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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十一章「夏への扉」

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【用語】


『氏族』

:血縁を条件として成立する利益共同体。これを「家族」と呼称する向きもある。人類史の大半において人を纏めているのは地縁からなる地域共同体。だが活動範囲が拡大すると地縁では収まらなくなる。その場合しばしば血縁が集団化する。一般的に地縁を基盤とした社会では出生から生育までを地域共同体が担い、次世代を育成する。広範囲で活動すると地縁から切り離されるために頼れなくなる。出生から生育までは同行せざるを得なくなり、集団が形成され、その集団が広範囲での活動を担わざるを得なくなり、担うようになる。地縁に比べて不効率で脆弱な関係を維持できるのは、富裕層のみ。そのコストを受け入れたからこそ、広範囲から得られるメリットを享受できる。よって順境では拡大再生産、逆境では縮小再生産というハイリスク・ハイリターンなツール。しばしば大商人や貴族王族などがこの形態をとるが、その歴史をたどればどのようなコストとリスクがあったのか、よくわかる。故に人類の大半は古代から現代まで地縁を中心に社会を構成している。血縁を重視する人口は常に少数派(富裕層/先進国)であり「特異な例外」となる。

だがその活動限界の広さが人類社会の発展に寄与していたことは確かであり、犠牲となった彼らを揶揄するべきではないのだろう。20世紀初頭から始まる情報技術革新により、そのメリットはすべてより効率が高い手段で代換しえることになったので急速に陳腐化した。


『氏族(異世界)』

:基本的に地球人類と同じ発展と形式をとる。ただ帝国騎竜民族が支配階級として君臨している為に、やや血縁関係に頼るところが大きい。彼らは移動性民族/遊牧民である故に、地縁によらない/よれないのだ。そしてしばしば「無意味」であっても支配階級の在り方は下層階級に模倣されるところは地球と同じ。そして地球と違い魔法がある異世界では、広範囲で活動する余地が大きいので無意味というほどでもない。そして魔法は個人の資質に寄るために、科学技術の様に「氏族/家族のメリット」を陳腐化させることはない様子。将来的にはともかく、現状では魔法と氏族は相互に連携して社会領域を拡大する方向に向かっていると言えるだろう。

故に異世界では氏族組織の整備が進んでおり「氏族の娘が産んだ子供は全てその氏族に属する」という原則(※1)で血統を純化している。当主は氏族成員の承認(※2)による実力で決まるが、氏族の条件に例外はない。


※1:遊牧民の特徴で母系制に類似。例えばチンギス・カンの子供たち、後継者の父親が誰であったのか誰も気にしていない。つまるところ「誰の子供かは、女にしかわからない」という理屈。

※2:大げさに言えば「クリルタイ(モンゴル帝国の最高意思決定会議)」だが、親族会議~家族会議のようなもの。当主決定や氏族存亡にかかわる事態などでしか開かれず「一生に一度あるかどうか」というものらしい。






私たちは何者なのだろうか。


天災?

悪魔?

啓示?

――――――――――そうたいしたものではないようだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私にとっては幸いに、あるいは、誰かにとっては残念ながら。


国を滅ぼし。

街を破壊し。

毒ガスで虐殺して。


拭いがたい恐怖を刻まれてなお、彼らには彼らの都合があり、打算があり野心があっても死にたくはない。


ならば私たちは?


風のような、波のような、雨のようなものではないだろうか。

嵐かも知れず、津波かも知れず、豪雨かも知れない。

彼らは書き割りではなく、石ころでもなく、プレイヤーだ。


だから気が楽になる訳ではないけれど。



《カタリベのメモ/国際連合寄託図書館:中央大学図書館国際機関資料室所蔵音声記録ファイル》




【異世界大陸北辺/太守領/王城/五大家当主用尖塔のひとつ/若い参事:船主代表】


僕は珍しく自分の執務室に来た。

まったく珍しく、だ。


普段は私室をでたら、各所を巡回しているからな。

面倒なことに、訪ねてくるものも多いし、訪ねていく方が僕の性にもあっている。


王城内はもちろん太守府から港街まで、予定もあれば突発もある。

その予定や変更は、妹だけに知らせがいく。


「お帰りなさいませ、お兄様」


僕は妹を、王城に在る当主執務室に常駐させている。

本来であれば本拠である港街に置いておきたい。

僕の一族にとって、港の船団と船員たちこそが重要。


そこに馴染ませるためにも妹は港に留めていた。

僕が当主でしかなかった頃は、それで済んでいたが。

今となってはそうもいかない、仕方がないことではある。


が、現状維持だけを考えるなら、あそこは親父でも務まる。


最重要であるだけに港の我が家は安定していて、手を加える余地は少ない。

変化の中心である青龍は太守府王城に頭を据えている。

中枢で参事会を仕切る以上、対処する僕が一処に留まる訳にはいかない。


執務室で書類手紙覚書を読み書き決済、報告させてときおり出かけて商談する。


そんな当主らしい在り様は、妹に押し付ける。

僕の代わりを担わせたいと思えるのは、我が氏族全体を見回しても妹しかない。

その妹の可能性が日々の雑務で浪費されるている。


困ったことだ。


本来であれば、我が家を継ぐ者を産み育てることに集中させるべきなのに。

当主の雑務が継承の邪魔になることは間違いない。

そも妹がもっと無能ならば、支配人や番頭たちの合議制で収めるというのに。


使えるからこそ使ってしまう。


「お兄様?」

「気にしなくていい」

「お姉様って呼んでいいのよ?」

「かしこまりました」


妹の疑問に答える僕。

趣味を押し付けるバカ女。

僕にだけ返答する妹。


五大家の会合の後、毎度の様に着いてくる参事会議長閣下。

僕が馴染みのバカ女。


相変わらず装飾過剰なドレスを纏い、胸元や背中から艶やかな肌を誇示している。


これから僕は妹に機密を、我が家とこの邦の予定を伝えるのだが。

それが他家のバカ女に聴かれても問題はない。


どうせ聴くだけで解りやしない。

それを話しても信じられやしない。


僕と妹の会話は、耳を通り抜けるだけ。


なにやら重大な話に居合せた、くらいの印象しか残るまい。

バカ女的には自分も参加した、気分になるのだろうが。

昔から変わらぬ、バカのバカたる由縁。


理解が出来なくても口出しできなくても、当事者気分を楽しめる


自分が偉くなったように勘違いしているのが、まったくらしい。

当事者としての責任だけ、おっかぶせられるってのに。

どこまで能天気なんだ、バカが。


話が漏れてもかまわない。


バカ女、唯一の腹心メイドは席をはずしている。

同席など許さないが、言われなくてもそうできる。

バカ女に、議長閣下に過ぎたる一つ、と言われている。


囁かれるのではなく、公然と語られる。


バカ女の家には、目端の利く阿呆しかいないからな。

小金をくすねるか、小金の未練で逃げ切れない小者ばかり。

傘下の氏族は逃げ出して、本家の資産は他の五大家が監視中。


五大家の一角、その資産が突然無計画に離散したら邦の金周りが狂う。


いずれ他の四家で分け合うか。

何処か一家が出し抜いて独り占めするか。

いずれにせよバカ女の家が残るわけがない。


そんなバカが見聞きしたことを、誰が信じるわけもない。


何を言っても常に同席しているメイドの裏書が無ければ空手形。

しかもバカ女の語り口は、誰もが信頼しない技術を極めている。

社交界の醜聞なら信頼され、歌劇の楽譜なら正確に諳んじるのだが。


頭の使い方を間違っている、バカ。


その御守役になっているのが、オレ、いや、僕だ。

邪魔にならないことは無く、稀に必要な時もある。

五大家当主の会合、バカ女の実家で事が起きた時。


会合で曲がりなりにも一家が外れていては、その合意に疑問符がつく。


当の一家ではなくて、他の四家のどれかの都合が変ったら。

議長の家が参加していなかったのだから、もう一度話し合うべし。

とそう主張されかねないし、抑え込むことは出来ても合意を弱める。


だから退屈そうに遊んでいるバカ女を、五大家当主会合の席で遊ばせておく必要があるのだ。


そして五大家当主の会合というのは、定期的ではないし必ずしも予定を組めるものでもない。


五大家当主がそんな場合に出てこないことはあっても、見つからないなどということはあり得ない。


バカ女を除いては。


喫緊の会合ほど重要度は高い。

時間がなければ合意に不満が残りやすい。

足並みの乱れが許されない。


出なかったのなら、自業自得と退けられる。

出られなかったのなら、在り得ないと除けられる。

だが。

知らなかった、と言って、誰もが否定できないのなら?


かくして僕がバカ女の飼い主を拝命した。

バカ女の腹心メイドには謹んで辞退されたからな。

主の望まぬことはしませんとかなんとか。


確かに、首輪の材質にこだわるような、アホウを野放しにすることはできない。


小金を狙う縁戚家臣にバラされて埋められるのがオチだ。

それになにより目を離しているうちに、青龍の癇に触っては大変だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というのが衆目の見方。


確かにバカ女だけは、青龍への敬意が無い。

誰に対してもそうだ、と言えばそれだけのことだが。

関係無関係を問わない、それが青龍の怒り。


まあ、否定まではしない。


青龍の貴族、に限らず青龍は、野良ネコの発情声など気にしないだろう

どちらかと言えば、気に障る前にプチッと潰されそうではあるが。

もしくは、気がつかれないうちに踏みつぶされていた、とかな。


それで済む保証はない。


そんなわけで、バカ女が此処に居る。

今回の会合では邪魔なだけ。

先に執務室に放り込んでおいたのだ。


「メイド長と話はついた」


妹は頷いた。


我が家を継ぐ子をなすべき一人の妹。

僕の代わりができるたった一人の妹。


ただの女であれば。

一族の男であれば。


しかし代わりでしかない。

僕にはなれないからこそ、いっそ当主に向いている。

縁もゆかりも無ければ、適当に娶せ当主にできようが。

まったく残念だ。




【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】


俺の嫌いな言葉。


おとく。

御、が付くところで他人の言葉。

貧乏人の意地汚さを惑わす欲深な貧乏神の姿が透けて見える。

殺らなきゃ!


ぜいたく。

特別例外非日常、それはつまり、貧乏の証。

他人を言うなら大きなお世話で、自分に言うなら自殺行為。

生きてて楽しいですか?


もったいない。

リスクヘッジとかカットロスって知らないんだろうな、と。

博打で大負けする奴の脳裏に刻まれてる言葉。

既に死んでいる。


それを踏まえて、敢えて言おう。

縁が無ければ嫌いになれない。

嫌うほどには経験者。



俺は実にもったいないことをしている!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


言葉を楽しむことにしようって、いったけどね。

本来なら、口説きながら楽しむ声なんだよな。

話して楽しい、聴いて楽しい、観て楽しい。


声の何を視るのかって?


魔女っ娘の唇は、桜のつぼみ。

魔女っ子の、やや舌足らずな音。


帝国女騎士の艶やかな響き。

帝国女騎士は、大輪の花。


自分が話しやすいように話す。

相手が聴き取りやすいように話す。


自然と意図と

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな感じ?


魔女っ娘の高く伸びる声。

帝国女騎士の高く響く声。


魔女っ娘は、一生懸命に話す。

帝国女騎士は一音節ずつ区切るように話す。


魔女っ娘が太守領訛りの帝国公用語なら、帝国女騎士は教材的な北方基礎言語

――――――――――のような気がする。


いや、魔女っ娘の場合は、いつも聴いているイントネーションを感じるからね。

帝国公用語を話していても、いつもの癖は変わらないわけだ。


そして帝国女騎士の話し方、これはBBC英語っぽかったり。

本来のネィティブではない帝国軍人による話し方。



むしろ帝国女騎士の話し方が王道かもね。

クイーンズ・イングリッシュ的な。


英語使える奴には誰にでも通じる、意思疎通率100%。

ただしクイーンズ・イングリッシュその物を使うのは、英語人口の中で3%未満。

統計学で言う3%未満って0%の近似値だよね。


少数派なんだか多数派なんだかわからない。

100%と3%を兼ねる仮想理論値でありながら、実在。

市場原理が非実在政治用語なら、こっちは実在仮想言語ときた。


非実在政治言語とは理論的に現実では成り立たない概念を、詐欺目的もしくは信仰対象として現実に適用したことにするみんなのお約束。


は、さておき、偏差値50みたいな帝国風北方基礎言語。

これが一番、異世界の広い範囲で通じるのかもしれない。


言語の基本からすれば、北方基礎言語に公式な原語はないだろう。

文化的母集団が、少なくとも今は、ないみたいだしな。


つまりそれは、どこかの民族発祥じゃないのようだし、ソレっぽい地域や集団は確認されていないってこと。


他の言語圏との関わりから、各地の訛りが有るはず。


言語圏外縁部か内奥か。

交易路沿いで輸出側か輸入側か。

歴史的に拡大期か縮小期か、そも変化がない地域が。


太守領は北方基礎言語圏としても外縁だから、他の原語圏とは物理的に隔絶。


だが交易路にあり、孤立はしていない。

だが海運ばかりだから陸路に比べて人往来は少ない。

輸出側で穀物供給、つまりは優位な方。


文化が孤立による先鋭化に走らず、時代の変化を取り入れて大陸一般から乖離しない。


その変化も偶然性より、商業上の必要性による主体的な取捨選択。

故に北方基礎言語の原義が維持できたのではないか。


誰がいったか文化の温室、苗の鉢植

――――――――世界一個を手に入れて、限界突破から帰ってこれない学者たちのいいそうなこと。



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