帝国の逆襲/The Imperial March !
『国際連合三大暴力装置』
:国連軍ジョーク。
「最強の国連軍」
「最恐のWHO」
「最狂のUNESCO」
が認定されている。
この三組織は国際連合内で限られた常設の戦闘部隊を保有しており、国連軍は部隊総体を、WHOは防疫班を、UNESCOは調査団を指す。
この批評は実際に異世界を蹂躙している国連軍側から見て、であり異世界側から見ればまた別の評価があるかもしれない。
詳しくは第175話「UNESCO/なんやかんやありました」や第七章「神の発生」UNESCO Report.」 参照
ただし少人数の戦闘要員に必要に応じて国連軍部隊をつけさせて戦闘部隊を編成することは、ほかの専門機関でも行っている。
例えばFAO(国際連合食糧農業機関)は異世界各地、国連軍勢力圏外にも種子試料採取のプラントハンターを派遣している。むろん、戦闘部隊同伴、ないし武装した戦闘員がサンプル確保に当たる。
UIT(国際電気通信連合)は復旧したインターネット回線を管理するために、日本の大手通信事業者の基幹施設に監理技術者を派遣しているが、警護部隊が随伴している。
IAEA(国際原子力機関)は日本議会(衆参両院決議)により、日本全国の原子力施設と電力会社の制御システム、通信回線の管理権移譲された。そのために制御要員と封鎖隔離部隊を必要な場所に常駐させている。
人類(日本列島)滅亡を避ける為に全原子炉は停止状態にあり、核燃料を安定させ続けるだけに無駄に電力を使っている状態。コストパフォーマンスが最初から考慮されていないので、平常運転というべきではある。
・・・・・・いや、「いつか立派な原子力爆弾に」と思って建設して置いた原子力発電所がいつの間にか目的化してしまい、「あれは隠れ蓑だ!」と言うに言えずに出鱈目なコスト試算を訂正もできずに利権化して暴走したんだから経済性が皆無なのは当たり前なのだが。
ただし国際連合の武力行使を含む日本国内の活動は、異世界転移後に国会で成立した国際協力特別法に基づいているのは言うまでもない。
おねいちゃんはじえいたいです。
オリンピックをめざしてました。
がっかりしてました。
ようせいさんやまほうつかいとがんばればいいです。
そうするっていいました。
だからいまはいせかいにいってます。
だいじょうぶです。
ユネスコであたまいいやつをまもってます。
ようせいさんやまほうつかいもまもってます。
あっちとこっちのあたまいいやつがみんないます。
いせかいはわかんないことはがりだってまほうつかいがいってます。
まほうつかいなのに。
それまもってます、おねいちゃんは。
《連立与党練馬区弟19支部発/党本部党史編纂局(通称宣伝省)宛》
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】
「問おう」
あ、はい。
俺たち、いや魔女っ娘に向き合っていた帝国女騎士。
彼女は立ち上がり、一歩退いてみせる。
視線を順番に皆に、魔女っ娘から初めて俺にまで流す。
「皆、差し障りはないか」
言葉少なすぎぃ―!
こりゃ、軍政畑の兵科じゃねーな。
帝国女騎士の言動は、伝統的高級将校のそれ。
しかも苦戦したこともなく、勝利しか知らない。
熟練兵に囲まれているから、細かい指示が要らない。
未熟な補充兵を受け入れたり、即席部隊で戦ったりしたことは無い。
損害を受ければ後方で慣熟兵士を迎え、ゆっくりと部隊再建に臨める。
敵地で敵だけと相対して、敵味方不明な相手と同席する必要が無い。
軍人達の理想郷。
士官教本の妄想。
歴史上の少数例。
で、今の話題。
言葉ですな?
言葉ですね?
言葉だよな?
心の中で指先確認。
であると仮にそうすれば、言葉の問題は今のところ生じていない。
油断は全くできないが。
魔法翻訳中の俺たちは、常に誤訳/意訳の可能性を常に秘めている。
マルチリンガルなColorfulが、世界帝国の言葉を判らぬはずもなく。
知らんかったがシズターズも不自由はないようですね。
そして相手方、帝国女騎士も、その辺りに問題なし。
俺たちだけならどうにでもなる。
いやー、肩身狭いわ。
俺に出来るって言えるのは、日本語だけだし。
手当て目当てでPKO登録してるくらいなので、英語は適当。
戦闘に不自由無ければOKってレベルなのは、つまりそーいうこと。
語学力よりコミュニケーション・レベルを問われただけ。
日本語しかできなかったとしても、まあ、ボディーランゲージで意思疎通はできるから。
それが異世界で対応できる範囲であるわけもなく。
出来る出来ないじゃなくてやるんだよ!
ってレベルで軍政官は選抜されてすんですよこれが。
何処の大日本帝国軍かな?
ゆえに俺は魔女っ娘お任せ。
頑張れ魔女っ娘。
異世界全域で通用する、俺が帰国した後も気軽に生きていける大人になるんだ!
なのにどうしてそれなのに。
俺を要らない子にしてくれない。
帝国女騎士のいじわる継続。
「けっこう」
おかまいなく。
「ならば言葉は自由。障りがあれば都度指摘」
あ、それ。
いや、それも。
まあ、はい。
つくづく思うが、帝国人は二兎追うのがお好きな様で。
俺に視線を留めることなく、全体を見るのだが。
俺を意識しているのを隠し切れないのは仕方がない。
俺に構え、ってか身体の備えが向いてるもんね。
全体を把握しつつ作戦目標を捉える複眼思考。
皆の答えを確かめて、俺の応えを確かめて俺に視線を向けないです。
俺に眼を向けないのは異世界のスタンダートなのでもう慣れてます。
そして俺を警戒して意識を向けられるのもフツーですよね解ります。
なんて将校向きの性格をしてやがるんだろう。
俺は猛獣じゃない、いや、違うか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・他世界一獰猛な地球人で御座いました。
そら警戒を緩めないわな。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の右前/魔女っ娘の右/エルフっ娘】
あたしたちを、あの娘が振り返る。
「そういたしましょう」
背後を振り返ってから、言葉が出た、か。
あの娘は帝国公用語のまま。
あたしたちに話しかけるなら、言葉を戻す。
帝国女騎士に応えようとしたのでしょうに。
思わず不安になってしまったのね。
あたしたちはそれを見る。
力づけるために。
彼は眼を向けない。
ただ青龍の貴族は半ば抱いたまま、あの娘の胸元で、指先を流す。
帝国女騎士は当然、布の下を意識している。
だからだろう。
あの娘が、敢えて振り向いた、と見えた、はず。
敢えて敵の言葉で、あたしたちに指示を与えた。
帝国女騎士に聴かせるために。
あの娘が同行する女たちに命じるところを魅せ付ける。
自分の権威を誇示して、帝国女騎士に理解させた。
そんなわけないけれど。
そんなことはわからない。
あたしたちが知っていることを、帝国女騎士は知らない、知らせてはならない。
あの娘は聖都に居る十万人の領民を統べて、青龍に従う者。
すくなくとも青龍の、そして対峙する赤龍の、序列では、そうなる。
ソレを疑わせるることになれば、何万もの人が殺される、かもしれない。
青龍の決定が否定されれば、否定した者たちが滅ぼされるから。
あの娘はそれを判っていない。
判らせたら何も出来無くなるもの。
彼、青龍の貴族はそれを知らせない。
ただ、そのような振る舞いを強制する、だけ。
視線で帝国女騎士を牽制しながら、あの娘を勇気づけてくれた、いえ、今も勇気づけている。
彼の女にとって、一番の方法で。
武人として、その言葉の少なさはどーかと思う。
それはもちろん、青龍の常識なんでしょうけれど。
でも。
あたし、たち、にとってというのが不本意ながら。
女としては、手のほうが嬉しいんだけれどね。
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】
俺たちには魔法翻訳の恩恵、たぶん恩恵、がある。
言葉のニュアンスまで伝わるから、身振りに注目しなくてもいい。
しなくていいといわれると、しなければならぬ。
手短に流れるような、帝国女騎士の動作。
その意味に、アタリがつかないことも無い。
儀礼の演出。
ゆっくりおおきく手をみせる。
胸の前で腕を重ねる。
腕の動きは、常に腰を離れる。
流麗なボディラインを強調したのは結果でしかない。
騎士の武装は腰にあるし格闘術にもたけている
武器を持たない取ろうとしない、それを示すため。
格闘戦では、腕を使って重心移動のバランスを取る。
上肢の動きを己が腕で塞ぐのは、体術封じと示すため。
それはもちろん、直接的な意味だけではない。
皆の注目を集めて主導権を取り戻すため、でもあろう。
どちらがどちらを兼ねるともいえないが、速攻が得意らしい。
してやられた、というよりも、単に観客になってないか俺たち。
俺にしたところで、ナンパ中の駆け引きを経験して無きゃ判らない。
いったい誰と戦っているのやら。
「HA!」
「「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」」
神父が俺やシスターズの後ろ、隊列中央後ろ寄りで跳ねまわる。
そのままカッコいいキメポーズで大げさに、両手を広げて一礼。
ジャパニメーションかぶれのアフリカンアメリカンは対抗しなくていい!
幸いにして帝国女騎士も、各隊員達も無視。
みんな大人になったねぇ。
13人の沈黙。
みんなの心が一つになった。
は、さておき。
仕切り直し。
そんな珍パフォーマンスが背後で繰り広げられたとは知らない娘たち。
正面に集中しているのは、それだけ警戒しているからかな。
君たちの気持ちはよーく解る気がいたします。
それが良いとは限らない。
帝国女騎士を相対して、Colorfulは怯みかけてる。
姿勢をまるで変えずに堪えているのが、気配で判る。
ってーか、俺の裾を掴んでいるから身震いが伝わるんだが。
謎のパフォーマンス対決。
それが、帝国女騎士の気勢をそがなければまずかったかな。
でも別に、解決しているわけでもないか。
被差別民として産まれ育ってきているからね。
相手を恐れ遜ることでしか、命を繋げない。
ハーフエルフ牧場で産まれた時から、そう訓練されている。
異世界共通の蔑視。
個体識別以前の否定。
美貌すら標的になる嫉視。
それが世界帝国を実力で軽々と背負う、美しい女騎士の前に立ったら?
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の左前/魔女っ娘の左後ろ/お嬢】
わたくしの、一瞥、視殺、一睨み。
わきまえなさい。
わたしくしたちは、ご領主様の女なのよ。
わきまえなさい。
使用人ではなく、家具でもなく、取り巻きでもないわ。
わきまえなさい。
ご領主様に選ばれ、所有され、抱かれるであろうことを。
まだ、肝心なところに至りませんが
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じかんのもんだいよね、うん。
いっしゅんもまてないんですけれど
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――おまかせください、ごりょうしゅさま。
ふん。
Colorfulの皆は、踏みとどまれた様子。
まったく、手間のかかること。
大きいのは胸と臀だけ、に見えてしまうじゃない。
世界を争うほどには美しいのだから、見栄を張ってもらわないと。
まずもって、侍る女で殿方は評される、それが当たり前。
わたくしたちが舐められたら、ご領主様の威信に影が射す。
それを赦せるような、わたくしたちではないでしょう。
ご領主様は縋る女を許しても、愉しまれない。
わたくし、あの娘ほどには、ご領主様の好みではないこと。
ねえ様ほどには、大きく艶やかで張りがあるわけではないこと。
わたくしたちとおなじように、焦らされて弄られて弄ばれていることなど。
気にする必要はありません。
お役に立つことなど、求められてはいないけれど。
ただただ居ることで、愉しまれているのは解るのですけど。
それで我が身を許せるかと言えば、別ですのよ。
ましてや。
それを気に病めぬ、そんな、わたくしたちではないのだから。
それが、ご領主様に気取られぬわけはないわけで。
それはつまり、ご領主様が不快に感じる、ということなのよ。
聖都が灼かれて皆殺し。
それは、ご領主様の意に沿いません。
ご領主様の予定にない雑事を、わたくしたちが生んでどうするの。
それにあ、あの娘が悲しむし。
ご領主様に笑っていただくことこそ、わたくし、たちの生涯。
ご領主様に喜んでいただく、に至らず愉しまれているのは、課題。
ご領主様に立ち並ぶことを許される、わたくしたちで在りましょう。
い・い・わ・ね!




