リアルのファンタジー
【ほんぺ……用語】
『エグゾセ・ミサイル』:Exocet、トビウオという名前の対艦ミサイル。コンセプトと名前が一致しているあたり営業マンもニッコリ、兵器輸出の老舗フランスらしい。「ミサイル一発艦艇一隻」ということばで表すことができるユニーク兵器。小型で安く、炸薬の不発率が高いのが欠点と言われそうだがさにあらず。速度重視で炸薬より物理力で打撃を与えるコンセプト。起爆する前に信管が壊れてるんじゃないかな。爆発なんてロマンです!フランス人以外にはわからんのです!!実際に英国駆逐艦を一発で撃沈。紙装甲を撃ち抜いたミサイル弾体が燃え盛るロケット噴射を続けて艦内を飛び交った結果。徹甲弾が戦車の装甲を撃ち抜いた後みたいだな?炸薬は駆逐艦の最期まで爆発しませんでした。「ミサイルが時々稀に爆発するのは仕様です」とはメーカーが胸を張って言う言葉。爆発するエグゾセを見ることが出来たら後は一生被弾しないといわれている。160kgもの炸薬(爆発物)や信管(起爆装置)がついているのはなぜなのか?という質問に大して「それだけの重量物が亜音速で衝突した際の運動エネルギーを生み出すため」と胸を張るメーカー。火薬は鈍器だった?そりゃ起爆して粉々になったら大変だよ!軽くなって脆くなって威力が無くなるじゃないか!炸薬じゃなくて重りじゃねーか。運動エネルギーは速度×質量でエネルギーを不足なく標的にぶつけるために弾頭は固い方がいいんだから間違ってない。間違っていないのにそう言い切るには勇気がいる。そんなわけでミサイルというより空飛ぶ誘導砲弾。軍艦相手にするなら最強で、小さくて扱いやすく戦果が上がり安いということで大ヒットした。なお民間船、タンカーやコンテナ船などに使ってもほとんど意味がないことも後日証明。物理で殴るんだから、相手の質量が大きいといかんともしがたいのである。タンカーなんか数万トンから数十万トンクラスで軍艦よりはるかにデカイ。昔から貨物船の方が軍艦より沈めにくいのであったりするが、浮力最重視で火災対策がしっかりしてるしね。そんなものにたまに爆発する小型質量兵器を投じても損傷しか与えられないのは当たり前。「弊社の製品で民間船を攻撃しないように」とは「不発ばかりじゃねーか!」というユーザーからのクレームに対するメーカの堂々とした切り返し。兵器は容量用法を守って正しく使いましょう。ある意味で戦時国際法の優等生。堅気の衆には手を出せないように造られているのである。これは自慢してもいといい思うが、軍事筋ではミサイル型徹甲火炎びんとして評価されてるのは仕方がない。だからこそ様々な戦争で山のように使われて、今日も不発を続けている。
「レベルを上げて物理で殴る」なんて話にならない。
クソゲーアワード2010年をさかのぼること28年。
1982年には「レベルを下げてミサイルで殴る」を実現させていたのである。
フランス人、マジヤバイ。
それで殴られたのがロイヤル・ネイビーな辺り何を狙ったのか丸わかりで。
所詮ゲームは現実というクソゲーの前で、何ほどの意味があろうか。
被験者に変化なし。
被験体Aは通常に動作停止/アイドリングなれど要観察。
B、Cに顕著な攻撃性発生。
a~eに積極性の傾向を認む。
《異種交配実験評価班所見》
【国際連合統治軍第13集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】
作業区画。
俺たちがいる場所、ってか通行中。
ここまでくれば人影はまばら。
今いる人影。
帝国軍捕虜、その巡察隊的ななにか。
つまるところは居住区と違って、普段人がいない。
聖都解体作業はお休みだからね。
元々、大都市であった聖都。
その都市構造を破壊する作業区画。
石を砕き煉瓦を壊し土を浚い塩を造り瓦礫と共に地中に埋める。
祝福を封印や解呪、呪詛や結界を張る魔法資材を埋設する為の製造保管
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・壮大な無駄使い。
もちろん今は、作業中止。
国際連合統治軍が命じる一部作業以外、使われることはない。
時たま、本当に今は時たま、国際連合統治軍の命令で帝国軍捕虜が管理して作業させることも、稀にあるけれど。
その一部作業は、俺たち、いや、子どもたちが滞在中は行われない。
第13集積地司令官の配慮。
ええ人や~。
こういう職掌範囲外に想像力が働くこと。
善い将校の基本条件。
良いじゃなくて善い。
お間違えなく。
そして優先順位が判ってらっしゃる。
良い将校の絶対条件。
二度言わなくてもいいだろう。
当たり前だが、うちの子たちが優先である。
当たり前だが、そのせいで割を喰う人もいるわけで。
そろそろ暖かくなっているから、早めに焼却が望ましい。
作業にあたる徴集農民の負担を減らすため。
痛みやすくなってるからね。
まあパージと違って三桁くらいの数だけど。
保管物扱いだからといって、いや、だからこそストレスは最小限にする。
だがそこはそれ、焼却に至るプロセスを遅らせることは出来る。
だから中止はないが、停止はできる。
ご迷惑をおかけしております。
【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族右膝/魔女っ娘】
わたしは外をみました。
先程までのような、高い壁はありません。
先程までと同じ様な広い広い道。
その先には、大きな櫓が組まれています。
いくつもいくつも並んでいますが、綱や板ははずされているような。
たぶんそこに在るだろうと思われる物が外されています。
代わりに板がはめ込まれ、補強しているのでしょうか。
物珍しい光景は気をそらせるには、それなりです。
お父様の書籍に、近い図面があった、ような、いえ、やっぱりありました。
太守府に帰って、ご主人様の御許しが戴けたら、探してみましょう。
太守府の中に在る書籍にもあったかもしれません。
ご主人様を、また家にお招きできたらいいのですけれど。
けっして視線をそらしているのではありません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と言いたいです。
自分の醜い嫉妬心。
それから眼をそらすことしかできません。
だから頂いたものにかじりつきます。
ご主人様の手を受けて、離さないように。
ねえ様の肢体に戻らないように。
【国際連合統治軍第13集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】
ともあれ俺たちのことを抜きにしても、人がいない地区なのだ。
日常的に人がいなけりゃ、商売にならない。
だから行商人さんたちもやってこない。
作業区画を越えても、もっと人がいない聖都しかない。
だから通り抜ける行商人もいない。
作業用の資材もほとんど居住区の中に移してる。
必要無い分は梱包され密封されている。
それはそれなりに価値があるが、かさばって重い。
泥棒の心配もない。
そもそも作業区画の外縁部に在る自動機銃。
それが普段は、帝国捕虜以外の異世界人を殲滅してしまうからね。
命令以外で入り込む異世界人は、普通に考えると迷子か盗賊だし。
もちろん区画内の街路にも自動機銃は配置されている。
だが、試射以外では稼働したことが無いという。
特別に作業を命じるとき以外に人の出入りが無く、その際にも逸脱行動がなかったということ。
時々通過するのは、帝国軍捕虜による巡察隊だけ。
実に目出度い。
つまり俺たちの進路上から居なくなる、無くなる突然の滝血。
周囲を気にしなくていい。
偵察ユニット、そのアラートを気にしなくていい。
あまり。
第13集積地配備の偵察ユニット。
その一部を俺たちの為に割いてもらっていたのだ。
一応は今も変わらず、曹長にチェックさせてるが。
普段でも戦況管理は曹長の役目、うちの隊では。
普通の部隊は士官が戦況を把握して管理、下士官が指揮をとるのだが。
さておき、今、っていうか此処、第13集積地滞在中。
アラート管理に特別条件を付加。
普通はこんなことしない。
シチュエーション別/条件パッケージで十分。
事前に用意されてるし、過去数カ月、異世界全体での戦闘によって蓄積されたデータで常にバージョンアップを繰り返している。
自動アップデート以外にも、戦闘が無くなり暇な兵士たちが改良を加えている。
ひととおり実戦を経験した連中の集合知だから、幾通りものバージョンがある。
普通に考えれば、それだけで事足りるので改良しようとするやつの方が少ない。
子ども引率バージョンは無かったが。
俺の貴重なる体験がソレを生み出すに違いない。
人の群れや赤い色や悲鳴に反応するように。
それが視覚や聴覚に入る前に警報が鳴るだろう。
異世界が修学旅行や遠足先に選ばれた場合、大いに役立つに違いない。
ついさっきまでそれが必要でした。
無事に終了しましたが。
人力で。
まあ突然過ぎて、毎回ギリギリだったが。
曹長の経験と勘。
俺のアドリブとシックスセンス。
人ができることは必ず機械に任せられる。
まあ自分を特別視したがる奴は、嫌う発想だけどね。
たいていの人間に、特別なんていない。
それを嫌うやつは、人間であることを特別にしたがる。
たいていの動物は、特別なところなんかない。
人間を含めてな。
だから捏造する。
人間にしか出来ないこと。
人間にしか果たせないこと。
人間にしかない意味や意義。
ねーよ。
と言ってあげるのはかわいそうなので、止めてあげよう。
気がつかないで終われたら幸いだ。
後頭部に銃口を突き付けられてから気がつくなら。
ソレまで幸せで良かったね、ということ。
【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族左膝/お嬢】
わたくしは、あの娘にかないません。
ご領主様の腕を引くときに、どうしても考えてしまいます。
騎士の腕を塞ぐべきではない。
そう教えられたこと。
それでも抱き付いてはしまいますが。
肢体をおしつけても抱え込まないようにいたします。
ねえ様は右腕。
わたくしたちは左腕。
ねえ様は忘我の態でなされるがまま。
ご領主様はいつでも右手をつかえますわ。
わたくしたちが、多少、左腕を頂いても、おそらくは大丈夫よね。
それでも、あの娘みたいに指を咥えることはできない。
自分の指ではなく。
ご領主様の指を。
でも、負けませんけれど。
そう思いながら、らんどくるーざーの周りを見回します。
職人たちが家屋敷を造る時に感じた風景に印象は似ているけど。
城壁の補修工事、最近なら青龍の騎士団が破壊した太守府の門、あれを造り直している時の現場みたい。
でも違うのは、櫓が壁沿いではなく大地に林立していること。
曳き綱やなにかははずしているから、ここに集めてあるだけなのかしら。
よく見ればのぞき窓や通し穴は皆、板で塞いでいるし。
わたくしは、ご領主様を見あげます。
ご領主様は、微笑み返してくださいます。
ねえ様を愉しみながら、ですけれど。
少しでも気を散らしていただけたのですから、良しとして。
わたくしが、こう言うモノを見るのが好きなこと。
それをご存じなのかしら?




