生殺与奪権/弱者の作法

「同じような意匠の建物が多くありました」

「あれも神殿」

「少し違いますわね？」

「さて、なぜかな」

「謂れはないのですか」

「大元である大神殿、つまりここだけれど、それをはばかって敢えて傷をつけた、ような形に作ったのではないか――――――――――」

「ってことですの」

「と推測している魔法使いがいるだけ」

「貴女は」

「興味ない」

「あら」

「我々がそうさせたわけでもない」

「聖都が成り立ったのは帝国建国より昔ですものね」

「我が帝国よりはるか昔に産まれ、帝国が産まれる前に今の形になった」

「なぜ、とは思いませんの」

「欠けてない神殿など大神殿しかない。今、考えれば、大きいからではないかな」

「大きいと、何故ですか」

「柱一つ欠けても脆弱になるだろう」

「本来はかけた形であるべき、っということでしょうか」

「でも柱が一つ欠けた神殿なんか初めて見ますわ」

「神殿はどこにでもあるが、みんな正面真ん中の柱が欠けた形になっているぞ」

「そうですか？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういえば、南の村の神殿は、柱がちゃんとしてました」

「どこもそうよ。貴女は初めて見たんでしょうけど」

「でもでも、お父様の絵図にある神殿もちゃんと三本柱でしたよ」

「貴女は存知か」

「なんで、あたし？」

「なに＜解らぬことは魔法使いに問え。判らぬことはエルフに尋ねよ＞というからな」

「誰が」

「父祖が父から聞いた言い回しだ」

「最近では言わないでしょうね」

「エルフを絶やしているからな」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「この通り、まだ道半ば」

「なんでですか」

「なぜ、絶やそうなどと決めましたか」

「知らん」

「知らないのに殺すのですか」

「知らずば殺せぬなら兵(ツワモノ)ではない」

「知ろうとも思わない？」

「必要ならたしかめる」

「わかるの？」

「誰が何時何処で何故、全て帝都には記録されている。各本営にもある程度の資料は用意されている。機密にするほどのことでもないだろう」

「なら」

「虜囚の身では問い合わせることは出来んぞ」

「うぅ」

「まあ待て」

「何をです」

「戦いが終って生きていたら、確かめてみよう」

《国際連合軍事参謀委員会「プランＣ」作業部会資料より》

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】

「皆に伝えてもよいか」

皆って言いながら、俺を見てませんか。

お気遣いありがとうございますが、俺を別な意味で意識してほしい、マジ。

ムリを思って申し訳ございませんと、思っても伝わらない。

誰も俺をみないで欲しいんです。

要らない子気分に全力な、俺。

俺が視ないわけにはいかないが。

敵の親玉ですからねこの場では。

あくまでも今、この場では、ですが。

きっと判り合えるか試みられると信じる。

俺の沈黙は、許可、と伝わったようだ。

伝わった内に入るんかな。

不許可にしようと思ったわけではないが。

いつの間にか、俺が君の会話の可否を決める立場？

「此処は我らが奪い奪われしところ(ばしょ)」

いやー、奪ったのは本当なんですけどね。

帝国が諸王国から奪い、俺たちが帝国から奪い。

次は誰が奪っていくのやらさっぱりだ。

サッカーボールかな？

「我が身は今、御身に奪われたるところ(さいちゅう)」

いやー、言い訳できないっすね。

「我は貴卿の指揮に従う」

スマイルスマイル。

造り笑いは得意です。

受け流せないから受け止める。

ポーカースマイルと名付けよう。

この子たちは嫌わないでください。

ついでに俺も好きになってくれると助かります。

ご覧ください人畜無害を絵にかいたような俺！

「その上で、諸氏らの便宜を図るように命ぜられた」

嫌いになるなら神父なんていかがでしょう。

俺の身代わりになれるしなって惜しくない逸材です

お試しください合衆国海兵隊(ＵＳＭＣ)で鍛え上げられたマッチョ！

地球人への恨み辛みを全部ぶつけても使い減りしませんよ？

「何なりと申し出られよ「そういたします」」

喰い気味に返答する魔女っ娘。

なんとなくだが、会話中の二人とも、互いを意識してないような。

どんな会話だ。

いやいや、魔女っ娘と帝国女騎士。

周りを無視するような娘と女じゃありません。

後者は推測ですが。

魔女っ娘は周りへの配慮を忘れない。

偶に忘れた方が良い。

むしろ周りを完全に忘れるとちょうどよくなる。

帝国女騎士は周りへの警戒を怠らない。

敵中単身作戦中ですからね。

向かい合った相手ばかりに集中できないだろうな。

二人とも。

苦労は察して余りある。

だから全然わからない。

余りあるから仕方がない。

が、問題はそんなところじゃない。

むしろ、あれだ、ふたりとも、声の焦点というか、聴きやすい場所に居るのが、俺？

「「では、行く」きましょう」

双方、俺に聴かせようとしてないか？

会話にはなっているけどね？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そりゃそうか。

占領下住民。

拘束下捕虜。

占領軍軍政司令官。

なら、当たり前か。

不要な疑いを招かぬように、殺されないように、俺を気にするよね。

常に身の潔白を証明することで軋轢を避けることが出来る。

勉強になるなあ。

魔女っ娘は無論、邦の人たちを護るため。

帝国女騎士は捕虜となっている戦友たちを護るため。

もっと、侵略者としての自覚を持たないといけないな、俺。

それはきっと、立場が逆転した時にも役に立つ。

も？

いや、ほら。

生殺与奪権保持者(さんさ)と接するコツが学べるかなって。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の左前/魔女っ娘の左後ろ/お嬢】

わたくしは、これ以上ないほどはっきりと、振り仰ぎます。

ご領主様、ご領主様。

ご趣味は承知しておりますが。

ご前試合でしたら、別の機会に願います。

わたくしが参戦できぬ時処にて、女を闘わせるのは、困ります。

すっごく、すっごく、困ります。

わたくしを困らせるのが、ご趣味とは存じておりますが。

時と場合を選んでください！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！

【国際連合統治軍第１３集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】

俺も？

行くの？

来いって？

お嬢の目がそう言っている。

いくのか～。

先生はとても残念です。

いや、まあ、行くけどね。

引率役の自覚あり。

危なくないけど、危なっかしいからな。

聖都の中は地雷と自動機銃とＵＮＥＳＣＯ調査団でいっぱい。

うん。

危ないな。

地球人類の中で一番ヤバイ奴等がヒャッハーしてる。

そうでなくても子どもってのは、危なっかしい。

詰め寄られたら、いくもいかないもないけれど。

気が乗らなくなければ突き放したりはしません。

ましてや、相手が相手だ。

俺のせいで人生が決まってしまった女の子たち。

俺たちのせいで生死が決められてしまった女。

俺の親切心より安心の為に護らにゃならん。

すいません。

いや、いきたくないわけじゃないけどね。

実際、とってもいきたいわけでもあって。

はてさて何処からいこうか迷うねこりゃ。

見どころいっぱい、異世界観光。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、うちの娘たちを楽しませるのが目的ですよ？

そのために！

この娘たちが楽しめそうなところ！

検討しようじゃないか！！

俺たちの布陣はここ。

聖都中央の神殿前。

何が聖なる？

宗教がない異世界で神って何？

神って概念は訳されない魔法翻訳が、神殿と訳すのは何物なのか？

とか今はおいといて。

神殿は大きくて特徴的。

明らかに模倣された建物がそこかしこにあるが。

俺たちがランドクルーザーで通り過ぎてきた、その街並みにもたくさんあったな。

偵察ユニットの低空（高度５００～１０００ｍの警戒モード）映像にも。

哨戒気球の直上（高度３０００ｍの支援モード）映像にも。

解体作業が進み、見晴らしがよくなった地上を走る車窓、俺たちの眼でも

模倣、ってか、ミニチュアな全景や屋根が映っていたし、前を通ったりもした。

さっきまでは気にしないで見流していたが。

オリジナルだろう神殿を見て気がついた。

気がつくと特徴的というだけでなく、意思をかんじるような。

あからさまに模倣してるのに、混同されないようにしているのだ。

意図的にオリジナルがあると悟らせて、わざわざニセモノには目印がついている。

神殿正面の入口、だろう多分、の左右真ん中にデカい石柱.

つまり入り口に全部で三本。

これがオリジナル、多分。

街中に点在する模倣、多分、のミニ神殿はオリジナルより建物自体が小さいだけじゃない。

小さいといっても、柱の太さだけで大人一抱え以上はあるが。

その正面、多分、の石柱の左右はあるが真ん中が欠けてある。

無いのではなく、壊れた壊した訳じゃない。

柱を斜めに斬り落としたかのように、下半分が残ってる。

まあ、そんな形に整形した石柱なんだろうな。

斬るとしたら重機が必要だ。

レーザーカッターかウォーターカッター。

異世界なら結構派手めな魔法が必要。

断面は見てないが、そこまでしないだろう。

そんな模倣とオリジナルを見比べると、三本柱で牢屋の鉄柵を連想する。

俺だけ？

脱獄映画にあるじゃん。

鉄格子をヤスリや糸ノコで斬るやつ。

模倣神殿は真ん中の鉄格子を斬り空けた感じ。

三本残ってるオリジナル神殿は脱獄失敗かな。

パピヨンってしってる？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おっと、また自分の趣味が出ちまったぜ。

【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の右前/魔女っ娘の右/エルフっ娘】

あたしには解らない。

此処に郷愁を感じたのは、三十年やそこら。

あっという間に、変っちゃったものね。

だからむしろ、近づかないようにしていた。

それから百年を経てしまえば、このありさま。

知っている痕跡が散らばっては、いるけれど。

ソレが懐かしいかと言われたら、腹立たしい。

皮肉なことに、溜まり溜まった虚飾が剥がされたからこそ。

隠され忘れられ埋まっていた痕が、むき出しになっているのだから。

帝国軍のおかげ、かしら。

でも、あの娘たちには違うみたい。

あらためてよーく見渡すと好奇心があふれ出す。

妹分ですら太守領を出るのは初めて。

あの娘に至っては、太守府周りを離れたのが、彼のモノになってから。

太守領の港街から青龍の飛龍、ちぬーくさんに載って、土竜ランドクルーザーに載って、ちょっとだけ外に出て後は青龍の城塞へ。

いつもどおりに、彼、青龍に飲み干されたまま。

これまでも、これからも、そう在り続けるように。

彼、青龍の貴族が望み、望んでくれるように。

今日、今、ランドクルーザーを降りて、初めて異郷に立った。

ここ聖都だって、青龍の世界に取り込まれているのだけれど。

見えるもの聴こえるもの香るもの、何もかも初めて。

用心するより、興奮もするわよね。