Human intelligence./⇔/signals intelligence.
【用語】
『シギント』:機械的手段による諜報活動。無線有線による盗聴盗撮。各種機器兵器部隊による偵察情報。それらの解析分析再統合など。例えば「映像データを解析し光の変更屈折から大気密度動態を把握することで、その場における音/音声を再現する」や「聴取した音声データの反響反射減衰の測定観測することで、密室の情景を再現する」ところまでは、日本列島以外ではあまり使われなかったが。異世界人類がその概念、あるいは存在を知っていたら戦局は変わっていたかもしれないと言われている。異世界における地球人類のヒューミントはほとんど不可能だった。そもそも異世界標準の金髪碧眼は劣性遺伝子であることから地球人類でも少数派。日本列島在住の外国の軍関係者から選抜、染髪やコンタクトを駆使しても偽装可能な人員は極少数。そこまでして異世界活動が可能になってなお、コミュニケーションは困難を極めた。戦時下で避難民が行き来する帝国支配地域で動き回ることは出来ても、日常的な接触をすれば文化的な相違がすぐにばれる。よってヒューミントは拉致した住民の自白剤処理くらいしかできない。単純にばら撒かれ/設置された半永久電池の盗聴盗撮機器は異世界の様々な情報を収集し機械処理で選別再構成されたデータ。それら単純なシギントは、まったく警戒する知識が無い相手に対して絶大な威力を発揮した。むき出しに設置してなお「変ったオブジェ」にしか見えないこともあり、航空機からの大量撒布も行われたくらいである。もちろんそれが故に異世界の好事家の関心を呼び、街中の盗聴器盗撮器が貴族のコレクションルームに収納される事態まで生じたが、それはまた別の話。
「『娘に期待すること』は、なんですか?」
「『お父様なんかだいっきらい!』って言われたいDEATH!」
打撃音。
「えらい音だったが」
「答えは?」
「音・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「――――――――――お・こ・た・え・は?」
「あ、はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ジト目やめ」
「OH~~~~~~~~~~SEXY!HEY!Come Come on!
HE~~~~~~~~~~YA!」
BAM!BAM!BAM!BAM!
「わかった判った解ったワカッタ―――――――――キサマは伏せてろ挑発すんなfreeze!」
「娘に期待することは、なんですか?」
「ない」
「?」
「なんで?親が子どもに期待する?なにを?」
「え」
「ふつー逆だろ?」
「はぁ」
「子どもが親に期待するもんだろ」
「は、い」
「親に期待なんかされたら、ふつー『わきまえろ!ぶぁ~~~~~~~~~~か!!』って叱る」
「師匠」
「うむ」
「『おとうさん♪』って、呼ばせてください」
「――――――――――お前のような娘を育てた覚えはない」
「あの娘たちを『おかあさん♪』って呼びます。語尾はハートで」
「真顔で十歳幼女たちを怖がらせるんじゃない!!!!!!!!!!!!そこそこ『がんばります!』じゃない!」
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神殿正面階段途中/青龍の貴族】
俺たちの先頭は、案内人の帝国女騎士
――――――――――ではなくエルフっ娘。
刀を俺に渡してから俺が曹長に預け、軽やかな足取り。
エルフっ娘から曹長に、直接渡すのはダメらしい。
なんか文化的なそれなんだろーけど、よくわからんな。
それはおいおい、本人に確かめる。
それやこれやを聞き出すのが楽しみだ。
人をあしらったり、嘘をつくのは得意なんだそーな。
この正直耳のエルフっ娘が、そう自供しており。
どこの耳がそんなことを言っているのかっていう話。
俺に遊ばれるために産まれてきたのかな?
お互いの概念が違うから、魔法翻訳があってもストレートにはいかない。
んが、解らないなりに言葉を重ねると、なんとなく判るようになる。
言いたくないこともあるようだが、言えと言えば答えてくれる素直な娘。
夕食後の娯楽に最適です。
それはもちろん、いまではない。
心のメモに記録済み。
うーん、けっこう溜まってるな。
任期中に終わるのかね。
有って無いような任期だが、ずっといる訳もないし。
ずっ~と居させられるわけもないし。
ないし。
まあ平和な時代が来たら、再会すればいいだろう。
東京に招待しても良し。
俺が旅行に行っても良し。
手紙は面倒でも電話とかさ。
帝国女騎士を口説くうえで、ぜったいに再訪はするしね。
地元の爺婆ガキどもに見せたい異世界でもあるから。
五年もあれば町内会の旅行先に設定できるであろう。
今の町内会長もそれぐらいなら生きていると思うし。
町内会長と帝国女騎士にはぜひ長生きしてほしい。
俺の近所の中高生も、その頃には半分くらい大人。
爺婆が衰えてもカバーできるくらい、おとなしくなっているだろう。
異世界ちびっこ二人に見せて恥ずかしくない淑女に仕立ててしまえばいい。
マイ・フェア・レディかな?
なにしろうちの二人は、出来がいいからな。
俺のせいじゃないけど。
この二人に気に入られているのは俺の自慢。
日本の俺の家の近くに生息しているガキどもに、見習わせよう。
女の子は同性の、ほんの少し年下相手にも見栄を張る。
その相手は異世界でも筋金入りの貴種二人。
ではあっても10歳前後の幼女と童女相手に退けまい。
俺に甘えて掴まれたり踏まれたりしている連中には良い薬。
せいぜい異世界を侮るといい。
現代世界が上だと誇るがいい。
他を見下して胸を張るといい。
そこで引っ込みがつかなくなって、なにがなんでもカッコつけなくてはいけない羽目に、ガキどもを突き落としてやるのだ!!!!!!!!!!
キラキラ輝く無垢な眼で、凄いですね♪って言われてみるがいい!
尊敬に満ちた好意の眼で、声も出せないほどに感嘆されてみるといい!
はにかんで照れた仕草で、何気ないほどの質問を受けてみろよもう!
恥ずかしくてノーロープバンジーをキメる衝動と戦いながら、僕たちカッコいい地球人でーっすってフリをしてヤッバイことをしでかす認めたくない同胞を目につかないように始末する苦労と苦悩を知るがいいさぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
けっして、俺の苦しみを肩代わりさせようというわけではない。
俺以外がどんな目に在ろうとも、俺は全く楽にならないからだ。
純粋に普段から目につく近所のガキどもの本王をみたいだけで。
いえ、俺が愉しいだけじゃないですよ。
むしろ、異世界ちびっ子こそが、日本のガキどもを成長させる。
子どもの目を気にした時こそ、カッコいい大人になるのだよ。
見栄を張るってことは良いことで、背伸びするのはもっといい。
そう。
すべては本人のためなんです。
俺の娯楽はまた別です。
そう。
俺は魔女っ娘、お嬢の手をひいた。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/青龍の貴族/隊列先頭中央/エルフっ娘】
あたしは彼の動きを聴く。
両手を塞ぐなんて、初めてのこと。
それだけここは安心、っていう態度を見せて。
隙を造って誘ってる、と考えるのは穿ち過ぎかしら。
あの女に、なわけがない。
であれば、見せつける相手はいないのだけど。
ソレがあるって、やっぱり知ってる、わけ。
心強いけれど、わざと事を荒立てようとしてない?
彼、青龍の貴族は手で人を切り裂くばかりじゃない。
竜殺し、っていうわりに銃は同じ青龍を殺す時にしか使わない。
殺す前に、あの娘が止めたけれど。
むしろ視線で千切って砕く方が多いかな?
そう考えれば、意味はないのかも。
彼にとっては、手取られようが取られまいが。
ならいつでも、って
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちがうちがう!
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面階段途中/青龍の貴族】
こんなふうに俺が二人の手を引けるのも、最後か。
戦時下ですから。
普段は俺の裾を握って離さない、ちびっこ二人が。
戦場の基本原則。
護るべきを掴むべからず。
護らざるを撃つべし。
護らざるこそ護れたる也。
そしてここは戦場じゃない。
掃討作戦終了後。
侵攻作戦大規模拠点、出島と同じ扱い。
国際連合作戦基地。
味方以外のすべてを殲滅した跡地。
無数の索敵攻撃システムの中、安全な場所。
一歩外は、まるまる星一つの戦場。
そこでは常に両手を空けておく必要がある。
太守府の顔なじみ、って程でもない、でも知ってる顔を思い浮かべる。
参事会の御歴々。
盗賊ギルドの愚連隊。
南の村の御百姓さんたち。
全部殲滅対象。
泣いていいかな、同志。
すなわち前を行く保護者仲間。
いや被保護者兼任。
エルフっ娘。
俺は前を行く華奢な背中を見る。
鎧を付けている時さえ、細身だったからな。
脱いでしまえばこんな感じか。
肢体の線を出さないように、春物のコートをかけているせいか?
ゆったりして余りめの生地。
それがエルフっ娘をよけい、華奢に見せているのかもしれない。
普段はグラマラスな印象。
いや、着衣の上からでも、だ。
ちびっ子と離れているせいもあるのかね。
周りにいるのが、プロテクターを付けた兵士だし。
俺とエルフっ娘の間に立つのは、鎧を付けた帝国女騎士。
全員シャープな印象、その中の、ゆったり風なエルフっ娘。
後ろ手を組んで弾む足取り。
大神殿の階段を上るので、後ろ髪が跳ねております。
リラックスできているようで大変よろしい。
それは普段、緊張しているということなので気を付けます。
屋内では結構、気を抜いてるんだけどな。
たいてい俺の背中に寄りかかってるし。
完全に力を抜いて体重を預けてるし。
いつでもどこでも柔らかいが、いっそう肢体がフワフワしてる感じ?
掴んでみるとしっかり筋肉がついてるんだけどな。
エルフっ娘の、腕とか脚とかお腹も胸も。
一見すると、あるいは撫でる範囲だと判らないね。
適度に女らしく脂肪がついているので、強そうに見えません。
見かけとは逆に、むちゃくちゃ強くて剛くて猛よいけど。
俺より強いのは当然として、自衛隊隊員より強いだろう。
銃という概念を知ってしまえば、それを上回るのは容易い。
それこそ国連軍が、俺たちが恐れるところだが。
曹長、芝や佐藤ならば対抗できるんだろうけどね。
これは逆に、エルフっ娘のことを良く知っているからだが。
癖っていうか、実戦経験者だけは、そーいう眼で見てるのが判る。
愛でる前に、まず査定。
いやはやまったく、辛い話だよ。
ほんとーに感謝しております。
俺がしなくていいことに。
エルフっ娘を観て、ただそのまま、女として見られる立場に。
いやまてこれは、女らしく、って範囲じゃないかな?
体機能として雄より雌のほうが脂肪が付くって感じではない?
じゃなくて、生存に必要な適度を越えて、蠱惑的な?
いや、男目線じゃなくても、惹きつけられるものがある。
マメシバは、口車に乗せて着せ替えさせながら、常に絶賛しているし。
あの処女ビッチ、他人の良いところを確実に捕えて賛美するから、侮れん。
無数の男を転がしているだけはある。
処女のくせに。
元カノは、肢体良さだけがすべてじゃないと知らせてやる!とかなんとか。
自分よりスペックが劣っている相手には、サイズがすべてと力説してる癖に。
昔のオマエに出会わせてやりたい。
元貧乳のくせに。
三佐のようなアレな女は何も言わないが、考えてることは眼を見なくてもわかる。
エルフっ娘を視るときは知力戦力は等閑視、魅力だけしか測ってない。
魅力以外は代わりがある、とか思ってそう。
使う気もないくせに。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面階段/青龍の貴族/隊列先頭中央/エルフっ娘】
あたしたちを囲む、青龍の騎士たち。
前に四人、左右に二人、背後に二人。
八人が同行。
残る騎士は、らんどくるーざーについてる。
その二人が大神殿正面を保つ。
らんどくるーざー、土竜三頭に竜騎士二人。
つくづく、凄い戦力
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――青龍にとっては、最小単位、か。
大神殿正面。
あたしなら、退路と考えるけれど。
青龍なら進路なのかしら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みたいね。
まったく退くことを考え無い訳じゃないでしょうけど。
らんどくるーざーの一頭は、明らかに頭を大神殿に向けている。
事があらば、まっすぐに突入してくる構え。
第一、聖都は青龍の支配地。
この周りもゴーレムや使い魔、騎士が配置されてるし。
いざとなったら、殺到してくるわね。
青龍の女将軍が言ってたかしら。
攻めないと退けない。
あたしは一介の剣士。
解るわけがないけれど、判るところはある。
相手と距離をとるときは、一撃打ちこんでから。
相手を突き放すと同時に、下がる。
でないと踏み込まれて、間合いを奪われる。
相手がよほど格下でないと、負ける。
だから、なのかな。
青龍が常に攻撃しようと整えるのは。
進む。
留まる。
退く。
その前に、攻める。
ここ、大神殿で何かが起れば、誰も彼もが攻めてくる。
その後、退くか進むかは別にしても。
どちらにせよ好都合だわ
――――――――――余力が一番ある時に、早く済ませたい。
急ぎましょう。




