今そこに在る好機/Priority No1.
【登場人物/三人称】
地球側呼称《三佐》
現地側呼称《青龍の公女》
?歳/女性
:陸上自衛隊三佐、国際連合軍事参謀委員会参謀、WHO防疫部隊班長、他いろいろな肩書を持つ。日本の政権与党を支配する幹事長の娘で、父親と連携して戦争指導に暗躍している。
かなり遠慮のない副官がついている。
※第18話 <愛されるな。憎まれるな。畏れられよ。> より
地球側呼称《三尉/マメシバ/ハナコ》
現地側呼称《マメシバ卿》
?歳/女性
:陸上自衛隊医官/三尉。国際連合軍独立教導旅団副官。キラキラネームの本名をかたくなに拒み「ハナコ」を自称。上官の元カノが勝手に「マメシバ」とあだ名をつけて呼んでいる
恋愛。
それ以外に「自分にしかできない」なーんてこと、あると思ってんですか?
組織の中で「誰にとっても」「誰がしても」いいことなんかのために、時間を潰すなんて御免です。
他人様に都合がいいだけの「歯車」なんか、いくらでも代わりがいるじゃないですか。
ま、デッドコピーやモンキーモデルになりたいってんなら、止めませんけどね。
自分なんて、個人の間でしか成立しないんですよ。
私。
彼。
二人の間にだけ。
家族?
ろーんがい。
親だから。
子どもだから。
兄弟姉妹だから。
どこに「自分」がいるんです?
役目を割り振られただけじゃないですか。
被差別民を理解できるのは王族だけだ、なーんて言葉もありますね。
人種。
民族。
文化。
生得の首輪が、嬉しいんですか。
楽ですけどね。
楽ってことは、なーんにも手に入らない。
何者でもないスペアになら、ならなくってもなれる。
死ねって言われてるのと、どう違うんです。
「たった一人の誰かのためだけ」に「たった一人の誰か」に「なる」ことができる。
それがあり得るのは、唯一無二の「こと」しかありえませんよね。
恋。
愛。
色恋。
色愛。
誰かの為のかけがえのない自分。
さいっこーです。
だから、やってみる価値があるんです。
失敗したら?
死ねばいいじゃないですか。
??????????
――――――――――他に余地がありま、す?
だれも「一山いくら」なんか気にしませんよ。
自分が一番、気にならないでしょ。
どんな結果かしりませんが、イイ女、イイ男じゃなかった。
だから。
勝ち目がない。
戦えない。
それだけなんですから。
《異世界大陸北方の伝承/誰の言葉なのか諸説あり、伝説の治癒魔法使い「創魂師」・伝説の黒騎士が軍師「三頭狼」・伝説の龍を導いた「龍巫女」の名前があげられる》
【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の右隣/エルフっ娘】
あたしたちエルフは眼もいいけれど、耳もよい。
だから聴こえてくる。
青龍の、騎士同士の雑談。
なにを話しているのかしら?
なにを気にしているのかしら?
もちろん取り繕っている、あたし。
盗み聴きなんて、様にならないしね。
。
あたしは、青龍の貴族の女。
青龍の騎士からみて、主の女。
扱いにくいと思う。
ただの領民なのにね。
扱いにくい。
それは、あたしから見てもおなじ。
青龍の騎士から見た、あたしたち。
上ってことは無いけど、丁寧に守られてる。
下のはずだけれど、そうは扱われていない。
なら対等かっていえば、そんなわけはなし。
あたしは、何処の氏族でもない根無し草。
あの娘は、天涯孤独で立場の微妙な魔法使い。
妹分は、北辺の小邦以外に力が及ばない商家の娘。
一番地位が高い妹分さえ、誤差の範囲でしかない。
世界帝国を一夜で半壊させた青龍。
世界を文字通りにまたいでいる青龍。
邦一番の商家を視線一つで没落させる青龍。
彼らが何を見て、何を聞き、何を気に掛けるのか。
合わせるにせよ、掻い潜るにせよ、従うにせよ。
それを知らなきゃ始まらない。
わからない。
だから。
絶対にカッコ悪いところは見せない。
あたしがどう見られるのか。
それは、あたしの護るべき人の生死にかかわる。
あの娘の命にかかわる。
ま、その辺りは、彼、青龍の貴族に任せてもいいんだろうけれど。
彼が、あの娘を、自分の女を手放すわけがない。
あたしを含めてね。
あの娘にとって、男とは青龍の貴族。
それでいい。
だからこそ。
あたしが彼、青龍の貴族に恥をかかせる訳にはいかないわ。
あの娘はまだ、周りが目に入っていないし。
妹分はまだ、彼の身の回りにしか目が入っていないし。
あたしの役目は、そこ。
剣士の格をはかるなら、剣を見るでしょうね。
あたしを見て、かれの格をはかる者は出る。
それで何が見えるか、見えないかは別として。
あたしはそれを、魅せないと。
彼は気に留めもしないけど。
自分のこと、誰がどう見ようが気が付かないし。
それはそれで好きなんだけど。
それはそれで困るんだけどね。
彼、青龍の貴族も。
彼の女、あたしも。
あたしとしては、機会を逃したくないわけで。
決して褒められたいとかではなくて、褒められたくないわけでもないけど。
あたしのことを自慢してほしくはあるけれど、そればかりじゃなくて。
でも、あたしのいろいろは抜きにして、あたしそのものが役に立つことだって、あると思うの。
珍しいエルフ。
美しいエルフ。
貴男のエルフ。
貴族の世界なら、絶対役に立つわよね。
青龍の世界でも、全然ダメってことはない、と思う。
彼自身の世界だと、そーいうところは無視されそう、かな。
だから!
これは、とっても重要。
彼以外の青龍が、あたしを、あたしたちを話題にする。
あたし、あたしたちみんなにとって。
彼、青龍の貴族以外に、どう魅せるか。
仕草振る舞い。
立ち位置所作。
言葉に距離に。
彼を惹きたてるように。
彼を盛り立てるように。
彼が気が付かぬように。
青龍の世間話。
命令でも確認でも指示でもない。
それは初めて聴こえるわけじゃない。
それは当たり前という範囲なんだけれど。
でも、少ない。
あたしたちの世界と比べて。
あたしが経験した戦場。
その見聞きした範囲の話。
負けている兵士たちは饒舌になる。
勝っている兵士たちは寡黙になる。
何処でも同じ。
負けている陣営では予想が囁かれる。
勝っている陣営では雑談が話される。
何時でも同じ。
あたしが聴いたのは陣営の一員として、だったり。
敵陣にいろいろな形で入り込んだり近づいたり。
専門の密偵や、熟練の戦士から又聞いたり
そうした経験との比較。
青龍の騎士団は、主従揃って無口。
普通ならもっともっと声が聴こえてくるもの。
青龍の貴族が無口なのは間違いない。
騎士たちも気圧されてる、みたい。
それはもちろん、彼、青龍の貴族とその一党の話。
僅か十人ほどのことだから。
青龍全体としてどうなのか、それは知らない。
あたしが他の青龍たちを見聞きするのは、聖都が初めてだし。
太守領で、彼、青龍の貴族とその配下以外がいないわけではなかったけれど。
例えば。
港街に入る直前、大きな海龍に連れられて。
その背中で立ち働く青龍の魔法使いたちを見た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってほど、見てないわね。
あの時は、いろいろあって。
いろいろあり過ぎて、まるで覚えていない。
※第28~33話まで
その、まあ、あたしが彼のものになってると気が付く、前の話。
あの娘たちは、すでに彼に夢中。
彼は相変わらず、二人を玩ぶ。
あたしは、同情して見物。
※第28話 <修羅場> より
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今となっては、信じられない。
出遅れてるわけよね。
うん。
そこから数日。
出会ってから十日余りで、あたしは墜ちていた。
龍から突き落とされるように。
俺の女、って言われて。
全身から力が抜けるくらい、には。
!
※第77話 <十二日目/After Coming out>
だからよね。
なにしてたんだか。
その時までに決まっていた、あたしの立ち位置。
青龍の貴族。
その目となり耳となり、彼が気に留めないことを見聴きする。
彼が見聞きした中で、気に留めたことを伝え示し、可能なら教える。
あたし、歴戦のエルフ。
・・・・・・・・・・・・・・ぜんぜんだめじゃない。
あの娘のような、気遣いができる女じゃないし。
妹分のような、機転が利く女でもないわね。
だからこそ果たせる、あたしの役目。
うん。
それがおろそかになってた。
いつからか。
。
たぶん、あまり周りを見ていなかった、とも思う。
。
恋は盲目っていうけれど。
あたしのことながら、信じられないことに。
だから、ダメなのよね。
だめなのよ。
これじゃ。
海龍で過ごした時間は長くない。
その後は?
【太守府/王城内郭/印刷工場/帝国軍票・帝国保証証券・帝国公正証書・他原版製作室】
魔法医学を始めとして多世界技術ハイブリッドの第一人者。
国際連合軍特別教導旅団「黒旗団」の実務を管理する団長副官。
地球人類を異世界研究にいざなうオルガナイザー。
「あの子、自覚があるのかしら」
「あれほど自覚的な女も珍しいかと」
「あら?」
「彼女は、自分の価値に鼻高々ですよ」
「ならいい?」
「美しく、可愛く、脱いでもスゴくて、気が利いて、優しい、良い女」
「そっち?」
「あながち嘘じゃありませんが」
「多少は盛ってる」
「たしなみ程度は」
「優先順位の問題かしら」
「ランク外ですよ」
「任務なんか思い出しもしない」
「研究も気が向いた時だけですね」
「完全無欠の恋愛脳」
「愛する人のパンツを洗うために、なにもかも忘れるでしょうね」
「男も知らないくせに」
「だからこそ」
「いつまでも一人に決められない」
「いつまでも一人に決めようとする」
「愛すること以外、愛する男を見つけるまでの」
「八つ当たり」
「悩ましいわね」
「嗜好と思考が才能と一致してませんからね」
「さて、どう扱えば、愉しいかしら」
「そっち!」




