鏡の国/Egosearching.
『ヘロルトSS大尉』:ヴィリー・ヘロルト、通称「エムスラントの処刑人」。第二次世界大戦末期ドイツ帝国にて敗走中に本隊を見失ったよくある兵士。装備を失い、遺棄された軍用車両からSSの勲章と大尉の制服を回収。以後、敗残兵から大尉とし扱われる。その後、山賊化して同胞を襲う脱走兵対策を市民から求められるままに実行。敗残兵の組織化を進める一方で、脱走兵狩りを拡大。脱走兵の拘留場を確保すると、現地の党指導部や有力者を説き伏せて大規模処刑を敢行。以後も対敵協力者や総統命令に反して降伏しようとした者たちへの追及を強める。ドイツ国防軍に捕らえられるも功績を称賛され、前線部隊へ復帰。戦後、連合国に戦争犯罪者として逮捕され処刑。享年21歳。制服を着る前にSSにもナチスにも関わりが無かったことは記録されている。そんな彼は誰もが夢見るような(悪夢かも知れないが)SS将校として戦い、誰もが疑えないほどSS将校のように連合国に戦争犯罪者として処刑された。
※実話です
Cogito ergo sum?
(我思う、故に我在り?)
自衛隊ではそこかしこに鏡を設置する。
見ることで「見られる」ことを意識させるために。
「見られる」ことでその意識を固定するために。
自己とは他者の残響に過ぎない。
他者のない自己など存在し得ない。
重要なのは「他人がどう思っているか」である。
自分が何をどう思っていたとしても「自己」には何の影響もない。
制服。
動作。
徽章。
ありとあらゆるツールが他者へ訴えかける。
他者はどのような形であれ反応する。
かくして「自衛官」の出来上がり。
そう想われている間だけは、そう在り続ける。
そう想わせている間だけは、そう在り続けられる。
かくあれかし。
と、皆が見る。
かくありし。
と、皆を見る。
おそらく「勘違い」なのだろう。
なにが、とは言わないが。
【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】
あたしが聴きたかったこと。
聴けさえすれば、幸運だったのに。
ただ単に、他愛のない世間話でも。
何でもいいから、青龍の会話であればs
あたしはツイてる。
青龍の騎士。
サトウ、シバ両卿が言う、彼女たち。
つまり、あたしたち。
それに、彼、青龍の貴族みたいな意地悪な男が、素直に扱ってくれるはずがないし。
もともと、彼の臣下、青龍の騎士たちも、あたしたちに遠慮していたしね。
あたしを戦力として数えては、くれている。
剣や弓の間合いに配慮して、周りを囲んでくれるし。
あくまでも真ん中で、後備えのような扱いだけれど。
行軍中に、身振り手振りでやりとりもする。
その動き自体が、あたしを前提としている。
特に騎士長や、サトウ・シバ卿は。
でも、その三人を含めて、雑談って、ないのよね。
あまり。
ましてやほかの騎士たちは。
主君、青龍の貴族を畏怖している。
彼が細かいことに気を向けない人なのに、であるからか、皆が細部に気を遣う。
騎士長に指示されている時でさえ、それを気にも留めていない、青龍の貴族に皆が集中。
男と女、あたしたちにはわからない、主従の関係ってことかしら。
青龍の貴族は誰に対しても極端。
殺すか殺さないか、その二択しかない。
実際、青龍でも区別が無い。
道化や役人が殺されかけてるし。
※第12話<大人のような、子供のような。> /神父が初めて殺されそうになった回
※第16話<裁判と呼ばれているもの(1867年以降日本式)> /役人が以下略
あの娘が止めに入ったから助かった。
青龍の貴族、その殺意をそらすことができるのは、彼の女だけ。
まあ、逸らしてくれる、くらいかしらね。
でも、それだけ、男と女の繋がりだけじゃない。
あたりまえ、か。
青龍の貴族。
彼に繋がる二つ目の輪。
厳しい騎士長。
優しい騎士頭の、サトウ、シバ卿。
三人が、主従の距離を繋いでる。
優しい人には誰も従わない。
厳しい人には誰もが反発する。
怖ろしい人には誰もが従う。
だからこそ、騎士たちの忠誠も厚い。
これは定石通り、っていうところかしら。
彼に近いのは、あたし、たち。
でも。
彼と長いのは、あの騎士たち。
青龍の騎士たち。
雑談。
それだけでも珍しいのに。
女の話。
しかも、 いくらでもいる、他の女の話じゃない。
あたし。
あたしたちの話。
それはもちろん、下衆なことじゃない。
当たり前。
青龍の、青龍の貴族の力、その畏怖スベキ在り方を知る青龍の騎士。
主の女に、懸想するなんてありえない。
いま聞き逃したら、次は無い。
かもしれない。
青龍の騎士たちは全員そう。
こちらの、青龍以外の女に関わらないようにしている。
太守府でも、メイドに命令すらしない。
若い男が女に見向きもしないのは、大変よね。
相応の理由があるとはいえ。
ましてや、あたしたち。
青龍の貴族の女。
つまりは主の女。
彼、青龍の貴族が、他の男の目に晒さないようにしている、あたしたち。
他の青龍の貴族さえ、それに協力して女騎士を護衛に配するくらい。
それは、 悋気や 独占欲や、拘束したいと想ってい るからで。
怖ろしい主人。
あたしたちは、その女。
臣下が話題にできない、訳よね。
これ以上正確な鏡は、見つからないんじゃないかしら。
だからこそ。
気にならない。
わけがない。
なにしろ彼、青龍の貴族は気にしない。
誰が何を考えていても、気に留めない。
この世界には、自分しかいないみたい。
青龍同士であろうが、あたしたちであろうが。
だから、あたし、たちが気にしないといけない。
あたしたちの評価は、彼の評価。
それで何が変わるわけではないけれど、あたしが嬉しいわけで。
あたしはこの人のモノなんだ。
そう、世界中に自慢したいじゃない。
そして、それを彼に気が付かれないように。
余計な気を使わせるなんて、ぜったいぜったい、かっこわるい。
女に必要なのは、見栄なんだから。
【国際連合統治軍第13集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】
俺はポーカーが得意だ。
だからあえて、もともと軽く眺めていた時よりも意識して、外を見た。
いやほら、気になるけどね。
耳の動きが止まったこととか。
耳に集中するあまり止まった視線とか。
耳よりからほのかに紅潮する白い肌とか。
いつもと違えば丸わかり。
魔女っ子のことを確認しつつ、俺のことを注視するのが普通。
今は魔女っ子のを確認しつつ、俺をみていない。
いつもより。
エルフっ子。
何かを聴いている。
後ろの車両、かな。
耳の動きがロックオン。
俺、人間の耳では聴こえない音?
索敵機器で、同じ音を拾ってもいいが。
それはよくない。
大人が子どもの様子をうかがうなど、面目に関わる。
じっと見詰る。
真っすぐ睨む。
逃げ場を絶つ。
これが俺のあるべき姿。
だが今はマズい。
時々思い出したように、俺に視線を走らせるエルフっ子。
知られたくないことを、知らないふりをしてやる。
知らないことでも、知ってるふりをしてやる。
これぞ教育的指導。
今は放っておき、後で決める。
踏んづけるか撫で転がすか。
異世界に子供という概念が無くても。
子どもはどこでも子どもだな。
【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】
あたしの耳に響てくるのは、青龍同士の大声。
海風と、らんどくるーざーの轟音。
人の耳なら隣の相手にしか聞こえない。
怒鳴らないと会話できない?
魔法で話すと、彼、青龍の貴族に聴かれちゃうから、かしらね。
聴かれてマズいことなんか、思うのかしら。
青龍は、あたしを見ても下世話なことは考えない。
視線を見ればわかる。
そりゃそうよね。
青龍の貴族、その女。
あたしを見れば、その恐ろしさが浮かぶのだから。
でも、彼の女、って前提で、気さくにふるまえる騎士もいるわけで。
騎士長とか、道化は論外として、後二人。
あたしたちが乗っているらんどくるーざー。
5頭分の間をあけて先行する、らんどくるーざー。
その背に立っている、後二人。
サトウ卿とシバ卿。
「三佐もお困りだ」
え"!
青龍の公女が何で??
「あれが困ることなんかあるのか?」
あれってアレだけど、納得するわ。
「彼女たちには子作りを解禁してるんだからな」
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聴こえてるから!
知ってたけれど!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おちつけ、あたし
そりゃ、青龍全体から見れば、そうなんでしょーね。
血の呪い。
此方と彼方の男と女。
それが交わることで生じる、かもしれない、疫病。
あたしたちと彼を交わらせることで、何が起こるか起きないか見ている。
何か起きれば?
解呪の魔法を編み出すために、すごーく役に立つ。
何も起きなければ?
呪いの範囲を把握するために、とーっても役にたつ。
どちらにせよ、解決はするのだけれど。
ついていけないわね
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 。
だから、困る、か。
あたしたちが、一向に、彼と、その、それ、なことが進まない事。
「それが一向に進まない」
いったー!
気にしてるのに!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聴かれてないと思って。
直前まではいってるから!
もうすぐなんだからね!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言い返したい。
あたし、たちがあと少しこらえて、意識を保てれば。
彼が、もうすこし妥協して、イジメるのを後回しにしてくれたら。
「だから困ってる」
同意。
「どちらをとるか」
どっち?
なにが??
「あー、二択か」
なによ?
なんか、すごーく、憐れまれてるような??????????????
「今の、我慢の限界を刻一刻強制更新させられる彼女たち」
「以後の、欲求の限界を突破させられ続けるだろう彼女たち」
ええええええええええええええええ!!!
「「どっちも愉しそうで選べない、っと」」
そっち!!!!!!!!!!!!!!!
「「三佐だからな」」」




