大津・生麦・松の廊下
【用語】
『赤龍』『帝国』:
「赤い龍」を国章とした帝国。
飛龍と土竜の竜騎兵と魔法使いを組み合わせた征服国家。
異世界において竜と魔法を大量動員し、組織力で時代を突き抜けている征服国家。
「モンゴル帝国やローマ帝国に魔法や竜を通信交通インフラとして組み込んで距離の影響を克服した」
と考えるとわかりやすい。
70年ほどかけてユーラシア大陸に匹敵する面積を持つ大陸の東半分を征服した。
特段差別的な国家ではないが、エルフという種族を絶滅させる政策を進めている。
地球人と戦う異世界の世界帝国。
日本が転移してこなければ世界を征服していたと思われる。
開戦の詳細や互いの戦争目的は本編に出ていたり出ていなかったり。
『戦況』
開戦より104日目。
国連軍
:大陸東側海上管制を確保。沿岸部主要港湾都市を占領ないし破砕。大陸東部を南北に分割し内陸部から東側海洋に繋がる大河を主進撃路とし、河沿いに西進。大河の内陸境界を超えて大陸深部に進出。主力15万は大河上流山岳部を越え内陸高原に到達。高原平野部を東西に分ける形で前線形成。帝国軍との距離は十数~数十km。
帝国軍
:国連軍部隊から最低十km以上離れて哨戒線を構築。高原平野部から更に山脈を越えて100km以上後方に30万前後の部隊を分散配置。街道沿いに兵站物質の集積を継続。最西方、内陸深奥部の帝都周辺に竜が集まりつつあり。北西の騎竜民族出生地から移送。訓練済みの竜が枯渇した可能性あり。
神がいるのかいないのか。
神を信じるのか信じないのか。
二択二問に過ぎないのであれば、答えは簡単。
神がいないのなら?
信じようが信じまいが何も関係は無い。
神がいるなら?
信じていれば悪いことはなさそうだ。
信じていないとろくなことがなさそうだ。
回答。
神を信じよう。
それが一番無難である。
―――――――とあるどこかキリスト教文明圏の哲学者の言葉―――――――
【国際連合統治軍第13集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】
俺が参考にできるのは?
このシュチュではどう?
やっぱり江戸時代かな?
一通り全国民、いや国家なんてないから、全領民に秩序が浸透したのは江戸時代が最初。
っーか、それ以前の時代だと身分制度は形だけ。
ほぼ大半、総人口の9割は混濁状態だったろう。
階級間の流動性が高い。
これはローマ帝国やオスマン・トルコ帝国、モンゴル帝国への褒め言葉。
確立した支配被支配の関係が成立しつつ、知力体力時之運で為りあがることができたから。
世界帝国って、だいたいそうだけどね。
確立した組織がある。
体制が硬直していない。
江戸期日本はそれに近い。
それより前の日本は、国家なんて態をなしていない
無秩序無統制下剋上。
室町鎌倉は地方政権のゆるーい連合体で、地方政権自体が領域も体制も流動的。
中央と地方の区分け自体は確立したが、守護地頭国人僧侶商人部族氏族なんでもござれ。
それ以前は中央(近畿)しか支配していない中央政府。
それが氏族豪族の連合体に担がれてるようなほっとかれているような。
現代に至るも地球世界の大半はそれですが。
先進国に成れた国は、そこを突破できた国。
後進国や没落先進国は、そこで躓いた国。
先進国になれりゃいい?
って訳でもないけどね。
殺す側と殺される側の違い。
それは好みの話だろう。
幸か不幸かソッチ系に進んだ日本の歴史は参考になる。
って聞いたので、俺も賛成。
原典に当たるほうが良いんだ、とは知ってるけどね。
なにしろ異世界そのものが類似要素にあふれてる。
西欧史なんてオマケです!
偉い人以外に判らんのですよ!
つまり、俺。
偉くないから形だけしか知らない西洋史。
履修したけどね。
大学時代。
でも自前の書籍の方が役に立ったな~。
研修したけどね。
派遣準備期間。
でも半月なかったんですよやることが多すぎて。
付け焼刃の西欧中世で、なんちゃって理解をした気になって恥をかく。
日本人のよくあるパターン。
そんなバカなことをするくらいなら、知ってる知識で再翻訳して理解を断念したほうがマシ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、軍政官訓練キャンプの教官が言ってました。
自国の歴史すら適当で曖昧で虚覚え。
しかも正規教育で受けた知識が9割以上間違ってる。
はい。
外国人の教官たちの方が、日本史を正確に理解していた件。
一番、最近の黒歴史。
派遣後に積み重ねられてる自分史は、黒というには赤黒すぎる。
そこはが江戸時代と大違い。
【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】
あたしは知っている。
青龍について。
青龍の貴族、彼について、ではなくて。
あたしが知ることが、それほど多いわけじゃないけれど。
これはない、と言えるくらいには知ってる。
青龍の流儀では地に伏せさせるのはおろか、誰かを跪かせたりはしない。
太守領参事会のお偉方が平身低頭して跪こうとしても、見てすらいない。
彼、青龍の貴族も。
領民話すことが多い、青龍の僧侶や青龍の役人も。
呼び出す。
出くわす。
相手を見ないで、いきなり質問、命令。
魔法の虚像を数字や図表をみながら、別のことをしながら。
答えを待つ。
そんなことされた領民たち。
下は執事にメイドから、上は参事会五大家当主まで。
大慌てで諾否を応えて走り出すわ。
挨拶も口上も前置きも。
そんなことをする勇気は、誰にもない。
命がけ。
理由もなく、青龍が納得する理由がなく、青龍が求めていないことをする。
それは、邪魔をするということ。
青い龍の脚の下に、立ちはだかるということ。
それを見逃せば、見逃した者も同じということ。
自分の女以外は、別に必要としていない興味の対象扱い。
仕方なく生かしておいた面倒ごと、くらいに思っている。
人の形をした青い龍の、逆鱗に触れたら何が起きるのか。
だから誰も、跪けないんじゃなくて隙が無い。
だから誰もが、跪けなくなっちゃった。
青龍はそれを、誰も不思議には思ってない。
当たり前に受け流す。
あたしたちも、それを教えたりはしないしね。
もしそれが相手を侮辱するようなことなら、事前最中事後いつでも教えるように。
そう言われているけれど。
あたしに言わせれば、戸惑わせてるだけ。
これを侮辱に感じるなんて、ありえない
皆で慣れれば済む、そもその程度のこと。
太守領そのものが青龍の物なのだから、彼の流儀が悪いということもない。
それが普段の、彼らの流儀。
【国際連合統治軍第13集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】
俺が教科書以外から学んだこと。
非常に多いが、歴史知識なら付属資料集で知ったこと。
教科書が狂信者の妄念なら、資料集は箱の底に在る希望。
義務教育という暗黒時代にも、光はあるのだよ。
切り捨て御免。
士農工商。
生かさぬように殺さぬように。
妄想乙!
ムチャいうな。
少ない武士と縮小された軍事力で、そんな体制は維持できない。
豊かな土壌と無尽蔵の金属資源で、そんな体制を維持する訳ない。
出来ない。
必要無い。
権力、つまり逆らう相手をねじ伏せる、じゃない。
権威、つまり勧んで相手がしたがってくる、わけ。
日本史上、最も行政コストがかからなかった時代。
国民負担率は2~3割で、戦後日本なつかしの最盛期に近い。
一揆の理由は大半が検地、つまりは納税調査反対ってくらい。
当然、そんなものに命がけ要素なんかない。
現代の春闘と同じようなもの。
と分析する学者もいるくらいだ。
流血騒ぎになるとね。
普通に御取り潰し。
封建制の中でも絶対君主制寄りの徳川幕藩体制。
御取り潰しのない天領では、むしろ管理が緩かった。
徳川家家中の人数に比べて領地が広かったから。
締め付けなくても収益は上がるし、締め付ける人手もいない。
領民と在地しない領主の馴合いで何もかも進行する。
希にあるガチの一揆、の記録がアレ過ぎる。
反乱を起こした領民たちの要求。
うちの村/地方を天領にしてください!
当時は天領なんて呼んでなかったらしいが。
これに類例があり例外じゃな辺り、お察し。
標準的江戸時代。
技術的限界による一部例外を除く。
そもそもが領民の所得把握に不熱心。
だからこそ領民も脱税努力に不熱心。
作用と反作用の関係。
税を把握しようとすれば、隠す。
税を適当にしとけば、隠さない。
コストをかけて税収を上げるか?
コストを棄てて税収を下げるか?
損益どちらが得なのか。
売上と経費の関係みたいなもの。
既に答えは出てるけどな。
その答えを、まだ捨てていない過去。
そんな体制のお約束。
身分秩序。
一応名目的に平伏しましょうね?
位なもんで。
大名行列も緩い緩い。
医者は横切るし、産婆は通過するし、急病人が騒いだら助けてもくれる。
恐れ入っているポーズ。
恐れ入られているポーズ。
お互い判ってやっている合意の世界。
よほど空気を読めない限り、破綻するわけがない。
まあ、外国人と田舎者には通じないが。
幕末の美味しそうな地名で、遭遇した外国人を斬り捨てた某藩。
あれは大人げない対応にすぎた。
江戸時代の標準であれば、あんな馬鹿な対応はしない。
そもそ諸藩の藩士は他藩の領民を斬ったりしない。
その藩と紛争になる。
ましてや天領、幕府直轄地の領民を斬ったりしたら?
御取り潰しになりかねない。
幕府、というより徳川家に戦を仕掛けたことになる。
それが判っているのが江戸市民。
江戸の酔っぱらいは、よく武士に絡んだという。
最悪でも殴られるだけで済むから、目上をからかって御釣りがくる。
普通は殴られもしない。
江戸の司法制度であれば、精神鑑定で無罪。
というか犯意が無ければ、刑事罰は喰らわない。
乱心(精神異常)とみなされれば江戸城内で抜刀しても赦されたくらいだ。
刑事罰と違って病人扱いなので、当人はともかく親族は連座しない。
だから結構、抜刀事例はある。
正常な人間は権力中枢で抜刀しない。
だから裁かれたのは数人くらい。
浅野内匠頭くらいか。
本人が正気である旨申告したとかしないとか。
普通は信じないが。
民間人レベルの話ならもっと緩い。
現代の感覚からいえば、普通?
厳罰主義者からすれば、甘い?
酒の上やらなんやらで仕出かしたとする。
重犯罪以外、江戸時代なら民事上の賠償と治療措置としての拘束。
拘束というのは人足寄場のことで、刑務所というより社会復帰訓練所。
酒を飲んで武士に絡んだくらいなら説諭で済む。
徳川家直参なら、自分で説教するだろう。
教化するのは、領民保護の一環だからだ。
地方の諸藩士/陪臣なら、酔っぱらいからさっさと逃げる。
殴りつけて負傷させれば、恥をかいたあげく責められかねない。
酔っぱらい相手に大人げない。
この理屈は昔からある。
酒が一般医普及した江戸期から、かもしれない。
抵抗力が無い相手に力を振るうなど、役目でなければみっともない。
徳川家の資産(天領住民)を傷つけ、傷つけようとしたとあれば謀反である。
各種ロジックが適用されるからだ。
当然にして領民すらこの程度なのだから、通りすがりの外国人とあれば。
推して知るべし。
これがオランダ商館関係者や朝鮮通信使関係者なら?
絶対斬らないどころか、見ないふりが正しい。
敢えて無理にどうしても対処が必要となれば、遠回しに注意する程度だろう。
そもそも外交官というか国賓なので、幕府関係者の介添えなしに出歩いていることは少ないが。
無くもなかったらしいし。
異人をみたら国賓を疑え。
それが常識。
それなのに、生麦の地でメシマズの国からきた観光客を斬った、とても不可思議な辺境の大名家。
頭がおかしい奴等って、何処にでもいるよね。
普通に引きずり降ろして縛り上げ、近くの奉行所代官所につきだせば済んだんだけどね。
それこそ普通の百姓がそれをやらかしたら、斬られなかった公算が高い。
なお。
通りすがりの浪人がやったと叫んで全力で帰国した模様。
ひき逃げか。
あったま悪かったんだろーな。
藩主と近習。
ソレと藩士。
実際の経緯を見ても、アレ過ぎ。
乗馬観光中の外国人が行列と遭遇。
追い払おうとした藩士と話が通じないが、意図は伝わる。
立ち去ろうとした結果、道幅が狭くて行列の中を通り過ぎようとする。
更に藩士たちが誘導。
誘導されたことは伝わったものの、どちらに行きどうすべきか伝わらない。
行列の中で右往左往。
ちなみに着飾った女性を連れている、どこからどう見ても日本人じゃない観光客。
行き違いはあってもコミュニケーションは続いていた。
抜刀。
わけがわからないよ。
そりゃ逃げるしかないわな。
ひき逃げ犯と同じ発想。
藩主以下集団発狂、精神鑑定で無罪??
斬った犯人がいる薩摩藩。
切られた外国人もがいる横浜居留地。
当事者が逃げたので神奈川奉行から報告された幕府。
どーしろと?
まるで今の、俺たちの様に見えるかな。




