褒むべきことを誇らしむべし。

おまえは自分の価値を理解しろ。

暴力に優れていても。

権力を持っていても。

役目に長けていても。

何の価値もない。

より強い者は必ずいるし、強いからといって勝てるわけもない。

権力なぞ集団に従属するものでしかないし、利用されるだけだ。

役目とは決まりの枠でしかないし、代わりなどいくらでもいる。

ソレにしがみつく奴(バカ)、それしかない奴(バカ)もいるがな。

知っているか？

沈んだ船から見つかった死体。

３０キロの金塊を体にくくったマヌケ。

価値というモノを理解できずに死んだ、可哀想な奴(バカ)。

おまえは可愛い。

おまえの料理は旨い。

おまえが好かれている。

可愛いは正義、と誰が言いだしたのやら。

容姿に優れた者は古今東西誰もが求める。

優れた料理人は決して粗略にはされない。

好かれるということはには代わりが無い。

まったく、正しく、正義だ。

何も手にできない人間は、金塊で身体を縛る。

何一つ手にできない奴(バカ)ほど手に入れたと叫ぶ。

何もかも手にしている、おまえは何を求める。

おまえが欲することをなせ。

《女の子にいつも毎回こんなことをゼロ距離で囁かないで公言してんですか口説いてるんじゃないなんて言い訳効かないにきまってんでしょーが褒めて伸ばすって次元じゃないですよこんちくしょーは》

【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/隊列先頭中央/青龍の貴族の手が届かない距離/一足飛びに届く距離/エルフっ娘】

あたしは青龍を聴きながら、より一層耳を澄ます。

きっと、銃じゃない。

竜殺し、と呼ばれる破壊の魔法。

ゴーレムと生き物を合わせた様な竜たち。

青龍の力、その表層。

見えないところに在る真髄、見ていても解らない。

右から左。

あたしたちを囲む青龍の騎士。右列が各々、銃に短剣を嵌めた。

それが終わると左列が続く。

青龍の騎士は右側が弱い。

たぶん。

筒先を向ける構えからみて、だけど。

銃の筒先。

跳び出す鏃が巌も穿つ。

鏃は見えても、魔法は見えない。

破裂するような轟音が響くだけ

――――――――――あたしには。

何が起きているのか？

訊けば、教えてくれる。

あたしは訊かない。

あたしたちも訊かない。

ただ、耳を澄ませるだけ。

彼、青龍の貴族、が知っていればいい。

あたしたちが知っていることは、彼のことだけでいい。

知らなければ、彼の邪魔にならない。

知っていれば、彼の邪魔にならない。

それが役にたつ

――――――――――充分。

だから、あたしは聴いている。

銃は肩か腰を基点にして、左腕で取り回す。

短くても長くても、あたしが見た範囲では、同じ。

左側は、腕だけで振るえる。

右側に構える時は、体ごと向きなおらないとならない。

動作が大きくなれば、体が揺れるし間が開く。

体の造りは、青龍だって人と変わらないのだから。

右を狙うときは動きも精度も遅れて劣る。

槍と同じように、ね。

弓矢だって同じだから、長物の宿命かな。

だから、右から？

片側が嵌めているときは、反対側が筒先を中央に寄せる。

それは二回とも同じ。

戦力の半分、片方だけで陣形全周全体を制すため。

襲われるなら、右側から。

嵌めている最中の側から。

それはもう、青龍を知っていればそうするわよね。

初撃だけは、残る半分で対する。

全員、構えが左より。

右列からでも、左手は撃ちやすい。

どちらからでも右手は撃ちにくい。

から、弱い。

それがよくわかる。

だから右列から、か。

奇襲する側には、隙が出来る刻は判らない。

狙うにしろ、おもいつくにしろ、だ。

短剣を嵌める。

その為に、騎士の半分が戦いにくくなる。

それが騎士長の判断で始まるから。

青龍の騎士は、事前に決まった手順を踏むことが多いのに。

敢えて指示、しかも声に出してまで。

普段は身振りか魔法で合図するのに。

それは、聴かせるため、でしょうね。

隙が出来る刻を、敵味方に知らせる。

もし、あたしが襲う側なら。

隙を狙っていたら。

右側に伏せ、右側からみているだろう。

青龍の号令が聴こえたら、当然注目。

青龍の陣形が動いた、からといって、跳び出したりしない。

いや、青龍が動いた瞬間、むしろ止まる。

それが攻撃動作でなければ、留まって様子を見る。

その間に、青龍の騎士、右側は短剣を嵌め終える。

隙が開いて、閉じて。

襲う側は、そこで初めて好機を理解。

一番隙が大きい瞬間を、最初に持ってくる理由。

最初に、周囲に判りやすく、号令をかける理由。

敵と味方に、互いが備えさせるようにする理由。

好機を逃した、そう、理解出来た相手の前で、また、隙が開く。

左側側が、短剣を嵌める為に構えを解く。

青龍の陣形、その半分が動きにくくなる。

最高ではなくとも、続く好機。

逃した好機に続く、好機。

―――――――――青龍の左側が同じ隙を作った刻。

そこで襲いかかっても、襲撃正面は鉄壁になっている。

右列は装着を終えて、銃を構え直しているから。

大抵の襲撃者は、それでも進まざるを得ない。

一番の隙を逃したとしても、逃がしたからこそ。

悔恨は反省より、行動を促す。

最初から物見に徹するならともかく、戦意が在れば退けない。

ましてや青龍は、短剣を嵌めるのに慣れていない。

それが最初に見て取れる

――――――――――そう、見せている、わざわざもたついてみせて。

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神殿正面階段途中/青龍の貴族】

つまり３０点とは？

俺の部下たち、その技能の一つについて。

そして今は、仕事として採点。

絶対評価。

あることが出来るか出来ないか。

そのことが上手か下手か。

これからは何処を如何するのか。

数値というのは基準値がないと決められない。

正解があるから不正解がある。だから点数が決められる。

それは軍隊、いやいや、自衛隊の作戦行動には基準値がある。

その３０点は、悪くない。

だが、もちろん、良くもない。

だから心中に思っただけ。

我が部下ながら、着剣動作がぎこちない。

グリップと違って押し込むバネ式がＭ-１４。

見なくても感覚で判るハズ。

せめて軽く目配りで動作を終えてほしい。

でも、みんな装着部を凝視。

つまり周りが視えてない。

戦闘中にこれはない。

今は無数の索敵機器に囲まれてる。

普段も一台以上の哨戒気球と三機以上の偵察ユニットにフォローされている。

だから兵士が周りを視なくてもいいのかといえば

――――――――――いいのかな？

いや、ダメダメ。

機械に任せて無駄な負荷を省くのはいい。

機械に頼って可能行動を狭めては困るから。

子どもや女や自分の命がかかってるんだよこれ。

それを忘れないように

――――――――――俺のこともたまに思い出してください。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/隊列先頭中央/青龍の貴族の手が届かない距離/一足飛びに届く距離/エルフっ娘】

あたしたちの回りで、演じられていること。

なに、もかも、誘いの動作。

今さら思えば最初から、そうだったわよね。

威を示して服従させる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、発想はない。

背中を見せる。

武器を預ける。

僅かな数で多勢の中へ。

誘い魅せつけ無視しながら、隠しはしないが魅せつけもしない。

太守府の与太者。

※第１９話＜Rules of Engagement/ＲＯＥ/交戦規程＞より

港街の暴徒たち。

※第４３話＜アフターパレード１９８４/ＡｆｔｅｒＰａｒａｄｅ ｗｉｔｈ Ｏｒｗｅｌｌ＞より

農村の野盗ども。

※第９７話＜軍事裁判＞から第９８話＜心の造り方/Ｒｅｐｒｏｄｕｃｉｂｉｌｉｔｙ＞より

――――――――――力――――――――――

それを見た者は殺されている。

知らない者が跳び出すのを待ち構え。

戦うと言うより、殺し尽くす。

人前を避け、周囲のすべてをもろともに。

見せ示すことなく、皆殺し。

死体すら残さない。

与太者の死体は棄てさせた。

※第１９話＜Rules of Engagement/ＲＯＥ/交戦規程＞より

暴徒達の死体は浜辺で焼き尽くした。

※第６５話＜祭礼＞より

野盗どもの死体に至っては骨も灰も残らなかった。

※第９９話＜彼は誰ぞ＞より

叛徒の躯を晒すのは、領主の常套。

それを魅せつけることで、叛乱を防ぐ。

・・・・・・・・・・・・・・なるほど。

叛乱を防ごうなんて、思ってないわね。

待ち構えてるくらい。

だから、直接、彼だけを狙った暗殺者に、外套を与えたりする。

※第１０話＜冬の日。春の日。＞

あれは街中の者が見ていた。

貴人が与える褒賞の、最も一般的な形。

服は値が張るだけではなく、金と違って名誉になる。

貴者を飾る物で、貴者の手で飾られる。

それは相手を自らの立ち位置に引き上げる、最高の称賛。

自分を殺そうとした刺客に！

・・・・・・・・・・挑んできた勇者、くらいの見方なんでしょうけれど。

見守る街中の者たちに、見習って挑んで来いというばかりに！

・・・・・・・・・・あながち間違いじゃないか。

返り討ちにした敵に、家族がいれば死体と外套を下げ渡す。

・・・・・・・・・・いつまでも誇って飾れとでも？

幸いにして、後に続け、とはならない。

彼の期待通りに、人は決してならない。

――――――――――なってたまるもんですか！

僅かな目撃者の語り口が、知られていくだけ。

だから皆、畏れて敬して遠巻きにする。

それは彼の、あたしたちが想う男の、趣味では無かったみたい。

それどころか、あたしたちが彼と供に立つ世界の流儀、というよりも在り方。

それが青龍。

青龍の騎士たち、その所作一つにそれが現れる。

判りやすく見せつければ、殺さずにすむのかも。

判りやすく隙を見せれば、殺し尽くせるのかも。

どちらが良いとも言えないけれど。

それは、あたしの、あたしたちの感覚。

犠牲は少ない方がいい

――――――――――青龍には関係ない。

解る相手にだけ解ればよく、解らなければ皆殺し。

敵はもちろん、敵になり得る者を、敵意を掘り出し刈り尽くす。

敢えて自ら隙を造ってでも、敵を求めるのが青龍。

襲われる、のではなく、襲わせる。

護りに入ってなお主導権を手放さない。

そんな青龍と対峙するなら、好機を逃せないだろう。

――――――――――誘いだと悟ったとしても襲撃する

　　　　　　　　　　　青龍の願った通り――――――――――