表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十章「異世界の車窓から」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

393/1003

幕間:不死という欠陥

【用語】


『仮名』:将校姿で異世界転移後の国際連合武力制裁活動に暗躍する正体不明の人々。既出の限りすべて女性で、地位に比べると若い。仮名として名乗る名前は歴史上の戦争で、悪名高い軍人の名前ばかり。



初めての方もおられますね。


私はヘロルト。

UNF(国際連合軍)大尉です。

仮名ですけれど。


では今回、「不死の軍事的解釈」について確認します。





さて皆さん。

コレをご覧ください。


ああ、特殊性癖向けの展示会ではありません。


裸体の女性が手足腕脚と拘束されている。

ヘロルトを即決裁判で処刑、と、左様にお考えですね。


至極当然、ながら、誤解です。


ヘロルトは軍記違反を犯しておりません。

捕虜や反逆者を捕まえて、虐待や残虐刑を課している。

のではありません。


一糸纏わぬのは体表記録観察の都合であり、着衣損耗コストを省き効率をあげているだけです。


おまちあれ。

おまちあれ。


MPはそこにおります。

もちろん誰かを捕らえる為には非ず。

この通り捕らえ捉え終わっていますから。


捕らえられているのは、ヘロルトではありません。

彼女です。


つまり、この捕らえてある女性は捕虜ではなく鹵獲品。

戦時国際法準用適用外であります。


おまちあれ。

おまちあれ。

おまちあれ。


鹵獲品の私的利用ではありません。


そもヘロルトは同性愛加虐嗜好は、ありませんので。

異性愛加虐嗜好については、お答え致しかねます。


ヘロルトの軍法会議抜き即決処刑は、説明後に再検討願えますか。



ひとつ。

彼女は兵士ではなく密偵です。

戦時国際法に準ずればテロリストと言えましょう。

適用しませんが。


ふたつ。

彼女は人間ではありません。

いえ、異世界人間種ではなく、吸血鬼です。


みっつ。

彼女は既に何度目かの銃殺済みです。

回数は覚えていませんが。


今、頭部を撃ち抜いたように、記録は公開されるでしょう。

では、詳細を。



彼女と我々の出会い。

国際連合軍の募兵に応じた、異世界志願兵。



ご存じのとおり、国際連合軍は多世界化を勧めています。

個別的勧誘が中心ですが、口コミを通じた募兵作戦も拡大中。


その中にいたのが彼女です。



ご存知の通り、貴重な異世界志願兵。

我々から見たファースト・コンタクトの一環。


その際、異世界人全員がリラックスできるように配慮します。

格別今回だけではありませんが。


薬膳に近い飲食提供・病理検査同時投薬。

精神弛緩効果に併せて、正直になれる薬物などなどなど。

通常手順です。


もちろんオーバードーズやアレルギーに配慮。


WHO除染部隊の、経験豊富な医師団による監視下です。

どのような形であれ、ファースト・コンタクトの基本ですね。


もちろんWHO除染班ほどの経験値や技量、権限はありませんが。


それでも十二分に機能は果たせます。

病変部位の切除、組織体液標本採取、化学熱力学的消毒。

経験を積み、慣れている、というレベル。

でないと前線には出せませんから。


ファースト・コンタクトという最前線。


ええ。

今、我々の周りを囲んでいる方々です。


汚染源になりうる全てを囲んでいるわけで。


この場を借りて、感謝します。

WHOの地球人類の健康維持努力に。



でまあ、話を戻しましょう。


万全の体制で繰り返される、ファースト・コンタクト。

その中の、平凡な一回。


今切断されている彼女も通常規定とおりに歓迎しました。


その結果、素晴らしいことに人間種ではないと判明。

こちらの彼と同種ですな。


さらに身元も聴取。

僥倖となすべき武力制裁対象勢力、つまり帝国所属、職業的密偵と判明。


二つの幸運が重なりました。

なかなか望んで得られる結果ではありません。

一つだけならよくありますが。



こちらの彼と異なり、無限の可能性がありますね。

ああ、彼には無限の可能性を楽しむ時間があります。


それで幸運な彼女ですが。

当然ながら、こちらが気が付いた、と彼女も同時に知りました。

全て口頭申告いただきましたから。


自分で何を話しているか。

それを認知したうえで、答えずにはいられない。

黙ることすらできない。


処置無しです。

帝国密偵の中には、対尋問技術を編み出した者もおりますね。


精神的欺瞞を使い、尋問者を誘導する。

嘘がつけないなら、嘘をつかずに韜晦する。


正直というのは、もっとも効果的な嘘です。

自白剤出現以前から、ですが。


対尋問技術は、中世から確立した技術だったのですねぇ。


ま、普及してはいない、のはやはり大量生産大量消費社会以前だから、なのでしょう。

故に今回、対々尋問術が不要であった。


それは今溺死を繰り返している彼女が劣っていることを意味しません。


対尋問技術のレベルが高くないのは、むしろ密偵として他の技量が高かった。

故に必要なかった、のでしょう。


尋問されないにこしたことはありませんから。


我々地球先進国では、スペシャリストよりゼネラリスト。

必要不必要問わずに、技能をもたせようとしまず。


体制、技術、道具などのサポートが当然な現代社会。

そこに組み込まれた人間には多くが期待されません。

人びとには汎用性が求められ、低く広い技能が必要。


しかし中世の技術共有は、そちらに向かない。


社会基盤が不安定かつ個別的。

技術基盤は不定形かつ排他的。


限定的な少数徒弟継承、あるいは極限された個々の経験蓄積。


ゼネラリストは想定すらできず、まずもってスペシャリスト。

こうした社会では、選択肢が一つしかありません。


それが何を生み出すのか。

どちらが高みに達するのか。


それはジャンルによるのでしょう。



もっとも帝国は、我々と進む方向が同じかもしれません。

一国Renaissanceと言うべきか、オーパーツと言うべきか。

マニュアル化と平均化で、大量生産大量育成を希求しています。


しかし、やはり限界はあります。

時代背景よりも世界征服が順調すぎるから、でしょう。


急激に拡大する組織と社会。


標準化が追いつかない。

とりわけ機密性が高いジャンルは管理が難しい。


故に一般的領域、軍事や裁判、度量衡や信用取引の基準普及が優先され、このジャンルは後回しにされている、と。


まあ、世界征服が終わったら注力されたでしょうね。

支配を維持する為に、優先順位が上がるでしょうから。


その世界を見ることがないのは残念です。



ああ、話を戻しましょう。

いま裁断された、あ、レーザーカッターですが、彼女。


回復速度はノコギリよりはやいですね。

切断面が整っており、面積が比較的小さいからでしょうか。


さておき、鹵獲品の彼女ですが。

こと薬物耐性に限れば、極めてオーソドックスな反応でした。


欺瞞が不可能、黙秘不能、自分が、その部分が制御出来ないと瞬時に判断。


原因など考えずに状況認識。

即座に判断を放棄して反応に移ります。


いや、異世界種族の洞察力判断力は、感嘆するしかありません。


隠し事が不可能になる、というのはパニックを起こす場合が多いのです。

しかしそれを理解しえないことを理解し、理性をもって不可解に対処する。


瞬間的最適行動。


地球人、先進国の人々にはとてもとても。

ただ、最善を尽くしたからといって、救われはしませんが。

残念です。


予想外は生じません。


実際、彼女は大変正直に退去を試みました。

当方は熱意を込めてそれを制止。


結局、第五列としてMPに確保されました。



ここまでは、よろしいですか?



はい、彼女は吸血鬼、の類似品です。

こちらの彼と同じように牙があり、まだ死んだことがなく、血を吸う形で糧を得て、催眠能力で対象者を操り、手脚の筋力が人間の十倍以上、その力に耐え得る肉体的耐久性、大蒜ばかりか臭いが強い物を嫌い、十字架が何かわからない。


だから、類似品です。


模造品ではありませんよ。

オリジナルです。

異世界の、ですからね。


であるからか。

皆さんがご存知の吸血鬼よりは、弱点が少ない。

いえ従来型吸血鬼は弱点を取り除くと何も残りませんが。


よく捕まえられた、と?


ブラム・ストーカーのソレよりは、強いですからね。

フィクションそのままであれば吸血鬼など弱すぎて。

そのまま登場させるなどフィクションでもやらない。


しかしそれでも、容易いことです。


彼らも、所詮は物理的存在。

エネルギー保存の法則からは逃れられません。


作用反作用も等しくあれば、たかだか力が強いなど

――――――――――何ほどでしょうか。



パワードスーツを研究、否、検討されたことがあれば皆さんご存知でしょう。

研究し始める程に幼稚ではありますまいが、一考程度あっても恥ではないですよね。


ならば、判ります。


それはつまり、こういうこと。

どれほど力が強くても、どれほど丈夫な体でも、火器を前にすれば無力。


そこに実体がある限り、弾頭を喰らえば影響を受けます。

運動エネルギーは質量に速度を乗じます。

死ななくても、弾かれます。


もし体が銃弾を弾くほど丈夫なら、運動エネルギーを全て受け止めるということ。

わざわざ最高のダメージを受け入れてくれる、最高の標的です。


残念ながら、彼女はそこまで固くありませんが。

いや残念無念。


だからこそ、この弾倉が役立ちました。


M-14用弾倉ファーストコンタクトパック。

徹甲弾・焼夷弾・軟頭弾の均等配分。


初対面する異世界種族の皆々様をお出迎えするために。

前線待機中の兵士たちが、内職中。


手作業で装填してるんですから。


当然、莫大な断層が蓄積されています。

当然、有り余るように配備されています。

当然、彼女と出会った我々も武装しています。


その際はファーストコンタクトパックを装填済み。


彼女が本気を出す前に、発砲開始。

彼女が本気を出している間は連射。


徹甲弾が人間より固い骨を含む体組織を、再生と同時に打ち砕きます。

焼夷弾が人間より固い体によく反応して、体組織を再生と同時に焼き崩します。

軟頭弾が弾頭の運動エネルギーを、効率的に体組織に撒き散らします。


かくして彼女は運動エネルギーに拘束され、半壊状態から一歩も進めさません。


音速の弾頭より速く、銃口が動くより速く。

そうできない限り、火力には抗し得ません。


そして、銃口を避けるほどの瞬間的加速は、不可能です。


物理的存在で在る限り。

なぜかといえは、作用反作用にエネルギー保存の法則故に。


どれだけ強い力があっても。

どれだけ丈夫な体を持っていても。

それより地面は弱いのです。


吸血鬼が全力で大地を全力で踏みしめれば、脚が地面に刺さるだけ。

その有り余る筋力は地面に吸収されるだけ、体を前進させません。


強靭な肉体から発せられた強力な力は、ほとんどが作用点、外部環境に吸収されます。


堅い大地や石畳、煉瓦に舗装道路。

全力で踏みしめれば爆散。


自らの全力が飛ばした破片を、自らの体で大半受けるだけ。

自分の足元を零距離から砲撃したようなものですね。


まあ大地への衝撃が大地に吸収されなかった部分。

それは破片となって、反作用で中空に跳びます。


ある意味で銃口を避けられるかもしれませんが。

より以上のダメージをくらうだけです。


自爆とも言います。



たとえ不死でも、下肢を再生するまでは不自由です。

そこを狙い撃ちできる、と。


総じて、まあ実例と聴取結果から、吸血鬼の速度は人間を超えません。

越えられません、物理的に。


だから銃口弾頭からは、逃れられない。


最初からゼロ距離ならば、最強でしょうね。

手の届く範囲に居る相手には。


たまたま国際連合軍兵士は、近接戦闘を避ける習わしがありましたが。

それは必然、今回のファースト・コンタクトでも生じた結果です。




後は簡単。

弾雨で拘束している間に、より強固に固定するだけ。


彼女のケースでは、現場兵士が思いつきまして。

液体窒素を使いました。


それまでは予備銃器と弾倉弾帯を運び続けましたが。


催涙ガスもよく効きました。

国際連合軍兵士は、フェイスカバーを一押しで密閉できます。

致死性ガスと違って、問題にもならない。


マスクを持たない吸血鬼には、人間より効果的だった、と。


鋭敏な感覚は、戦場では邪魔なんですね。

初期の光増幅式暗視が、しばしばライト一つに潰されたように。


現代であればフラッシュグレネードさえ、自動補正で作戦行動に影響しませんが。

ああ、フラッシュグレネードも使いましたけれど。


吸血鬼は耳も眼も良い、と確認出来ました、はい。


機械処理を伴わない、先天的な高感度。

それがどのような意味を持つかと言えば、コレです。



もちろん途中から自動機銃に任せました。

ただ、それまでに多くの兵士が肩を痛めたのは痛恨事ともうせましょう。




とまあ、ここまでが前説。

ここからが本題。



彼女の表情にもご注意ください。

口腔より上を失ってなお、悲鳴を上げています。

脳波神経電位計測数値をご覧ください。

再生された後も、痛みはのこっているようです。


意識というものは、脳に依拠しない。

それは多世界共通なのでしょうか。



ご覧いただいている通り。

たいへんに辛い体験をへた彼女は、百万発を受けてなお、生存。


これが解答。

不死者とは



不死、らしいこと、すなわち「何度でも殺せる」ということ。


死なない。

痛くない。

ではありません。



「痛み」というのは医学的に言えば触覚の一部です。

それを無くせば、物理的感覚を失うことになります。

死なない限り、痛みという感覚は常にあり続けます。



死がない。

つまり、終わりがない。


我々であれば、容易く救われるのですが、不死者にはない。

よって、永久に苦しめる。


しかも、文字通り、死に等しい苦痛を。

その苦痛に五回以上耐えきることは考えられません。


いえ、別に千回堪えてもかまいませんが。

自我が再構成されるまで、必要であれば万回殺せばいいだけですし。




これほどに脆弱な存在が、論理的に在り得るでしょうか?







ああ、彼ですか?


彼女と同席した志願者、唯一の生き残りです。

不死でない同席者は皆、死にましたからね。


これからの活躍が期待されます。


熟練の戦士にして、人脈の広い反帝国活動家。

半世紀ほど前に滅ぼされた王国出身。


帝国の沿岸部征服が完了して以後、帝国からの誘いを固辞。

今般の状況を鑑みて、国際連合軍へ志願に至りました。



彼女とは半世紀以上、共に生きてきた間柄です。

個人や婚姻という概念が無い世界ですが、伴侶に近い関係ですね。


そこで凍死している彼女が、いつから帝国の密偵であったのか。

それは彼も知りませんでした。


もちろん問題はありません。

彼の反帝国感情は化学的に証明されています。


そして彼女が真実の愛に目覚めるのは、化学的に明らかですから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ