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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十一章「夏への扉」

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幕間:戦争の国

『赤龍』『帝国』:地球人と戦う異世界の世界帝国。飛龍と土竜の竜騎兵と魔法使いを組み合わせた征服国家。70年ほどかけてユーラシア大陸に匹敵する面積を持つ大陸の東半分を征服した。特段差別的な国家ではないが、エルフという種族を絶滅させる政策を進めている



彼女は直立不動。

自分の肢体を痛めながら、待つ。


標的を。


ただ殺すなら、肢体を弛緩させて備えるところ。

戦いの前はそういうモノ。


一撃喰らわせ終えるまで力を費やさぬように。

あらゆる動きに即時対応するために。


弛緩から緊張までの準備動作自体をも、攻めの一手となすために。


それはまだ、早い。

とても残念なことに。


今回は牽制であり偵察。


敵に緊張を与え、その動きを抑止する。

軽い緊張への対応から、その能力を測る。


殺すのは一瞬。

時間と手間をかけるのは素人だ。

殺すまでは数年。

時間と手間をかけないのは素人だ。


彼女は当然、プロフェッショナル。

産まれてからこれまで、敵を殺すためだけに心と体を鍛え上げた。


純粋な騎竜民族。

そもそも血統への執着が乏しい時代。


そんな中でも極めつけに、それが無い彼等。


人種民族など曖昧としており、誰も気にしない。

身体の特性が違うゆえ種族の見分けは、まあ、つくが


どのように産まれたのか。

ではなく。

どのように育ったのか。


それが証し。


文官であれ武官であれ。

剣をとり筆を振るい、竜にまたがり舌を滑らせ。

大人であれ幼くあれ。

戦うために殺すために育つこと育てること。


それは呼吸にひとしい。

それを止めるのは死んだ後だけだ。


だから彼女も肢体の力を抜く。

常と変わらず戦っている。



最後に殺すために。

今は殺せないために。


その為に自らが緊張して見せる。

こちらが身構えれば、相手も反応するものだ。


ただし相手を挑発してはならない。


敵はそれを挑戦と認識するだろう。

彼女たちを、彼女と彼女の関係者、関係ないと断言出来る者以外。

それを皆殺しにしてから。


幾らかは殺される前に、彼女たちからみて魔法扱いとなる、薬物で心の奥底までを切り刻まれる。


つまり帝国軍が生き残ることができない。

ただ一人の女、彼女の態度次第で、だ。




まったくもって度し難い、それが帝国軍一般の感想。


彼女たちの敵は殺す、ではなく、殺した、からスタート。

以後も折りをみて、皆殺しにした者達の意図を検証するだろう。


今後の参考とするために。

だがあとから何が判ったところで

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・命の無駄遣いだ。


敵味方にとって。


命であれ麦粒であれ、無駄は愚かで、愚かは弱者。

帝国は、愚かさを罪とみなす。



だからこそ敢えて彼女は、事前に肢体を緊張させておく。


戦闘意欲の高さを判りやすく示しながら。

戦闘能力の低下を自然に演出するために。

戦闘意志の無さを確実に現しわからせる。


彼女、女が選ばれたのも、それが理由だ。


美しく若い。

しなやかで強い。

肉感的で隙を振り撒く。



帝国軍兵士の中で、一番、魅力的な女。


それは異世界の上流階級であり、豊かさの象徴。

生物としての機能性に溢れている。


それは当然、青龍と赤龍、その境界をも超える。


美しさとは機能美とイコールだ。

優れたもの、強いもの、有益なもの。

自分にとってそう感じるものを欲する。


ゆえに生物の在り方が変わらない限り、美醜の基準は変わらない。



時代々の表現技法の違いをもって、美しさは相対的と強弁する哀れな方もいる。

が、まあ、印象派についてググるといいだろう。


浮世絵や各種コミックに描写される形をした人類がいるのかどうか。

30秒以上の持続的思考が可能ならば、察することができるだろう。


ゆえにこそ美醜とは、人類が人類である限り、不変普遍の絶対基準。


いま美しきは古今東西永久に美しく想われる。

いま醜きは過去未来永劫に醜く蔑まれる。


ゆえにこそ美しさは多世界を超える。


他の美点汚点が加減乗除されようが、その根本は変わらない。

評する言葉の末尾に、あるいは冒頭につくのが、最も重視される点。


それは当然、技能としてカウントされる。


騎竜民族は刻々生死を賭ける。

逃避に付き合う憐憫などもたない。


だから彼女が選ばれた。


標的が男なのだから、当然の選択。

もちろん、細部に至れば齟齬もある。


青龍から通知された来訪者。

前日に接触した帝国軍将軍や騎士、兵士たち。

仔細に観察した結果、一つの特徴を掴んでいた。


たった一つ、だが、こんなに早く把握出来るのは珍しい。


それはまあ、これ見よがしに女を、女たちを連れ歩いているのだから。

それはもちろん単純な嗜好として、女たちを肌身離さずに連れ歩く。

そんな標的の性格が、そしてそれを心から喜ぶ女たちが見て取れる。


それだけ、とはさすがに考えない帝国軍。


帝国軍への牽制を兼ねていたのかもしれない。

帝国軍と接する彼に、女をあてがっても無駄だぞ、と。

帝国軍はそう解釈し、牽制もされたが、問題とは感じなかった。



標的が連れ歩く女たち。


人間種の中で最上位に位置するであろう愛らしさ。

さらに加えて、魔女の持つ稀少性。


稀少性で言えば例外でもある、エルフの現実離れした幻想的魅力。

合わせて側に侍るハーフエルフの超絶的な肉感性。


それは確かに比較されるだろう。


彼女、女騎士が如何に美しくとも、そのためにのみ整えられたわけではない。

汎用性は高くとも、専門性にはかなわない。


剣を投げるより槍を投げたほうがいい、ソレと同じ。

万能兵器があり得ないように、それが軍事的常識だ。


だが、男であれ女であれ、足りるということは無い。

どれほど秀でた相手を持っても、それ以外を拒絶はしない。

主君ではなくただ一人の異性に忠誠を誓うなど、物語の中でしかない。


唯一にて足りるなど成り立たぬ、それが自然の法則だ。


帝国軍は現実の実態を見る。

それしか興味を持たない。


外的な強制脅迫を伴わない自然な感情で、自然な感情で結びついた対等な男女が一対一の関係を長期間貫徹する。


そんな不自然なことは狂気でしかなく、あり得ない。



実際に地球人類、いや、その先進国で守られてはいない風習を知ったとき。

社会制度で親愛友愛性愛を強制しようとして、失敗している仕掛け。

帝国人に限らず異世界人は皆思う。


なんで、そんなことをしているのか?


とはいえ、此処ではそんな感想を持つ者はいない。

地球の慣習、あるいはそうすべきとされている建て前。

それを知らされている異世界人は多くは無い。


もちろん異世界でも、そんな狂気を強制する向きは、ある。


世間知らずな権力者や常識のない狂人が、対等でない相手にそれを強制する。

我侭で自制心にかける、常識のない者は決して尽きることは無い。


人と人の関係に置いて、相手を尊重せず、想いではなく形式で縛り付けようとする狂人。

そんな事例は、心ある異世界人が眉を顰めることにではあるが、嘆かわしいことに、無くもない。


だからこの場では、帝国軍が行おうとしている作戦行動には関係が無い。

標的が持つ権力は、そんなおかしな妄執を許すほどに弱くはないからだ。

故にこそ帝国軍は、単純に標的を狙って作戦を進めることが可能となる。



問題は一つ。


作戦に当たる女騎士。

彼女の身長は成人女性として、帝国支配階級の標準サイズ。

胸部と臀部は十分に発達しており、肌も髪も素材として充実。


つまり。


標的の嗜好には合わない。

それは大きな問題だ。

だが仕方がない。


聖都の帝国軍には該当する者がいなかった。

残念なことに、身長130cm以下の女兵士はいない。

ましてや10歳前後の女など帝国全軍を見渡しても、いない。


もちろん子供という概念が無い世界。


ここで言う子供は、地球の現代先進国に置ける思想的理想像としてのソレ。

当然ながら帝国軍には少年(性別不問)兵などいない。


圧倒的な国力と卓越した組織力。

戦争の為に建国された論理的理想像。


子供という劣った素材を投入する必要などない。

そんな頭の悪いことなど思いつきもしなかった。


それがここにきて必要になろうとは!


標的は幼い女ばかりを収集している。

だが無いものは仕方がない。


それに幼いだけが必要、ではない、ようだ。

美しさにも麗しさにも艶やかさにも拘りがみえる。

ならば成熟した女でも、いける、かもしれない。


むしろ標的の得意な戦場を避けられた、と解釈。


成熟の頂点にある女。

その生物学的汎用性を考えれば勝機はある。


すぐに効果が出なくてもいい。

初戦、威力偵察としては十分。


だが緒戦こそ重要であり、手は抜かない。

帝国軍の専門家が彼女に動員された。


あくまでも素材の価値を高める。

故に成熟の頂点に在る女の特徴を生かす。

相反する幼さなどは、試みすらせずに無視。


むしろ対峙すべき。


標的の周囲には成熟の頂点で静止したエルフもいる。

ならばこちらは人を全面に押し出し、エルフに並び立てる親和性を演出。


幻想より現実。

夢幻より肉感。

偶像より性愛。


帝国軍で本作戦準備に当たるは、メイクアップやスタイリストにあたる役目の者。

その作戦を担う部隊は、聖都の殿として残されている。


強大なな敵に降伏する。

その作戦に、一番有用な特殊部隊。


おそらくは異世界で一番、外見に注意を払う階層は軍人だろう。

騎竜民族を模範として、組み込まれた属領種族民族も、だ。


客観的多数派にどう魅せるのか。

誰もが常に意識して工夫を忘れない。


それを騎竜民族は「竜の眼を持て」と表現する。


地球的表現からすれば「俯瞰/客観を意識せよ」となろうか。

それは当たり前に騎竜民族と不可分な戦闘であり、帝国と同一をなす戦争。


とは言え専門職、娼婦や笑婦に密偵将軍貴族など、とは違う。


彼女は騎士。

容姿は余技に過ぎない。


意識はしている。

常に整え不足もない。

が、付け足す余地はある。


それを担う兵士たち。


普段は将官や儀仗兵の相手をする専門家達。

地球で言えば芸能人から国家元首までを飾りたてる技術者。

かれらが腕を振るった。


女騎士は最高の素材。


多分に自惚れと自己満足が混じる娘たちとは違う。

娘たちの中には、たった独りの眼だけに悩まされる者たちもいるが。


互いに互いを確認し、彼の視線を確かめ合う。

自分が視られた時の感触を、互いの視線で情報交換。

瞬時の同期共有は24時間密着した相手の前でリアルタイム。


年齢や立場、技術の差を多角的検証に活用。

愉しそうに悩みながら、楽しそうに競い合う。


帝国を凌駕するのは、少女童女幼女の一団。

それと同程度の力量ある者だけだろう。


ゆえに帝国軍は自信を持って彼女を派遣した。


繰り返すが、男をさそっていない。

だからこそ男をいざなう、現実感を突き詰めた女。


誰がどう見ても、刺客にしか見えないじゃないか!

そんな女を刺客と疑うなど在り得ようか?


だからこそ、余計な行き違いを防ぐことができる。

世界を征服する(途中停止)異世界最強(多世界ではその限りではない)戦術の極み。


帝国、赤竜による対青龍戦闘。

唯一刻の途切れなく。

唯一人の例外なく。


順調に、順調に継続中。



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