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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十二章「男と女と大人と子ども」

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弱者の優位

【用語】


『佐藤』『芝』

:主人公『俺』の部下。選抜歩兵(物語世界での選抜射手)であり、異世界転移後の実戦経験者。曹長に次ぐ軍政部隊戦闘作戦の中心


『軍政部隊』:「俺」が率いる増強分隊。司令官(俺)、監察官(神父)の二人の将校と下士官一人、兵十名(選抜歩兵2名、衛生兵一名)。独立した作戦単位として活動する為に軽装甲機動車と3 1/2tトラック各ニ台、KLX250(軍用バイク)二台、偵察ユニット四機と機動ユニット、各種支援装備が配備されている。


『偵察ユニット』:ラジコン機4機と制御装置がセットで一ユニット。部隊の作戦行動中は常に周辺上空にいる。詳細スペックは「第110部分 DRONE WARS/ラジコン戦争」参照


『哨戒気球』:国連軍作戦地域上空で常に滞空している気球。異世界転移に伴い、人工衛星のサポートを受けられなくなった地球人類が生み出した代用品。単機能複数期の各種があり、偵察衛星替わり観測機能、通信衛星替わりの中継機能、GPS代わりの測位機能(複数の哨戒気球の位置から任意の場所を特定できる)などなど。


『科学技術』:異世界ではすべて魔法として理解されている。ゆえに地球人は全て魔法使いとして見られる。





「強い者が勝つのではなく、勝った者こそ強い者だ」


呆れたものだ。

戦ったことがない者にしか思いつくまい

――――――――――無意味。



「勝てば官軍」


寝言を抜かすな。

単なる勝者に与えられる呼称は

――――――――――蔑称だ。



「運も実力のうち」


実力とは何ぞや。

ミッドウェー、ワーテルロー、桶狭間

――――――――――偶然か。



勝利とは虚構にすぎず。

強者には敵が多くあり。

優劣では物差しがない。



結論。

強弱と勝敗には全く関係がない。

結果と正邪が連動しないように。

能力と成果が無縁だということ。

ならば?





【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/隊列先頭中央/青龍の貴族の手が届かない距離/一足飛びに届く距離/エルフっ娘】


一つは、彼、青龍の敵。

それは、あたしたちの敵。


だからこそ青龍の貴族、その敵は聖都にいるかもしれない。


青龍の敵は青龍。

それはそうよね。


青龍と戦えないようじゃ、敵になることはできない。


犬に怒れば人で無し。

そもそも敵とみられる以前の話。

癇に障っても怒らせることはできない。


あたしたちがいる世界は、犬と同じ扱い?


まあ、そうね。

対等なわけがない。


あたしたちと青龍、力の差はそれぐらいある。


だから彼らは、あたしたちに色々と気を遣うんでしょう。

彼らなりに、強者が弱者を扱うように、ね。


あたしたちからの気遣いは、なるべく避けようとしているし。


比肩しようがない強者であればこそ、気苦労も多いわけ。

あたしたち、青龍以外を、うっかり踏み潰さないように。


そういう感覚は、あたしたちにもわかること。


それはきっと、青龍自身の快不快、矜持と美感を護るため。

でもすべての青龍が、青龍一般の規律や美学を共有できるわけもない。

だからこそ、青龍の女将軍が、同じ青龍の将軍たちを皆殺しにしたわけだし。

※第28話<修羅場>より


その意味で、彼、青龍の貴族は、貴族として配下や僚友を見張っている。


あたしたちは青龍の陣営でも、彼、青龍の貴族から離れない。

それは、まあ、離れたくないだけじゃない。


彼、青龍の貴族が、あたしたちを離したくないだけ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――でもないわよね。



ふん。




【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神殿正面階段途中/青龍の貴族】


俺の耳、その奥にも響く音。

骨伝導スピーカー、その振動。


周囲の環境に関わりなく、特定の者にだけ響く音。


その合図を受けたのは、佐藤と芝、俺。

二人は隊形を離れて小走り。


どうしたのかな?

と思わなくもないが、警報ではない。


警報はもっと明瞭で誤解の余地がないからな。


つまり非戦闘員が気にする必要はない。

そして戦闘員は理解している。

つまり俺には関係ない。


良かった良かった。

俺は変化を受け流す。

これは規定の行動。


指揮をとる曹長から、指揮官である俺へ。

情報共有、確認の合図。


CCメールみたいなもん。


なら支障はない。

なら問うまでもない。

なら知っている素振り。


実際、俺たちの隊形に乱れなし。


元々、二人は先行してたからね。

隊形を組んでいる隊員たちも平然

――――――――――予定行動か。


二人が抜けても死角は増えない。

曹長はそもそも合図の送り主だろう。


俺に合図が響いたのは、俺が驚かないように。

気遣いありがとう。


何もなしに二人、佐藤と芝、部隊一の戦力が動き出したら

――――――――――驚く。


訳が分からず無反応、歩行継続ならいい。

奇襲を受けた時の基本動作は、進行方向全力疾走だけどね。


知るとやるでは大違い。

俺の場合、立ち止まってフリーズしかねない

――――――――――最悪。


進む隊員たち、止まる俺、は避けないと。

そんなことになったら、隊形が乱れる隙が広がる。


部隊の予定行動を把握してない、部隊指揮官?

それこそ隊形が乱れる隙のもと。


俺、指揮官。

建て前だけだって、全員がしっているにしても、だ。


何もかも知っている演技が、将校。

何もかも知られている演技が、兵卒。

何もかも知らないフリが、下士官。




【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/隊列先頭中央/青龍の貴族の手が届かない距離/一足飛びに届く距離/エルフっ娘】


あたしにも判る、その配慮。

耳に響いたから――――――――――三人から聴こえた。


サトウ、シバの両卿。

そして彼、青龍の貴族。


普段は何もかも無視してるけど、やっぱり主君なのね。


両卿が石段を駆け上がり、それを視界の端で確かめた青龍の貴族。

物見――――――――――でしょう。


あたしは手順を想像。


あたしたちが向かう大神殿。

先行した二人が抑え、本陣が続く。


皆が登る石段は、開けている。

誰か何かが身を隠すなら、石段をあがりしな。

次いで神殿の中。


物見が殺られても本陣は無事。


石段上がり口に敵がいるなら、上をとられる

――――――――――問題なし。


銃で戦うなら、高低差は意味がない。


上から下に勢いをつける、それは格闘や弓矢、刀槍戦。

石や矢と違って銃は魔法で鏃を飛ばす

――――――――――まっすぐに、ね。


射程が変わらないなら下から上の方が狙いやすい。

下からなら身をかがめて石段に伏せたまま放てる。

上からなら射線を下に向ける為に身を乗り出す。


放ちやすく身を隠せるのは、下からだ。


エルフの耳や魔法使いが使い魔で、見えない姿を捉えても

――――――――――放つ瞬間はおなじこと。


だからこそ下から向かう時、上がり口が、そこだけが危険。


逆に相手が上で待ち構えて、下から上がった瞬間を狙っていたら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一撃はくらうわよ、ね。


だから一番強い青龍の騎士二人と、青龍の貴族。

三人のやりとりは短く端的。


他の誰もが関わりなく三人で。

他の皆は青龍の騎士長がまとめて。


普段なら青龍の騎士長に何もかも任せるのに、青龍の貴族自身が采配を預かる。


相変わらず何も言わずに、何も示さず。

いつもと違って二人を一瞥。


――――――――――先駆けの誉は、主が見届ける、か。




【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神殿正面階段途中/青龍の貴族】


俺が慌てない限り問題なし。

よってシスターズ&Colorfulは平常行動。

いつも通り、いつも通り。


出会ってから1カ月半だけどね?


エルフっ娘は前方を見たまま、耳は俺に向けたまま。

魔女っ娘は帝国女騎士の視線に曳かれて佐藤と芝を目で追う。

お嬢は今気がついて、Colorfulを見返した。


Colorfulは?

物珍しそうに周りを見ていた。

が、橙・碧・朱・翠・白の順で俺をみる。


なんだかんだと俺、つまり保護者の視線を気にする当たり、子どもだねえ。

で、あたふたと慌てるところも、やっぱり子どもたち。

いや最適解を探さなくていいからね。


室内や車中で一緒に居るときは、迷いが無い。


シスターズのサポート。

魔女っ娘の料理を手伝ったり。

お嬢のお茶に合わせてお菓子を焼いたり。

エルフっ娘の片づけを手伝ったり。


まったくいつも通り

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仕事以外は家事ですか?


俺が眼を離すといかんのだな。

寝ろ、休め、寛げ。

って命令すると、俺の周りで待機を始める。


だめじゃん。


それも駄目だが今この時、遠足中はどうかといえば、それなり。

神殿前下車からこっち、周りを珍しそうに見ていた。

俺と周りが半分半分ってあたり、まあよろし。


シスターズは自然な動作。

物珍しさと不安が半々ってところ。

そこはほれ、慣らしていけばいいだけだ。


問題はこっち。


Colorfulは訓練された動作。

慣れと不慣れが均衡状態、ってのはどうするか。

常に誰かを意識して、魅せることを意識している。


今はお客さん(帝国女騎士)が同席。


余計に気を張っているところが見て取れる。

慌てるところや戸惑いは、俺やシスターズ以外にはわかるまいよ。

それでもその視線や注意を、意識している。


これは教育の成果なんだろうな。


美しく愛らしく。

その姿や仕草をアピールするように。

愛玩対象として鑑賞対象として、自覚的行動。


それはColorfulの大きな武器だ。


これからどんな人生を送るか知らないが、大いに役に立つだろう。

んが、今はアウェーというか、ホームグラウンドじゃないというか。


どうもColorfulは、屋外が苦手らしい。

じゃなければ、不慣れというべきなのかな。


被差別民(ハーフエルフ)で迫害対象だけに、外を出歩く訓練は受けてないのかもね。


ハーフエルフとの関係は、異世界ではスキャンダル。

この娘たちが過ごす予定の人生設計に、屋外車外ってのは考えにくい。

貴族王侯の城の奥か、幾重にも囲まれた馬車の中、いって豪華な船の上。


育ての親的な奴隷商人も、社交の訓練はしなかっただろう。


つまり、その辺りが俺の、俺たちの責任であり好都合。

Colorful、この娘たちの人生は切り替わった。

国際連合が決めた人生が、これから続くよ絶え間なく。


良いところはそのままに、不慣れなら新しいことには適応させやすい。


他人の目に敏感なところは生かそう。

他人にどう魅せるか身についているのは最高だ。

他人の視点を欺けるようになれば、主導権だって握れる。


自衛官と同じ、ゼロから始まるなら、どうにだって。


対人関係の作り方。

人付き合いの処方箋。

組織の使い棄て方。


俺が教えられることは多そうだ。




【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/隊列先頭中央/青龍の貴族の手が届かない距離/一足飛びに届く距離/エルフっ娘】


彼が自分の女を傍から離さない理由。

あたしたちに具体的な危険が起きないように。

もう二つ三つ理由が欲しいけれど、それは別の話。


青龍であっても、あたしたちと変わらない、ところもある。


女を襲うような青龍は、無くもない。

でも、それは例外。

青龍自身がそれを嫌って、居るから。


そもそも過去を再現できる。

※第8話<人間って、なんだっけ?>より


青龍同士でも隠し事は通じない。

青龍同士の方が処断は厳しい。

青龍の女将軍のように。

※第28話<修羅場>より

※第447話<幕間:「あの件」に関する記録>より



なら?


青龍と、青龍に支配された者だけがいる、聖都。

そこで自由にふるまえるのは、青龍だけだ。

青龍の世界で彼が自分の女を守ろうとする理由。


単に傍から離したくない、っていうなら最高なんだけれど。


それはない。

腹立たしいことに。


なら?



青龍であっても、あたしたちと変わらない、ところもある。


刺せば血が流れる。

妬みもすれば嫉妬もある。

趣味嗜好があれば争いもある。


力があり、地位があり、認められていればなおのこと。


あからさまに彼、青龍の貴族を欲しがる、青龍の女将軍。

わざとらしく意図的にそれと伝わるように、彼を揶揄う青龍の公女。

青龍の貴族は公女の家門にあるみたいだし、公女の敵は大勢いるとか。


ならばこの、繰り返される演習も、演習という名目の何か、なのかもしれないわ。


青龍の貴族。

青龍の貴族、その敵は、別な青龍の貴族。


あたしたちの世界で争い合うように、青龍同士が争う

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかしくはないわね。


ならばそう。

あたしができることが広がりそう。

青龍の貴族、その敵の眼に、あたしが映らないなら。


弱いということは、勝てないということじゃない。


比肩しうる力が無いほど弱者。

それでも刺せば殺せる、殴れば倒せる、捻れば折れる。

それはきっと、弱者故の強み。


あたしの武器。



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