幕間:性夜の軌跡
「性の禁忌」
それが無いんです。
異世界では。
だから結婚もないし、夫婦も無ければ親子も無し。
年頃、ってーか、可能な男女が気の向くままに目合うのがふつーふつー。
義務でもなければ娯楽でも無し。
食事と同じようなモノですね。
子どもは共同体で育てますし。
問われることすら少ないですが、あえて問われるのは「誰が母親か」です。
合意ベースですけれど、社会的な制約や暴力的な強制もあるでしょう。
選択肢が多すぎて、わざわざそこまですることは少ないみたいですが。
暴力が伴う場合や、強制の度が過ぎれば忌避されます。
それはなんだってそうだよね、ってレベルの忌避で。
殴られたり脅されたりすれば、誰だっていやでしょう。
野良犬にかまれたと同じこと。
それだけです。
いわゆる禁忌じゃない。
だから生きるの死ぬのって話になりません。
※第三章「掃討戦/文化大虐殺」より
何で禁忌が無いのかって言ったら?
「とある宗教」が生まれなかったから」
ですね。
「とある宗教」
有名なアレ。
唯一神を崇める、ローマ帝国由来の世界宗教。
その宗派多数。
長靴半島の真ん中が最大派閥かも知れませんが。
あれって、そのうちの一つだけですからね。
アラビア半島のどっかにある宗派も、同じ分派。
事実、アレが伝播していない世界ではそーいう禁忌が無いです。
ってことは、地球人類の多数派には、そーいう禁忌が無いわけですけど。
人間にとっての世界とは「個人が見聞きできる範囲のことである」ってね。
では「その禁忌」は、なぜ生まれたのかって話ですね。
それが解れば、異世界の理屈も判るわけで。
「とある宗教」が生まれたのはローマ時代です。
しかもその、絶頂期。
歴史的チート文明、現代人が唯一耐えることが出来る豊かさと安定。
ローマの主要信仰は多神教です。
八百万系の、ごく一般的な奴。
そこで唯一神を唱える?
みんなから嫌われます。
ただ神様を奉じるだけなら「また神様が増えたか」で気にされなかったでしょう。
んが、唯一神を奉じるってことは、他の信仰を否定する事。
「とある宗教」全盛期みたいに他の神殿を焼き払ったりはしない、にしても、それは出来なかっただけなのですから。
ふつーにテロリスト扱いです。
反社会勢力此処に在り。
弾圧されますよ。
温和で平和的な皇帝ほど、「とある宗教」には厳しく臨んだそうですからね。
そりゃそーだ。
で、「とある宗教」側。
彼らは見事に生き残りました。
全世界、豊かで平和な世界に背を向けて、むしろ敢えて敵に回して、どうやって?
「権力」によって!
「権力」になることによって!
デイヴィッド・イーストン(David Easton/政治学者)は定義しました。
「政治とは有価資源の権威的配分である」
ジョージ・オーウェル(George Orwell/小説家・活動家・哲学者)は言いました。
「欠乏の無いところに権力は生じない」
おんなじおんなじ。
だって、「価値あるもの」が有り余るほど溢れていたら、配分(権威/権力)なんて必要ないじゃないですか。
配分が「権威」によるのか「権力」によるのか?
みんなが喜んで服するならば「権威」です。
みんなが嫌々従わされるのが「権力」です。
「とある宗教」が生き残るためには「嫌がることを強制し実行させる」権力が必要でした。
ローマ世界のど真ん中で!
有り余る豊かさの中で!
平和と安定の最中で!
ローマ帝国という権威を否定し戦う為に。
そのためには、不足を造らなくてはいけません。
飢えと渇望を極大化させて、しかも欲望を配分すること。
それしか「強大な権力」を造る方法はない。
絶対だめだと言いつつ、教団で配分します。
原罪と赦し、マッチポンプ、ナウ!
教祖が聴いたら血の涙流しそう。
人間を飢えさせるためには、本能的欲求を禁止するしかありません。
「本を読むな」と言っても、気にならない人の方が多いでしょう?
人間が人間であるより、生物であるために必要なところを狙います。
なら三大欲求しかない。
食欲。
――――――――――禁止したら信徒が死にます。
名誉欲。
――――――――――不名誉カルトに誉なんてありません。
性欲。
――――――――――はい、ご存じのとおり。
できることからコツコツと。
性欲を禁止しても死にませんし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はいはい。
断色で餓死しかけてるたいちょーは、黙っててくださいね。
確かに死ぬことが出来そうですけど、生きてるじゃないですか。
長いことないって、すぐにでも満たせるじょーきょーでしょーが。
付き合いで餓死しそう、ってか、している娘たちの立場は?
さっさと喰えばいいでしょーに!!!!!!!!!!!
ソレを自殺っていうんです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
むしろ心中しそうになってるんですから気がつきやがれっての!!!!!!!!
泣いてる娘もいるんですよ?
はい。
禁忌の捏造からですね。
まずは妻、ってか女がいた教祖の言葉や行動とは全く無関係に、性行為を禁止します。
特権階級の慣習を模倣することで、微妙に名誉欲を刺激する「結婚」が造られました。
性を悪しきものとして禁止し、それを許可する権利を握る。
許可制にすることで、信徒の管理も進みます。
運転免許証の交付と更新手続きで、国民動態を把握するようなもん。
子どもが生まれたら、自意識を持つ前から信徒にできます。
洗脳、いや、洗礼。
出生管理体制って、独裁体制の必須事項ですね!
もちろん、失敗しました。
ローマ帝国の干渉は時々最小限に弾圧。
成熟した、奇妙に近代チックなローマ帝国。
個々人の信条には最低限しか、関わりません。
そこまでは良かったんですが。
動物は本能から、逃れられません。
体に悪いから、逃げないほーがいいですけど。
お医者さん的に、死体に増えてほしくないもん。
不合理、つまり誰のメリットにもならなきゃ、続くわけないでしょう?
それが売買春の始まりです。
まあそれ以前に娼婦娼夫ってのはありましたが。
でもそれは技術や容貌を売ってたんですよね。
異世界の娼婦っていうのは、ほとんどそれです。
一部には異常、まあ、ほぼ同意の可能性が無い特殊嗜好者向けの御商売もあるみたいですけれど。
相手の同意を得られない、取引が成立しないソレだと、奴隷なんかが使われますね。
奴隷相手だとしても、普通は白い目で見られるようなことになります。
※第75話<幕間:善悪の彼岸>より
で、異世界とは違う道をたどった地球の御話。
そこで初めて、男と女が生じます。
概念として。
リンゴを、食べちゃったんですね。
男である。
女である。
――――――――――たかがそれだけのことに値段がつく。
そこが出発点です。
禁止によって価値を捏造する。
この構図はよくあります。
無から有が生じるんですから、利益を得る人達も少なくありません。
禁酒法と密造酒。
麻薬取締法と麻薬密売。
婚姻制度と売春。
ん?
じょーだんは行動だけにしてください。
初めて値札が付いたような女に値がついても、関係ないですよ♪
イイ女は最初っからストップ高ですもん。
禁止じゃなくて、政治的に受給バランスが崩れた、ってケースもあります。
適正上男ばっかりになる、戦場周辺とか万国共通。
もちろん人類の多数にとって日常じゃないですが。
変わり種では江戸時代の江戸なんか、それ。
政治的な理由って言えば江戸、ってくらい。
男女比が8:2なら、素人だって売れます。
逆に言えば、総人口の9割には関係ない。
手の届く範囲に、男女がいますから。
あーあれ。
「男が女を求める」
ってのも、捏造ですからね?
科学以前に、理屈も何もありません。
医学を修めなくたって解りますけど。
眼に映る物が全部必然なら「おはよう」って挨拶も宇宙開闢から続いていたことになりますね。
そーいう事にしないといけない癒合がある人達が
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しってる?
そりゃそっか。
同じ江戸時代の農村に行けば「口説かずに買う」って発想が意味不明だったでしょう。
余談余談。
ローマ時代だって同じ。
物理的な制約が無ければ、誰が我慢しますかっての。
制約がある前線や辺境、同じかな?、そこではそれなり。
それだけで終わりです。
で、失敗し続けてカルトのまんま時を過ごした「とある宗教」ですが、時を過ごせたってだけで成功かも知れませんね。
新規加入者の拡大には軒並み失敗。
ただ出生管理で生まれた時からの洗脳、いや、洗礼は成功率が高い。
産めと増やせよ地に満ちよ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よく言ったモンです。
周りはたまりませんね。
火炙り磔生き埋め、その他もろもろで弾圧しますよ、そりゃ。
まあそんなこんなでローマ帝国全盛期をやり過ごし、崩壊期にはその権力構築技術、洗脳とか宣撫とか弾圧に対弾圧に拉致監禁他を餌にして、社会を維持する為に必死で「権威」から「権力」墜ちていく帝国上層部を篭絡し、巧みに中枢の周りに寄生することで大破局後中枢部が根絶やしにされた後も周辺だからこそ生き残り、暗黒の中世千年紀をへて世界への感染、おっと、伝道を始めるわけです。
チート文明が千年間も後退を続ける地獄絵図。
なんにだって縋りたくなりますよ。
どんな不合理にだって。
本来の教義とは関係ない、教団を生き延びさせるための方便が、教義を侵蝕しても、信徒たちすら理解しない
ビバ!
暗黒時代!
誰にとってかわかりませんが。
この時点で「とある宗教」は原型を失います。
それが地球ヨーロッパ・アラビア文明圏の御伽噺。
この文明圏は、地球最強ですけれど、地球の大半じゃないですから。
支配階級は常に少数派、ってことですね。
であれば人類にとっての一般例ではないんですけれど、まあ、表面的には「性の禁忌」があるようなふりして大衆レベルでは無かったり。
明治以降、西洋史で世界を教えられてると、判ってない事すら解んなくなりますよね。
んで、異世界の御話。
「性の禁忌」がありませんでした、ってとこで。
宗教自体が無いから、生まれようがないんですけれど。
たいちょーのとこの娘たちですか?
異世界の特権階級。
総人口の一割以下、例外さん。
それが、あの娘たちじゃないですか。
一般から見て変ってるのは当たり前でしょうけど。
特権階級内でも、ちょっと風変わりですね。
エルフっ娘ちゃんの影響なのかな。
血族/氏族組織は血統管理に重点を置きます。
しかも母系社会に近いです。
あー誤解が多いですけど、母系社会って女が権力を握る社会じゃないですから。
当主、首長が男だって方が一般的です。
父系社会だってそーですけど。
女城主や女武者なんか普通すぎて「女」ってわざわざ付けなかったくらいです。
役職役柄は向き不向きなんでしょうね。
生産力が限られてる、飢餓線ギリギリの世界じゃ実力主義にならざるを得ない。
でなきゃ滅びるわけで。
であっても滅びるくらい。
男尊女卑や男女平等が「できる」様になったのは、産業革命以後。
過剰生産が常態化して、不合理を導入することで生産効率を下げねばならない。
合理的な必要性に基づいた不合理、ってところでしょうか。
あ。
それました。
母系父系の話。
それも現代、100年くらい前からの時代、その特権階級だけ。
血縁とは無縁に、地縁で生き歴史を書かない人類、特異な例外以外には、母も父も、今でも関係ないですが。
母系っていうのは血族の条件が母親に依るってだけですから。
氏族の女が産んだ子は、みんなその氏族に属する。
だから相手が誰でもいい、ってほどフランクじゃないですね。
そんな世界。
地球の中世や異世界。
その人類全体とは関係ない、総人口の数%くらい。
特権階級には性の倫理があります。
禁忌、じゃないですけど。
氏族同士の盟約や方針で特定の相手を妻や夫に決める。
それは普通です。
でなきゃ政治的に意味が無くなりますから。
でも、異世界全体で純潔信仰/処女信仰はないです。
だから決まった相手以外と関係を続けたり始めたりするのも普通。
氏族の敵は論外。
友好的な同一階級の者か肉体的に優秀な者が選ばれるみたいです。
血筋も能力も良ければ最適でしょうけど、競争率も高そうですよね。
血統改良に傾くのは、まあ美醜と優劣は比例しますから。
好みを優先すれば自然に優秀さを求めることになります。
騎竜民族の影響、もあるかも。
馬も竜も合わせて血統選別による品種改良が盛んですから。
人も同じように見てる、可能性が高いですね。
安全な相手として、同じ氏族から、っていうのが一番多いとは言いますが。
このあたりも競走馬の品種改良を思いおこさせますね。
動物の能力を高める場合、近親交配ばっかりですし。
まあ陣営内部のきずなを固めることも兼ねてるでしょう。
外との関係は敵味方判然としないことも多いですから。
護るものが多い階級ならそうなりますわね。
特権階級、女の嗜み。
直系に近づく娘ほど血統管理は厳しく、相手はすくなめ。
傍系に離れる娘ほど血統管理は緩く、むしろ数は多いのが推奨。
傍系の交配結果を直系の相手選定にフィードバックする、とかなんとか。
で。
あの子らですが。
魔女っ娘ちゃんは、独り氏族。
身内がエルフっ娘ちゃんしかいませんし。
敬して遠ざけられていたから、常識に疎い。
特権階級も一般領民も認識が無いですね。
お嬢ちゃんは、箱入りですし。
愛娘の肢体と心を日々刻々一時の隙も無く隅々まで弄びつくしている異世界からの侵略者を目力だけで殺せるもんなら殺したいし引き離したいけど愛娘の怒りが怖くて手が出せないっていう異世界では珍しいっていうか異常に近いお父さんがず~~~~~~~~~~~~~~~~と保護していたわけですし。
エルフっ娘ちゃんは、異世界唯一の純潔主義者。
エルフの種族的特徴、一生涯一人の相手を愛し続ける。
エルフの長命と関係があるんでしょうから解析中ですけど。
エルフの本能なんだか趣味嗜好なのか?
利害打算や迷信狂信じゃないことは間違いないです。
複数のサンプルを自白剤で精査しましたから。
そーいう教育すらないっていう。
千年後も、今と等しく想われるって、どんな気分です?
ま、他重要なのは身内の話。
世間知らず二人組が、純血主義と貞操観念が信仰化している地球先進国でもいないよーな純情エルフっ娘によって、大切に大切に育てられたんですよね。
他人の利害に左右されないで、自分の想いだけを大切にできる女。
そう考えると、王城周りっていうか、たいちょー周りは異世界の例外が多いかな。
そりゃそっか。
情であれ雇用であれ打算であれ、訳の分からない異界からの侵略者を許容できるんですから。
あの娘たちが捧げているのは、とてもとても大切なもの。
あの娘たちを縛るものは何一つなく、求めるモノが一つだけ。
あの娘たちは自分自身の想い、それ以外そもそも設定されてない
地球の先進国じゃ違います。
罰を恐れて仕方なく。
法律で決まってるから。
神様がそう言っているから。
我慢してでも。
妥協してでも。
絶望してでも。
一緒に居なければならない。
一緒に居るべきだと思うべき。
一緒に居たいと思わなければならない。
――――――――――本当か嘘か、本人にだって判りませんよね。
区別できないなら、それは、最初から最後まで全部、嘘じゃないですか?
それが正しいことだとされるワケ。
自分にとってのあたりまえ。
それは宇宙開闢以来の常と感じる。
皆「当たり前」を疑うことはできない。
朝は「おはよう」と挨拶するのが自然の法則である!
其れがどれだけ、ありえなくとも。
そらーもう、退き返せませんわ。
たいちょー?




