製造品としての奴隷

「命ある道具」

奴隷とは何か

――――――――――アリストテレス

古代ギリシャの奴隷は終身制であり、労働基本権が無く、少ない賃金で生活を支え、金が手に入れば解放されて奴隷を使う側に成れる。

何処かで見聞きしたことがあるのだが。

・・・・・・・・・・・貴方は？

古代ギリシャに置いて奴隷とは賃金労働者のことであった。

なお終身雇用が無くなっている奴隷が現代には存在しているらしい。

【異世界大陸沿岸部某所/奴隷牧場/自然交配場】

ハーフエルフは美しいもの。

まっことまっこと、然様にございます。

エルフの親を持てば、それだけで。

見目麗しく触れて芳しく。

愛でて玩ぶにふさわしい物が生まれます。

しかしながら。

エルフの種は強くあり、産みさえさせれば良い。

とは言えませぬ。

ハーフエルフはエルフではございません。

皆様が贖いまするはハーフエルフにあらず。

巨富を投じ、世評を危殆にさらしてまで求めていただく。

欲せらるるは。

エルフ。

これはその紛い物。

美しく可愛らしく丈夫であれば、気付かれぬかもしれません。

が、並べれば判るモノでございます。

紛物をいかに真物に近づけるか。

それが育主の術、この生業(なりわい)の術。

ゆえにこそ、腹は為し得る限り最上の女を用意いたします。

同じ生業(なりわい)の牧場では、旧い家系がこのまれますな。

あらぬ汚れを承えておらぬ、そう帳面が辿れる家柄。

そんな貴族、騎士、商家の娘。

これらの系図、汚れの有無は判りやすく。

力のある家々が、調べあっておりますから。

氏族同士の結びつきは、血の交わり。

ソレは盟約であり、取引とは格が違います。

無論、まずもって利害が優先されますから、欠けた血でも構いませぬ。

が、欠けたところが判れば、手が打てますゆえ。

血に依るか個に依るか敢えて見つめなおす。

その血が氏族に広がぬように囲い込む。

より良き別種や別腹を仕立て直す。

どうとでも。

故にこそ上から下から左右から、十重二十重に繰り返し繰り返し、検算精査がとられ、嘘偽りのないところが判ります。

それは皆が承知。

氏族同士で血を結べば、現れますれば。

隠したところで、せんないこと。

故、信に足りまする。

我ら奴隷商人には腹の質、それ以外関係のないこと。

これまでもこれからも、まずそこから借り腹を探します。

健康で癖のない、容姿に優れた腹を。

子を産んだことがあれば一番ですが。

子をなせば氏族の中で重きを置かれますから、まず出回りませぬ。

産んだことがない娘ならば、金子次第で御座います。

年のころ十から二十、から少し先までの娘。

美しいこと。

気や肢体に癖が無いこと。

矯正可能な範囲であること。

良い意味での痕なら、むしろよし。

家や氏族が潰れるとき。

売り出される女はたいそう重宝されます。

昨今、世が乱れる時、まさにかき入れ時ですな。

筋がよく、見目がよく、体がよい、腹にふさわしい娘たちが次々と。

諸王国が滅びていった２０年ほど前には及びませんが。

それでもたいへん多くの仕入れが出来ております。

仕入れた腹たちは躾をし、ほどなく孕ませましょう。

一人産ませて、一年休ませ、また一人。

ここ三年程は、大出産が見込めまする。

二人産ませれば、三年休ませ、また二人。

初腹は確かですが、次腹は揺らぎが大きく。

しかしそれなりになりましょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その後、でございますな？

お任せください。

没落旧家でなくとも、集落や村々からも仕入れはできまする。

村々はまとまりが強いので、氏族とは別の意味で血は確かです。

先々の売り買いを考えれば、偽りなど申しません。

無論、集落や村同士の競い合いもありますので。

とはいえ、やはり街にはかないません。

各牧場や商会ごとに縄張りがありまして、我らは市街に強う御座います。

村々は嵐に背を低くいたしますが。

街市は浮き草にて、泡のごとき家々も多く。

狭いながらも太く強い。

例えば。

家財や子を売り、揺らぐ家を守るとしますな。

品々が市場に晒されれば、苦境が知られますので。

我らのように、流れ出さぬ先に子を売るは必定。

娘は借り腹に。

息子は調教に。

無論、主上の御御代が調いますれば、少なくなりましょう。

それはそれで段取りを。

常に借り腹はととのいまする。

世が治まりましてなお、主上の負託に応えますこと間違いごさいません。

かくしてハーフエルフの仕込みは、まだまだ長く永くされますな。

エルフ腹はみな孕ませ終わっておりますこと、例年通り。

借り腹は仕入れ次第、早め早めに種付けをしておりますから。

従来であれば値動きを見て頃合いを加減いたしますが。

主上がすべてお召し上げいただけるとあらば、勢いに従いまする。

――――――――――もちろん、産まれた子たちは同じように育みます。

もともと牧場には、十分以上の用意が御座います。

そう、従来の子たち、その倍を育んで余りあるほどに。

エルフ、ハーフエルフを商うなら当然で御座います。

それだけの値が付き、値が追いつかぬほどに求められる。

そんな品であると同時に、それ以上のご奉仕（サービス）なのです。

左様に御座います。

あの娘たちが育まれた、そのままに。

【聖都南端/白骨街道/らんどくるーざーの中/青龍の貴族の左膝/お嬢】

わたくしは気合を入れなおしました。

なにやら、息をのむ気配が致しますけれど。

良しとしましょう。

敵は太守領港街に在り！

此処に敵はおりません。

なので貴女たち(Ｃｏｌｏｒｆｕｌ)は、なにも気にしなくていいのよ。

わたくしは、とっておきの笑みを振り向けます。

これでも社交は手馴れたもの。

例え落雷があっても崩さない自負がある、とっても好意的な笑い。

とくに力を入れなくとも、簡単ですわ。

ご領主様に向けるときは、表情を引き締めないと、その、あの、大変に崩れてしまい、恥ずかしいやら面目ないやら、ですけれど。

それを目ざとく視止められ、ご領主様の眼で嬲られてしまうと、どーうすればいいのやら、どうすることもできないのですが。

あの娘のお姉さんとして、すごくすごくつらいのです。

それがなお、ご領主様の興を惹いてしまうの。

嬉しいやら、苦しいやら、気持ちいいやら。

わたくしが懸念すべき、女、たち。

家から、お兄様の糸を振り払って独り立ち。

互いに手を組み、けん制もし、ご領主様を慕う女たち。

ご領主様の嗜好が不明瞭なうちに集められただけに、年の頃以外に共通点がありません。

あの娘より二つ下から、わたくしより一つ上。

が、優れた容姿と頭に不自由のない娘たち。

艶の在る金から透き通るような銀髪まで。

切れ長の瞳から木の実のような眼まで。

透けるような白い肌から血色の良い肌まで。

そして、わたくしたちと同じように、小柄。

わたくしたちより頭一つ大きいか小さいか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご領主様の、好み通り。

お兄様が集め、お兄様を振り切り、私の跡を追い始めた娘たち。

確かに強敵です。

心してかからねばなりません。

あるいはもしかしてひょっとしてと思わないこともありません。

でも、足りませんわ。

――――――――――愛が！！！！！！！！！！

しょせんは、憧れ。

従う親に絶望し、救いあげた方に身を捧げた、それだけですわ。

とりあえず黒髪を産みたい女たちよりマシですが。

わたくし、たちとは違います。

わたくしとは。

わたくし、出会い頭にいきなり、ご領主様に召し上げられたのですから！！！！！！！！！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの娘の次に。

あの娘も小さいし

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ誤差の範囲ですわね。

ので！！！！！！！！！！

わたくしは、他の女など気になりません。

気になりません、が。

それでも、増えられてはいけません。

気にしてはおりません、けれど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いるのはいいのですわ、仕方がないといいますか、やむを得ざることもありますし、気になりませんし、

――――――――――そうです！

ご領主様と過ごす時が削られます。

これですわ！

けっして羨ましくはないのですけれど、Ｃｏｌｏｒｆｕｌの皆を引きはがそうなどと思うことは無いのですけれど、わたくしの時間が少なくなるのが不愉快なのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・邪魔はしません。

そんなことを考えながらも、私の笑みは崩れません。

意識も作為もいらない、自然な表情。

鏡など見なくともわかります。

完璧ですわ！

皆の息をのむ音が、今度こそ聴こえます。

みな(Ｃｏｌｏｒｆｕｌ)さん

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・眼を見てくださいな？

【国際連合統治軍第１３集積地/白骨街道/ランドクルーザー車内/中央席/青龍の貴族】

俺はたまたま正面にいた橙を一撫で

――――――――――全員の耳がピクッと。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌたちの耳を触って、皆を落ち着かせる。

なんで落ち着くのかは知らんが。

で、シスターズの小さな二人。

赤い瞳、青い瞳に集中

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・脳裏に焼き付いた有害情報を上書き。

ここ第１３集積地は分類上、国際連合大規模駐屯地。

師団規模以上が基本のそれより、駐留部隊は少ない。

死体の数は国際連合大規模駐屯地より少ない。

Ｄｅｌｅｔｅ

Ｄｅｌｅｔｅ

Ｄｅｌｅｔｅ

Ｄｅｌｅｔｅ

Ｄｅｌｅｔｅｄｅｌｅｔｅｄｅｌｅｔｅｄｅｌｅｔｅ

――――――――――事実真実は体に悪い。