音の歌/The Music of Sound

誰も聴く者がいないところで大木が朽ち倒れ、大気を鳴動させた。

さて、問題。

聴く者がいないところで音は鳴ったのでしょうか？

哲学なのか量子力学なのか、それはおくとして。

ご参考までに、以下をどうぞ。

言葉が解らない者が歌を聴けば、それは何でしょう？

意義を知らない者が曲を聴いたら、それは何でしょう？

ノイズの意味と意義を理解出来たら、それは何でしょう？

では、どうぞ。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮内/隊列中央/青龍の貴族の左側/お嬢】

わたくしは、すぐに気がつきますの。

いつも見ていますから、あの娘のことは。

それは、ご領主様から女の差配を預かる前に。

あの娘が拍子を口ずさむ、それはいつものことだけれど。

♪

～♪

♪♪♪

♪～

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――わたくし、こんな歌を聴いたことがありませんわ。

わたくしがしらないこと？

あの娘のことに、ついて？

特に楽しみそうなことを？

在り得ません。

ねえ様に及ばないのは、当然ながら、在り得ませんわ。

ということは、あの娘はこの歌、か曲、それを今知ったことになる。

確かにこの旋律であれば、あの娘の気入るでしょうね。

贈ってあげたくなりますもの。

でも、今？

ここで？

どこから？

即興で思い付いた曲、じゃないわ。

あの娘が愉しい時、拍子をとるのはいつものこと。

最近はいつもですけれど、それも当然のこと。

ご領主様と肌を合わせて離さないこと。

料理をつくり、お掃除をして、何か御役に立てないか、いつもいつも、ご領主様を見つめている。

飽きる訳もありません。

――――――――――――――求められると、判っているのですから。

倦むこともありませんわ。

――――――――――――――役にたてると、解っているのですから。

それそのものが愉しくて

――――――――――――――愛されてると、思い知らされてますから。

なにも命じられていない間も、繰り返し繰り返し、仕える刻を夢見続ける。

ご領主様を想う常日頃。

あの娘は控え目な仕草。

でも、踊る様に振る舞います。

わたくしと出会ったときも、そうだったわ。

参事会の園遊会、わたくしが主催を袖にした先。

あの娘は誰も来ない場所で、わたくしに気付かず

星を見上げて安堵して、仕草で踊っていました。

一人で、ねえ様と引き離されて、身一つで家族を背負って。

無条件に愛され甘やかされている、わたくしとは違い。

お父様、お兄様、番頭や手代にまで可愛がられているわけもなしに。

身一つで頼る先逃げる先がいくらでもある、わたくしみたいにはいかない。

普段、人形でしかない女が、歌っているから、あの娘になった。

つくづく、自分の魅せ方を知らない娘ね。

眼がない者には判らないんだから。

だからこそ、ご領主様に召し上げられて。

あの娘らしくて、いまから考えれば笑ってしまう。

ほんと、初見で攫われてそのまま閨に持って行かれちゃうんだから。

※第８話＜人間って、なんだっけ？＞、 第１７話＜宗教裁判（仏式）＞より。

見出されて攫われて奪われて、肝心なところで躓いて、ってところがらしい、わ。

だからこそ、わたくしにも先回りする余地があるのですけれど、ね。

でも、らしい、ばかりじゃ足りない、わたくしには。

いつか王城大広間、そのすべてを使って躍らせてあげたい。

それはきっと、ご領主様も楽しまれるに決まってます。

一人で、でも、わたくし、ねえ様も加わって。

ふふん。

心が躍りますわね。

踊る、躍る、おどる。

ご領主様を惹くために。

一人の貴男を悦ばせるために、それはもう、嬉しくて落ち着きません。

わたくしは、自分のためにしか、踊ったことがないかしら。

だから、あの娘は誘われなかったのですね。

踊ること、奏でること、描くこと。

なにもかも、誰かのために在ることなのに、気がつかなかった。

なら。

大神殿、美しい装飾、広く平坦な床、心地良い風音、美しい陽光。

きっと、雨音も雪の音も、稲光さえよく映える。

誰のための此処なのかしら？

ここ、大神殿は、一番映える舞台で会場で、お部屋、その主は？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・介添えが考えることでは、有りませんわね。

まあ、それはまた。

今は、これ。

供されるべき賓、それは、ご領主様なのですから。

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神殿内/中央に侵攻中/青龍の貴族】

俺の頭に響くは祝祭の祝詞。

魔法翻訳が俺に聴かせてくれている。

言葉と曲の原義から、込められた想いへ。

あるいは今、此処にいるこの娘たちが解らない部分まで。

地球人だけが異世界言語の魔法翻訳を受けられるから。

きっと地球の楽曲は、異世界人の方が理解できる。

異世界人だけが地球言語の魔法翻訳を受けられるから。

おなじこと、だが、判る解らない、そんなことに関わらない、そんな人間もいる。

俺です。

はんせいしてまーす。

だから子どもを装備しているともいえる。

俺が気がつかなくても、俺の側で親しい誰かが気がつく。

教えてくれる。

教えてくれなくても、見てるからきづく。

鉱山のカナリヤのごとく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・例えが悪いな反省してます。

で、文字通りの、例えに悪くないまんまカナリア。

魔女っ娘のハミング。

この娘はリズムに反応するようだ。

俺には無理だけどね。

意味が解らなければ、歌と気がついたかどうか。

ただの潮騒、風音、海鳴り、それで終わり。

ＵＮＥＳＣＯが集めた予備知識があってなお、それ。

へーそう、判らん、で終わっていただろう。

地球人と異世界人。

多世界を満たしているのは魔法でも奇跡でもない、ファンタジー異世界の科学。

気象を利用した都市楽器による演奏会。

地球で世界最大の楽器といえば、パイプオルガンだろう。

たぶん。

デカい奴は建物の構造を利用しており、高さ８０ｍくらい。

負け負け。

異世界最大級の人口１００万収容可能な都市一つ。

周辺の海岸線と海と陸地をすべて部品に取り込んだ自動楽器。

地殻変動によって変成される数万年は鳴り続ける。

いーもの手に入れたなー、オイ。

持ち主は殺された後だから、俺たちのものでいーよね。

死体から苦情はでないし、俺たちの方が管理が巧い。

どうも帝国のみなさんは音楽に嗜好が向かってないし。

俺の老後はこのあたりに住むといいかもね。

ばかでっかい大神殿に昇るのも、良い運動になるだろう。

エレベーター、エスカレータは歓迎するけど。

無けりゃ無いでも構わない。

これでも自衛官なんで。

足腰は非常に丈夫です。

腰が、特に重要ですし。

自衛官じゃなくても、腰は男の命です。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮内/隊列中央/青龍の貴族の左側/お嬢】

わたくしが知らない、あの娘。

♪

～♪

♪♪♪

♪～

♪

♪♪

～♪

♪♪♪

♪～

概ね、繰り返されているわね。

少し揺れがあるようだけど、即興かしら。

でも、合わせているような、即興で合わせて、加えて。

歌？

詩？

唄？

歩き進むと転調して、乱れることなく調和して。

「悦びを誇る」

ご領主様？

「祝詞」

ねえ様？

「曲ではなかったのか、そうか」

この女(帝国女騎士)まで！

「そーなんですか？」

貴女、気がついてませんでしたの！！！！！！！！！！

感じたままに拍子をとってましたの？？？？？？？？？？

思わず考えずになんとなく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・らしいわね。

「風の通る隙間に彫刻がある」

ご領主様？

わたくしへ、Ｃｏｌｏｒｆｕｌの皆も見ていますが、主に、わたくしへの言葉。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・！

ありますわね。

ご領主様の視線を追うは、わたくし、たちが常。

ご領主様は、皆の心を操り、わたくし、たちに教えはしない。

ご領主様の周りに、侍る資格、女なら、なおのこと。

「神殿内外にも、紋様があり柱や壁も風を受ける」

わかりましたわ！！！！！！！！！！

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――え。

風を受けて鳴る、鳴らせる仕掛けは数ありますが。

これは、なる、なんてものではありませんわ。

奏でている、いえ、それも全く見当違いですもの。

「海の波音もね」

ねえ様

――――――――――街が歌ってるわ。

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神殿（改め建築楽器）内/中央に侵攻中/青龍の貴族】

俺は大きな楽器の中を進む。

楽器でありながら、演奏上であり、聴取席でもある。

音が一番よく聞こえるところは何処か。

演奏しているその最中。

普通はそこに立ち入れない、ここはそこが前提だ。

天才か。

お酒を供えないといかん。

お布施もはずもうじゃないか。

今は亡き天才に乾杯！

百年、だっけ。

この街が造られてから。

普通は死ぬ。

それがエルフでなければ、いないだろうな。

それがエルフでありさえすれば？

強制連行待ったなし！

相手の意思は訊きますけどね？

尊重するとは言ってない。

大はモンゴル帝国の世界征服から、小は秀吉の朝鮮戦争まで。

技術者芸術家もしかしたらそれっぽいと疑われた人まで。

侵略先からの人材拉致勧誘スカウトヘッドハンティングなど。

はいかＹＥＳでお答えください。

世の常です。

巻き込まれたくはありません。

恩恵は受けたいです。

せきにんはとりたくないとこころのこえがさけんでいるんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・子どもに絶対言えないこと。

君たちにはまだ早い。

俺は涙を呑んで、ＵＮＥＳＣＯ調査資料を反芻。

質問にドヤ顔で応える準備。

こーいうとき、指向性網膜投影は便利ですよね。

サングラス、まあ視界を妨げない程度のカラーグラス、を架けるか開くだけでのぞき込まなくてもいい。

レーザーが目に情報を映してくれます。

視線は周りを見ていてもかまわない。

眼の焦点、その周辺に表示されるから。

情報元は国際連合データベース。

当然情報量が多いので、スクロールもできますが。

読むのことに夢中になると挙動が不審になります。

あくまでも自然なカンニングを心がけましょうね。

斜め読みが得意な俺に隙はなかった。

――――――頼りになる物知りお兄さんの完成である――――――