支配の形/Trick Shot .
【登場人物/三人称】
地球側呼称《幹事長/三佐のオヤジ/オヤジ様》
現地側呼称《青龍の宰相》
?歳/男性
:衆議院議員。連立与党第一党幹事長。与党合同選挙対策委員会代表。世に広く知られた「政界の黒幕」、知らぬ者が居ない「影の宰相」。娘と違って役職は三つだけ。米中を中心とした各国、複雑多数主張も思想もバラバラな与党連合に少数独自の野党からなる日本議会に影響力を持っている、と言われている。私邸が事実上の安全保障理事会/国連事務局となっており、その運営を司る(国連に役職は無い)。国際連合の実質的軍事指導者である現合衆国大統領とは旧知の間柄。
地球側呼称《カタリベ/歴史家》
現地側呼称《青龍の史家》
?歳/女性
:地球側の政治指導者が定めた役割。すべての情報へのアクセスを許可されており、発表を禁止されている代わりにどんな情報も入手可能。軍政部隊に同行しているのはジャーナリスト志望の大学生。
【用語】
『野党』:作品世界における連合与党に対抗する単一政党。転移時点の党執行部/主流は党内左派。異世界転移後、リベラル系与党連合と大連立、挙国一致内閣を造る。が、第一回閣議で閣内不一致を理由に、野党閣僚が全員罷免。全く選挙準備の無いまま、衆議院が解散。準備完了している与党との選挙戦に入った。これを「騙し討ち解散」と呼ぶ。野党内では責任をとって左派執行部は総退陣。代わって少数派ながら責任追求の急先鋒である、党内極右派が執行部を掌握。左派右派ともに執行部から距離を置き、選挙戦に突入。極右のみで創られた公約が、支持層の離叛を招いた結果、大敗。改選前議席が与野党で3:1であったものが、4:1へ。左派議員はほぼ落選。極右と右派は議席を残したが、執行部から極右は追放され右派が主導権を握る。現在、野党は対異世界戦争推進に反対ではないためにその点への言及は避ける方針。代わりに与党の統制経済を批判し、自由主義経済で論陣をはっている。
野党党首に関して
覚書
・この人物は日本最後の右翼思想家と言われている
・与党の詐術で野党内左右両派閥が壊滅しなければ総裁の地位に就くことはなかっただろう
・右翼団体の多くがそうであるように台湾系半島系の人脈に強い
・与党幹事長が大陸系(大平洋双方)に強いことと好対照をなしている
『連合与党』:作品世界における政権与党。複数政党と複数会派による連立政権。日本の政治にはよくあることだが、政治思想から政策まで左右両派が混在。中心となっているのは国連中心主義/経済統制志向の左派リベラル系。転移前から与党第一党幹事長の指導力だけで成立しているといわれ、その強烈な個性に引きずられている側面を持つ。極端な議会中心主義をとり、首相は「幹事長の操り人形」で「閣僚は衆参両院各委員会の事務処理係」と言うのが世評。転移後の混乱に乗じて各種立法が通過、従来にはあり得なかった議会強化策が実行される。移転前から官僚機構とは真正面から対立しており、連立の中枢議員は逮捕間近とささやかれていた。移転後は国会の会期消滅通年化で議員不逮捕特権に空白が無くなり、在日米軍を背景とした米国など各国の視線が厳しいために宣伝合戦でにらみ合いが続いている。「異世界よりも国内の敵と戦っている」と指摘されるのも故なしとは言えない。だが国際連合を再建し対異世界戦争を開始推進しているのは間違いない。
「公職選挙法改正の目的は何ですか」
言ってみなさい。
「質問してるのは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自衛官を、いや、軍事力を本土に繋ぎ止めておくため」
ほぅ。
「地方選挙を含めれば以前とは比べものにならない頻度で投票することになる。彼らはその都度、日本本土を、自分たちの住居である家やマンション、それががある街や地方を意識する。それは漠然とした国家なぞとは桁違いに強く、完全に一人一人の心理に影響する」
それだけかな。
「最低でも数年、場合によっては帰国することすらできないことを想定した措置です。戦争の、世界一つをまるまる相手取った戦争を、最後まで完遂するための仕掛け。その一つ」
ふむ。
「そして政治家と軍を結び付ける紐帯となる。政治家は、とくに地方政治家は一票一票をおろそかにしないし出来ない。事実、一人一人の隊員に対する働きかけが複数党派からなされている。地方政治家とそれに支えられている中央政治家たちは異世界の有権者を計算し、自衛官たちは否応なく自然に国内から秋波を送られる。国際連合も選挙公報や政見メールは一方通行で情報漏えいになりませんから、妨害しません。貴方たちがこれからなすことを考えたら、軍の、兵士の支持は絶対に必要だ」
巧く考えたモノだ。
「同化政策を推進する貴方たちが外国人参政権を『今回は』見送られたのもそのためでしょう。日本の政治家たちにとって、外国軍が必要だからだ。自国軍と融和した、しかし峻別されるべき武力が」
なるほど。
「法律一つ。あとは誰になにを言うまでもなく、この世の誰一人にも忖度すらされず、みんなが自分の都合を優先するだけで、全てが転がっていく。貴男が望む破壊へ」
それだけかな。
「自衛官を多世界化させずに、日本ローカルな存在に留めること。それは貴男の好みに反するのではありませんか?」
そうかな?
「――――――――――――――――――――違う」
そうだね。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ローカルな存在が物理的に多世界をおおうことになるとすれば」
《インタビュー67/カタリベによる「多世界改造計画」著者への取材より》
【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】
あたしは、それを、忘れ
――――――――――――――――――――られるわけないじゃない。
二人の間に起きた事。
無かったことにできたら苦労はしない。
今更?
毎日毎刻あれだけいいようにされて、弄られてるのに!
いいわよいーわよ。
この肢体と心に刻まれて行こうじゃない。
こんな出会いはあり得ない。
あり得たからにはもういらない。
永久に。
だからいい。
あたしはツいてた。
礼儀を示す必要なんてない。
。
問題はあるけど。
。
。
。
とかとかとか。
だからこそ、今後の教訓にしないとね。
向後生涯、出会う相手は愛と無関係の相手。
だから礼儀を考えましょう。
大切な男、彼に恥をかかせないために。
つまり必須なのは、青龍の儀礼。
それは?
あたしが視る限り、青龍は儀礼を重んじない。
っていうか、無視。
青龍の流儀で、跪いたり伏せるとしたら?
虜囚と死刑囚くらい?
せる、というよりさせる、だけど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
虜囚は地面に伏せさせ、踏みつけるけか。
体の表を調べる時は、そのまま蹴り上げて表返し。
死刑囚は跪かせ、そのまま、頭を撃ち抜く。
伏せさせたら、撃ちにくいから。
※第98話<心の造り方/Reproducibility>より
でも殺さないなら、すぐに立たせるわね。
伏せたままだと扱いにくいから。
連行するにしても尋問するにしても。
そういう実利的なところはある。
でも、それだけじゃない。
あたしがそれを見たのは、頭目の娘を見付けたとき。
※第27話<文明の衝突(非接触事故>より
青龍の騎士たちは竜をおろした場所、その近くの館を制圧。
そこがたまたま、盗賊ギルドの頭目が娘を隠している場所だった。
当然そこには、頭目の腹心、腕利きの護衛が少人数詰めていたのだけれど。
龍の翼音に肝を抜かれ、あっという間に取り押さえられた。
殺されなかった。
ただの通りすがり。
空からだけど。
敵対してないから殺さない。
必要が無いから殺さない。
青龍の、いつものこと。
意外と知られてないけどね。
あたしだって、その時は知らなかったし。
当然。
取り押さえた連中は伏せさせられた。
頭目の娘は、誰も全く気に留めなかったけれど。
逆に誰もがぶつからないように、道を開けていたけれど。
年端もいかない相手には、とても甘いのが青龍。
取り押さえ相手から武器装具を取り上げ、不思議な紐で手脚を拘束。
そしてすぐ、頭目が彼らの身元を保証した。
ら。
あっさり開放。
拘束を解きながら怪我をしていないか確認。
手を取り立ちあがらせ、服の埃を払い、武器もそれぞれに手渡した。
騎士が、青龍の騎士が自ら、盗賊の用心棒の、だ。
以後そのまま、警戒も無し。
青龍の貴族が視線だけで指示して、頭目に任せる。
その日の朝に捕えて、連行してきた女に。
※第25話<因果応報>より
あたしはもちろん驚いたけれど。
誰も彼もが驚いた。
娘を守るために周囲に気を配っていた頭目を含めて、ね。
そもそもが、力づくで連行した頭目を含めて、誰ひとり跪かせようとはしなかったけれど。
むしろ跪かせる隙すら与えない。
呼び出すか、連れてくるか。
目の前に来たり、出したり。
後は矢継ぎばやに質問、確認、命令。
誰もが、従うので精いっぱい。
話が終れば、睨まれ走り出す。
それ実務的?
でもあるし、でもない。
手を取る。
埃を掃う。
訳が解らないけれど。
何か判ってしまうのだ。
そしてもちろん、青龍自体が跪いたり、伏せたりしない。
貴族の前でも。
公女の前でも。
将軍の前でも。
立ったまま進み、立ったまま告げる。
最初から座り、最後まで座る。
誰にでもそのようにさせる。
従えている相手に。
従属させた相手に。
踏み倒した相手に。
だから不思議がるのよね。
沿道で、そこかしこで見える、奇行に。
なぜ伏せているのか?
なぜ伏せさせているのか?
自ら進んで?
強要されて?
ましてや、這い蹲らせるなんて。
太守府では、みんな立ってるし。
だれもかれもが、彼、青龍の流儀に慣れた。
じゃなくて、引き摺られてるから。
出会った瞬間から今まで。
命じられなくても、彼に倣う。
領民が青龍の前に出る時も立ったまま
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最初、皆殺しにされそうになった、時は跪いたわね。
※第10話<冬の日。春の日。>より
それもあの時だけ。
今は?
ううん、すぐに。
青龍が来て1ヶ月もたたないうちに。
青龍が道を征けば、誰もが集まる。
そうなっちゃった。
皆が見つめて、見逃さない。
特に青龍の貴族が征く刻は。
息を詰め、目を見開き、声をたてずに、音も鳴らさず
――――――――――目を奪われる。
まあ命がけではあるけれど
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の勘に障れば皆殺し。
青龍の騎士たちは警戒、ではなく、常に殺せるようにしている
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それも皆が、判っている。
でも、慣れれば、大丈夫。
皆、そう感じているわ。
隠れても無駄。
そう悟ったのだけれど。
青龍が何処にいても。
青龍に何もしなくも。
青龍を知らなくても。
何かの弾みで街ごと灼かれるかもしれない
――――――――――そういうもの。
なんとなく、太守領の皆は馴らされてる。
最初の時と、似ているようで違う。
殺されること。
それは、あたしたちの世界では日常。
だから諦めよう、と、あたしは思わない。
あの娘にも、妹分にも、許さない。
でも、普通はそう考えない。
青龍の貴族。
かれが太守府に来た朝。
領民は怯えて嘆いただけだった。
殺されると確信してなお、何もしようとはしなかった。
もう、違う。
青龍、青龍の貴族、その周りに皆が集まる。
生き残る為に。
だから皆、青龍を窺いながら、互いに注意する。
青龍、その機嫌はどうか。
それで危険さを考える。
青龍が何に注目しているか。
それは彼、青龍の貴族、の勘に触らないか。
青龍が何もかも見通しているなら、それ以外の何もかもが危険だ。
だから、皆が集まる。
あたしたちには使い魔はいない。
何もかも見通せない。
だから、皆で、数で見張る。
彼、青龍の機嫌を損ねるかもしれない、何かを。
勘に触る前に、皆殺しにされる前に
――――――――――みんなで殺す、壊す、砕く。
勘に触りそうなありとあらゆる何かを。
慣れ、とはそういうこと。
それに目の前で見ていた方が、わかる。
青龍の勘に触らない道筋。
青龍の貴族は、青龍はみな、自分たちへの視線を気に留めない。
それなのに例えば、あたしたち、彼が気に入っている者、を侮辱する
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気配を見せれば殺される。
彼、彼ら、青龍は、相手を侮辱しないように注意する。
でも、あたしたちが相手じゃなくても侮辱はしない。
ようにしている
――――――――――彼らなりに。
自分たちが侮辱されるのには、気にもしない
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帝国、赤龍との違い。
帝国なら領民を気に留めない。
弱者だから。
一応は監視。
時折、殺す。
それで十分。
騎龍の民から見れば、弱者は安い家畜だから。
目を伏せ恐れておればよい。
百の儀礼より一つの低頭。
羊と交わす礼などない。
殺さないであげている間はかってにしろ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな感覚。
青龍なら、見ていないようで、見つめている。
領民だけじゃなく、あらゆる全てを、視ている理由。
味方以外は
――――――――――敵。
敵視している、のだけど、そう言うには、ちょっと、だいぶ、おかしい。
青龍は待ち構えている。
誰も彼もが敵だから、襲いかかってくると。
恐れずに、待ち構えて、自信たっぷりに。
圧倒的な力を惜しげなく使い、万全の備えを固め、敵を十回以上滅ぼす。
どんなに弱い相手でも、武器を持っていなくても、力の差がどれだけあっても
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・油断しない。
青龍の貴族が言っている。
隠そうともしない。
腹立たしいことに、あたしたちに、だけ、じゃない。
あたしたち、に、言っている時。
誰が居ても気に留めないで公言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・高言?
戦い方など誰にでも、幾らでもある。
領民の持つ力を工夫すればすむ。
弱かろうが、武器が無かろうが、俺たちに勝てる。
誰にでも出来ることなら、誰かがやる。
だから、いずれ挑まれるに違いない。
だから誰もが自分たち青龍と対峙している
――――――――――対等な敵。
そんな、感覚。
だから、脅したりしない。
だから、取引などしない。
だから、猶予も与えない。
先制全力過大虐殺
――――――――――確かに、対等、よね。
こんなに対等が厄介だなんて。
ならばその、青龍に勝てる方法はなにか。
それを聞いた奴は居ないけど。
居たら、あたしが斬るけれど。
ダメとは言われてないし。
ただ彼は、誰かが思いつく、程度に考えて気楽なもの。
だから自分から言い出したりはしない、でしょうね。
助かるわ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼は斬れないし、斬りたくなるけど。
特に、そうなったら、自分が殺されるところに無頓着。
そのくせに、あたしが死を匂わせるだけで
――――――――――あたしの後ろ頭を掴んで引き寄せて。
死なないように、出来るだろ?
鼻先で睨まれた。
あたしはただ、万が一の時を頼んだ、頼もうとした、だけ。
あの娘を護るのは、彼しか居ないんだから。
今、思い出すと、腹が立つわね
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌われたかと思ったわよ!!!!!!!!!!
思い出しても腹が立つ。




