死に征く人々。

「あなたは国際連合による武力制裁活動をどう思いますか？」

※設問は各主体によりまちまちだが大意、国際連合武力制裁活動への賛否を問うている。

【報道まとめ】

発表主体／賛成：反対

・保守系／５８：４２

・ウヨク系／７６：２４

・革新系／４８：５２

・左翼系／４０：６０

数字は％表記。

参考

・海外特派員協会／４５：５５

※主体表記は系統。

※系統は２１世紀日本における一般的呼称。

※呼称に用いられた単語は完全にイメージであり、本来の意味と無関係。

※無関係なのは義務教育習得、となる者ほど声が大きい。

※大きい数値差がでることは、同一対象同一調査においてあり得る訳がない。

※その訳は結論を権威付けするために調査と称しているだけで実際には何もしていないから。

※何かしているか否かをそもそも検証する制度も体制も日本にはない。

《異世界転移、国際連合武力制裁活動開始後初の世論調査結果/各娯楽（報道）企業自体が武力制裁活動に抱く感想集計/衆議院国家戦略委員会提出資料より》

【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】

あたしにだってわからないモノ。

それは幾らでもある。

あたりまえ？

でも、２５６年も生きてるのよ。

人より多く知っていて、あたりまえ。

当たり前にしていれば、ね。

当たり前にしていなければ。

見逃して、聴き流して。

普通のエルフの様に。

あたしは、違う。

何を得るのではなくて、何かを知りたかった。

目を光らせて耳を澄まし、生き残ること以上に知りたかった。

そう思って郷を出て、故郷を棄てて、人とかかわった。

エルフが、エルフたちが嫌い。

何も知らないことを良しとしている。

何も考えないことで満足している。

何もかも知っていると自惚れている。

エルフの能力なんて、自慢することじゃない。

寿命。

それだけよね。

他の種より早く始めた。

他の種より多く失敗した。

他の種より長く経験した。

速いんじゃない。

成してもいない。

学んですらない。

早いだけ。

手数が多いだけ。

繰り返しで覚えただけ。

なにを自慢できるっていうのよ、ね。

先に走り出して先に着いた。

それを自慢できるなんて、気が知れない。

彼は言った。

俺が誇るものなど何もない。

そういって、胸を張る。

大地を覆す力。

人の営みを操る知恵。

ただ居ることで睥睨する眼。

なにもかも、自分とは関係ない、と。

なにもかも、他人が創り出したものだ、と。

なにもかも、借り物に過ぎない、と。

誇りをもって、無力を掲げる。

※第２６話〈カルチャーギャップ/Ｃｕｌｔｕｒｅ ｇａｐ〉より。

あの時。

あたしは、彼に惚れたんだ。

出会って、三日目。

初日に言われたら、やっぱり、惚れるわよね。

それに気が付くのは、肌を重ねた後かもしれない。

やっぱり、重ねてるだけでじらされるかもだけど。

あたしが知る世界、彼以外は。

彼、青龍とは真逆。

龍になれない。

それどころか、竜に乗ることすらできない。

それがエルフ。

あたしが、エルフ。

だからなにもかも、エルフと逆を進んでいたつもり。

つもり、に過ぎないとはわかっているけれど。

人とは積極的にかかわった。

男は敬遠したけれど。

人以外の種族も知ろうとはした。

ドワーフは生理的に駄目だけど。

※第３０話＜ミニガンさんじゅうななさい＞より

大陸すべてを歩きまわろうとして。

帝国よりは広い範囲を踏破した。

そしてこの辺りは、特別に関わりが多かった。

大好きな人の世話をするために聖都を造った大ばか者。

頼まれない限り何も考えずに星を見てばかりの能天気娘。

大勢を見過ごせずに星の都を聖なる都と言い換えた詐欺師。

みんながみんな、死んでしまったけれど。

あたしはみんなと、すごく親しかった。

みんなのことは知らないことが無い、と言い得るほどに。

なのに、彼の、青龍の貴族に答えられない。

百年前のことは判るのに、いまのことは判らない。

判らないことだらけ。

それは帝国兵も含めて、だけれど。

ゆっくりと進む。

それでも馬車の並足よりは速い。

らんどくるーざー三頭。

三頭の真ん中。

土竜の甲羅内から外を眺める青龍の貴族。

窓を広くとっているから、良く見えるのだけど。

帝国兵、特に騎士。

二人一組。

一人は集中して甲羅の中、青龍の貴族を。

一人は全体の指揮をとれるように一歩引いて、青龍たちを。

見ている。

帝国兵士たちは手分けして対処している。

そう！

対処できてる！！

青龍の騎士を背にした、らんどくるーざを見る。

ランドクルーザーに載った、青龍の騎士たちを見る。

まあ、そうよね。

虜囚の身であれば、出来る事なんて他にない。

だから、納得できる動き。

予想は出来なかったけれど。

まだ戦う気、ううん、戦ってるなんて！

あたしが見た青龍と赤龍の対決。

っていうより、一方的に赤を喰らう青。

それは三カ月くらい前のこと。

その前は青龍自体、影も形もなかった。

たった三カ月前からよ？？？

あの時は、ただただ茫然としていた帝国軍。

それは当然だけど、驚きだった。

あたしが良く知る帝国軍。

独尊。

尊大。

独善。

帝国が現れたときから、あたしは見ていた。

西方は大陸の辺境、それよりも奥の奥の陸の果て。

誰もが目をそらす、ひとでなしの世界。

そこからあふれ出た、禍々しいバケモノ。

そして青龍の出現も、みることになろうとはね。

東に広がる、誰も行かない見ようともしない海。

暦の上で、そこに在ることすら忘れ去られた群青の彼方。

そこから伸びてきた、奇々しい軍靴。

赤と青。

青に喰われる赤。

帝国。

世界の形。

大陸の基準。

あたしたち、青龍以外のすべてにとって、帝国とはそういうもの。

空が落ちてくるなんてこと、誰が想像するかしら。

落ちてきたんだけど。

そこに現れて、当然の様に世界を支配した帝国。

その圧倒的な力を、隔絶した力で踏み抜いていく青龍。

そりゃ一朝にして世界が一変したのだから、誰もが茫然として当然よ。

赤く塗られて。

青く塗りなおされ。

その圧倒的な力で、世界を睥睨していた不動の帝国。

それが自分自身すら失ってしまうなんて、そっちの方が驚いたくらい。

そして、あたしが知る限り。

他のすべては、ただ上を通り過ぎられて。

踏み潰されすらしないけど。

今も大陸に居る誰もが、落ちてきた青龍に右往左往しているのに。

まるで無関係、というか無視されている大半の者たちは混乱中。

その青龍に襲われ続けている帝国は、混乱したのは最初だけ。

いまや、すっかり落ち着いているあたり。

やっぱりこいつら(帝国兵/軍)おかしいわよ。

立ち直りが早いこと！

慣れた感すらあるわね？

当然で、驚かされる。

当たり前で、意外。

してみると、今、こうしている、帝国軍捕虜。

青龍に敬意を払い。

青龍の命令に従い。

青龍と戦い続けてる。

おかしな奴。

此処に居る虜囚。

帝国兵士は見ている。

あたしが見たモノ。

※第２６２話 ＜地獄/ベアトリーチェの導き＞

あたしが痕跡だけを見たモノ、それが生じて終るまで。

一万人以上の人間が、生き腐れて侵され蝕まれた、その刻を。

※第２２６話 ＜ホスゲンオキシム/ＣＸ ｇａｓ＞

それでもなお。

その、青龍の力が。

対抗しようもなく原理すら理解できない。

殺すだけではすませない永遠の呪い。

それが。

帝国軍に、常に向けられている。

それと知ってなお。

永劫の汚辱を約束されてなお。

闘い続けることに疑問を持たない。

帝国兵は頭がおかしいとしか思えない。

それに疑問を持たない、青龍もね。

敵がそこに居る。

以上終わり。

帝国兵を熟知しているからこそ。

青龍の貴族は、それは訊ねようとしない。

興味すら抱いてないわ。

圧倒的強者に蹂躙されてなお、戦わないなんて思いつかない赤龍。

圧倒的弱者を蹂躙しながら、なお挑まれ続けることに疑問を抱かない青龍。

おかしいのは、両方、っていうべき？

龍と名が付く連中は、複雑怪奇。

判るけれども解らない。

怖ろしいから、遠ざけたい赤。

畏ろしいから、近づきたい青。

愛する男のことが、もし、仮に、万が一、それはないから、彼のことを抜きに敢えて考えてみる。

やっぱり、あたしは青龍に興味がわいたでしょうね。

だからこそ。

青龍の貴族が疑問を持つことには答えない。

疑問、っていうより、不思議がってる？

疑問なら、問答無用で応えさせるものね。

あたし自身、それなら答えないではいられない。

不思議程度のことだから、答えが無くても受け流しているけれど。

【国際連合統治軍第１３集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】

俺は道行く商人たちから視線をそらしながら、と思った。

これからどーすんだろ。

いや、ところどころで展開されるスプラッタじゃなくて。

これからどうやって暮らしていくのかな、と。

とりあえず先送り。

俺の足元で眼を細めている二人。

シスターズの、ちびっ子。

ちびっ子だけなら、頭目の娘さんもいるが。

もっと小さいからな。

ちみっ子と呼ぼう。

太守領港街にも十人前後いたね。

十歳前後の、シスターズの、とくに魔女っ子のお友達。

フレンズと呼ばれてるらしいが。

今いないが。

いまいる、ちびっ子。

故にシスターズの、と注釈。

魔女っ子。

お嬢。

そこからだと互いを見つめるか、俺を見上げるしかないが。

だがしかし。

せっかくの、お出かけ。

窓外の風景を楽しませたい。

が、まあ、周りが収容所だからな～。

あ、収容じゃないか。

保管ね、国際連合公式認識は人状接収物一時保管所、だったね。

外はあれだが。

ランドクルーザーの中。

居心地は悪くない、か？

土足なんですがそれは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異世界標準。

あんまり使われない特別車両。

帝国軍捕虜は特段の事情が無い限り、騎乗が許されているからね。

騎兵でなくても将校は騎乗する。

それが帝国の軍制。

とはいえ、俺は土足。

車室のカーペットは室内とは違う。

そこにペタンと座っている、まあ体は俺の脚から膝に乗せているが、な二人。

ドレスというかローブというか、着飾っている。

仮に服を考えなくても、汚れが心配です。

ちびっ子たち自身も土足だしね。

靴を脱ぐ習慣は無いからな。

ここの駐屯地では玄関で脱がせていたけれど。

けっこうはしゃいでいた。

こちらは異世界文化不干渉政策に抵触しないか、後から気が付いて心配だったんだが。

土足上等な世界だしね。

いや、裸足が標準か。

村人街人の大半は裸足。

旅に出る時だけ、木靴か藁靴を履く。

まあ普通、旅にでるのは一生に一度以下だか。

俺の任地、太守領は例外。

穀倉地帯であり、毎年の収穫量が多い。

北国であり、収穫期が年一回に集中。

孤立した地勢で、他邦から運送業者を呼べない。

だから年貢の輸送は、領民が行う。

長距離を歩く、しかも荷車を押して。

それに耐えるほど足の皮が丈夫じゃないわけで。

ゆえに年一回使う木靴が普及。

農村部という大市場。

総人口の９割以上。

規模の利益が適用され、単価も安い。

自給自足が基本の村々。

靴は外部に求めることが多い。

ゆえに職人内で靴関係の者も多い。

旧王国時代は、年貢の輸送は海外市場への出荷を兼ねていたとか。

太守領。

俺たちが居座っている穀倉地帯。

生産余力がある、数少ない地域。

そこでは商品経済が末端まで浸透しているわけだ。

では、ここは？

聖都周辺は？