プレパレード/PreParade
正直な話、ですか。
わかりました。
攻める側で良かったです。
そう。
攻められてたら、負けてます。
大統領が言ったでしょう。
「自分が指揮を執っていたら、東京は帝国旗がはためいている」
でしたか。ごもっとも。
自分は練馬からですが、仮に東京に帝国軍が千ばかり奇襲をかけてきたら。
ま、我々に都合よくも幸いして、その程度の数だったら。
1日かな。
出くわしたら瞬殺です。
ええ。事前に勉強されたんですね。
高校生でもわかり・・・学生さん?
失礼しました。
そう。
自衛隊が、自分ら自衛官が瞬殺です。
近代兵器ですか。
槍と剣が羨ましいですね。
棍棒の方がマシかな?
弾が無いですから。
近代兵器は百発百中を狙うもんじゃありません。バラまくものです。
武器庫破って戦って。
民間人ばかりで守りに回れない。
都市部なら簡単に距離を詰められる。
痛いのは、見通しが効かないので、銃の威力があちらに伝わりにくい。
富士の演習場なら、一割を戦闘不能にするだけで、残りは動けなくなるかもしれません。
はは。
自分なら最初の弾倉を捨てる前に帝国兵から奪いますよ。
班員分の剣を。
ああ、唯一可能性があるとすれば、民間人を囮に逃げる事です。
戦力を温存し、米軍基地で再装備すれば、戦えるかな。
蹂躙される以外の可能性は、これしか。
コイツ、M-14をみればおわかりの通り。
自分らは歴史になった冷戦の遺物、真面目に世界大戦を準備していたころの残りもので戦ってるんですから。
残ってたのは、処分予算がなかったからでしょうね。
でも、維持の予算は出ていたんですから幸いでした。
大尉殿は
「新しい予算をつけるのは難しい。古い予算を外すのは不可能に近い」
と言ってましたが、はは。
しかも、真面目に人類滅亡させてでも戦う覚悟をしていた時代の産物は頼りになります。
弾だけ貰っても、耐久試験スルーした銃身はごめんです。
戦車?
砲弾がないですし、市街地で撃つわけには、いやいや、北海道の原野に敵が来てくれると嬉しいですね。
装甲車なら使い道があります。
ヘリ?
共食い整備のコブラは、ま、捨てるとして。
ああ、偵察も無理ですね。市民と紛れ市街地を走り回る敵ですから、はは、まあお察しください。
空自ですか。
海自と合わせて後続を断てるでしょうから、まったく無意味じゃありません。
敵は日本にいる限り補給必要ないですが。
食料はいくらでも調達できるし。
刀剣の磨耗を待ちますか。
帝国軍は刀鍛冶が随伴してますけど。
特段、日本の防衛がどうのって話じゃないですよ。
普段から全面戦争に備えてる国、社会が21世紀にあるかと言えば・・・平和な国にはありません。
米国は戦時中ですよ、常に。
あなたが「対応出来る」と考えた国をよーくみれば、みんな戦時中でしょう?
日本は普通に平和だった、だけです。
「異世界に転移するかもしれないから、全面戦争に必要な弾薬を蓄えておけ」
なんて言う奴がいたら病院に送ってあたりまえですから。
日本は、いや、平和な国は国内に侵入されたら、負けです。
最後に立っているとか、そんな話じゃない。
負け、です。
相手を倒せば勝ち、なんて子供の理屈はちょっと。
国連軍は守るものが無いから最強なんです。
それが解っているから、我々は現地の人々と親しくしない。
親しくさせない。
我々と付き合っても無意味だと知って欲しい。
街に敵が一人、混じっているかもしれないなら。
街ごと吹き飛ばす。
大抵は、怯えさせ、吊させますからそこまで行きませんが。
自白剤まで使って確認しますしね。
国連軍の戦い方はそんなものです。
そこまでいったら?
恨まれる?
生き残りがいれば、恨むかもしれませんね。
活動範囲が狭い時代、感謝すべきなんでしょう。
愛されるな。
憎まれるな。
畏れられよ。
護れないから。
皆殺しにするから。
近づかないでくれ。
そう、理解してますよ。
《インタビュー05with国連軍出向中自衛官》
【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】
俺は3Dプロジェクターを指しながらある情報が抜けている事に気がついた。
ソレを確認する前に概況をチェック。
五つの点。
隊列先頭よりに位置し、今回のメインである。
見えやすいように、間隔を空ける。
更に前方側方から中心に高くしたい所だ。
5人のハーフエルフ。
見比べた。
極端ではないが、差はある。いや、水平差ではなく、高低差だよ?
あとはなるべく、影に入らないようにすればいい。
パパッと配置を決める。
取りあえず、白朱翠蒼橙で入力。
うむ。
俺の作戦は完璧だ。
ほれぼれしちゃうね。当たり障りのない作業計画、もとい、作戦を書かせたら日本でベスト10を狙えるよ。
夜なべした甲斐があった。
え?実行?指揮?大丈夫。曹長がいる。
元カノだって戦闘中は、戦闘中だけは、「あ゛?」タヨリニシテマスヨ。
後は簡単な指示。曹長との打ち合わせは昨夜のうちに終わってるし。
しかし。
これでは中心になる一人一人の配置が指示出来ない。
一番肝心な所が作戦開始10分前にわかってない。
昨日聞くべきだったが、いや、初対面で聞くべきところだな。
仕方ない。
改めて聞くのは、違和感が、うーん、まあ、よし。
「名前は」
「「「「「ありません」」」」」
全員同じ名前か。ん?名字かな?
「名字は」
「「「「「氏族もありません」」」」」
撃てば響くように答えるね。
そういえば、なんか、俺から目を離さないようにしてる?
まあ、ともかく名前名前。
アリマセン・アリマセン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「バカ」
ん?
いやまあ、名字なんてあったらどこの没落貴族かという話か。
中世準拠なら。
「ちがう」
地球のそれと似てるようで違うから、気をつけないと、だが。
「固有名詞なら翻訳されるわけないでしょ!音だけじゃなく意味が解ったなら」
あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・元カノにつっこまれるとは。
アリマセン=有りません、ね。
ハーフエルフの娘たち。その言葉、音の響きとは別に、意味がするっと入り込んできた。
確かに、固有名詞ならそうはならない。
ただ音が聞こえるだけだ。
たとえ言語化、聞き取りできなくても、あそれで名詞と固有名詞を区別する。
口で言うより難しいんだコレ。
魔女っ娘がハーフエルフの一人、白髪の指先をつついた。
しっかりものの妹と気弱な姉?
「あ、あの、名前を、その、いただけませんか」
白さん?
俺が???
名前がないのか、と、また聞きそうになった。
いかんいかん。
怪訝そうな俺に気がついたお嬢の目を見て、朱髪も続く。
「皆、はじめて、ご主人様に仕えるので・・・・・・・・・・・・・・・・・・その、初めてをいただければ」
こちらは賢い妹に手綱をとられる強気な姉かな。
「も、もちろん、ご主人様が、その、お望みなら、名前なしでも・・・・・・・・・・・・」
翠髪が言いよどむ。蒼と橙が頷いた。
エルフっ子が言い足す。見かねたか、すまん。
「生涯一人の主を持つ奴隷が大半。だけど・・・・・・・・・・・・・・・愛玩奴隷は複数の主を転々とするのよ」
【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間/青龍の前】
あたしは当たり障りなく説明した。
奴隷には二種類ある。
概ね、だけど。
労働用と愛玩用。
労働奴隷は数ヶ月居着けば一生もの。
家風や仕事に馴染み、奴隷仲間や主人との関係が出来る。
蓄積された経験を捨てるのも、再度訓練し直すのもバカバカしい。
だから、売らないし買わない。
中古は市場にも余りでない。
稀にあっても、転売するときは主人同士が付き合いがある、移しやすい場所で個別にやりとりされる。
破産競売で流れる場合でさえも競売人が奴隷商人と一緒に類似した、出来れば見知った環境を探す。
そうじゃなければ、買いたたかれて手間賃すら出ない。
愛玩奴隷はそれに比べれば、頻繁にやりとりされる。
絶対数は少ないけれど、市場にも出やすい。
なぜかといえば、要は飽きられるから。
下取りは若いうちにしかできない。
だから、回転は早い。
10年以内に複数の主人を経て、最後は労働奴隷に落ち着くことが多い。
ちなみに娼婦にはならない。
娼婦は使い捨て。
貧民が幾らでもいるのだから、奴隷は高くてコストが合わない。
愛玩奴隷最高級品の場合。
比較的家を変える事が少なく、教養が有るために家政を補佐する事になる事が多い。
それでも、一度以上は主を変えるだろうけど。
この子たちはそんなところ。
名前に話を戻せば、名付けは主人、奴隷商から最初に買った人間がつける。
愛玩用でも労働用でも、そこは同じ。
労働奴隷は同じ家、似た環境で一生過ごす。
別な主人に譲られても、見知った相手が多い。
それなら名前が一つの方が効率的よね。
だから労働奴隷の名前は生涯変わらないことが多いわけ。
でも、愛玩奴隷は逆。
主人はおろか住む場所まで大きく変わる。
前の主人の関係者には売られない。
床の中を近所に知られて嬉しい訳がない。
出来るだけ遠くに売られる。
彼女たちが語学を仕込まれるのはそれを見越しているから。
【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】
俺はようやっと理解終了。
愛玩奴隷は主人を変えるたびに名を変える。
まあ、想像するに、前の男から与えられた物をチラつかされたらイヤだ、とか?
この子らはそういうことなわけか。
ってか、生まれた時の名前は・・・・・・・・・・あーそうか、個々人に名前を付けない。
そんなの、地球でも古代ならよくあるな。
家名を女性形にして~~家の娘、息子。
複数いれば大小をつけて、それが公式記録にも残る。
よくあるよくある。
実際、親しいもの同士なら、愛称で済むし、名前なんかどうでもいいんだな。
なら、対策も簡単。
【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間/青龍の前】
あたしは確信したまま話を流した。
青龍の貴族は、相変わらずね。
わかって、ない。
この娘たちは、最初から奴隷にするために孕まれたのだ。
名前を付けらるわけがない。
彼女たち。
稀に生まれるハーフエルフが、たまたま殺される前に、奴隷商人の手に渡った――――――――――訳がない。
『品薄』なエルフの奴隷。
エルフは帝国の政策で数が少ない。
だが、種族特性から使い道が多い。
わざわざ愛玩用にするのは王侯貴族委でもないとできない贅沢だ。
だからこそ、需要はある。
だが、エルフのつがいを用意するのは至難の業だ。
不可能と言っていい。
だから成立する――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――育種家。
エルフの代替としてのハーフエルフ。
容姿以外に特徴がない。
だから愛玩用には申し分がない。
だが、ハーフエルフは子供を産まない。
迫害を潜り抜け、自然に暮らすハーフエルフなどいない。
だから作る。
母体と種を用意して。
安全で手間暇をかけた苗床で。
産まれるまえから、奴隷として創り出された彼女たち。
生れ落ちると同時に選別され、訓練され、愛玩物として磨きをかけられる。
それがいけないと言う気もない。
あたしが関わることでもない。
でも、青龍に知らせたくない。
青龍は合理的だ。
無駄すらおそれずに効率よく目的に邁進する。
青龍は感覚的だ。
忌避した瞬間に何もかもがソレを根絶する為に向けられる。
青龍。
殺し殺されることに無感覚。
得ること失うことに無関心。
侮辱する、されることに過敏。
青龍の貴族。
彼がソレを知ったらどう感じるだろう?
それをどうするだろうか。
青龍の貴族は5人を並ばせた。
「白」
「朱」
「翠」
「蒼」
「橙」
ひとりひとり、その前に立ち、名を呼んだ。
名?
それ、名前なの?
「生き方が決まったら、自分に自分で名前をつけろ」
ひとりひとりに、そう告げる。
「このベレーがおまえの証だ」
ひとりひとり、青い帽子を被せて告げる。
「ではその形で労働契約書を作成しておきます」
青龍の僧侶が、青龍の貴族が告げた言葉を裏付ける。
名前?
生き方?
青龍の記章?
この娘たちを青龍の貴族が、ううん、青龍の世界がのみこんだ瞬間だった。
【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/奥の間】
俺はなんとか説明出来た。坊さんが介入するとは。
まあ、よく考えたら、そうだな。
作戦立てるだけの俺より、雇用関係まとめる坊さんの方が、名無しじゃ困る。
まあ、よかった。
坊さんがノって来たってことは、法的瑕疵ははないな。
幼名みたいなもんだ。
ほら、竹千代とかそーいうやつ。
昔の人はえらかった。
時代背景的に馴染む。
まあ、この子たちは元服、女の子の場合なんだっけ?、の年齢だが。
多少(十代中頃から老衰死去直前まで)のズレは大丈夫!多分?
理屈はばっちり。地球ってか、日本の理屈だけどね。
本来、名付け、名前を決める、つまり命名権は本人にある。
保護者はただ代行しただけ。
マヌケな名前をつけられた気の毒な人は改名出来る。
その法律的な根拠がこれ。
「マジですか!」
喰い付くハナコ三尉。
いや、親の命名がまったく無効って訳じゃないからな?法的に正式な代理人の決定は、本人を拘束するから。
でなきゃ代行なんて成り立たないし、責任能力が無い人間に責任を被せる羽目になる。
それじゃ世の中が、成り立たない。
改名はそれなりの理由がね?
「やった!!!!!!!!!!」
聴いてる?本名聞いていい?
「ゼッタイヤ!!!」
まあいいか。
ま、そんな俺たちの理屈。
俺の都合にぴったり。
名前なしでは困る。
現地の習慣を尊重するなら、俺が名付けなきゃいけない。
ハナコ三尉を見るだけで、それがどんなに重い重い重い責任かわかる。
あーヤダヤダ。
いえ、違いますよ?
単に俺、つまり地球人センスで命名した場合、この子達が危険でしょう?
なにしろ、敵地。
とにかく、戦争中。
終わりも平和も見えてない。
俺たちが、ずっと守れる保障はない。
彼女たちが将来、国連管轄下に居られなくなるかもしれない。
地球風の名前。
日本風の響き。
現地で違和感がある単語。
それが死刑判決になる場合もある。
偽名を使っても、事実は内心を脅かす。
ならば、名前という武器は、本人に持たせるべき。
証明終わり。
「誰に言ってんのよ?」
俺に。
【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/上層階】
「副長」
「問題ない。副長」
褐色の老人に応える白いローブのエルフ。
「まるで自分が背嚢の中にいるようだ」
HMDを外したエルフ。
「ならばヘルメットなら」
「その場にいるのと同じだ」
ニヤリと笑う白と黒。
「切り替えを続けると、まるで自分が全員になったように感じる」
素晴らしい!と両手を広げた老人。
「その間の指揮はお任せする」
エルフが一礼。
「年長者が頭を下げるものではない」
老人が答礼。
「習慣でね」
「では、国連決議違反はこちらか!ハハッ」
「主は気にされないさ」
笑いあう。
「貴殿の目をこちらで感じる事が出来れば」
もっと効率的に大量に。
「百万人とて夢ではないな」
老人はあくまでも見果てぬ夢として言葉にしたのだが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙考するエルフ。老人が仕草で部下たちに指示したのは、沈黙。
「おい」
エルフの一声に、20名の魔法使いから一人、人間の少年が進み出た。
「聴いたな」
「黒副のご提案ならば」
エルフが手をふる。少年は一礼。
「3日間」
老人はエルフに頷いた。仕草をうけ、部下達が報告再開。
「調整よし!」
「両副長」
マレーシア国章を付けた下士官が二人に敬礼。
「顔認証は問題ありません。抽出のソフト化を完了」
背後で3Dモニターが分割され、映し出された顔が次々と切り替わる。
「フィルタリングはほとんど人手によります」
まだ。
モニター前にしつらえた安楽椅子。
若い兵士が真剣に椅子を調整し最適位置を探っている。
「調整は5分以内」
下士官が声をかけた。
本番前に目が疲れたら意味がない。
技術担当でも兵士の声は威圧的だ。
「不安かな」
老人が皆に声をかけた。
不安は押し殺すのではない、解消してこその軍だ。
老人は当たり前にそう考える。
「基礎データが地球準拠で、こちらの情報が少なすぎます」
言い切る下士官。
「安心したまえ」
笑い出しそうな老人。
「敵意と憎悪、とりわけ恐怖の目は多世界共通だ」
多くの実物で確認した。事実だけが持つ説得力。
「地球人だけに限っても、自分ほど『確かめた』者はおるまいよ」
ウィンクした。笑みが広がる。引きつった笑いも混じるが。
「さすがだな」
エルフは頷いた。
「まあ経験だ。いずれ全てが機械化される」
その為に準備作業そのものが記録されている。
わざとカメラに映るように作業し、必要以上に声に出して確認する。
言葉は選び、発音を明確に。
「老兵は消えたように見えて永遠だ」
現合衆国大統領なら、祖父の経験から反発するかもしれない。
だが、と老人は思う。
それは不運だと。
偉大なる独裁者。
選挙に勝つ為だけに憲法以下あらゆる法を無視し。
彼を権力の座に押し上げた大恩あるニューディーラー達を放逐。
政策担当者不在で破綻した経済を粉塗する為に世界大戦を引き起こし。
何も得られなかった戦争、犬死にと孤児と未亡人の大河を、正義(狂気)で飾り立てた凶人。
その後を継いだのが、席合わせだけのトルーマン。
しかも何故か『落選確定』と報じられた後に『奇跡』の再選。
確かに、他の誰かが当選したら、大変だったろう。
その後、永く永く合衆国を支配する階層や、家族の恨みを狂気で癒やしている愚物共。
いや、真面目なだけの軍人には、悪夢だ。
くたばった凶人がその場しのぎで作り上げた利権構造に寄りかかる寄生虫。
被害者が惨めな自分から目を逸らすためにキメた正義。
盗賊と廃人がクーデターを成功させるとは!
消え去るしかない。
ただ居るだけで道化以下だから。
政治家に恵まれない軍人は最初から終わっている。
だが、老人の友人は違う。
独裁者の資質こそまるでないが、将来に責任を持てる男だと疑っていない。
だから、引き継がねば。老人の貴重な経験と技術を。
正面戦闘なら米軍に譲る。
だが、内側にはびこる『敵』を狩り出し殲滅するなら、戦略予備軍にかなう者はいない。
老人はその中で最高のスペシャリストだ。
むろん、数十万程度で満足はしていない。
だが、人類史に燦然と輝く功績に、邪気のない自尊自負がにじみ出るのは仕方がないのではないだろうか?
別分野の専門家が、繰り返し繰り返し確認する。
その負担を減らす為に、余裕があるものが配慮しなければならない。
必ず上手くいく。
そうなれば?
「一千万人も夢ではないな」
老人は未来に備えなければならない。
恥ずかしい過去を繰り返してはならない。
そう確信している。
〈たった数十万人しか〉
という残念な気持ちを、若者に引き継ぐわけにはいかない、と。
先達たる身は若い世代をいつまでも導く、導けるからこそ先達なのだ。
老人は疑わない。
彼の人生がそれを証明しているのだから。
≪イリョウハン整いました≫
「インカムを使え!!!!!馬鹿者!!!!!!意志共有の齟齬で作戦が失敗する!!!!!後刻出頭!!!!!」
エルフが怒鳴り散らした。
魔法での意思伝達は基本的に禁止だ。
黒旗団全員で連絡系統をそろえる為に。
一つの生物のように戦うために。
「作戦前に齟齬が判って良かった」
老人は少年にしか見えない年長者の肩を叩いた。
「訓練で染み付いた動きはなかなか抜けないからな」
気が短かった故国の友人を思い出した老人。
「作戦開始後なら」
「「斬る/撃つ」」
二人は笑い合う。
「医療班稼働」
エルフは何かを思いついた。
「医療班送りでもいいか」
『お赦しください!!!!!副長方』
女の悲鳴がインカムから響く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・団長預かりとする」
「役目を果たしなさい」
『ハ!』
安堵した声が途切れた。
「死刑なら一瞬だがな」
エルフが吐き捨てた。
主が舐められている、とは見えない。
見えたら殺している。
だが、臣下たる自分たちに、団長への甘えが見える。
「団長に任せなさい」
老人は諭した。
団長案件なら死刑か余暇返上。
今なら対魔法戦か術魔複合戦訓練につき合わされるぐらいか。
限界確認のサンプリングの為に倒れるまで行う。
繰り返し繰り返し。
倒れるまで。
倒れたら蹴り起こし、繰り返し繰り返し。
老人は年若い上官の、感情任せの采配を信用していた。
戦闘中なら殴るか殺す。
それ以外の時は余暇を取り上げ、訓練か作業。
部隊配置後の兵には適切だ。
老人は残念に思う。
若い頃、自分はそのあたりのさじ加減を区別してなかったな、と。
戦闘中かそれ以外。
新兵か熟練兵。
味方にふるわれた力を敵の可能性が高い連中に向けるべきだった。
そうすれば、自分の分だけでも100人は積み増せたかも。
――――――――――いや、やめよう。
老人は思った。
100の命は大切だが、今から殺せる訳ではない。
明日からだ。
老いた身で在ればこそ、明日を見据えて今日を過ごさねば。
「作業完了」
エルフが老人に告げた。もの思いに耽りながら、まったく手を止めなかった老人。
「確認。作業完了」
「確認」
副長二人。
互いに伝え、互いに確認。
指揮系索敵系完成。
発起地点に展開完了。
作戦阻害要素確認影響軽微。
エルフがインカムを切り替えた。
「作戦準備完了」
『よろしい』
普段から必要な単語しか使わない。
これも変化だ。
人間を軍馬軍犬にする時代は、装飾と儀礼で兵をしつけた。
これからは違う。
人間を部品にするために、あらゆる装飾を剥ぎ取る。
ソレこそが、軍であるべきだ。
「団長、お言葉を」
『アタシだ』
しかし、潤いは必要だ。潤滑油と言うではないか。
『全員、作戦開始』
総員起立。
『戦って死ね』
歓声。
【太守府/港湾都市/奴隷市場の館/出入り口】
俺は何も聞きませんでした。
聴こえませんでした。
なんちゅーか、近代軍隊の号令におもえないストレートすぎる何かなんてなかった。
さあ、出発だ。
振り返ると、当然のようにエルフっ子がいた。
シスターズ、揃い踏み。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・君たちはお留守ば
「「「まいりましょう」」」
うん。
お出かけじゃないんだよ?
危ないかもしれないからね?
「「「まいりましょう」」」
・・・・・・・・・・・・・おしゃれした女の子を閉じ込める方法は無いよね。
ニヤニヤ神父。
「Let’s go!GunParade!!」




