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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第二章「東征/魔法戦争」

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45/1003

世界の外の日本(地球人類終了のお知らせ/死因:肝不全)



世界経済は日、米、西欧三極で構成されている。


三地域は資金が環流するClosedCycleであり、他の地域は世界経済の付属品に過ぎない。

三極は互いに経済規模や経済的利害が一致しており、永続的相互依存関係にある。



資金が滞留する事無く流入流出を繰り返す米国が心臓。


通貨基金や国際経済会議が集中し複数の国々で滞留通貨を管理する西欧が脳。


単独国家で単一管理される類い希な資産基盤を信用源に、国債と名付けられた信用通貨を生み出し続ける日本は肝臓に例えられる。



心臓と脳と肝臓、互いに喧嘩わかれしようがないのは、言うまでもない。

これまでは。


異世界転移が物理的に肝臓を摘出してしまった。

世界経済は、一つの惑星を網羅し70億以上の人類を維持してきたソレは、無くなった。


消えたのが三極いずれにしても、世界経済は即時破綻する。


これも、言うまでもない。


即時、だ。


経済を知ってさえいれば、日本が消えた時点で世界経済破綻不可避は明白であり、経済とは可能性(信用)だけで出来ている。


破綻済み債権がどう扱われるのか。


それも明白だろう。



誰もが資産の保護に走り、通貨債権証書を処分する。

全員が同時に。

それは信用収縮、いや収縮ではなく、消滅にほかならない。

故に延命ではなく即死である。


資産を保全出来るものなどいない。

一人残らず経済的死にいたる。


あらゆる公開市場は即時停止されるだろう。

非公開市場は誰にも管理出来ずに世界を席巻するだろう。

そして席巻したあとですべてを飲み干して消滅するだろう。



世界経済を細分化、いや、残骸化した後には経済は消滅する。



あらゆる情報が止まる。

あらゆる物流が止まる。

あらゆる活動が止まる。


支配と基準と基盤を失った世界に70億以上の人類が投げ出される。



彼らには明日が続く保証もない。

彼らの明日は生涯にわたり昨日より貧しくなる

彼らはその事実を例外なく知らされ常に思い知らされ続ける。


そんな彼らに残されるものは二つ。


豊かで繁栄していた世界の思い出。

世界を100回以上滅ぼせる兵器。



指導する、出来るものは、いない。



《国際連合経済社会理事会/ECOSOC報告書一部抜粋》




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/軍政部隊中央】


俺は歴史家を見た。

微妙な表情。何かを堪える、我慢して、黙ってる?


「知ってるな」


あまり聴きたくないが。


「想定しえる最悪」


あくまでも、最悪の場合、か。

脅かすな。


「地球への再転移、帰還がそれです」


は?

『最悪』の場合、異世界から地球に『還ってしまう』と?


「こちらの安全保障理事会が想定する最悪は、日本列島がまた『元の地球に』帰還することなんですよ」


異世界転移、から、帰還する事が最悪?




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/青龍の貴族前】


わたしの頭上。


「知ってるのか?」


道化さんにとがった声を向けられるご主人様。

いままで、道化さんと話すときは、あきれたような、笑ってるようなお声でしたのに。

・・・・・・・・無言で投げ飛ばしたり、蹴り飛ばしたり、竜殺し・・・銃を撃ったりもされましたけど。


「Hey!Hey!!Brother!トーゼンYO!」


ご主人様と道化さん。


「世界経済が破綻した、のか、我々が消えた世界で」

「YA――――――――――」

「我々が帰った時に、地球は残って、いるか?」


ちきゅう?


「OH――――――――――地球は人類と無関係デース!Back to Earth!女神像とMonkeyワールドね」


お、お帰りに、なる?ご主人様が!




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/軍政部隊中央】


俺たち転移した方。


たかだか1億2千万人。

極めて狭い範囲で生活基盤が概ね揃っている。

誰もがだいたい認める正当な権威を持つ政府と議会が、一セットだけある。


皆が社会に、濃淡はあれど、帰属意識を持っている。


大きな変化があったが、大きすぎて、日本にいる限りそれに気がつくのは星を見上げた時だけだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・政治家達が、最初に始めたのが、誰でも知っている、だから受け入れやすい『国際連合』の看板を作ること。


そして国連軍の編成。

戦える能力がある人間を一つの指揮系統にまとめること。


転移後の列島に居る全ての人類をまとめる為?


転移してしまった。

そう考えていた。


転移されてしまった。

地球がどうなったのか、考えもしなかった。


歴史家が続ける。


「転移したのが、西欧でも合衆国でも、結果は同じだとか」


プレイヤーの腕じゃなく、シチュエーションの必然が。

転移した側が生き延びるのは、難しくない。


とか、ってことは、このお話は。


「安全保障理事会の資料と、各国代表の考えから」


歴史家が創ったオハナシじゃない、と。

まあ、理屈は通ってるからな。


誰がいつどうやって考えても、2+2=4だから。


「人類があちらで生き残っている可能性はあります」


滅んでる確率もあるのか。


「資料では70%の確率で生き残っていると、最初の一年間を耐えきれば、ですから、これからですね」


1/3滅亡。


転移から、だから、時間が連動してるとして、

『クリスマスまでには人類は終わります』

か。


「あちら側で人類の3割以上が生き残っていける可能性は、今後10年であれば50%」


限定核戦争、瞬間的かつ無目的な無制限通常戦争、他色々?


「3ヶ月程で貨幣経済は消滅、ないし、兌換通貨が限定的に残るレベル。カリフォルニア以上の範囲を網羅する社会は成立しません。主な技術レベルは19世紀から中世くらいになるでしょうか。人類存続の必要条件は満たせますが、人の意識がついてこれません」


先進国ほどヒドいことになるな。

ありったけの兵器を手元にまだ残して、か。


「還りたくないわけだ」

「選べるなら来てませんよ」


ごもっとも。

だから、


『元の地球に戻る』


が最悪な訳だ。


全面核戦争に巻き込まれるなら。


「帰る訳にはいかんな」




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/青龍の貴族前】


わたしはホッと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・してしまいました。


ただ、ご主人様が、どこかに行かない、らしい、とわかっただけなのですが。


あの、帝国と戦争。

それすら及ばない厄災が、ご主人様と縁深い世界を焼き尽くしたのですね。


嬉しくなってしまってごめんなさい。

救われてしまってごめんなさい。

思い返せなくてごめんなさい。



世界を覆い尽くす赤龍の帝国。

世界を飛び越える青龍の帝国。



わたしは、青を見上げます。

ご主人様のべれー帽。


青龍の色。




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/青龍の貴族背後】


あたしが見る間に青龍の役人が、吐き捨てた。


「そういう話じゃない!もう好きにすればいいだろう!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・特殊な青龍ね、これは。

議論にのった挙げ句、負けると逃げ出す。


にしても、まあ、がっかりするのはおこがましい、かな。

青龍が、別に聖人君子じゃないのは判るし。


「なによ!」


青龍の女将軍。汗が凄いけど。


「まだまだ!」


やっぱり、負けたら逃げて欲しい。

あたしを避けて青龍の貴族の背中を取れば勝ち。

諦めないのは、こまるなぁ。


「今夜はお泊まり!」


勝てば、青龍の貴族と一緒に寝られる、だった、わね。

どうでもいいけど。




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/青龍の貴族左】


「な!三倍のスピード!」


わたくしが背後の攻防から目を戻すと、目の前の言い争いも片付きました。

青龍の役人は踵を、


「続けろ」


ご領主様?



片手で青龍の僧侶を抑えます。

役人は道化さんを見て、青くなり立ち止まりました。


「原案、単なる救済策ではダメだ、と」


沿道の避難民。

皆、わけもわからずに見ています。


「財政とは別の理由なんだろう?早く続けろ」


避難民たちの目を睨みつけた青龍の役人。



「次があるからです」


沿道がまるで舞台のよう。


「今、助ける。助けられますよ!金も物もあるから。だが、次は?次の次は?歳入の当てがない、って事は次に助ける当てがないって事だ!」


ご領主様を見る青龍の役人。

お芝居を始めた。


「金が無いときは助けない?前は出来たけど、今は無理?それはしかたないね、諦める」


きゃ。

必死の形相です。涙ぐんでいる?


「納得するもんか!前例になるんだぞ!一度、一度だけといくら説明しても期待する!困ったら、助けてくれるかもしれない、助けてくれる!前みたいに!前例があるからな!!」


腕を広げて避難民に向き直った。


「勝手に期待して、叶えられなければ恨む!当たり前だ!前例を創ったんだからな!当たり前だ!期待させたのはこっちだ!期待を裏切れば相手は殴られるより傷つくんだ!人間なら当たり前だ!」


え!

ご領主様を指差した。


「人助け、って言うのはな!余裕がある時に出来る範囲でやるもんじゃない!そんな場当たり的な事をしてたら助けた相手に刺されるぞ!助けるなら永続的に!それができないなら助けるな!一度だけの救いなんぞやらないより悪い!一度きりでも助からないよりマシ?客観的に見ればな!だがな!みんな主観で生きてんだよ!一度きりのせいで憎み憎まれる方がマシか!行き着く先は地獄だぞ!ボクらがいる場所を考えろ!お前らが持っている銃を見ろ!国際連合が何をしてるか見ろ!恩を与えて受け取って、最後に奴らは皆殺しだ!そんな危険を考えたかよ!」


肩で息をついた青龍の役人。




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/青龍の貴族前】


わたしはなんと大それた事を考えてしまったのでしょう。


誰かを救いたい、なんて。


青龍の役人さんの言葉が、胸に刺さりました。

だめ、止めてるのに、嗚咽が、だめだめ。


「なるほど」


ご領主様は頷かれました。


「よくわかった」


ご領主様は私の背にたたれます。

ぴったりと寄り添っていただけたおかげで、息が楽になりました。


目の前に、脅えた顔。

狭い場所にひしめき合って、疲れ、わたしたちに震える人たち。


「お前の願いは」


ことばがでません。


わたしにはなにもできません。

なんのちからもありません。

だから、のぞんではいけません。


「望みを」


わたしは真っ白に、なりました。


命令。


ご主人様の。

ご主人様の言葉、意思、声。

わたしが望んでいることを言え、と。


わたしは、従いたい。

どんな言葉でも。

どんな望みでも。

どんな声にも。


それが、この方が、わたしに与えてくださるのであれば。


正直に、言え。


それがご命令ならば。

死ね、と命じていただけたら、どんなに幸せでしょうか。




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/青龍の貴族右】


あたしは手が出せなかった。


(行ってあげなくて、いいの?あいつは気に入るとかなりムチャさせるよ)


囁く青龍の女将軍。


勝負は立ち消え。

手が空いてもどうにもならない。


あの娘が望んでいる。

死なせてはあげないけど、それ以外は許してあげる。


青龍の貴族は、あの娘に優しい。

あの娘は彼との距離を掴めない。

体中で飛び込んで、心はいつも脅えている。


「望みは」


あたしは怒りをかみ殺す、しかない。

あの娘が傷つく事に。

でも、我慢。


青龍の貴族は間違っていない。

必要な事だ。


あえて望ませて、断る。

今までのように、何でも叶えたら、あの娘がますます不安になるから。


遠慮がちな願いではあったけど、何も願わなかったあの娘がはじめて願い始めた。

自分の為ではないにしても。


それを導いたのは青龍の貴族。

ううん、導いた自覚は無いでしょうね。

青龍の中でも特異な人柄に、あてられた。


でも、それを続けたら、あの娘のタガが外れてしまう。

彼との距離を掴むことなんか絶対に出来なくなる。


「お救い、ください」


覚悟を決める。あの娘もわかっている。


「わかった」


は?

あの娘もポカーンとしている。


注目して いた避難民たちから、戸惑いがちな、歓声?が、あがる。




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/軍政部隊中央】


俺は上機嫌。


役人は憮然。


何故か坊さんや、元カノ、曹長やエルフっ子まで呆然。


まあ、いいや。


軍政の予算。

もちろん、正規配置人員の給与と活動経費のみ。


だが、現地で接収した帝国の資産はここで好きに使っていい。

とはいえ、それが増える見込みはない。

だからこそ、歳入の見込みはないわけだが。


どう料理する?官僚君。


坊さんなら、フォローもしてくれるだろう。

最悪、原案通りでいいし。


討論後半で、しまった、って顔だったしな。


『論破は児戯にして不毛なり』


相手を論破してもまるで意味がない。

梃子でも動かない障害を、わざわざ手間暇かけて作るだけ。


大人なら『論破はしてはいけない』って誰でも知っている。


それでも坊さんが人知れずキレた。


狂信の押し売りってのは、腹が立つもんだ。

この役人が財務省の代表ってわけじゃなくとも。


しかしまあ、コレ、このガキくさい役人に、まっとうな部分もあったとは。


いくら殺させても、まるで気にならない俺。

俺が下手を打たなければ、コイツは殺さないで済む。

気がつかずに、一生を終われるわけだ。


存外、人の役にたつかもしれないな。


俺と違って。


「お前に任せる」

がんばれー!




【太守府/港湾都市/北街道/北岸地区と港湾地区の境目/青龍の貴族右】


あたしは安心した。


幻聴かと思ったけど、皆、青龍もあたしたちも、事情を理解している者は呆然としている。

え、でも、解決してない。

どうするの??


誰よりも呆然しているのは、青龍の役人だろう。


「なぜ、ボクに」


そうよね。


「他に誰が出来る?」

「助ける手順を考えたのはソイツだ!ボクが実行する意味が分かりませんね!!!」


だよね。


「お前が考えて、お前が実行しろ。全て任せる」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?


「問題点を発見し、一番理解してるのはオマエだ。問題を受け入れられない者に、問題の解決は出来ない」


当たり前、というような青龍の貴族。

確かに、当たり前かも、だけど何かおかしくないかしら?


「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


青龍の役人も絶句したまま。


「助けたいが、助けられない」


青龍の貴族が役人の耳元で呟く。


「殺したくない。殺されたくない」


肩を叩いた。


「助けて殺すな出来るだけ」


低い囁きだが、詠うように響いた。

沿道の避難民を見渡し、青龍の役人もつられて見回した。


「それが望みなら、やれ」


青龍の役人をむき直させる。

青龍の恐ろしさに身をすくませながら、遠慮がちに喜び合う避難民たちに。


「お前は最初から『助けるな』とは言わなかったろ?」


そ、か


『歳入の目処もたたないのに予算を組むべきじゃない』


ならば。

目処が立てば?予算を組まなければ?別の形なら?


「恒久策は無理か?」

「出来るわけ無いでしょう!せいぜい一時しのぎで後に曳かず・・・・・・・・・・・・・・・」

「自由にやれ」


青龍の役人の背中を叩いた。


「自由に?何が出来るっていうんです?こんなチンケな部隊の力で?」

「ファルコンを呼んでやろうか」


大隼!


「焼き尽くす気かよ!」


青龍の貴族が港に向かった。

背中で笑いながら。


あきらめたように顔を上げた青龍の役人。

顔が、綻んでいる。


「監察官Information!司令官にタメ口はテウチ!」

「・・・あ、ハイ」

表情が凍り付く、青龍の役人。


あたしも慌てて青龍の貴族に続く。

いつの間にか先行して振り返るのは青龍の女将軍。


え?


背中?


賭?


立ち消え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼と一緒に寝るのはアタシだ?

ふざけなでよね~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!




【?????】


どこか、夢見心地だった。

世界が変わった?星を見ろ?海の向こうで戦争?


確かに。

納得した。

実感は出来なかった。


また、あの日常に戻るんじゃないか?


海の向こう、良くも悪くも馴染みの隣国。

国境の観念が曖昧で。

世界中の物が増え続け、溢れ続ける。


地球の反対側からニュースが届く。

海の向こうと隣の部屋と、何も変わらずに話が出来る。


事件も事故もあるし、内戦になる国もある。


でも、日本の存亡をかけた戦いなんて歴史書の中だけ。

明日は今日より良くなる。

まあ、悪くはならない。

悪くなったらやり直せる。


政治家がしくじるかもしれないが、日本が滅びる訳じゃない。


まあ、何とかなるだろう。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。





皆が夢から覚めないうちに。

皆がリアルを感じる前に。

皆が立ち竦まぬうちに。


この世界を創り変える。


20世紀の残骸を使い、物理的に、強制的に。


ああ、それでもいい。

名前など、どうでもいい。

決めたいというなら、それにしようか。


異世界改造計画。



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