前へ。前へ。

ひとつ。

ご主人様の命令はいつも正しい。

ふたつ。

わたしはしばしば間違えてしまう。

みっつ。

それも御存知なのだから、わたしはわたしが感じるままに従えばいい。

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神殿正面階段途中/青龍の貴族】

緊急時にとまってしまうというたぐいまれな個性を持っている俺。

それが止まるか留まるかわからんが。

立ち尽くす

――――――――――動きを止める。

歩き続ける

――――――――――動きを留める。

その時に為ったらわかるであろう。

手遅れですが。

俺でも一応、念のため。

軍事常識は、知ってますよ？

知ると行うは違うだけ。

緊急時。

留まる、伏せるは最悪。

これは攻撃を受けたときには限らない。

戦場だけにも限らない。

敵と対するときの基本原則。

主導権を握り続けるように。

受け身になると先手を失う。

先手を失えば被害を受ける。

結果がどうなるかなんて、誰にもわからない。

上手くできるかもしれないし手違いがあるかもしれない。

ツいてるかもしれないし、ツいてないかもしれない。

予想通りかもしれないし予想外れかもしれない。

それは敵も味方もおんなじで、誰にもどうにもできやしない。

もちろんそれは、先手でも後手でも同じこと。

なのに先手であるときだけ、その時だ手に入るカードがある。

何が起きるか解らなくても、何かが起きると判ること。

主導権っていうのはそういうモノだ。

凶事吉事どちらであれ、不意と有意の差はおおきい。

平時の街では、殴られただけで人が死ぬ。

戦時の塹壕では、手足を失ってまだ生きている。

覚悟の在る無しで、これほど結果に差が出るもんだ。

ならば先手を狙わない手はない。

後手を踏んでもなお動く。

主導権を取り戻す。

先手を外しても被害は受けない、消耗するだけ。

持久戦ならバカにできない？

持久戦っていうのは決定打が無い状態。

続けていいモノじゃない。

避けるべきモノ切り上げるべきモノ。

先に終わらせた方が有利。

被害はやってみないと判らんが。

消耗は先に切り上げたほうが少ないだろう。

意図的に出来ないことは忘れていい。

手に入るものだけ拾えばいい。

自ら助くる者を助く神様、なんて見たことは無いがね。

自分の手が届かないことを考えるなんてばかばかしい。

自ら出来ることならば、やらない手はないってことで。

だからまあ襲撃されたとしたら、仮定として。

攻撃を受け留めたく無ければ、動くしかない。

襲撃側は、その場その時に最適化して攻撃開始。

敵にとって一番都合がいい状況を維持するなんて、自殺同然だ。

伏せたり身を低くするのは、動きを鈍くするだけ。

まったく無意味以上に、的になるようなもの。

殺されにくいのは小さい的より、動く的。

狙いにくく当てにくくなれば、敵も攻撃優先順位を下げる。

拳銃だって実戦で１０ｍ離れりゃ、当たりやしない。

別な誰かが狙われるが、気にしない。

照準し直しの分、敵の攻撃時間を減らせた上に攻撃精度を下げる。

全体の生残率を高めることになるのだ。

動くにしても前進全力なのは、進みやすく急ぎやいから。

後ろ走りは危なく遅い。

Ｕターンは留まるのと同じ時間が生じる。

しかも退路は一番、予想されて備えられる。

襲われなかった場所、勝手が分かってる場所に退く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一番有りそうだから、当然、狙われる。

リスクを背負って留まって、コストをかけて後退し、わざわざみすみす虎口に飛び込む。

まあ背後ならば、トラップは無いけどね。

待ち伏せポイントより前で工作なんかしない。

それで気がつかれたら、奇襲にならない。

だがトラップが無くても、退路を狙って追い討ちしやすいように段取るだろう。

なーに簡単。

追撃路、まっすぐ追うんじゃなくて、周りこむ道を確認しとけばいい

どうせ奇襲前に地勢は見ておくんだから、手間なんかかからない。

背を見せる側は反撃出来ないから、最高の的だ。

よって後退するなんて、やっぱり自殺行為。

だから前進。

先は勝手が判らないのにか？

敵が前から攻撃していたら？

危地に突っ込むことになる？

だから危ない

――――――――――ことはない。

そもそも正面から奇襲する奴は少ない。

兵士や部隊は正面に攻撃力と防御力を集めて作られる。

人間の感覚器が正面を向いており、手足も正面操作が基本。

全身隈無く防備と兵器で固めるほど、人体のリソースは余ってないからな。

銃口が前を向くなら、敵がいるのも正面想定。

一番攻撃を受け易い正面に、防護も集めて効率配置。

それが古今東西万国普遍、宇宙開闢以来の常識。

だからこそ、正面から奇襲はない。

奇襲出来るなら周りこんで、側面か、側背から。

もしも万が一正面に陣地でも構えられてたら？

そこまでなくても、敵の予備戦力が配置されていたら？

味方の全火力を集中し全防御力を盾に前進。

正面を突破する。

奇襲側は少数なことが多いから、待ち伏せには突破の見込みもたつ。

多数なら強襲するからね。

奇襲と違って隠れることを優先せずに、有利な位置を取るために。

身を隠すということは、少なくとも最初期に自ら射線を塞ぐこと。

最も重要な主導権。

それを敵に譲り渡し、斥候すら控えて受け身で待ち続ける羽目になる。

攻勢であれ守勢であれ、奇襲なんて誰もやりたがらないわけだが。

やりたくないことをやらざるを得ない訳でもあり。

互角以上の状況以外戦うな？

それが出来たら戦争なんか起らねーよ！

地形やらなんやらで正面突破が難しいなら？

敵の右翼側、自分からみて左手に抜ける

――――――――――狙われ難いからな。

そもそも宇宙法則に反して敵主力が正面にいたら？

簡単。

正面突破を試みてこそ、初めて退却できる。

味方の最大攻撃力で敵に一撃を加え、怯ませる。

打撃を与えられなくとも、混乱させる。

でなくては退却なんか出来ない、敗走になるだけだ。

日常でも使える豆知識。

もし銃声が聴こえたら、伏せてはいけないし、身を低くしてもいけない。

どちらから聴こえたかなんて、反撃するとき以外気にしない。

全力で真っ正面に走りましょう。

遮蔽物は走りながら前で探す。

音が前から聴こえても。

向かってくる相手より、逃げる的の方が当てやすい。

ジグザグ移動なんか意味がない。

動きが鈍って狙いやすい。

前だけ見つめて、遮蔽物を探す。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、出来たらいいんだけどね。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/青龍の貴族の右前/魔女っ娘】

駆けっこですか？

わたしはサトウ卿とシバ卿を眼で追います。

とっ、前後からとおせんぼ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・むぅ。

おいかけませんから。

帝国女騎士様が前。

ねえ様が後ろ。

お二人とも笑顔。

わたしの前後を視線で塞ぎます。

お気遣いが嬉しいやら、申し訳ないやら、念のためとは判りますけれど。

やっぱり、わたしの未熟さが、現れていますか？

わたしは走りません、大丈夫。

ちょっと惹かれましたけれど。

でも危なかったのでしょうか。

ご主人様は、わたしを無くしたら、きっと残念に感じてくださいます

――――――――――だめダメだめダメだめダメ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

口元を引き締めないと～～～～～～～～～～♪！♪！♪！♪！♪！♪！♪！♪！♪！♪

そんな、幸せな、わたし。

今は、ご主人様が許されない、この時はだめ。

――――――――――ごめんなさい。

足手まといになっていたら、むぅぅ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それも幼い振る舞い、でしたか？

反省です。

もっとしっかりしてみせます。

今はまだ、護られるだけの、わたし。

すぐに、そうはいかなくなります。

ただただ護られる側から、わたしが護る側へと。

しっかりしないとうけませんね。

至らないところ改める、そんな時間は無いです。

だから、がんばります！

たったの十月十日ですもの

――――――――――たどり着けば、すぐ、ほどなく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あせっちゃだめです。

わたしは、わたしのすべてを捧げても、頂くそれに及びません。

わたしは、ご主人様なしには在りませんが、逆にはなりません。

わたしは、もっともっともっと、ご主人様から頂く

――――――――――烏滸がましくても、いいんです。

もっともっとが止まりません。

不満なんか無いのに、満足出来ません。

ご主人様に、もっともっともっと、お願いしたい。

僭越で身の程知らずで図々しい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしの欲張り。

でも、これは、正しいこと。

ううん、正しくなくて間違っていても、わるいことでも

――――――――――成すべきこと。

ご主人様は、仰いました。

わたしが、わたしの、欲しいを、我慢するな、と。

わたしは、わたしが、望むことを、叶えていい、と。

わたしが願う、わたしの欲を、何もかもご存じなのに。

ご主人様は、尋ねたわけではありません。

ご主人様は、勧めた訳でもありません。

ご主人様の、わたしへの、命令。

恥ずかしい、嬉しい、畏れおおい

――――――――――喜んで、何でも、させてください。

わたしは、もっと尽くしたかった、です。

わたしは、もっともっと聞き分けたかった、です。

わたしは、もっともっともっと、見栄を張りたかった、のに。

ご主人様には通じません。

だから、わたしは、望み求めて欲します。

欲深い、わたしは、与えられているばかりの、わたし。

なのに今、何よりも、欲しくてたまらない。

隠せなくても、眼にしたくなかった、浅ましい、わたし。

わたしは、ご主人様に大切にされてるのに、こんな女です。

ご主人様に見透かされた通り、わたしが欲しいこと、私の我侭

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・従います。

おかあさんにも、なるんです。