ガン・パレード/GunParade
それは不思議な光景だった。
明るく響く高い声。
「「「「「お、美味しいです!」」」」」
「まだまだありますよ~」
「はい、あ~ん」
「ご、ご主人様!ど、どうぞ!」
「アタシのクレープが食べられないっての!」
「ご領主様、一口づつ、で如何でしょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・む」
「ほら、母親だぞ、ゆけ!前進!」
「・・・・お、おかーさん」
「・・・・・・うっ、うん、どうしたの」
軽やかに、ゆったりと、笑いさざめきながら。
(一部凄み声)
先頭の周り。
華やかな少女たちが駆け回り、はしゃぐ。
幼い少女たちをたしなめる少女。
子どもを抱く母親。
母親に抱かれる子ども。
後に続く真新しい制服姿の少女たち。
暗緑色のジャケットが春風を受け、スカートがさざ波のように揺れる。
濃い、暗い色調はそれが作業服、軍服をモチーフとしているからだが、真っ白なシャツと肌、カラフルな髪を際立たせる。
汚れることが前提の服でも、真新しい服をさらに包装してしまいたくなる乙女心。
クリームをこぼしそうになって悲鳴が上がる。
それはそれは楽しそうに。
その若々しい華やぎは、まるでそこだけを切り取ったような一つの世界。
制服、その制服は皆が知る騎士、兵士、衛士のような緊迫感がない。
軽く、明るい。
だが、明らかに『ある集団』である事を示す。
揃いの帽子。
ベレー帽。
帽子の種類が知れるのは、ほんの少し後。
誰もが心に焼き付けたのは、色。
青。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間】
俺の散策はガイド付き。
盗賊ギルド頭目の案内を聴いていた。いえ、お母さん。仕事は後回しでいいですよ?あ、おれがこの子を抱くんですかそうですか。
瀟洒な家々が並ぶ港街郊外。
それがここ。
俺たちが歩いている道。
港街。
港湾の商家。
人気のない倉街。
港湾労働者が溜まる下町。
それら港の中心から、河沿いに西へ伸びる街道は河門をへて太守府へ。
それが街の全景だ。もう少し詳しく言えば街は大河で南北に二分されている。そこまでは哨戒気球の映像でわかるんだが。
「ご領主様にはご存じのとおり、土地に合わせて人も分かれます」
そこまでは知らないからありがたい。
頭目は少女のように微笑んだ。
ようにということは、少女ではないわけ・・・・・・・般若のように笑わないでください、お願いします。
街の起点となる大河。
河口が街の中心となる港。
南岸は有力者の邸宅が並ぶ高級住宅街。
北岸は船着き場だが、河から少し離れると常雇い職人や船員の家族が住まう住宅街。
南北面積は変わらないが、人と建物の密度が違う。
北は濃く、南は薄く。
俺たちが歩く港町の北。
更に北。
港街の北門付近には奴隷市場がある。
今日のパレードの出発点。
住宅街は昼間、住民が港で働き人影がまばらだ。
朝から住宅街を行き来するのは愛玩奴隷を買う者達。
もし南側に奴隷市場があれば、気まずい思いをするだろう。邸宅街には使用人を中心に人影が絶えない。
だが、住宅街に人影まばらというのは普段の話。
今朝は違う。
朝から住民の大半が街頭を行き来していた。
大半とは、生き残った者の、と付けるべきか。
昨日。
あの朝、いつも通りに人々は港に出勤した。
交易は止まっても、船員達は船の管理保守に集まる。職人は造船所に、漁民は漁に。彼らを相手にする店の従業員、小商人。
元々港に居座る港湾労働者。
彼らは夜明けには仕事を始める。
ちょうど港に市民の大半が集まったその時。
海が陽に照らされた。沖合の護衛艦とともに。
訳も分からず暴動発生。
寒かったからでもなく、暑かったからでもなく、飢えも病気も何もないのに。
フシギダナー。
これでロナルド・レーガン(国際連合海軍派遣合衆国第七艦隊空母、はるかに西南に展開している)が来たら、どうなるんだろう?
ともあれ、港から皆が逃げ出した。
港街を東西に流れ南北二つに分ける大河。
避難民も二手に別れる。
南岸。
河沿いに街道が整備され西門へ。
街道沿いに富裕層が集まる邸宅街を迂回して裏街道につながる南門へ。
各邸宅は暴動に気がついた留守番が閂をかけ盾籠もる。
高級邸宅街に流れこんだ人々は互いに押し合いへし合い。
犠牲を出しながら南門、西門を目指した。
元々、この時代、この世界で富裕層の邸宅は暴動や内乱が想定されている。
要塞として機能した邸宅と警戒し威嚇する家人。
それが、ある種の安心感を与えたのか、比較的秩序が保たれた。
港街外への逃げ道が多かったから、衝突がまだ少なくすんだということもあるだろう。
それでも街路には圧死轢死体が散乱。
逃げながら奪い奪われ殺された死体や荷物が散乱していた。
北岸。
河の北側は被害が多かった。更に、と言うべきだろう。
出口が北門のみ。
北岸から西に向かう河門は舟だけが通れる。
外敵からの防御を想定しているので出入を阻害する機能は、中世レベルではあっても軍用だ。
河門に殺到した避難民は川船や渡し舟を奪い取り、後続の避難民に押し潰されながら水没した。
水死か圧死かは判らないが。
用心棒や奴隷自身が武装して守りを固めた奴隷市場。
半ば要塞化したソレが北門近くにあり、それも唯一の出口を狭める圧力になった。
河により、二手に分かれた避難民。
自分の家や家族のもとに逃げ込む分、北岸の方が多い。
すぐに入水場所になった河門より北門方向に人波が集まる。
人が集まるから危険がます。危険がますから人が集まる。
家族、親族、隣人知人。
案じるからこそ、ますます自分も仲間も脅かす。
小規模な家々は見通しを遮り、人波の衝突を加速させる。人の奔流が道を見失い、闇雲に迂回して逆流する。
生け垣は踏み越えられ、扉が蹴破られ、破ったもの同士が押し合い踏み合い。
逃げ場、逃げ道が先にある。
皆がそう信じた。
なぜそんなことを考えたのか?誰よりも街の構造を知り尽くした北岸の住民が。
目をつぶっても道の先にアタリがつく地元民が。
先が見えない、いや、存在しない行き詰まりに先を争って駆け込んだ。
互いに互いの知人や仲間を踏み殺してまで。
苦労したから要求した。
酬いを。
目で見えないから信じた。
希望を。
それは報いられた。間違えようがないほど、はっきりと。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右背】
あたしが見る目。
あたしを見る眼、ではない。
あんな眼で見られたら。
肢体が震えた。
喉を切り裂きたくなった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違う、あの娘を置いて逝くわけないけれど。
かぶりを振り、悪夢を追い出す。
港街でも、悪くない収入を得ていた人々。
邸宅を見本に、模造した家々。
街道沿いはまだマシね。
あたしたちが歩く、河に、港に向かう道。
高低差があり、見通せる。
破られた扉に窓。
踏み荒らされた庭木、砕けた鉢植え、泥にまみれた花々。
軽く見下ろす青龍の貴族。
何が起きたか。
誰が何をしたのか。
なぜこうなったのか。
この世界の誰より知っている。
青龍の貴族は知り尽くしている。
街がまさに滅びていく最中、高台から、空から、何もかも見ていたのだから。
あの時のことが自然に浮かぶ。
勝手に滅びに向かう街を見て、舌打ち一つ。
侮蔑にすら値しないものを見て、救う気にもならないものにとりあえず命令。
頭目を介して命じた。
「滅びるな」
と。
あたしは青龍の貴族の傍らで、背中からその表情を覗いていた。
今。
青龍の貴族はほんの時折、視線を向ける。
周りを駆け回るあの娘達を無言であやす眼。
Colorful(青龍の貴族が名付けたハーフの少女たちに道化がつけた集団名)の動きを統べる眼。
青龍の女将軍や騎士長、騎士たち、黒旗団のドワーフたちに応える眼。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしを眺める眼。
そんな、青龍の貴族、独特の眼。かすかに、しかし、強大な意思を込めた眼。
それが。
街を見ると、眼が目に変わる。
失望。
街を、人を、失望の目で見る、ううん、視線を流す。
無視すらされない。流される視線。
こんな目を自分に向けられたら、あたしは彼を刺・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、確かに、その方が興味をもたれるけど、だけど、そうじゃないわね、うん。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右】
わたしはふと気がつきました。
匂い?なんでしょうか?
ご主人様とお出かけ。夢中で気がつかなかっただけ?
とても嫌な・・・・・。
あ!
痛いです!ちいねえ様・・・・・・。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の左】
わたくしは気がついていましたけど知らないふり。
まあ、見えなくともなんとなくわかりますわ。いえ、年相応な背丈なだけですから。
あの娘の顔を両手挟み。
「主から眼を剃らすんじゃありません」
ちょっと涙目の、あの娘は頷きます。
素直でよろしい。
余計なことに気がつかなかったはもっとよろしくて。
どうにもならないことに泣き出すのは悪い癖。
でも、あなたはあなたですからね。
ご領主様もあの子をまかせます。
子守付きなら余計なことに気を回さなくなりますね。
・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご領主様に撫でられた、わたくしを、あの娘が羨ましそうに見ていますね。
まあ、役得、でしょうか。
あの娘に気がつかせなかった、ご褒美。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、いずれは、わたくしに触れたいから、となるでしょう。
じきに、ほどなく、必ずや!!!
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右背】
あたしが安心するなんて、ね。
青龍の貴族。
超然とあたりを睥睨しながら、周囲の視線を集める。
妹分。
少し背伸びをしているけど、強くてしなやか。
青龍の貴族は、あたしと同じく、なにもかも知っている。
妹分は見えてないけど、なんとはなしに気がついている。
あの娘が知れば、悲しむと。
あの二人なら、間違いない。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間】
俺がため息をついて良いのはいつだろう。
周りの子供がわがままになれた頃。
辺りの少女達が退屈を持て余す時。
隣のお母さんが子供の躾に悩む日。
皆が去った後、ゆっくり、ため息をつける訳だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつだよ。
俺が引きつった顔をしたからといって、だれの迷惑でも無いだろう。
迷惑?いまさら?
飢饉ならよかった。
疫病なら最高だった。
怪獣なら今すぐに来てほしいくらいだ。
誰のせいでもないような、あるような、わけもわからず仲間を殺してしまった連中。
仲間同士で殺意も理由もなく殺しあってしまった連中。
周りがソレで一杯だ。
廃墟になったばかりの建物は、臓物を垂れ流して苦しむような生活感がある。
真新しい砂利は膿爛れた傷を覆う包帯のようだ。
見通しが効かない街。
比較的被害が目立たない街道沿い。
広く距離が取れる街道中心を常に一定ペースで進ませて
ハナコ(仮称)三尉と打ち合わせて意識をそらし。
坊さんや元カノ配下の技官と算段して隔離して。
あちらから意識されてもこちらは意識しない。
周りの惨状から遊離したパレード完成。
愛されるな(わけねー)。
憎まれるな(けっこう)。
畏れられよ・・・・・・・・・そうだ、現実感を持って見られるな。
何もしないのだから期待させるな。
何もならないのだから逆らわせるな。
ここに何かが、目の前にいると思わせるな。
国際連合軍の教科書通り。
右には怯えた目を隠し、突っ伏すように平伏する人々。
左には空虚な目で何かを片付ける人々。
無言で人々を威圧する人影は青い布を腕に巻く。それは頭目に一礼する盗賊ギルドの愚連隊。
今回の一見で末端のチンピラまで頭目を知ったのか。
また、ヤバいプラグを。どんだけ積み上げるのか俺は。
こればかりは、俺自身の責任。
隠していた頭目の正体をバラす羽目にしたのは、俺だ。
言うまでもなく、頭目母子のリスクを倍増させてしまった訳だ。
バイ、デイイノカナー。
その頭目に微笑まれた。
お母さん、距離近いですよ?怒ってます?
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右背】
あたしを振り返った頭目が、笑顔で、それだけで伝えてくる。
青龍の貴族に、むき出しの胸元をすり寄らせるだけで、意味は分かる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きにすればいいじゃない。
関係ないし。
頭目にすれば、青龍の貴族との距離、それを、配下はおろか全ての市民に印象つける事が必要。
正体を隠していたのは、盗賊ギルドの中で、女である事が危険だったから。
だった。
頭目の正体への驚愕と共に、誰もが、深読みを始めた。
ギルドの中も外も。
頭目と青龍、その貴族との距離。
相手は青龍。
近づかれただけで街が滅びる化け物。
あの子は頭目の子とはバレてなかった。
青龍の貴族が抱いて頭目に渡したのだから、青龍に縁がある子供だと思われているだろう。
青龍の龍にのり、
青龍の名で全市民に命令し、
青龍の貴族の縁者を預かる。
権力者の情婦と見られれば嘲られるだけだが、コレを、『たかが情婦』と思う者が居るものか。
主従で言えば従だが、特に
『縁者を預ける』
あたり、単純な臣下に対する態度ではない。
格下の同盟者、もしくは股肱の臣、それに近いなにか、に見える。
『眷属』
囁く声が聞こえる。わずか一晩で生まれ広まった異称。
青龍の眷属。
誰も知らない、突然現れた青龍に、遙か前から接触し手を組んでいた。
末端のチンピラさえも、初めて姿を見せた頭目に信服する手腕。
・・・・・・・・・・・・に、見える。
真相を知るから滑稽だけど。
状況に合わせた青龍の貴族のムチャぶり。
応えて見せた頭目。
『港街を残そう』と判断した青龍。
『港街が必要』と考える頭目。
やれ。
はい。
お互いに、自分の都合で動いただけ。
貸しも借りもない。
それでも、いや、だから興に感じたのだ。
青龍の貴族は。
だからこそ、その後に続く頭目の話を、青龍が耳に入れる気になった。
頭目の願い。
例えなにを引き換えにしても通すべき願い。
この邦最大の港街を操る利権。
支配下にある多種多様な人材。
培われた人脈。
金、宝玉、逸品、女。
その全てを統べる頭目自身を差しだす。
だから。
青龍の貴族に我が子を護って欲しい。
これは本来、取引にならない。
青龍は、青龍の貴族は、欲すればソレらを奪い取れるのだ。いつでもいくらでも。
引き換える意味がない。
だから、あたしも取次ながら、何も出来なかった。
青龍の貴族が興味を持つように、知識の形で伝えただけ。
富強故に取引に遠く。
異質故に情に疎い。
自他を惜しまぬから脅しが効かぬ。
青龍は、青龍たちは、あたしたちとの取引や交渉にまったくなじまない。
とくにこの、青龍の貴族が相手なら『気分』に訴えるしかない。
『私の子と、私の全てを差し出します。なんでもいたします。だから、この子を護ってください』
『力をやる。受け取り、自分で護り、見せてみろ』
貢ぎ物は返される。
頭目にだけ扱える機会が与えられる。
後は頭目自身の使い方。
願いがかなうか、滅びるか。
精霊より、よっぽど意地悪。
似たような話しは神話の・・・・・・・・・・・なにを抱きついてやがるのかしら!!腕をとるだけじゃなくてそれ挟んでるよね!!!
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――わたしはまっしろになりました。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の左】
わたくしは怒りに震えながら、傍らのあの娘を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見たら落ち着きました。
相変わらずね。
他人の危機には考え無しに走り出すのに、自分の危機には固まってしまうのだから。
なんか、コワいわよ。
あの子があの娘をつねって正気に返します。
よくやりました。わたくしの教育が実を結んで・・・・・・・・・それより!アナタのお母様をなんとかなさい!
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右】
それはあっというまの出来事。
わたし、ちいねえ様が交互にご主人様の手を戴いていたのに。
頭目さんが、ご主人様の左腕に抱きついてしまいました。
その、艶のある、という言い方もおかしいのですが、そんなお顔でご主人様を見上げます。
半身をくねらせるようにご主人様に添えて、腕をその巨大な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・に挟みこんで。
わたしは思わず見比べてしまいますけれど、どうしましょう!!
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右背】
あたしはとっさに頭目の肩をつかんだ。
引きはがしそうになり、自制。うん、青龍の貴族が不思議そうに見ているし。いや、見てないで何とかしようと思わないわけ??
まさかまさか?それ距離感がめちゃくちゃでしょう!近くにいるのは安全だけど!!そこから先に踏み込めば危険になるのに!!!
そしてあの娘たち。
妹分。
あの娘。
頭目の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたも?
揃って胸を抑えて、なにかを確認している。
怒るべきか、笑うべきか、教えるべきか。
あたしは額を抑えた。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右背】
俺の危機は続いた。社会的な意味で。
これが経産婦だと!
いかんいかん。こんな時に何をナニカを考えそうになってしまった。
え?自覚してる時点で手遅れ?
なにもかも、見なかった事にしたいよね。
俺は殺気に身をかわした。まあ、元カノだが。
だいたい、わかる。当たり前か。
戦場と訓練なら無言で最小動作だし、プライベートは気合いのこもった大振りだからな。
身をかわしたおかげで、頭目と体が離れた。
反射神経の勝利!
考えて離そうとしても体が言うことを聞いたかどうか?
しかし!最高のタイミングだったぞ!すごく惜しいが!!何かを手に入れて何かを失いそうだったよ!!!
頭目の身のこなしも優雅だ。
ふーむ。
頭脳派(色気も含めて)だと思ったが、肉体派(色気も含めて)?
なんか肩の痣が気になりますが。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の右背】
何故かしら。
あたしを含めて三竦み。
「そういうのは、役目じゃないって言われたでしょう?」
静かに歯ぎしりして噛み砕くような声。
青龍の女将軍。
背後のドワーフ達が斧をフリフリ応援。
「おっしゃるとおり、役目ではございません」
それにニッコリと笑顔を返す頭目。
沿道の盗賊ギルド愚連隊が、青龍の一員と正面から言い合う頭目に呆然。
「役目ではなく、気持ちに従いました」
え。
青龍の貴族はあの娘たちを前に押し出す。
青龍の騎士マメシバ卿はColorfulの面々を後ろに下げる。
あたしは?
「ソウイウコト、シチャイケマセンって聞いてるよね!」
血の呪い。
青龍の神々の禁忌。
血を交えれば街や邦が滅びる悪疫が生まれる。
だから、あたしたちは青龍とキスすら出来ない。
「確かに」
頭目は強調するように胸に手を当てた。
「ですが、腕をとっていただいただけ、で問題がありますの?」
服の胸元、裾をつまみ、青龍の貴族を見て。とっていただいた?とらせてたよね??勝手に挟み込んでたよね???
・・・・・・・・・・・・・・振りほどかれはされなかったけど、さ。
「いえ、ソレも問題でしたら、指一本触れずにお楽しみ頂くことも」
嫣然と笑う頭目。
流し目の先には青龍の貴族の背中。あ、こっち見てない。他人事??えと、良いのか悪いのか?
頭目は青龍の貴族を見たまま胸元の裾を・・・こら!振り向くな!何を感じた!!!・・・・・・・・・よし!あっちの物音に気が付いた・・・・ううん、違うし、頭目はどこまで計算?・・・・・・・・・・・本気???
「わたしの、私自身の、楽しみ、快さの為に」
「ぐぬぬ!!!!!」
女将軍をうならせて一歩も退かない。
なに考えてるの!!!!!!!!!!・・・・・・・・・・・・・・・違う違う。
あたしに関係ないし・・・・・・・・・青龍の女将軍だけは、いいのよね、青龍の貴族が応じれば、だけど。
血の呪い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最近、あたしは疑ってる。
戦場で女狩りをしていた青龍の将軍。
青龍の女将軍や公女に配下ごと焼かれた。
だから、呪いは嘘ではないだろう。
だが、それだから、言われているほど危険ではないのでは?
でも、青龍の騎士達は信じているようだ。
まあ、多少の違いはあれど、致命的な危険があるなら、そんなものを犯すわけがない。
だから青龍の騎士たちは何処でも女から距離を置こうとしてるし。
例外は、あたしや妹分達?あら?
「あたし達だけ、女扱いされてない?」
「大尉殿の女、あるいは家族、扱いですよ」
は?
「まあ、兄嫁、義理の姉妹や娘のようなものです」
零れた疑問、響く答え。答えそのものも、アレだけど。
「騎士長」
さっさと列の前に。言うだけ言って。
凄い事言って!言いっぱなし!どういう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・意味かは、判る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けど!
待ってよ!!!!!!!!!!
あ、はじまった。
頭目と女将軍、あたしはすぐに前に出た。
【太守府/港湾都市/北街道/北門から港の間/青龍の貴族の背後】
「「「きゃ」」」
わたしたちは列の前から、ご主人様の背後に。
青龍の女将軍さんも右前。道化師さんが左前。
頭目さんが左に、ねえ様が右。
前が見えません。囲まれて、左右も。
???
「Tallyho!」
「ん」
「て!!」




