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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十章「異世界の車窓から」

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十二歳児は電気羊の夢を見るか?

【用語】


『仮名』:将校姿で異世界転移後の国際連合武力制裁活動に暗躍する正体不明の人々。既出の限りすべて女性で、地位に比べると若い。仮名として名乗る名前は歴史上の戦争で、悪名高い軍人の名前ばかり。


既出の仮名。


メンゲレ大尉:第13集積地軍医。合衆国太平洋軍所属で異種交配計画のプランナー。

ツジ参謀:軍事参謀委員会所属。動物行動学者として意見を述べる事あり。

○メシ○三尉:国際連合軍独立教導旅団所属。異種交配計画のアジテーター。



(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・SEISYOKUSYA?)


メンゲレ大尉。


年齢不詳のブロンド美人。

外見だけなら異世界人と全く変わらない。


ゆえにこそ、捕虜尋問のエキスパートだったりする。

化学薬品は導入部分での演出、心理的な仕掛けが重要なのだ。


尋問官が自分と同じ常識を持っているかいないか。

それを曖昧にして不安をあおり、誤解させて出鼻をくじく。


簡単な仕掛けで第一印象を操作。

異世界人/地球人どちらにもなりすませる。


黒髪黒瞳ではこうはいかない。


だからこそ第13集積地に派遣された。

捕虜による捕虜の管理という実験をする為に。


黒髪黒瞳が檻の役目。

金髪碧眼が綱の役目。


その仮名の大尉は頸をかしげている。


仕事を離れた、年相応普段着姿の会話。

それでも仕事の話になってしまうのは、仕事と趣味が一致しているからだろう。

軍医、医師、医学者にして学究の徒。


それがつまりは、彼女の素。


「・・・・・性別のセイに職業のショク・・・・・・・・・(モノ)とかいてシャ」


会話の相手は微に入り細に入り説明しているらしい。



「それ、アムネスティの売春合法化計画のこと?ちがうの?(くだん)のアレ?」


(くだん)、という言い回しは知っていても、日本語に堪能でも、まったく日本人と同じというわけにはいかない。


メンゲレ大尉が今直接工作している、例のファミリーのこと、らしいのは判る。


当事者の意識していない男女関係。

当事者の意識していない合意関係。


それを周りに植え付けて、囲い込み、本人たちに浸透させている最中。

環境、とりわけ他者から独立し得ない自我への、最も暴力的な介入。


女の子から女の娘へ。

認識操作。


というような心理学的アプローチを、通話の相手は聴いてない?


「宗教的アプローチ?専門家から聞いた?あのBuddhist、え、アレ、カトリックじゃないから!絶対に違うから!!!!!」


日本人との一致度の話ではないかもしれないが。


「宗教的なアプローチで光明が見えた?宵明けにみえてない?ルシファー(明星)じゃなくて??まったく罰当たりなことね」


罰は知っていても以下略。


「だーれが無神論よ。宗教に向き合ったことが無いのに、無を見出せるわけないでしょーが。あんたなんか、ただの不信心ものだから」


そのあたりは現代日本人や外国人より詳しい。

日本人は宗教観を見出せずに右往左往しているだけだが。


「例えばアンタ、親が死んだあと、その死体をごみに捨てられる?」


明治による新興宗教とその崩壊で連続性を失った日本の宗教文化。

それを理解させるためによく使われるレトリック。

教育にとりかかったらしい。


「あ、棄てるの」


相手が悪かった。

自分の両親を生きているうちから切り刻んで生ゴミと一緒に捨てたい気持ちでいっぱいな女が相手である。


生ゴミ呼ばわりは燃えるゴミに失礼か?

とか。

廃棄手数料を払わないと清掃業者さんに迷惑か?

ぐらいにしか考えない。


「そこまで聞かせてくれなくていいから」


普段は忘れてるくせに、ときおり父や母を思い出すと石子詰め、過去の残虐刑の一種だが早めの埋葬と言えばわかりやすい、をしたくてたまらなくなる相手である。


「ならなら、団長さんは?戦死したら死体を棄てとく?他の死体と一緒に埋めるか焼く?」


話が進んだようである。


「でしょう?それが信仰よ」


無意味な事物に対する畏敬や崇拝。


死に意味はなく、死体にも価値は無い。

単なる現象であり、人の形をした肉だ。


科学的には。


愛した人の死は、リンゴが木から落ちたことと同じだろうか。

その死体は、肉だろうか。


間違いない。

同じであり、肉だ。

断言できる。


そう感じられないだけだ。

つまりそれを信仰と言い、宗教と呼ぶ。


ゆえにこそ、そう感じられるようにする、ことも可能だが。

それは言わないメンゲレ大尉。


「それで?宗教的アプローチっていうのは?」


やっと本題。

私的な雑談と変わらない。


「こっちがIrishだって知ってる?」


仮名のチョイスのわりにドイツ系、中欧東欧系ではない。

ドナウより先、いわゆる非ヨーロッパとは無関係である。


合衆国東部上流階級には、少なからずアイルランド系カトリックがいる。

ケネディ一族などが有名だろう。


ドーバーより先も非ヨーロッパなのだが。

なお欧州で文明圏とされるのはローマ帝国の版図を基本とする。


「医学的にはそうだけどね?性的抑圧が聖職者の逸脱を生んでいるっていうのは認めるけどね」


逸脱。

穏便な表現。

全盛期カトリックなら普通に火炙り。


教会法適用案件。

それは米軍の統一軍法より厳しい。

疑わしきは火炙り。

たまに(はりつけ)



面白くはない。

バチカン上層部が蓋をしたように、無視したりはしないけれど。

医者として。


「たいちょーの逸脱も近いって、それは、そうかもしれないけどね!」


まったく関係ないかもしれない雑談だが、聖職者、すなわち人間の性欲を過度に抑圧すると小児性愛者など動物として正常でない欲求開放が行われる可能性が、あくまでも可能性が高くなることは確かである。

もちろん、健全な成人男子とゼロ距離以上に密着している10歳児や12歳児や十代半ば程度の少女たちがいることを国際連合が観察していることは全く関係ないと国際連合安全保障理事会は明言するだろう。


「悟る危険性もある?それ危険性、いや、ダメだけど、そーいう言い方でいいのかコラ」


悟りとは執着からの解放。

執着とは愛も性も含まれる。


実際、強い抑圧に寄りすべてを捨て去ろうとするのは上座部仏教ではよくあることだったりする。


それは国連安全保障理事会(じんるいのそうい)によって禁止されているのだが。

いえ、あくまでも特定個人に対して、ですが。


「と・に・か・く!明日ね、その話は!!!!」




《国際連合軍事参謀委員会一部局が取集して正規の指揮系統には乗らなかった監視記録》




【国際連合統治軍第13集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】


ちびっこ二人。


体を俺の膝にもたれさせて。

自動車は異世界の馬車と違って、サスペンションが効いている。

床を特注カーペット。


ランドクルーザーとは違わないのだよ。

だが、特注品なのだよ。


何の為に誰が、とは聞いてないけど。

おそらくたぶん、各地で手配されてるんだろうな。

帝国軍の捕虜がいる施設では。


彼等は部隊単位で投降するケースが多いからね。

騎士や貴族が兵士についていることが多い。


緒戦ではそうでもなかったが、開戦から一ヶ月ぐらいでそれが定着。


そうなると、待遇も分けないといけないわけです。

士官と兵は明示して差別するのが軍隊の習わし。

同じ釜の飯など食べさせてはいけない。


絶対に。


仲間?

家族?

兄弟?


そんな間抜けなことを言うやつは、銃殺です。


死ねと命じる。

無言で見棄てる。

義務として処刑する。


そんな心温まる関係で戦争している。

そんな関係でなければ戦争にならない。


素人がモウソウする間抜けな関係。

互いが互いを尊重する同志的紐帯。


ねーよ。


そのあたりは実戦経験が無い自衛官でもわかる。

教育されてるってのもあるが、むしろ実感でね。


それもアレ。

異様な気もしないでもない。


ただの一般人。

つまり俺。


それが将校として教育を、まあ適当に受けて、かるーい気持ちで部隊に配属される。


しかも事務職。

戦闘なんて想定外。

訓練はするけれどな。


たったそれだけで判る。

解ってしまう。


曹長のようなベテラン下士官に言わせれば、判らなければ放り出すのだそうな。


そこはそれ。

世界中の軍隊共通。

無能な味方の処方箋。


判ること。


仲間?

戦友?

同胞?


そんな感覚で殺し合いに行ってはならない。



全滅するだけだけだ。

勝っても負けても、たぶん負けるが、いずれにせよ。

死ぬ。


何の役にも立たない無駄死にで。

いや味方殺しの利敵分子として。

敵に殺られるまえに見方が殺す。


それさえわかれば無力ではあっても無能にはならない。

だから曹長たちから見て、将校としてはそれで十分。


だってさ。



いわゆる著名な準軍事組織。


国家社会主義ドイツ労働者党武装親衛隊。

彼らが精強でありながら犠牲を山ほど出した理由。

とあるアレな奴が言いました。


戦争が下手だから?


いやいやいやいや。

答えになってない。


なら何で戦果が上がったのか、って話。


もちろん、同じ場所で戦果を挙げられなかった連中は、あげつらったけどね。

もちろん、その連中の書き残した怨嗟を資料扱いする奴は、まんま信じたけど。


考えないとこうなる。


プロイセン参謀本部、半世襲試験官僚集団。

敗戦の常習犯にして国が滅びても自分たちだけは生き残る輩。


それを見本にした国がありましたね。


どこの大帝国とは言いませんが。

今に至るもそれは生きてますが。


ともあれそんなアレの結論を考慮出来るわけがない。

義務教育以上の常識があれば。



つまりそれ。

戦果が上がったのは戦争が巧かったから。

犠牲が多かったのは軍隊ではなかったからだ。


仲間同士が思いやり庇いあい助け合ったりしたからだ。


純軍事組織、ね。

彼らがどんな結末を迎えたか。

皆さんご存知だ。


みんなで仲良く地獄(はいぼく)行。


それだけが原因ではないだろう。

それは大きな原因だ。



では、自衛隊は?


軍隊ではない。

純軍事組織ではない。

軍事組織だ。


仲間など存在しない。

してはならない。

根絶せねば。


だからこそ、隊員と馴染もうとする馬鹿な士官がいれば、放逐される。

有事であれば、現世から。

今有事。


悲しくないけど戦争なのよね。

部活や同好会じゃねーんだよ。


俺でさえそう。

だからこその特別車両。


敵味方問わず、士官以上を載せるため。

味方に限定して、特別に扱うべき人物を載せるため。


とはいえランドクルーザーの特別版。

足元に居るために造られてはいない。


そこにはまり込んでる、ちびっ子二人。


8人掛けに10人ぶち込んでるからね。

ちっちゃい二人が割を食う。


サスペンションが無い馬車なら死ねる場所。

サスペンションがあるランドクルーザーでもどうなのか。


保護者(エルフっ子)の視線が険しいのはそのせいか?


ちびっこ二人は俺の膝に爪。

絶対に移動しない離れない。

態度ではっきり、自己主張。


つまり、俺に、決めろと。

俺の好きにしていいぞ、と。

文句を言ったりしないぞ、と。


恐ろしい子!





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