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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十二章「男と女と大人と子ども」

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拝啓ではじまり敬具でおわる。

【用語】


『軍事郵便』

:異世界転移後の国際連合関係郵送物は全て合衆国郵便公社(USPS)による合衆国軍事郵便路線上でやりとりされている。これは合衆国軍内部間郵送ネットワークとして、異世界転移前から存在していた。日米地位協定11条5項に基づき、日本の施政権が及ばない郵便制度。つまり軍事郵便扱いされている限りにおいて、制度はもちろん路線上の郵送物すべてに実質的治外法権が適用されている。国際連合軍/国際連合統治軍/国際連合諸組織/関連NGOなどが異世界侵略を開始してからは、軍事郵便路線もそのまま占領地に拡大していった。ただしハードウェアとしての郵送物を扱うことから防疫上の制限が付いている。よって「異世界大陸内」「日本列島内」それぞれでのやり取りは出来るが「異世界と日本列島」間の配達回収は行われない。異世界に置いて地球人は全て国際連合関係者/準関係者ではあるが、通常の私信公文は電子的な手段で行われる。よって軍事郵便の異世界内利用は「電子通信は検閲される」「電子通信は再現可能消去不可能」「電子通信は漏洩流出を確認できない」という性質に鑑みて、必要とされる場合に使われたと言われている。



拝啓。


新緑深まる今日この頃、国際連合統治軍にはますますご清栄とのこと。

末席からではありますが、謹んでお喜び申し上げます。


自分も国際連合占領下最北端任地にあり軍政下住民の恐怖と不安に満ちた視線にも慣れてまいりました。


教官殿の、うちの娘たちへの細やかな御心遣い。

改めて御礼いたします。


さて、過日よりご相談させていただいていることについて。

再び助言を賜りたく筆をとりました。


此処で知り得たことは、教官が強調した通りのことでした。


生活時間が日の出から日の入りまで。


夜は生理的欲求に伴う最低限を越えた身動きすらままなりません。

朝方夕方はロスタイムである以上、生活時間に組み入れられません。

とりわけ北国では生存を維持する作業だけで日中が終わります。


「現代世界、とはいっても、ここ百年程度の先進国限定、と比べて人生/一日が半分以下になったと考えるように」

「現代日本人の感覚自体が、過去どころか現代地球世界の大半と全く異なることを自覚せよ」

――――――――――教官のおっしゃったことが思い出されました。


それは特権階級にとっても変わらぬ日常となります。

大枚を費やして照明をしつらえても、技術的限界から本すら読めません。

魔法を使えば解決します。

が、総人口に占める魔法使いの割合を考えれば考慮の余地すらなく。

軍政司令部施設周辺には照明があること。

そこに明るさを求めて人々が集まってきているくらいです。



そんな中世の人々にとって、娯楽となることは何でしょうか?


こうした前提に立った時、彼らをして楽しませるのは何であるのか。

日々日常自体に在る楽しさではなく、非日常的な意味でのそれは何か。


お忙しいこととは存じますが教官に、また助言を乞う次第です。



掃討作戦・占領拡大作業も一巡し、一般将校への異世界対応再教育がお忙しくなっているとのこと。

国際連合統治軍の主柱たる先任軍曹閣下にはご自愛くださいますよう、お願いいたします。


敬具。



《合衆国郵便公社/合衆国軍事郵便路線上にある公用郵便物の一つ/琉球大学附属図書館/国連寄託図書館所蔵》




【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神殿正面階段途中/青龍の貴族】


俺たちの感覚だと、中高生に美術鑑賞なんてないわー、ってなるよな。


それこそ実例にあふれている。

美術品嫌いな大人が子どもを引率して強制鑑賞させるという、誰得儀式

美術鑑賞といえば、まさにそれ。


拷問の別名。


いやそもそも、やり方が間違ってるんだけどね。

自分が嫌いなことを他人に勧めて巧くいくわけがないだろって。

しかも情動が不安定な年ごろに静粛強制するって。


アリバイ作りだよね。


教養を付けさせる努力はしました。

教養が身に付かなかったのは自己責任です。

教養が無い大人が増えたのは私のせいじゃありません。


オマエのせいだ!


身につかないないのは教える側が無能だからに決まってる。

教育工学を始めとした技術論が何のためにあるのかと。

教わる気がある人間には教師なんていらない。


ヤル気が無い奴は帰れって?


羊が自分で毛を刈ってくれるなら、羊飼いなんていらねーんだよ。

やる気が無い奴を、ソレと仕立てられないなら、無能の証。

辞める前に始めないでお願いだから、向いてないから。


やる気を引き出せない奴はくんな!


教職課程で誰もが学んでいるはずで、俺も趣味の範囲で聞きかじっている、それが常識以前。


まあ仕方ないね。

よくあるよくある。


経済学を知らない経済学者。

歴史を知らない歴史学者。

科学を知らない理系技術者。


義務教育を把握できない有権者、法の概念が無い裁判官に、自己と国家を混同するお役人様、数え上げたらきりがない。



そもそも教養を身につけさせる、って発想が狂ってる。

意図的に造るもんじゃねーから。


絵でも彫刻で音楽でも、体験させるだけで良い。

出来るだけ数多く、出来るだけゆっくり、まったく好き勝手に。


教養がある者が引率して、だ。


興味を前に静かにさせる必要なんてどこにある。

興味が無くて騒がしくなるなら、居るだけ無駄。

興味があって騒がしくなるなら、止めたらダメ。


楽しめれば自分で漁り始める。

楽しめないと判れば忌避できる。


楽しめたか楽しめないか。

それを知ることが教養だ。


知らないことが無いようにする、そこまでが(おとな)の責任だろう。

ゲーム、オペラ、映画に歌舞伎、コミック、絵画、美食にジャンクフード。


選択肢は山ほどあるからな。

現代日本であれば。


だからこそ、絵は一つのジャンルに過ぎない。

ハマるかどうかは、各々次第。

ジャンルが多けりゃ、鑑賞者も細分化する。


だから楽しめるとは限らない。

現代日本であれば。


だがしかし、この時代ならいける、はず。

と、異世界派遣前研修の教官が言ってた。



映画もコミックもアミューズメントパークも、あらゆるエンタメが無い時代。

地球の中世において、絵や彫刻、聖堂や宮殿は非日常の娯楽だった。


映画を見るように絵画を見て、コミックを読むように彫刻を眺め、海外旅行の代わりに聖堂に出入りして、リアルシンデレラ城を探索する。


騎士領主はおろか王侯の園遊会まで、身分問わず参加可能だったくらい。

パンとサーカスの基本原理はローマ以後も有用だった、が、それを楽しむ人々には関係ないか。


そんな世界。

と、異世界派遣前研修の教官が言ってた。



教官。

○○付いてんのかー!

とか叫びそうでじっさい怒鳴ってましたが。

遠くにいるときは感謝できるもので。


眼の前にいるときは背中から撃ちたくて撃ちたくて隙が無かったよ。

顔と口調と行動は軍曹なのに、実はアマチュア歴史学者っていう、ね。


わざわざ手間暇かけて苦労して、アマチュアを探してくるあたり、安全保障理事会のセンスがうかがわれる。


つまりは専門家を信用していない。


現代先進国の常識でしか世界を見ることが出来ない人々。

自分の見知った範囲から出ると、世界にはまだこんなところガー!、っとか言っちゃう。


それが世界の大半だ!


ってまあ、ウォール街のムチャぶりのせいで、非先進国を巡業した兵隊さんたち、とりわけ永久勤務の下士官にはよーく解りたくないほどわかるわけだ。


電気が無い生活をしないと、夜の暗さは解らない。

エアコンが無いところで暮らさないと、暑さ寒さは解らない。

一年の大半を、そんなところで暮らさないと、世界の塩梅が解らない。


あえて、現代日本で生活して、あらゆる照明を使わないとか。

敢えて真夏の日本でクーラーを止めて、非現代生活を送ってみるとか。

21世紀になってからの日本で、生活苦で死亡している人たち以外、未体験。


俺たちも派遣前に照明無し生活を体験させられました。


軍政官向け特別カリキュラムで、暗視装置もなしに月明りだけで生活してみろって、ムチャぶり。



解りたくね~~~~~~~~!

判るのも嫌だ~~~!!

強制されたんですけどね!


仕事上、だったら拒否るけど、上官的な何かに脅迫されまして。


現在の任地で夏を前に軍政司令部にエアコンが完備されたのは?

喜ぶべきか、それとも長期派遣の布石じゃないか、疑うべきか?


ともあれ、前提となる苦行をこなし済。

おかげで俺にも子守ができる。


中世で!

異世界で!

日本以外で!


ま、欧州の中世に近い、といってもそのものではないからな。

イケるかどうか、うちの娘たちに、やってみればいい。


せっかく出会えた縁がある。

ひと春ひと夏くらいの体験なら、きっと後日、笑いあえるさ。

その為に、小さな一歩に手をひいて。


おそらくはこの異世界で最も大きな非実用的装飾多数取り揃えた石造建築物、ありとあらゆる娯楽をクラウド・アーカイブスで楽しめる俺たちにすら通じる史跡巡りを楽しみたまえ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウケなかったら、音楽隊のコンサートでも仕込もうかな?


音大から自衛隊に来た親しいお、奴に心当たりがあるし。

東北方面フラッグ隊経由であたれば、各方面の音楽隊や米軍にまで手が届く。

持つべきものは無理を通せるコネの広いコネってことで。


※東北方面フラッグ隊:20代前半までの女性自衛官から選抜されたチアリーダー(ではない、と公式には明言されているが、まあ、お察し)的な部隊。




【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/隊列先頭中央/青龍の貴族の手が届かない距離/一足飛びに届く距離/エルフっ娘】


よ~~~~~~~~~~~~く、見る、観る、視る。

あたし、今まで、何をみていたんだろう?


うぅ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・色々余裕が無かったのね。


それはもちろん、あたしの不覚。

そしてもちろん、彼のいじわる。


知らずに合わせてこれたのが、あたしの自慢でもあるし、ダメな処かも。


ここは戦場じゃない、だから判ることがある。

戦っている時に感じたことが、戦っていないからこそ理解できる。


あたしたちを包む青龍の騎士たち。


文字通り、包む、ね。

あたしたちを中心にして、互いの距離が変わらない。


動いても。

止まっても。

急いでも。

遅らせても。


互いを見ることもなく、一定の間を開けて、拍子をとって。

まるで帝国の戦列槍兵のように

――――――――――――――――――――――――――――――――やっぱり。


あたしたちが青龍を例えると、赤龍に行き着いてしまう。

それが嫌だって訳じゃないけど。

嫌いではある。



でも。

帝国の槍兵のように、じゃない。


帝国兵の戦列。

青龍騎士の戦列。


統一された装備。

統一された姿勢。

統一された動き。


戦列を組めば、青龍も赤龍も同じように見える。

けれど戦列を組まなければ、まるで、違う。


個々の兵士として、散開して戦う時。

少人数に分かれて、連携して戦う時。


帝国軍は、ただの集団になる。

旧諸王国軍みたいに単なる集まり、より、まとまっているけれど。


互いの力を見極めて、騎士や物頭が指揮して、各々ができることをする。

――――――――――帝国軍の小部隊。

互いが力を誇示しながら、強者や上位者に寄り集まって、手柄を争う。

――――――――――諸王国、ううん、大陸古来に戦い方。


同じ世界の程度の差。

似て非なるモノではあっても、似てはいる。

――――――――――――――――――――――――――――あたしたちが生きてきた世界。


青龍は?


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