暴力の方向
【登場人物/三人称】
地球側呼称《三尉/マメシバ/ハナコ》
現地側呼称《マメシバ卿》
?歳/女性
:陸上自衛隊医官/三尉。国際連合軍独立教導旅団副官。キラキラネームの本名をかたくなに拒み「ハナコ」を自称。上官の元カノが勝手に「マメシバ」とあだ名をつけて呼んでいる。
陸上自衛隊の正服第2種礼装(緑色)を仕立て直したように見せかけた完全新作を着用。
もちろんマメシバブランド。
恋愛至上主義者で、倫理や道徳はおろか「愛は地球(人類)より重い」と即答できるタイプ。
※マメシバ三尉は理系で、文系知識がテキトーな上に軍政官とは違って一派的異世界(中世)研修しか受けていない。
※よって「子ども」「子どもを保護する」という概念が生まれて100年ほどで在り、それが先進国で一応定着したのがここ半世紀ほどであることは知らないし興味もない。
※キラキラネームのせいで親というカテゴリーの対象に強烈な嫌悪感があるのも否めない。
※そこから派生して生得的(産まれつき)な関係が大嫌い。
「殴る」側。
「殴られる」側。
暴力を振るう側と振るわれる側って、強弱では決まらないんですよ。
ほら、チンピラ、アウトロー気取りって弱いじゃないですか。
そりゃあたりまえですよね。
訓練も無し。
鍛錬も無し。
自分より弱い奴を殴った経験値なんか、弱さを助長するだけです。
寸止めスポーツじゃなくて正式な訓練を受けた、非戦闘職だってラクショーですよ?
十人いたって、一人潰せば逃げちゃいますし。
連携の仕方知らないし、顔や眼を壊される過程とか、潰されて声にならない悲鳴とか、血に何かが混じっているのはなにかなーとか、そーいう「怖いこと」に耐性が無いですから。
強弱じゃなきゃ、何かって話です?
慣れですよ、慣れ。
殴られ慣れ、ってことじゃないですよ。
殴られる奴って殴る側にジョブチェンジしますから。
殴られ役でも殴れる、つまりは子どものことですけど。
イジメられっ子に、しょぼい力を与えると、最悪じゃないけど最低のいじめっ子に早変わり。
ほんと、キモイですよね。
見てると後ろから膝蹴りかましたくなりますもん。
背骨と腰骨の結節点が狙い目です。
折って砕けば生涯生きてることを後悔出来ますし。
あ、つまり。
殴ること、暴力を振るうことに慣れている。
それが、殴る側。
例えば?
ふーん、どれが、あ、あれ。
「子供は泣くのが仕事だ」
とかいっちゃう頭がおかしい奴ら。
これこれ、ズバリ!
暴力を暴力と思っていない、虐待を虐待と思っていない、一方的な蹂躙者。
そりゃそーですよ。
子どもが泣くのは、命の危険を感じてるからですもん。
客観状況を掴めない、そこで感じる危険の気配。
暗闇の中で、血の感触に触れるようなもんですね。
実際に大人から見てどうあれ、乳幼児はそう感じる。
決して何事もなくノルマで泣いてるわけじゃありません。
馬鹿以外には解りますけど。
で「子どもの泣き声に不快感を感じることを非難する」カス。
人間なら、とくに共感力が高いと、不快に思うのが正常です。
何も感じないで「微笑ましいな」と感じるようならサイコパスです。
サイコな人、本人は幸せでしょうが、周囲がそれなら子どもが死にます。
「同族の保護すべき乳幼児が、危険を感じて助けを求めている」
不快感を感じないわけないでしょう?
クジラだってイルカだって、同族の悲鳴を聴けば逃げますよ?
ましてや、人間で、不快や嫌悪を感じなかったら?
精神疾患ですね。
ましてや、そんな怖ろしい状態を持続させている保護責任者に、怒りと敵意を抱かないわけがない。
でしょ?
なんかおかしいですか??
いや、おかしいんですけどね?
頭が。
飛行機や電車なんかの、不自然な密閉空間。
大勢の気配に異臭に音、他いろいろ。
大人にとって何でもないことが、子どもにとっては恐怖となる。
当たり前。
怯えて助けを求めますわ、そりゃ。
子どもに恐怖を堪えさせる。
周りの関係ない人に子どもの悲鳴を耐えさせる。
でも自分が出歩くことを我慢せず。
子どもは大人のおもちゃじゃねーぞ!
ばーか!
って、いっつも言ってるんですけどね。
小児科じゃないですけど。
頭が正常なので。
結局、殴る側って簡単なんですよ。
殺すのと同じ。
殴られて心に傷を負う人、子どもとかは、いる。
殴って、それが誰であっても、拳以外を痛める者はいない。
殴る殴られるの関係。
殺すと殺されるの関係。
同じ同じ、証明済み。
地球人が、そのままですよ?
問題は、慣れと惰性がイコールってことです。
《とある日における太守府軍政司令部での会話》
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】
あしたのために、その一。
十年後の再会を期してルパンダイブは慎むべし。
おさわりなんてもってのほかです。
「聴かぬのか」
俺に尋ねる美人の帝国女騎士。
ふらふら~っとルパンダイブの予備動作に入る俺。
多くの偉人が再現を試みた幻の必殺技。
「じゃあね~スリーサイズから、あと、初体験は何歳かな。!!!」
神父が崩れ落ちた。
無言である。
エルフっ娘が背後から膝を払って、のけぞった背中に正対して肘をぶち込んだのだ。
打撃技の基本は反動を消すこと。
静止している相手では、反動で衝撃を逃がされてしまう。
ましてや相手の移動方向ではほとんど意味がない。
ので。
相手の動作方向に向かって打ちこみます。
エネルギーは質量×速度、この速度は相対値。
相手と自分の、移動速度と方向を把握か操作。
正対していれば相手の移動速度も利用できるんですね。
まあ相手が都合よく動いてくれないのが普通。
なのでこちらから動かすわけですが。
そのために労力を使うなど本末転倒なわけで。
しかも。
動かそうとしたら、その時点で反発される。
留まろうとされるところに打ちこむのもあり。
それはそれで打撃力を完全に生かせるので。
が。
出来れば相手の協力を得て、威力を倍かけしたいじゃないですか。
そこでまあ、相手の重心を崩して自重で落とす。
落ちる方向と正対するように、打撃をかますといいのではないかと。
不意打ちだとやりやすいですが。
正面からだと、そう、あれかな。
足の甲を蹴り潰して、前のめりにさせる。
前方下肢に痛みを感じると、頭が下がるんですよ。
なぜかしらんけど。
その頭、頭髪を掴んで下に流す。
正対して真上に膝を打ち上げる。
顔面中央、顎下、喉が狙い目か。
どっか当たるし、一撃で無力化できる。
相手が一人なら、膝蹴りラッシュを繰り返してもいいしね。
複数相手でも、一撃で止めれば数が減るし足元の障害物にできる。
足場を操作してしまえば、逃げるも進むも主導権が取れるから。
頭を潰すと意識がもうろうとしますが、硬直はしません。
髪を掴んだまま左右前後に引っ張れば、従います。
意外なほど簡単に動くから、力を入れなくても好きな方に転がせる。
残敵の足元にむけて振り回すか、突っ伏させるか。
味方を踏みつぶしたり蹴り飛ばしても進むのは兵隊にくらいしかできない。
障害物で動きを留めれば、攻守退散自由自在。
迂回して来ればカウンターを当てやすいし。
助け起こしてくれたら敵戦力減少。
ランチェスターの法則?
それは彼我の能力が同等な場合。
しかもあくまで組織戦を前提としている。
個人が集まれば集団だが、組織とは言わない。
エルフっ娘の場合は、不意討ちをうまく決めました。
基本を押さえて威力を倍かけ。
さすが歴戦の戦士。
素手でも勝てる気がしません。
永久に友好関係を推進したい、俺は。
目の前の女に気を取られた、神父の不覚。
身構えてない相手の方が、効果は大きい。
予想していれば身体の緊張で打ち消せる。
全部ではないけど、それなりに。
ダメージを予想していないと、人は簡単に死ぬ。
予想さえしてれば、腕や足が無くなっても死なない。
平時の街中で簡単に死ぬ、戦場では生き延びる。
その理屈。
まあエルフっ娘も殺意はあんまりなかったみたい。
背中から背骨を避けて肺に打撃を通しただけだろう。
悲鳴も上げられない神父。
呼吸が出来無くなります。
死ね。
いやー危ないところでした。
あと一歩で殺せたのに。
※<偉>という字は「並外れた」という意味です。
※フィクションではなくリアルでルパンダイブを開発成功させた人は実在します。
※一人じゃなくて何人も、ってところがアレです。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の右前/魔女っ娘の右/エルフっ娘】
あたしは視線を感じている。
眼で見ている、というわけではなくて、彼の意志が向けられて。
いつものことではある、わね。
彼、青龍の貴族が意志を向ける者。
あたし。
青龍の騎士長。
青龍の公女。
注意を向けたり関心を向ける相手とは違う。
あたしについては、関心を同時に向けてくれるけれど。
それだけで終わらせてはくれない。
いいのか悪いのか、それは誇らしくあり心外でもある。
命令。
為すべきを為せ、というそれ。
騎士長は、解る。
青龍の騎士たちを、彼から任されている。
だからこそ騎士長も、常に主君に意思を向ける。
同じ様に主を仰ぐ青龍の騎士たち。
彼らを司る役目。
騎士長は騎士たちに、行軍に備えるように合図。
青龍の公女。
彼に命令できる、唯一の女。
今ここに居ないのに、その意思は常にここに在る。
青い龍の高位高官、それは数あるのだろう。
彼、青龍の貴族、その上に立つ者も幾通りもいるだろう。
それは、あたしにもわかる。
並み居る高官の中から、彼が主筋と仰ぐ女。
彼、青龍の貴族に命じることが出来ても命じない、絶対者。
それが、あたしにはわかる。
なら。
あたしは?
ただ女として構われる、訳にはいかないのよね。
構われて弄られて苛められて、そしてこれ。
彼の女たちを護ること、彼から任されていること。
うーん。
面白くない。
そして嬉しい。
だからあたしは、妹分の指をつつく。
その仕草はColorfulには見えている。
背後の揺らぎを聴きつつ、あたしは考えた。
今日のおたのしみ。
何処から?
お昼までに間があるわよね。
何処で摂るかを考えて、それに合わせないと。
あたしに命じられるのは判る。
彼は今日、あたしたちを楽しませて、それを味わうつもり。
あたしは、あたしたちの趣味が判るし皆の気分を聴き取れる。
そしてなにより誰よりも此処、聖都の地理には詳しいから。
だからこそ、此処に来るのは避けたかった。
なんで知っているの、なんて訊かないし。
どこまで知っているの、なんて全部よね。
なぜ言わないのか、とは訊けないけれど。
どうして、何もかも見透かされて、愉しくてたまらないのかしら、あたし。
「Ohhhhhhoooooooo♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
へ・ん・な・こ・え・あ・げ・て・ん・じ・ゃ・な・い・わ・よ!




