型を留めた一角で営業中の店。
……そんな風情。
いやはや。
まあ「内戦」ではありますかね。
凄惨な同士討ち。
同胞殺し。
同胞見殺し。
殺された同胞。
もちろん「わたしには」関係ありません。
不愉快ですが。
わたしはコロナ対策に同調したことはない。
故に「人殺し」ではない。
むしろコロナ対策を可能な限り邪魔をしています。
つまり「人命を救っている」わけですね。
……言い訳ですか?
「立ち会ったならば、その責任を負え」
アイヒマン裁判を評した言葉。
「阻止できなかったのなら、賛同者とどう違う?」
まったく、言葉もありません。
命が大切だからアイヒマンにはならなくてすむ。
命が惜しいからシンドラーになれはしない。
わたしは?
馬鹿を嘲り。
馬鹿から巻き上げ。
馬鹿を止められない。
自分を批評するのは、止めた方が良いですね。
こんなことになるなら、もう少し努力すべきでした。
自分の身を護るだけではなく、責任を果たせるように。
お後が、よろしくないようで。




