傍観者
【用語】
『平和に対する罪』:国際連合軍の平和創造活動、国際連合統治軍の平和維持活動、UNESCOによる相互理解活動、ほか国際連合の平和に対する努力を阻害する、阻害した、阻害する可能性がある、阻害する可能性が否定できない者は死刑に処する。
※執行方法は国際連合安全保障理事会ならびに国際連合総会が別に定めない限り、執行官の裁量に一任。
〈極東国際軍事裁判所/The International Military Tribunal for the Far East/規定〉
※いわゆる東京裁判「The International Military Tribunal for the Far East.」を「極東国際軍事裁判」と訳すのは誤訳。
※Tribunalは「裁判所」を意味する/ちなみに「裁判」であればCourt.
※Tribunalの意味合いとしては「判事(裁くモノ)が集まる場所」という意味合いがあるので、東京裁判を開いた連合国にはそもそも「裁判」するという認識が無かったものと思われる。
※それを「裁判」というふうに連合国と関係なく勝手に誤訳したのだから「日本側の誰か」が印象操作して、そう思わせたかったのだろう。
※勝手な印象に基づいて「アレは裁判ではない!リンチだ!」などと論難されても、連合国にとっては「だからそう書いてあるじゃん」というべき迷惑な話。
※つまり「現在」の国際連合が何を考えているか(検閲削除)
「自分はなにもしておりません」
叛逆決定。
なんてことをしなかったのかしら。
「なにもしていないんですよ?」
平和に対する罪で確定。
「やった方が良かったとでもいうんですか!そん」
殺らないとダメに決まってるでしょう。
何故、銃を持たされてるの?
何故、実包を与えられてるの?
何故、訓練されているの?
何故、何故、何故、なんでかしら?
為すべきを為さないならば、いらないから。
完成された人形は標的同然よ。
訓練されたサルは邪魔なだけ。
確立された個人は不良品です。
軍令が無辜の人々ごと都市の破壊を求めるなら、最適を行う。
命令が無辜の住民を掠奪略取しろと求めるなら、最善を行う。
軍の目的に対してどうあるべきか、独りで行い独りで背負う。
できない?
できないわよね。
わかってるわ。
安心なさい。
あなたの行績は、ご遺族だけに伝達すみ。
もうなんにもしなくていいのよ。
これまで通り、これからもずっと。
よかったわね。
《あの件の後始末の一コマ》
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の右前/魔女っ娘の右/エルフっ娘】
あたしたち。
そして青龍と赤龍。
騎士同士が交わす死線。
敵に向けられた銃には、虜囚も何もない。
相手が何であれ、男女貴賤強弱問わない。
常に殺しにかかる、青龍。
たった独りで一隊を追い散らす青龍の騎士。
騎士、ではなくて、騎士たちが銃を向ける、じゃなくて、向け続けた。
ただの帝国騎士独りに。
青龍の騎士、その筒先が最初から、帝国女騎士を追い続けていた。
同時にその注意は、青龍の貴族に向き続ける。
彼、青龍の貴族、その反応一つで女は肉塊になる。
そんなとき。
そのまま彼、青龍の貴族、その足元、ううん、足下に膝を着いたのだから。
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】
彼女はまず、俺の前に進み出て、片膝をつけた。
ここまでずっと無言。
まず声をかけてくれると嬉しいです。
見えてるじゃんか?
そりゃそうなんだが。
俺みたいに女を見てる男ばかりじゃない。
女を見てる女の子たち。
敵を見ている兵士たち。
俺だけ見ている帝国女騎士。
彼女は反応した銃口には目もくれない。
大変ありがとう。
うちの隊員は、じゃなくて、俺たち自衛官は不慣れだからね。
一般的に、こーいうことに。
つまりはゼロ距離で拘束されていない敵の捕虜と向き合う、こと。
慣れない時は、反応を抑えにくい。
反応したら。
それが連鎖する。
反応を返したら、また反応。
警戒が警戒を呼び込み偶発戦闘とかマジ勘弁。
民兵崩れがすぐ撃つ経路。
世界中の紛争地帯でおなじみです。
いや、犯罪現場でもそうか。
万が一に備える?
バカを言え。
あバカが言う、か。
万が一に備える。
すると千が一になり、百が一になり、言うまでもない。
軍拡競争不動のパターン。
それなら最初に開戦日時を決めた方がいい。
火事に備えて火災保険?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
防火に気をつけた方がいいよ?
なんなら最初から炎上日時を決めたほうがいい。
不在証明と弁護士手配を忘れずに。
それが嫌なら備えるなんて無駄なこと。
余計なことはしなさんな。
万が一が起きない保障はない?
それを悪魔の証明という。
馬鹿と言い換えてもいいか。
万が一になったらどうする?
その場その時に対処する。
対処できるに決まってるじゃん。
備えることに浪費しなけりゃ、対する余力はできるもんだ。
保険で考えればいい。
得られるかもしれない保険金。
失うことになる保険料。
保険会社の利益になる確率表。
保険料を貯蓄したほうが良くないか?
日常に問題が少なけりゃ、その延長上は恐れるに足りない。
延長上になければ、そもそも対処も準備も不可能。
ならなにもしない方が損害が少ない。
そーいうこと。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の右前/魔女っ娘の右/エルフっ娘】
あたしたちを、ことさら無視。
それはもちろん、帝国女騎士。
敵ながら感心するわ。
女なら当然、女を警戒。
さっき女に目覚めた、あたしにだってわかる。
200年以上、それがナニか解らなかったんだけれど。
いまはよーく判ること、解りすぎてイヤになるくらいに。
騎士であろうと。
帝国騎竜民族であろうと。
あたしと同じ女だから。
あたし、たちを無視するという強い意志。
肢体に不自然な緊張感。
あたしたちに向く肢体の反応。
それを抑える力は、なんなのかしら。
経験?
自負?
演技?
帝国女騎士は常に視るべきを視る
――――――――――青龍の貴族を。
妹たちのように、我を忘れて彼に見惚れる、じゃない。
青龍の貴族、その眼を視る眼。
自分を魅せるために、相手に観せる。
女が視線を逸らさぬことで、男の視線を逃がさない。
そのまま作為的に、作為を知らしめることで、関心を誘う。
誘いに応えた瞬間をとらえ、動き出して注意を逃さない。
それは突然。
他のすべてを無視して、彼にだけ合わせた動き。
他から見れば出迎え待っていたように見え、たのに前に出てきた。
唐突に青龍陣形中央へ
――――――――――青龍の騎士たちが、殺しそうになるわけよ。
そして帝国女騎士は、鼻先を合わせるほどに、歩み寄った。
抱かれるための距離で立ち止まり、数瞬、ワザと彼をみつめた。
あたしたちも、青龍の騎士たちも、眼をひかれて撃つも斬るも無い。
ゆっくり。
最小限の動作で。
あえて構えを解いてみせて。
だから、出来たこと。
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】
俺は早速カウンターを「既に御存知か」打てなかった。
先に言われたよ帝国女騎士。
何をご存知なのか俺は?
知らないぞ、おい!!!!!!!!!!
挨拶もなにもなし。
単刀直入な、帝国女騎士。
シンプル過ぎる。
俺は出遅れて先に言われて、反射で返す。
「俺はな」
なんだか判らないが、無知を知られると主導権を失う。
俺は知ってる、フリ。
話を合わせるのは得意です。
他の皆をダシにして、言わせよう。
何をご存知であるべきか。
俺に訊くなよ子どもたち。
【聖都/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族の前/エルフっ娘・お嬢に押し出された魔女っ娘】
「これはどういうことなのでしょうか、ご主人様」
わたしはお訊ねします。
訊かぬもがな、承知の上で。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今日が、ご領主様と、わたし、たちだけの時間ではなかった、ということですよね。
しかも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・奇麗な女。
しかも――――――――――ご領主様を狙ってます!!!!!!!!!!
【国際連合統治軍第13集積地/聖都市内/中央/大神宮正面前/青龍の貴族】
俺、傍観者。
人生は斯くありたい。
だからこそ魔女っ娘、むくれてすねてぷんぷんです。
カワイイ。
この表情を惹き出しただけで歴史に残る偉業と言い切れる。
レシピを記録せねば。
勲功一番!
わーざわーざ俺たちの都合で呼び出されたあげく、成し遂げたる勲功輝かしい帝国女騎士には拍手できない分感謝を贈りたい心の中で。
「しばし同道いたしますゆえ、よしなに」
魔女っ娘は混乱しているが、そりゃそうだよなあ。
魔女っ娘、よほど俺に言いたいことがあったのか。
魔女っ娘に俺が応える前に、帝国女騎士が動いた。
とっさにわすれた相手から、ご挨拶です。
帝国女騎士が跪いたまま呼びかけたのだ。
わたわたしている、ちびっ子代表、魔女っ娘に。
誰のために呼ばれたのか、それは判っているんだな。
単なる遠足、いや、修学、でもなく社会科見学、にしてどうするのか視察だ視察。
完璧に役をこなす帝国女騎士。
気配に敏感で、気も利くのか。
しかも大胆で先手を重んじる。
優秀な将校の条件は、良い女の条件で、立派な社会人の必須要素。
あくまでも地球人の側では、であって捕虜のみなさんには関係ない。
帝国女騎士は俺たちのガイド役を押し付けられたんだろうに。
捕虜の労役とは違うよ―な違わないよ―な、でもありか。
そもそも今日の遠足、公式には遠征、はこの娘たちの息抜きだし。
ガイド付きとは思わなかったが。
それでも大神殿前で待ち構えている帝国女騎士がいた時点で察した。
誰もが俺たちに気を使ってくれてるんだな、と。
うちの娘たちはVIPだからね。
なかでも魔女っ娘は現地協力者の一個上。
現地代表ですよアナタ。
一歩間違えなくても地球人類と一蓮托生。
未来永劫売国奴と呼ばれる?
子々孫々までローマ市民と名乗る?
そんなポジションです。
頼まれたってなりたくねーや。
ソレを押し付けてしまいましたが。
第十三集積地の、というか事情を知れば全自衛官が気を遣う。
飴をあげるのを我慢しているんだから、ガイドくらいつけるわな。
魔女っ娘にはそんな自覚は無いと判ったが、今。
それに応え俺の前に立つシスターズ。
背丈と体格からして、視界を塞いでないから困らない。
良く見える三姉妹。
一歩下がる、お嬢。
魔女っ娘を下がらせない、エルフっ娘。
魔女っ娘は困ってるが。
三人の真ん中で、こころもち前だからね。
出過ぎるのが、どころか戦闘が嫌いな娘。
しかも、帝国女騎士に真っすぐ直視され。
別に前に出さなくても、俺はいいのだが。
この流れは、魔女っ娘が完全にメインキャスト。
本人的にも、退くに退けなくなっているな、こりゃ。
がんばれ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ムリ?
俺にめり込まんばかりにのけぞり?
踏みとどまった?
姉たちに留められてるだけか?
魔女っ娘。
とても礼儀正しく良い娘です。
相手に無視されても、控えめに挨拶をかかせないタイプ。
ましてや挨拶されたのに、それを返せないとあっては。
ず~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っと、気に病むだろうな。




