戦野の日常、常日頃。

阿呆は自粛する。

――――――――――非難されたくないから。

馬鹿は要請する。

――――――――――責任を取りたくないから。

間抜けは追従する。

――――――――――侮蔑されたくないから。

みんなと一緒だから間違ってないですよね？

お勧めしているだけですから自己責任で！

みんなと同じ様になぜしない？

「任務を自粛して要請は聴き流して追従はお見送り

――――――――――最強じゃね？」

『自衛官(うちら)が徹底しないと殺しすぎちゃいますし、政治家(こっかいぎいん)からは命令しか来ないですし、たいちょー(いけにえ)は三佐(ラスボス)に連行されるシーンしか思い浮かばないですよ？』

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神殿入り口正面/青龍の貴族】

俺は、まえを見る。

斥候が安全を確保している領域。

大神殿正面外周。

そこから覗き込める範囲の、大神殿正面大広間。

大神殿正面で銃を保持していた、構えてないが降ろしてもいない、佐藤に芝。

本隊が昇ってきた階段上から死角にあたる、三本柱正面入り口と正面側上空。

正面中央で支援できる間をあけて、二か所を二人で交互に見張っていたのか。

当然、プロテクターの頭部カメラ、その記録は兵士一人一人の視線と一致。

偵察ユニットのポイント記録。

哨戒気球の全周記録。

はるか本土で記録統合される。

統合は機械任せ。

講評は機械的アウトラインを、複数の将校が修正。

俺もたまにやるけどね。

はっきりと言っておく。

俺はいつも子どもで遊ん、いや、子どもの引率をしている訳ではない。

仕事をしていることの方が多いのだ

――――――――――そんなのおかしいよ！

子守は仕方がない。

おかげさまで女は口説けんわ、女は買えんわ、女と遊べんわ、多々累々と支障が生じているのも我慢はしないがそのうちいそいできんきつにクリアする。

きっと両立して見せます。

ある意味で俺のせいではあるし。

責任は三佐にあるとして。

詰め腹を斬るのは俺なんだがね。

責任を取る。

それは切腹することを意味しない。

切腹させることも含まれる。

元凶を罰することは含まれず、原因を取り除くことが目的だ。

失敗した者を処罰すると、何もしないことが最善になるからな。

スターリン型官僚主義ではよくあること。

失敗しない方法は、それこそ何一つしないことだからだ。

それゆえに、何千万人が殺されたりする。

古代ローマでしばしば敗北した将軍が再任された理由。

同じ失敗はしないことが期待されるから。

失敗したことが無い者よりも、そのぶん成功する可能性が高い。

成功する手順など誰にもわからないしね。

結果責任が論理的に成り立たない理由。

まあ失敗したことを自覚できない者もいるけどね。

それは殺さないと、延々と同じことを繰り返す。

これも官僚主義ではよくあること。

だから三佐は押し付ける。

なんか無関係な子供を撒き込んじゃったから、後始末はよろしく。

だから俺に振らんでくれ。

いつかきっぱり断れる日が来るといいな。

罵倒や非難は気にならないし、むしろ嗤って見過ごせるんだが。

強権暴力問答無用な権力者には勝てんな。

だからといって何で仕事なのか？

――――――――――解せぬ。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面/隊列先頭中央/青龍の貴族の手が届かない距離/一足飛びに届く距離/エルフっ娘】

あたしはちょっと、頬が緩んでしまう。

あの娘の可愛らしさに。

身も心も何もかも委ねてしまうところ。

嫉妬するところが無い、なんて言わないけどね。

でも、うれしいのも本当。

あの娘を羨ましく想える、そんな日が来てくれた。

あの子はずっと、ずっと気を張っていたから。

産まれたからずっと、気を抜くことなんかなかった。

あたしが付いていても他の誰がついていても。

整った容姿で、にこりともできず。

笑うときは、誰かに気を使い。

何か起きるたびに誰かを心配して。

人形のような可愛らしさ。

それは見ている誰かの思い入れ。

月の明りのような、何処かを偽った影。

でも、いま、頭を抱えんばかりに狼狽えてる、娘。

なんとか誤魔化したくて、繕い様が無くてジタバタする、女。

想い人への恐れも不安もなく、ただただ彼の体面を気にして足掻いてる。

初めて見た。

産まれた時から見ていたのに。

こんなにも、あの娘は可愛かったのね。

かてないわね♪

――――――――――――――――――――負けないけど。

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神殿入り口正面/青龍の貴族】

で、講評。

俺の仕事。

その一つ。

実戦であれ演習であれ何であれ、作戦ではなく作戦行動を批評しされること。

今みたいに実質、停戦状態にある時が狙い目。

将校の手が空いているときこそ、講評や批評の任務は増えてるだろう。

講評する側も批評され、指導されたりする。

だから講評任務で提示された記録が、実戦や演習ですらない、ってこともあるだろう。

普通は待機任務中にやる。

完全に敵から隔離された大規模拠点内、下士官が隊員をしごいてる時。

そーいう状態の将校雑務。

部隊名も作戦目的も演習か実戦かも提示なし。

概況だけ示されて、講評を書く。

それを参考に指揮官が兵士たちを指導する訳。

演習でなけりゃ、指導する時間なんかない。

該当部隊が生還してからでいいからね。

だから実戦講評の作成は後回し。

実戦中は講評から要点だけをフィードバック。

要点集めには時間がかかる。

たまたま、ってレベルは指摘不要。

時間と手間の無駄だから。

持続的改善要項だけ見いだすには、複数の事例精査が必要。

改善要不要含めて、判断には 時間がかかる。

だが演習なら、違う。

指導を受ける。

指導をする。

それ自体が、演習の一部だからだ。

そのために、指導役には講評が早めに送られる。

普段から指揮をしていればこそ、講評結果から見極めやすい。

要不要、使える使えない、伝えやすい伝えにくい。

まあ、俺、軍政任務は戦闘中扱い。

だから俺への割り振りは少ないけどね。

つまり今日も俺は講評されるほう。

今日も昨日と変わらない。

違うのは講評を研究する余裕があること。

演習申請した以上、講評が夜には上がってくるだろう。

演習の講評だからこそ演習実技終了直後にあがってきて、その締めにされる。

とはいえ、うちの連中は明日お休み。

内容を纏めさせ、指導は休み明けまで寝かせておくか。

直後に叩くのもいいが、間をあけて見直すのもよし。

今夜残業だな、曹長は。

明日は休みだからって、良いわきゃかないが。

少しでも気苦労を減らすため

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・曹長の娘さんに根回し。

よしよし。

部下の家族に手が届く、ちょっといませんよ、これ。

俺って出来る上司だよね。

仕事はこれぐらいにしておこう。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面/青龍の貴族の左後/お嬢】

気がつきましたわね。

あの娘がおそるおそる、わたくしを見ます。

わたくしは、ゆっくりと微笑みます。

それだけで二人の間は何もかも伝わります。

いいわ。

いまさら取り繕えなくても、その努力はすべきよね。

とっさに女であること以外、すべて忘れてしまったようですけど。

ご領主様は、男である以外の立場もありますからね。

その都度、繰り返し反省できれば、よしといたしましょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・他人事には思えませんし。

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神殿入り口正面/青龍の貴族】

俺はしばし考える。

ジタバタとしている魔女っ娘。

やっぱトイレかな？

なおトイレは神殿内に設置済み。

戦場にトイレはつきものである。

どんな形であれ野外は禁止と言うまでもなく。

ちょっとそのへんで、は許されません勝つまでは。

勝っても駄目だが。

性別問わない軍事常識。

衛生上の問題でね。

もともと人が密集するだけで疫病発生伝播の培養器。

だってのに、軍隊ってのはそれを長期間持続するから始末が悪い。

しかもどう工夫したって、平和な都市より衛生的な戦場なんて作れない。

かの歴史的なパンデミック、スペイン風邪。

中世ペストの再来ともいえるアレ。

本来は北米で発生した人獣感染症だったが。

世界大戦が無ければ、あそこまで犠牲が増えなかったろう。

そしてここは異世界、侵略戦争、敵も味方も十万単位の集団行動。

俺たち地球人は一番恐れているのが微生物だってほんとかな。

やってることは自殺行為以外の何物でもなく。

とはいえ、やってしまってるものは仕方がない。

あとは、やってしまわないように仕掛けるだけ。

なにをどうするのかといえば、いろいろあるが。

まずトイレ。

環境汚染を、防ぐため。

多世界滅亡を防ぐため。

せめて自分を守るため。

戦場に長時間いないからこそ、まあ、いいんだけどね。

同じ国際連合軍でも、異世界兵士は埋めればすむが。

痕跡を嫌って完全に始末するのは、異世界兵士たちの質を証明している。

戦場の鉄則である衛生概念すら徹底している帝国軍。

教育するまでもなく異世界帝国は公衆衛生の見本だった！

感謝感激お礼の申し上げようがない。

マジで俺たちが侵略する世界を綺麗にしておいてくれてありがとうございます。

まあ衛生だけじゃなくて、痕跡から情報を読まれ無いための配慮、でもあるか。

トイレの跡から、兵力や滞在期間から移動速度、から作戦計画にアタリがつく。

場合によっては兵士たちの健康状態も。

そりゃ、隠す。

聖都ではＵＮＥＳＣＯ関係者が聖都各所で活動中。

地球人と国際連合雇用異世界人で、トイレも別々です。

混交すると、どんな生物学的反応が生じるか判らない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・判りたくない。

解りたい方々は異世界に設えたＰ４施設で実験中

――――――――――わ～ざわ～ざ地球人や異世界種族全部取り揃えたんだが募集してまで。

まあ、それだけが目的じゃ在るまいが。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ないよね？

なお戦場で地球人は一カ所でまとめます。

必ず、その都度、焼きます。

なお聖都のトイレは、１日一回焼却する。

太守府設置と同じ、パルプ加工の使い捨て。

焼却前提で１００％再生紙を可燃性樹脂でコーティング。

燃えるってだけで燃えやすいわけじゃない。

薬莢やロケットランチャーの発射筒に使えるくらい。

今後の話だけどね。

異世界環境に優しい人道的な侵略戦争中な国際連合軍。

盛大に薬莢をバラまいてます。

もちろん金属大量精錬以前の異世界。

地元住民の皆様による自発的戦場清掃により、空薬莢が後世に残ったりはしないだろう。

今後十年以内には自然分解する薬莢や地雷をバラまく予定

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バラまかないでしまっておいてもいいんですが。

第一異世界住民の余録がなくなるのはどーでもいいですかそうですか。

それはさておき、喫緊の課題。

って、まあそのあたりの使い勝手は、みんな知ってる。

だから子どもたちのことは、エルフっ娘が差配するでろう。