あなたのなかのあたし

自分の上官について、ですか。

正しく報告せよ、ですか。

――――――――――了解。

アレは、人殺しです。

うっかり、カッとなって、職務で

――――――――――ありえません――――――――――

過失致死や傷害致死じゃありません。

違法性阻却事由も無関係。

考えて、感じて、決定して、実行する。

殺すべきと考えて、殺そうと行動して、殺せる。

ひとごろし。

殺人の禁忌は幻想に過ぎない？

そりゃ俺たち自衛官が日々実感してますね。

たが、あの女は違う。

俺たちが産まれてから、手間暇かけて金かけて、体験しない限りボロが出ないように、慎重に仕込まれた禁忌。

言ってしまえば信仰か、洗脳。

不自然な仕掛け。

しかも自然をねじ曲げてでも、現代社会が最大限努力して定着させた仕組み。

それが邪魔になる。

大義や正義の逆洗脳で、都度都度解除しなければならない。

そして再洗脳。

――――――――――殺す無かれ――――――――――

それを受け付けなかったんですよ、アレは、あの女は。

人を、同胞を、味方を、誰かを。

単純に言えば、差が無いんですね。

物を壊す。

人を壊す。

感覚としておなじ。

コストパフォーマンス以外思いつきもしない。

実際に職務以外で殺したかどうかは、知りません

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知ってたら、ここに居ませんよ。

――――――――――危険？

ありません。

禁忌がない。

だからこそ、ひとごろしに意味を見いだしていないからこそ、殺さない。

必要な時しか、殺さない。

むしろ安全かも知れません。

一般論として言えば、殺人の動機は、全てが怨恨です。

結果として殺した、ではなく、意図的な殺人はね。

人殺しが、大変な事だからこそ。

命がかけがえのない、大切なモノだからこそ。

だから、人が人を殺すんですよ。

繰り返しますが現代社会で起こる殺人事件、その動機は憎悪です。

憎い相手に、憎悪に見合う損害を与える為に、大切な命を奪う。

ならば？

大切でなければ？

命が塵紙一つに及ばないなら？

誰が人を殺します？

憎くて憎くてたまらなくて。

人生を棒に振ってでも、復仇したい。

そんな相手にですよ。

ポケットティッシュほどの損害を与えた。

で。

溜飲が下がりますか。

憎悪が収まりますか。

気が晴れますか。

殺人事件が起きるたびにマヌケが言います。

命の大切さを教えなければ

――――――――――ひとごろし、が無くならない理屈ですね。

命が大切であればあるほど、大切であるからこそ、人は人を殺すんですから。

だからこそ、あの女は、怒り、不快、憎しみ

――――――――――様々な感情が、殺人に向くとは限らない。

なにしろ、あの女は、誰がなにを嫌がるか、よーく知ってやがる。

そして、人が嫌がる姿が大好きですから。

殺したい。

殺したくない。

どちらでもない。

人の命、それ自体に価値を見いだしていない。

だから必要なだけしか、殺しません。

故に、安全ではありません。

が、予想できる危険でしかない。

必要以上に、嫌がらせるでしょうが。

それが、我が上官です。

これをもって、ご報告完了いたします。

三佐殿。

【国際連合統治軍第１３集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】

さて、戦争である。

俺の、自衛官の日常業務である。

けっして子守が仕事ではない。

あくまで子守も仕事なのである。

任務でもない。

だから子守に全力。

エルフっ子の凹みっぷりを見て、感心しているのは仕事じゃない。

何があったんだろーね。

すっごくワクワクした感じで聞き耳を立てていた。

それはすごくありがたかった。

今日のお出掛けの目的は達成できたといっても過言ではない。

既に過言になったが。

聖都観光ツアー。

メインテーマはエルフっ子の気分転換。

エルフっ子を喜ばせるのが作戦目的。

せめて楽しませることぐらいは、出来る。

と思っていた時が俺にもありました。

皆さんお忘れかも知れないが。

いや、事情を知らない、ってか、関係ないのか。

曹長や隊員たちはおろか、ちびっこ二人やＣｏｌｏｒｆｕｌにも言ってないしね。

曹長はなんとなーく察してる気配がするが。

神父は気持ちの上で遥か彼方に置いておくとして。

まあいい。

作戦目的がどうあれ、誰にも悪影響はない。

神父には神罰が当たっていいんだよ？

ちびっ子たちやＣｏｌｏｒｆｕｌが個別に楽しむのはいいだろう。

隊員たちや曹長にしても、こんな機会でもないと異世界を楽しめないし。

一度きりの人生楽しく過ごそう。

侵略してる大人たち。

侵略されてる子どもたち。

だから、肩の力を抜かないとね。

そーいう意味で、第１３集積地も悪くない。

ちびっ子たちやＣｏｌｏｒｆｕｌ、エルフっ子自身もそれなりに楽しんでいた。

見ればわかる。

そりゃ、珍しいもんな。

地球人の、あちらからみた異世界を、文字通り観光するようなもんだ。

俺たちにとっては、唯のプレハブ宿舎だけれど。

いつもと違って孤立せず、大規模な味方部隊の強い防御陣の内部。

うちの連中も久しぶりにゆっくりできたんじゃないかな。

太守領の太守府の王城。

幾千幾万の異世界住民。

俺たち軍政部隊は十数人。

２４時間戦闘隊形。

必ずしも敵対的とは言えないが、まごう事なき敵地。

良くみんな、頑張ってるよね。

だからまあ、今回の遠征中は駐屯地でずっと過ごそうかな、とも思っていたのだが。

予定変更。

異世界文化遺跡見学ツアーを決定。

今朝。

他の皆のことは、適当に理由付け。

独断でね。

みんなが合わせてくれて、助かった。

第１３集積地の連中も含めて。

エルフっ子のために。

俺は忘れてない。

二人で忘れられたらいいんだけどな。

今朝のアレ。

エルフっ子が見学させられた、化学戦標本保管場。

※第２６２話<地獄/ベアトリーチェの導き>

一番生き物に使いたくない、およそ化学兵器の中でも最も視覚効果に優れた糜爛性兵器。

しかもよりにもよって苦痛と恐怖を目的とした、最新にして最期の化学兵器。

※第２２６話<第226部分 ホスゲンオキシム/ＣＸ ｇａｓ>より

そんなモノを、朝っぱらから見せられたのである。

昼でも夜でも駄目だが、夜は少し見えにくいかもしれないが、ダメなものはダメ。

子どもに実録残酷な事実見学ツアーなんぞさせるのは絶対反対な俺。

それをかましやがったのが、名前にふさわしいメンゲレ大尉。

見逃したり追認したりした俺に責任が無いとは言わないが、あまり悪いことはしていない方向で、オカン気質のエルフっ子に甘えてババを惹かせてしまったフシも無いとは言えない。

俺が甘えてどーするっ！

という話。

泣かれたしね。

※第２９５～３００話くらい参照

そんなわけで、今日、今、ｎｏｗのお出掛けはエルフっ子のために在る。

だから楽しそうにし始めて、大変とっても大喜びだったのだよ。

過去形。

今はあれです。

頭を抱えるのを我慢してる感じ。

耳がやや、こころもち下を向いている。

至近距離から見慣れてないと、わかるまい。

エルフの特徴なのか？

エルフっ子の特徴なのか？

ハーフエルフ(Ｃｏｌｏｒｆｕｌ)も耳に表情がでるんだが。

曹長や隊員達にはわからない、とはいえ、近さの問題でもない。

ちびっ子ふたりも、エルフっ子の耳に何かを感じたりはしないらしい。

まあ耳に注目する以前の、皮膚感覚で判り合っているからかもしれないが。

俺もそのうちに、エルフの知り合いが増えればわかるんだろうけれど。

――――――――――睨まれた――――――――――

ヤバイ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気がする。

いや、エルフっ子の耳が、すっごく動いた。

切れ長の目が、俺に向きそうになり、止まった。

耳が先。

眼が続く。

それがエルフっ子スタイル。

いったい何を聞きつけたんだ？

俺に関係するなにかかな？

地雷を踏んだ？

こんな時はあれだ。

三佐が悪いに違いない。

神父と一緒に仏罰が下ればいいと思うよ。

だからこそ。

その責めは俺が負うのだ。

負いたくはないが。

まあ、どうせいずれにせよ背負うんなら、子どもの方がいいか。

おっかぶせられる様々なことに比べれば、忌避しないで素直に背負ってもいい。

他に誰も、背負うやつがいないうちは。

いま、いないか。

いったん撤収して、しかるのちに体勢を立て直す。

怒りだしたらそれはそれ、元気は出るから都合がいい。

んが、エルフっ子のような自制心が強いタイプは、怒らない。

感情的になった時に、感情を抑え込むタイプ。

良くもあり悪くもあり。

緊急時には重宝します。

殴り倒す手間が省ける。

平常時には難渋します。

怒らせる手間がかかる。

今は戦時下。

だから、改めてエルフっ子に集中。

綺麗な子がしおれているのは可愛いな、と。

いえ、趣味が悪い、と言われたら否定しませんけどね。

弾くか、逸らすか。

どっちもアリ。

ならばこちらも、敢えて見ない。

だから俺は、仕事に意識を向ける。

子守じゃないほうの。

そもそも衣食住なにもかも世話焼きっ子たちに任せることになりつつある昨今。

子守られ？

じゃないかという疑問もちらほら。

魔女っ子料理は旨いしね。

お嬢のお茶も美味いしね。

エルフっ子枕はやーらかいし。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌ達は勤務時間外、趣味と称した家事にいそしんでいる。

ちびっこ２人の指示で、掃除炊事洗濯その他。

全部、俺に関係することばかり。

俺が子どもたちにしてること。

護ってるのは、国際連合。

物資提供は、国際連合。

知識の提供は、国際連合。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お風呂で丸洗いしてあげてることくらい？

いやいや。

洗いっこは、してあげてる範囲に入らんな。

お互い様だ。

このままでは存在理由が疑われている。

強大で怪しげな国際連合への通信機替わり。

そんな中。

俺ができること。

俺がやるべきこと。

小話でも仕入れるべきか？

おっと、死後と、仕事の話か。

チッ。

で、まあ、仕事だが。

その前に。

この、嫌そーな空気を感じてほしい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ＯＫ？

全米が泣いたところで、些末(しごと)な話。